51 / 52
書籍発売御礼 エリザベスとイアンの出会い
6.魔法の言葉【イアン視点】
しおりを挟む
「エリザベス様……お兄様は凄いの。立派なの。けどわたくしは何もできない。お兄様の邪魔者なの」
リリアンの目から涙が溢れてくる。そうか、リリアンはそんな風に思っていたのか……。
「こんなに必死でリリアン様を探しているお兄様が、リリアン様を邪魔だと思う訳ないじゃありませんか」
エリザベス様は、リリアンを抱きしめて穏やかに話をして下さっている。最近知ったのだが、リリアンは俺が不在の間、俺を訪ねてくる令嬢の相手をしてくれていたらしい。
貴族令嬢は我儘だ。思い通りにいかず、まだ幼いリリアンを罵倒した者もいたそうだ。俺は、不在の時に交流のない令嬢が訪ねてきたらリリアンに会わせず追い返すように指示した。リリアンにも謝罪した。リリアンは、大丈夫だと笑っていた。けど、リリアンの受けた心の傷は、全く癒えていなかったんだ。
リリアンはエリザベス様に縋りつき、泣いている。
「けど! わたくしがいるからお兄様は……!」
「リリアン様、わたくしには弟がおりますの。わたくし、弟の為ならどんな事でも頑張れますわ。お兄様も、そうなのではありませんか?」
涙が止まり、リリアンの表情が明るくなった。俺は、必死でエリザベス様の言葉を肯定した。
「リリアン……不安にさせてごめん。俺は……リリアンが大事なんだ。頼むから、邪魔者なんて悲しい事……言わないでくれ……。俺は……リリアンだけが支えなんだ」
俺の必死の訴えに、エリザベス様の明るい声が重なる。
「分かりますわ! わたくしも、弟の為にいろんな事をしましたの。弟がいなければ、こんなに成長できませんでしたわ。リリアン様、お兄様はご立派な方だと仰いましたよね?」
「ええ、そうよ! お兄様は凄いの!」
そうか。俺を凄いと思ってくれる妹の為ならもっと頑張れる。エリザベス様は、内緒話をするようにリリアンに声をかけた。
「お兄様が凄いのは、リリアン様のお力もあると思いますわよ」
「……え?」
エリザベス様のお言葉は、まるでおとぎ話に出てくる魔法のようだ。あれだけ頑なだったリリアンが、素直にエリザベス様の話を聞いている。それに、俺の心も分かって下さっている。
エリザベス様は優雅に微笑み、リリアンに笑いかけた。
「ふふっ。兄や姉は、弟や妹に良いところを見せたい生き物なんですの。イアン様がご立派なのは、リリアン様の前でカッコつけたいからですわ」
「そうなの?」
リリアンが、以前のように俺の目を見て笑っている。嬉しい……。良かった、俺はリリアンに嫌われた訳ではなかったんだ。
「……ああ、その通りだよ。俺は……リリアンがいるから頑張れるんだ」
「わたくしは、お兄様の役に立ってるの?」
「もちろんだ……! リリアンが元気に笑ってくれるだけで、仕事の疲れが吹っ飛ぶんだ」
「まぁ! なんて素晴らしいのかしら。リリアン様のお力は偉大ですわ」
「エリザベス様、わたくしもっとお兄様のお役に立ちたいわ。何をすればいい?」
家庭教師の言う事を聞かないリリアンが、初めて自分から教えを乞うている。
「まずは、ご自分を大事になさるところから始めてはいかがですか? この間、弟が剣術を訓練をひとりでして、怪我をしたんですの。わたくし、心配で夜も眠れなくて……」
「そんなに、心配なの?」
「ええ。リリアン様がお怪我をすれば、イアン様もご心配なさるのでは?」
「リリアンが怪我をするなんて、絶対駄目だ!」
「でしたらリリアン様はご自分を大切になさいませんと。このような場では、よからぬ輩も現れますわ。夜会は、成人してからご参加下さいまし。きっとイアン様が素敵なエスコートをして下さいますわ」
「ほんと? お兄様は、わたくしのエスコートをして下さるの?」
「ああ……リリアンに相応しい男性が現れるまで、俺がリリアンのエスコートをするよ」
「わたくし、お兄様の邪魔者じゃない?」
「邪魔者なんて言う奴等の話を聞くな! 俺は……リリアンが誰よりも大切なんだ……!」
「貴族は、嘘も得意ですからね。イアン様の話を信用なさる方がよろしいですわ。イアン様がリリアン様に邪魔者とおっしゃった訳ではないのでしょう?」
「お兄様はそんな事言わないわ!」
「なら、イアン様のお言葉を信用なさいませ」
「……そうね。ありがとうエリザベス様。……あの……お願いがあるの……」
「なんでしょうか?」
「わたくしの……お友達になって下さいませんか?」
リリアンの目から涙が溢れてくる。そうか、リリアンはそんな風に思っていたのか……。
「こんなに必死でリリアン様を探しているお兄様が、リリアン様を邪魔だと思う訳ないじゃありませんか」
エリザベス様は、リリアンを抱きしめて穏やかに話をして下さっている。最近知ったのだが、リリアンは俺が不在の間、俺を訪ねてくる令嬢の相手をしてくれていたらしい。
貴族令嬢は我儘だ。思い通りにいかず、まだ幼いリリアンを罵倒した者もいたそうだ。俺は、不在の時に交流のない令嬢が訪ねてきたらリリアンに会わせず追い返すように指示した。リリアンにも謝罪した。リリアンは、大丈夫だと笑っていた。けど、リリアンの受けた心の傷は、全く癒えていなかったんだ。
リリアンはエリザベス様に縋りつき、泣いている。
「けど! わたくしがいるからお兄様は……!」
「リリアン様、わたくしには弟がおりますの。わたくし、弟の為ならどんな事でも頑張れますわ。お兄様も、そうなのではありませんか?」
涙が止まり、リリアンの表情が明るくなった。俺は、必死でエリザベス様の言葉を肯定した。
「リリアン……不安にさせてごめん。俺は……リリアンが大事なんだ。頼むから、邪魔者なんて悲しい事……言わないでくれ……。俺は……リリアンだけが支えなんだ」
俺の必死の訴えに、エリザベス様の明るい声が重なる。
「分かりますわ! わたくしも、弟の為にいろんな事をしましたの。弟がいなければ、こんなに成長できませんでしたわ。リリアン様、お兄様はご立派な方だと仰いましたよね?」
「ええ、そうよ! お兄様は凄いの!」
そうか。俺を凄いと思ってくれる妹の為ならもっと頑張れる。エリザベス様は、内緒話をするようにリリアンに声をかけた。
「お兄様が凄いのは、リリアン様のお力もあると思いますわよ」
「……え?」
エリザベス様のお言葉は、まるでおとぎ話に出てくる魔法のようだ。あれだけ頑なだったリリアンが、素直にエリザベス様の話を聞いている。それに、俺の心も分かって下さっている。
エリザベス様は優雅に微笑み、リリアンに笑いかけた。
「ふふっ。兄や姉は、弟や妹に良いところを見せたい生き物なんですの。イアン様がご立派なのは、リリアン様の前でカッコつけたいからですわ」
「そうなの?」
リリアンが、以前のように俺の目を見て笑っている。嬉しい……。良かった、俺はリリアンに嫌われた訳ではなかったんだ。
「……ああ、その通りだよ。俺は……リリアンがいるから頑張れるんだ」
「わたくしは、お兄様の役に立ってるの?」
「もちろんだ……! リリアンが元気に笑ってくれるだけで、仕事の疲れが吹っ飛ぶんだ」
「まぁ! なんて素晴らしいのかしら。リリアン様のお力は偉大ですわ」
「エリザベス様、わたくしもっとお兄様のお役に立ちたいわ。何をすればいい?」
家庭教師の言う事を聞かないリリアンが、初めて自分から教えを乞うている。
「まずは、ご自分を大事になさるところから始めてはいかがですか? この間、弟が剣術を訓練をひとりでして、怪我をしたんですの。わたくし、心配で夜も眠れなくて……」
「そんなに、心配なの?」
「ええ。リリアン様がお怪我をすれば、イアン様もご心配なさるのでは?」
「リリアンが怪我をするなんて、絶対駄目だ!」
「でしたらリリアン様はご自分を大切になさいませんと。このような場では、よからぬ輩も現れますわ。夜会は、成人してからご参加下さいまし。きっとイアン様が素敵なエスコートをして下さいますわ」
「ほんと? お兄様は、わたくしのエスコートをして下さるの?」
「ああ……リリアンに相応しい男性が現れるまで、俺がリリアンのエスコートをするよ」
「わたくし、お兄様の邪魔者じゃない?」
「邪魔者なんて言う奴等の話を聞くな! 俺は……リリアンが誰よりも大切なんだ……!」
「貴族は、嘘も得意ですからね。イアン様の話を信用なさる方がよろしいですわ。イアン様がリリアン様に邪魔者とおっしゃった訳ではないのでしょう?」
「お兄様はそんな事言わないわ!」
「なら、イアン様のお言葉を信用なさいませ」
「……そうね。ありがとうエリザベス様。……あの……お願いがあるの……」
「なんでしょうか?」
「わたくしの……お友達になって下さいませんか?」
12
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する
ましゅぺちーの
恋愛
大陸一の大国ライドーン帝国の皇帝が崩御した。
その皇帝の子供である第一皇女シャーロットはこの時をずっと待っていた。
シャーロットの母親は今は亡き皇后陛下で皇帝とは政略結婚だった。
皇帝は皇后を蔑ろにし身分の低い女を愛妾として囲った。
やがてその愛妾には子供が生まれた。それが第二皇女プリシラである。
愛妾は皇帝の寵愛を笠に着てやりたい放題でプリシラも両親に甘やかされて我儘に育った。
今までは皇帝の寵愛があったからこそ好きにさせていたが、これからはそうもいかない。
シャーロットは愛妾とプリシラに対する復讐を実行に移す―
一部タイトルを変更しました。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。