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第8話
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ウィルの屋敷に泊まり込んで二日後のお昼過ぎ、ハンプソン家からは手紙の代わりに、両親二人とミアがそろってやってきた。運悪くその時ウィルは仕事へ出かけていた。
部屋で刺繍をしていたソフィアはそれを聞いたとき、目を丸くして、今までにないような動悸がした。荒ぶる心臓を押さ前ながら、メイドの背中を追いかけて一階の客間の扉の前に立つ。震える手で部屋の扉を軽くノックして、ドアノブを握りしめる。
扉を開けると、見慣れた三人が座って待っていた。ソフィアは仏頂面、父親は眉間に溝を作り、母親は我慢が出来なかったのか立ち上がった。
「どういうつもりなのソフィア。お父様もお母様も知らない人のとこへ行っていただなんて
手を握りしめて、その握りこぶしで殴られることをソフィアは懸念していた。今まで何度も母親に殴られたことがあったためだ。
「ミアが言っていた売女ってのも嘘じゃないのね。本当なのね」
「それはミアの嘘。私そんなこと一度だってしたことない」
「じゃあ、なんでこんな人の家に居られるのよ!舞踏会か、大人が集まるような性的な集まりに参加でもしていたんじゃないの!」
母親の声はだんだんと大きく、騒がしくなる。まるで嵐が通り過ぎることを待つように父親とミアは知らん顔をしている。
「きっとそこで出会った男なんでしょう!だから逃げられるところもあったのよ!」
今にもソフィアの服でもつかみかかりそうな勢いだ。
「違う。ウィル様は本当に違うの。私が屋敷を逃げ出して転んだ時に助けてくれて、この屋敷に匿ってくれているの。そんな性的なことしたことない。今までお父様にもお母様にも嘘なんてついたことないでしょう」
「さあ、それはどうかしらね。ミアに嫉妬していたんじゃないの?だから体を売ったんじゃないの?」
「お母様!それは違う!」
妄想ばかりをどんどんと広げていく母親に対してやっと大声を出したかと思えば、母親は全く認めない娘に鋭い視線を向けた。
「育て方を間違えたわ。何でもそつなくこなすけど、そんなことしていたなんて」
「なんで、信じてくれないの」
「お姉様」
微笑むミアは今日も艶やかなドレスを着ている。そして我が物面で足をクロスさせ、頭を傾けて下から覗き込むように「嘘はいけないわ」とつぶやいた。それを見たソフィアは来ていたドレスのスカートを握りしめて、涙があふれだすのをこらえた。
「ミア、もういいでしょう。私は貴方の前から姿を消すから。だからもうやめて。私のありもしない嘘を言ったりしないで」
「ありもしない嘘?嘘をついているのはお姉様の方でしょう?」
レモンティーを飲みながら、ミアは冷たい緯線を向けた。
「ミア。オリバーと結婚できるんだからもういいでしょう。私の部屋にあるものも全部上げる。だからもう関わらないで」
「まるで私が悪者ね」
悲しそうに笑みを浮かべるミアをかばうように父親はソフィアのことを目を細めて睨みつけた。そして母親はミアに寄り添い「貴方の言っていることは本当よね」と甘い猫なで声を出す。殴られた頬の痛みがまた襲い掛かってくるようだった。
「それでどうするんだソフィア。ここで働く気か?」
「は、はい…そうするつもりです」
手を握りしめるソフィアを見上げて母親は「子爵令嬢がメイドだなんて」とため息交じりに言い、父親は頭を抱えた。
「貴方にどれだけお金をつぎ込んで育ててきたと思っているのよ!ちょっとは親に恩返ししなさいよ!」
「ごめんなさい」
両親が勝手にやったことながら、母親はソフィアがお金をかけた分良い男を連れてきてくれると思っていたのだろう。
「貴方に接するだけ無駄だったわね。ミアのように自由に育てればよかったのかしら」
表情を曇らせ頭を抱えながらソファに座り込む。
「ソフィア、お前はなぜここで働くんだ」
「舞踏会へ行ったって、こんな顔が腫れていたら」
「婚約者ぐらい私が探してやる。もうこの際、辺境の貴族だって、男爵家だってかまわないだろう。結婚できるだけマシだ」
ため息を吐きながらネクタイを締め直し、疲れたように目を閉じる。絶望する母親、呆れる父親、それをただ茫然と見つめる妹。
「さっさと戻ってきたら?お姉様。こんなちっちゃい洋館で働いたって良い給金出るわけないわよ。働くなら公爵家とか、宮殿とかで、乳母をやったり家庭教師をしていた方が良いんじゃない?そうしたらお父様とお母様への謝罪の仕送りだってできるわ」
まるでそれを狙っていたかのようにミアはニヤリと笑い。両親はその案をすぐに飲み込んだ。
「そうだ。働くなら公爵家や宮殿で働けばいい。こんなところで働いたって、まともな金が出るわけない」
「さすがだわミア。せっかく知識だけはあるんだからそれを生かして、家庭教師でもすればいいのよ。家庭教師は住み込みならそれなりのお金が出るし。私が貴方にかけたお金を返してほしいわ」
三人はその案でどんどんと話を進めていき、ソフィアを一人置いてきぼりにする。口を挟もうものなら、一斉に罵倒を始めるだろう。
「も、もうやめてよ!私の人生は私が決めたいの」
声を出したのは良いものの返ってきたのは「貴方頭おかしいんじゃない?」という母親の返答だった。父親は「こんなにしてやっているのに」とため息交じりに言い、ミアはただ眺めている。
もうこの屋敷からでて家族の言うとおりにするほかないのかとソフィアの目に涙が浮かんだ時、部屋の扉が開けられた。入ってきたのは身なりを整えたウィルであった。オーダーメイドの紺色のスーツを身にまとっている。部屋に入りウィルは三人に向かってにっこりと笑った。
「皆さんお揃いでしたか」
部屋で刺繍をしていたソフィアはそれを聞いたとき、目を丸くして、今までにないような動悸がした。荒ぶる心臓を押さ前ながら、メイドの背中を追いかけて一階の客間の扉の前に立つ。震える手で部屋の扉を軽くノックして、ドアノブを握りしめる。
扉を開けると、見慣れた三人が座って待っていた。ソフィアは仏頂面、父親は眉間に溝を作り、母親は我慢が出来なかったのか立ち上がった。
「どういうつもりなのソフィア。お父様もお母様も知らない人のとこへ行っていただなんて
手を握りしめて、その握りこぶしで殴られることをソフィアは懸念していた。今まで何度も母親に殴られたことがあったためだ。
「ミアが言っていた売女ってのも嘘じゃないのね。本当なのね」
「それはミアの嘘。私そんなこと一度だってしたことない」
「じゃあ、なんでこんな人の家に居られるのよ!舞踏会か、大人が集まるような性的な集まりに参加でもしていたんじゃないの!」
母親の声はだんだんと大きく、騒がしくなる。まるで嵐が通り過ぎることを待つように父親とミアは知らん顔をしている。
「きっとそこで出会った男なんでしょう!だから逃げられるところもあったのよ!」
今にもソフィアの服でもつかみかかりそうな勢いだ。
「違う。ウィル様は本当に違うの。私が屋敷を逃げ出して転んだ時に助けてくれて、この屋敷に匿ってくれているの。そんな性的なことしたことない。今までお父様にもお母様にも嘘なんてついたことないでしょう」
「さあ、それはどうかしらね。ミアに嫉妬していたんじゃないの?だから体を売ったんじゃないの?」
「お母様!それは違う!」
妄想ばかりをどんどんと広げていく母親に対してやっと大声を出したかと思えば、母親は全く認めない娘に鋭い視線を向けた。
「育て方を間違えたわ。何でもそつなくこなすけど、そんなことしていたなんて」
「なんで、信じてくれないの」
「お姉様」
微笑むミアは今日も艶やかなドレスを着ている。そして我が物面で足をクロスさせ、頭を傾けて下から覗き込むように「嘘はいけないわ」とつぶやいた。それを見たソフィアは来ていたドレスのスカートを握りしめて、涙があふれだすのをこらえた。
「ミア、もういいでしょう。私は貴方の前から姿を消すから。だからもうやめて。私のありもしない嘘を言ったりしないで」
「ありもしない嘘?嘘をついているのはお姉様の方でしょう?」
レモンティーを飲みながら、ミアは冷たい緯線を向けた。
「ミア。オリバーと結婚できるんだからもういいでしょう。私の部屋にあるものも全部上げる。だからもう関わらないで」
「まるで私が悪者ね」
悲しそうに笑みを浮かべるミアをかばうように父親はソフィアのことを目を細めて睨みつけた。そして母親はミアに寄り添い「貴方の言っていることは本当よね」と甘い猫なで声を出す。殴られた頬の痛みがまた襲い掛かってくるようだった。
「それでどうするんだソフィア。ここで働く気か?」
「は、はい…そうするつもりです」
手を握りしめるソフィアを見上げて母親は「子爵令嬢がメイドだなんて」とため息交じりに言い、父親は頭を抱えた。
「貴方にどれだけお金をつぎ込んで育ててきたと思っているのよ!ちょっとは親に恩返ししなさいよ!」
「ごめんなさい」
両親が勝手にやったことながら、母親はソフィアがお金をかけた分良い男を連れてきてくれると思っていたのだろう。
「貴方に接するだけ無駄だったわね。ミアのように自由に育てればよかったのかしら」
表情を曇らせ頭を抱えながらソファに座り込む。
「ソフィア、お前はなぜここで働くんだ」
「舞踏会へ行ったって、こんな顔が腫れていたら」
「婚約者ぐらい私が探してやる。もうこの際、辺境の貴族だって、男爵家だってかまわないだろう。結婚できるだけマシだ」
ため息を吐きながらネクタイを締め直し、疲れたように目を閉じる。絶望する母親、呆れる父親、それをただ茫然と見つめる妹。
「さっさと戻ってきたら?お姉様。こんなちっちゃい洋館で働いたって良い給金出るわけないわよ。働くなら公爵家とか、宮殿とかで、乳母をやったり家庭教師をしていた方が良いんじゃない?そうしたらお父様とお母様への謝罪の仕送りだってできるわ」
まるでそれを狙っていたかのようにミアはニヤリと笑い。両親はその案をすぐに飲み込んだ。
「そうだ。働くなら公爵家や宮殿で働けばいい。こんなところで働いたって、まともな金が出るわけない」
「さすがだわミア。せっかく知識だけはあるんだからそれを生かして、家庭教師でもすればいいのよ。家庭教師は住み込みならそれなりのお金が出るし。私が貴方にかけたお金を返してほしいわ」
三人はその案でどんどんと話を進めていき、ソフィアを一人置いてきぼりにする。口を挟もうものなら、一斉に罵倒を始めるだろう。
「も、もうやめてよ!私の人生は私が決めたいの」
声を出したのは良いものの返ってきたのは「貴方頭おかしいんじゃない?」という母親の返答だった。父親は「こんなにしてやっているのに」とため息交じりに言い、ミアはただ眺めている。
もうこの屋敷からでて家族の言うとおりにするほかないのかとソフィアの目に涙が浮かんだ時、部屋の扉が開けられた。入ってきたのは身なりを整えたウィルであった。オーダーメイドの紺色のスーツを身にまとっている。部屋に入りウィルは三人に向かってにっこりと笑った。
「皆さんお揃いでしたか」
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