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10 天井に潜む化けもの
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「余所もんが足を突っこむけん,いかんのじゃ。村のもんは村のもんで仕置きする」老人が濁った眼を見ひらいた。
「雲母さんは村と縁を切った人です! 解放してください!」
「裏切りもんがまた村の秩序を乱しよる! 代々村長たる窪元の家が許すまいぞ!」槍を構え全身でぶつかってくる。取次ぎの間に転がりこんで攻撃を避けた。
「お願いです!――僕に手だししないでください! あなた方のためにならない!」
「問答無用! 溝口,早うやれ!」
鳥打ち帽子の男が鎌を振りおろし,老人が槍を突く。交差する同時追撃に逃げ場を失っていく――「やめてください! よくないことが起こってしまう! 本当なのです!」
鳥打ち帽子が落ちて禿げた頭が露わになるなり,その下の両眼が白目を剝いて半びらきの口は泡をふいた――喉もとに2本の指がくいこんでいる。男の体がずりおちていく。
男の握りしめる鎌が奪いとられ,回転しながら空を切り,はだけた着物から覗く両足首に寄り道してから土壁に突きささる――
黄土色の粉末が撒きちった直後に血飛沫も飛びちった。
小柄な背丈がカクンといっそう低くなり,老人が絶叫した――
「ギャアアアァアアァッー!」両足の切断された老人のものとは異なる別の叫喚が家の奥から響いた――
「女の声だ!――斎薔薇,行くぞ!」
伽藍堂と目が搗ちあった。
「……殺してねぇだろ。殺しちまうほうが簡単だけどよ」薄い唇に微笑を湛える。「ほら,行くぞ。また客に死なれちゃ,デッフェの評判ががた落ちだ」
細い廊下を何度も曲がり,板の割れ目から明かりの漏れる舞良戸に突きあたった。
内側から声が聞こえる――
「巣沼を突きおとしたと言え! カメラにむかって自分がやったと!」
「噓の証言を録画してから,あたしを殺すつもりだね!」
「ほうよ! おまえの遺言動画を配信しちゃるけん!――どんくらいのPVが獲れるじゃろうか」
「ひどい。貢義は自分から落ちたのに――」
「貢義はおまえを殺すはずじゃった。おまえが駅シリーズの動画を撮る折にやれいうて儂が言うとったけん。ほじゃのに,いつまで経ってもやらんけん,この淀池にさせることにしたんじゃが。淀池が首尾よう殺すはずやったのに,貢義が邪魔に入って自分が死によった――おかげで電車で轢いて邪魔者を殺すいう計画が台なしになったわい」
「あんたは最低よ! 貢義に不正な選挙資金集めまでさせて!」
「おまえが資金集めの帳簿を貢義から盗んで,ネット公開を画策したりせなんだら,あいつは死なんで済んだんじゃ! 悪いんはおまえよ! おまえやおまえの母親みたいに村の結束を乱す奴らじゃ!」
「何が結束よ! 犯罪者の馴れあいに過ぎないじゃん!」
「まだ大口を叩けるか! おい,淀池――もそっと応わしちゃれや! 顔は映すけんやめとけ――首から下を真っ黒焦げに焼きこがしちゃれ!」
伽藍堂が舞良戸を蹴倒した。
雲母が柱に鎖で拘束されていた。ショッキングピンクのショートパンツからのびる足のタイツが焼けちぢれ,露わになった皮膚が赤黒く火傷を負っている。裂傷部から身の漏出する箇所もある。男の前に立つ女は,雲母の傍らで炎をふくガストーチバーナーを構えていた。
「残酷なのがお好みかい――俺も同じさ」伽藍堂は女からバーナーを奪いとるなり,男の顔面へむけた。眼鏡のレンズが砕けちり,両方の眼球が膨張しながら突出してフレームを通りぬけると板の間に転がりおちた。甲高い声をあげて頭を抱える男の顎に回し蹴りが入る。男はそのまま静かになって仰むけの状態でのびた。
「ま,待ってください――」女が後退りする。「窪元の旦那さまと具則坊ちゃまに言われて仕方なかったんです」土下座して許しを請う。
僕が同情を示すと,女は涙ぐんで立ちあがり,倒れた舞良戸を起こし,手助けを受けながら鴨居と敷居にはめなおした。
「だーんだん」体重をのせるように戸口横の槓桿をおろした途端,廊下へひょいと飛び,舞良戸をぴしゃりと閉める。「往生せぃ!」
伽藍堂が幾度か体あたりするも舞良戸は微動だにしなかった。槓桿をあげてもさげても手応えのない感触が返るばかりだ。
「女は恐ぇ生きもんだって勉強になったろ?」伽藍堂がいつになく張りつめた表情で上方を見あげている。「巨大剣山のバケモノが来るぜ……」
「やぁだっー! 死にたくない!」雲母が悲鳴を発した――
天井板が徐々に押しせまってくるのだ。しかもさがってくる天井板の竿縁には無数の刃が突きでている。竿縁は密な間隔でとりつけられ,縁と縁との隙間に入り,刃を避けるということも到底不可能だ。
泣きわめく顧客の身に絡みつく鎖を解き,グレースーツの上衣を脱いでショッキングピンクのトレーナーにかけてから,伽藍堂は雲母を抱きよせた。
「雲母さんは村と縁を切った人です! 解放してください!」
「裏切りもんがまた村の秩序を乱しよる! 代々村長たる窪元の家が許すまいぞ!」槍を構え全身でぶつかってくる。取次ぎの間に転がりこんで攻撃を避けた。
「お願いです!――僕に手だししないでください! あなた方のためにならない!」
「問答無用! 溝口,早うやれ!」
鳥打ち帽子の男が鎌を振りおろし,老人が槍を突く。交差する同時追撃に逃げ場を失っていく――「やめてください! よくないことが起こってしまう! 本当なのです!」
鳥打ち帽子が落ちて禿げた頭が露わになるなり,その下の両眼が白目を剝いて半びらきの口は泡をふいた――喉もとに2本の指がくいこんでいる。男の体がずりおちていく。
男の握りしめる鎌が奪いとられ,回転しながら空を切り,はだけた着物から覗く両足首に寄り道してから土壁に突きささる――
黄土色の粉末が撒きちった直後に血飛沫も飛びちった。
小柄な背丈がカクンといっそう低くなり,老人が絶叫した――
「ギャアアアァアアァッー!」両足の切断された老人のものとは異なる別の叫喚が家の奥から響いた――
「女の声だ!――斎薔薇,行くぞ!」
伽藍堂と目が搗ちあった。
「……殺してねぇだろ。殺しちまうほうが簡単だけどよ」薄い唇に微笑を湛える。「ほら,行くぞ。また客に死なれちゃ,デッフェの評判ががた落ちだ」
細い廊下を何度も曲がり,板の割れ目から明かりの漏れる舞良戸に突きあたった。
内側から声が聞こえる――
「巣沼を突きおとしたと言え! カメラにむかって自分がやったと!」
「噓の証言を録画してから,あたしを殺すつもりだね!」
「ほうよ! おまえの遺言動画を配信しちゃるけん!――どんくらいのPVが獲れるじゃろうか」
「ひどい。貢義は自分から落ちたのに――」
「貢義はおまえを殺すはずじゃった。おまえが駅シリーズの動画を撮る折にやれいうて儂が言うとったけん。ほじゃのに,いつまで経ってもやらんけん,この淀池にさせることにしたんじゃが。淀池が首尾よう殺すはずやったのに,貢義が邪魔に入って自分が死によった――おかげで電車で轢いて邪魔者を殺すいう計画が台なしになったわい」
「あんたは最低よ! 貢義に不正な選挙資金集めまでさせて!」
「おまえが資金集めの帳簿を貢義から盗んで,ネット公開を画策したりせなんだら,あいつは死なんで済んだんじゃ! 悪いんはおまえよ! おまえやおまえの母親みたいに村の結束を乱す奴らじゃ!」
「何が結束よ! 犯罪者の馴れあいに過ぎないじゃん!」
「まだ大口を叩けるか! おい,淀池――もそっと応わしちゃれや! 顔は映すけんやめとけ――首から下を真っ黒焦げに焼きこがしちゃれ!」
伽藍堂が舞良戸を蹴倒した。
雲母が柱に鎖で拘束されていた。ショッキングピンクのショートパンツからのびる足のタイツが焼けちぢれ,露わになった皮膚が赤黒く火傷を負っている。裂傷部から身の漏出する箇所もある。男の前に立つ女は,雲母の傍らで炎をふくガストーチバーナーを構えていた。
「残酷なのがお好みかい――俺も同じさ」伽藍堂は女からバーナーを奪いとるなり,男の顔面へむけた。眼鏡のレンズが砕けちり,両方の眼球が膨張しながら突出してフレームを通りぬけると板の間に転がりおちた。甲高い声をあげて頭を抱える男の顎に回し蹴りが入る。男はそのまま静かになって仰むけの状態でのびた。
「ま,待ってください――」女が後退りする。「窪元の旦那さまと具則坊ちゃまに言われて仕方なかったんです」土下座して許しを請う。
僕が同情を示すと,女は涙ぐんで立ちあがり,倒れた舞良戸を起こし,手助けを受けながら鴨居と敷居にはめなおした。
「だーんだん」体重をのせるように戸口横の槓桿をおろした途端,廊下へひょいと飛び,舞良戸をぴしゃりと閉める。「往生せぃ!」
伽藍堂が幾度か体あたりするも舞良戸は微動だにしなかった。槓桿をあげてもさげても手応えのない感触が返るばかりだ。
「女は恐ぇ生きもんだって勉強になったろ?」伽藍堂がいつになく張りつめた表情で上方を見あげている。「巨大剣山のバケモノが来るぜ……」
「やぁだっー! 死にたくない!」雲母が悲鳴を発した――
天井板が徐々に押しせまってくるのだ。しかもさがってくる天井板の竿縁には無数の刃が突きでている。竿縁は密な間隔でとりつけられ,縁と縁との隙間に入り,刃を避けるということも到底不可能だ。
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