妹と婚約者の逢瀬を見てから一週間経ちました

書籍発売御礼 エリザベスとイアンの出会い

7.幸せな日々【イアン視点】

リリアンの願いを、エリザベス様は叶えて下さった。あっという間にリリアンと親しくなったエリザベス様は、たびたび我が家を訪れて下さるようになった。エリザベス様は素晴らしいご令嬢で、我が家の地位を利用しようとはなさらなかった。あれだけリリアンが懐いているのだから、ご自分の商会の品を買わせるくらい簡単だっただろうに、一度もそんな真似をなさらなかった。ただ、リリアンの友人として過ごして下さり、リリアンの勉強まで見てくれた。俺は楽しそうに話す二人を見るのが好きで、たびたび顔を出していた。俺が来ても、エリザベス様は挨拶をして下さるくらいで媚びを売ったりしない。エリザベス様にとって、俺はリリアンの兄で、大事なのはリリアンだ。それが分かるから、リリアンはどんどん明るくなっていった。

エリザベス様のおかげでリリアンは落ち着き、屋敷を抜け出す事はなくなった。部下になったソフィアとも親しくなり、リリアンは友達が二人できたと笑って過ごすようになった。勉強も、真剣に取り組むようになった。

そして、俺にもう大丈夫だから仕事に戻るようにと言ってくれた。それでも俺はリリアンが心配で、なかなか以前のように働けなかった。

そんな時、街でエリザベス様をお見かけした。

エリザベス様は、リンゼイ子爵に罵倒されていた。ヒステリックな声でエリザベス様を罵倒するリンゼイ子爵は、醜かった。対して、エリザベス様の落ち着いた様子は素晴らしかった。黙ってリンゼイ子爵を話を聞き、落ち着かせ、今後どうすれば良いか理路整然と説明している。

どうやら、彼女のミスで商品を駄目にしてしまったらしい。不足分を補填する為に、どこか良い取引先を知ってるなら教えなさいと怒鳴られている。高位貴族が良いと言ってるリンゼイ子爵の顔は、得意げに歪んでいた。

……そうか。リンゼイ子爵は商売人だ。エリザベス様とリリアンが親しくなった事に気が付いて……

背筋が寒くなった時、エリザベス様は優雅に微笑んで言った。

「取引先になる高位貴族など、わたくしは知りませんわ」

リンゼイ子爵が顔を赤くして、エリザベス様の顔を平手打ちした。だけど彼女は怯まず、リンゼイ子爵に微笑んでいる。

「今回のミスは、三ヶ月以内に取り返します。どうか、お時間を下さいまし。今週中に計算し直して計画を立て、お伺いしますわ」

我が家の事には触れず、丁寧に頭を下げるエリザベス様は、今まで見たどんな女性よりも美しかった。

その時、俺はエリザベス様に恋をした。

美しく輝く彼女のブローチが、忌々しくてたまらなかった。だけど……彼女が幸せならそれで良い。そう思って何もしなかった。

ただ、可愛い妹が友人を失わないように手は打った。

リリアンの友人がリリアンを利用しようとしたら縁を切らせると、わざとリンゼイ子爵の近くで話をした。わかりやすいくらいリンゼイ子爵は震えていた。すぐにエリザベス様になにか耳打ちしていたので、我が家に物を売ってないか確かめたのだろう。

エリザベス様が笑顔で頷くと、明らかにホッとしているリンゼイ子爵。こんな家に嫁いで、エリザベス様は幸せなのだろうか。

そう思った日もあった。

けど、エリザベス様は婚約者の顔を見ると頬を染めて微笑んでいる。……俺の出る幕はない。

そう思い、彼女の事を忘れようと仕事に戻り必死で働いた。いつの間にか時間が過ぎて、あと一週間でエリザベス様の結婚式だ。

いろんな人に、結婚しろと言われた。だけどどうしても出来なくて……あっという間に二年経ってしまった。

リリアンが、エリザベス様の式に着ていくドレスを用意していた。

もうすぐ彼女は……。そう思うと胸が苦しくなったが、仕方ない。縁がなかったんだと自分に言い聞かせた。

部屋に積み上がった釣書を開いてみたが、どうしても受け入れられない。あと一週間したら、この中から婚約者候補を選ぼう。そう決意した。

だが、次の日に全てお断りした。

エリザベス様の婚約が解消されたからだ。もう我慢しなくて良い。俺はエリザベス様に必死でアプローチした。話せば話すほど彼女は愛らしくて、あの男はエリザベス様の何が気に入らなかったのだろうと疑問に思った。

半年後、エリザベスは俺の婚約者になってくれた。幸せな日々は、これからも続いていく。