デッフェでお逢いしましょう――デッフェコレクション1――

せとかぜ染鞠

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11 刃花弁の大輪

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 雲母は伽藍堂にしがみつき震えていた。僕は両膝をつき2人の体に触れてから両手をあわせた。「身命を賭してお祈り申しあげます。あなたさま方の穢れを頂戴できますように」
 目をあければ雲母が僕を見ている。輪郭の滲んだ両眼をこすりながらしゃくりあげる。「2人とも巻きぞえにしてごめんね……」
 伽藍堂の抱きしめる雲母のそばに座った。
 ――天井板と,欄間の透かし彫りの板との色が違うことに気づいた。長押も,書院も,床の間の床板も,床脇棚もそうだ。ほかの部位の色あいは天井板と比較すれば年月の経過を感じさせる。天井だけ後から補修を加えたのだ――
 巣沼の家で目にした褌童の木像が思いだされた!――「僕の身体能力は高くないのです。ですから――伽藍堂さん,刃物にぶつかってください」
「何だって……」
「ジャンプして,おりてくる刃物に自らぶつかるのです」
「どうせ死ぬのに,自分から死に急げって言うのかよ」
「恐いですか」
「……恐い? 恐いかって聞いたのか?」雲母を身から遠ざけ,立ちあがる。
 僕もゆっくり立った。「それならば僕を刃物目がけて放りなげてください。躊躇しないで思いきり――」
「いいぜ……了解だ」指の欠けた大きな掌が迫ってくる。それが到達するなり,僕は後方へ弾きとばされながら,隆起してラメの輝くブラックシャツをさきそうな筋肉の塊が,蹴りかえされた護謨ゴム鞠みたいに上方へと跳躍するのを目撃した――
 黒に輝く肉塊が勢いよく複数の刃に激突した。天井板と同時に滑りあがった一切の刃物が恥じらう乙女のようにしなったかと思いきや,規則的な緻密音を伴いながら竿縁が繫がりあって渦巻きの幾何学文様を描いた。天井板に平たく接する刃物の諸々が目まぐるしく回転しつつ重なりあって重層的な花弁を有する大輪の花形を模するなり急速に一枚ずつ竿縁の隙間に吸引されて消失した直後,竿縁の曲線が分裂し直線の配列状態を戻していく――
「巣沼さんの意匠です。彼が僕たちを救ってくれました」
「あの,へんてこなお人形のカッターだ……」雲母がまた激しく泣きはじめた。
 槓桿内部で金属の弾かれるような音がした。伽藍堂が舞良戸を叩きこわすと,廊下を逃げていく女の後ろ姿が見えた。
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