【完結】妹ばかり愛され追い出された姉ですが、無口な夫と暮らす日々が幸せすぎます

コトミ

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第三話

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 馬車に揺られながら、遠くまで広がる平野を眺めていた。牛たちが青葉を食み、木陰で休んでいる。穏やかで何も変わらない日常。対して今の私の日常は目まぐるしく変化している。両親と妹が帰ってきたと思ったら、結婚が決まった。マーサに告げた時、マーサだけは私の為に泣いてくれた。

 夜中、トランクに必要なものを詰めて、現実味のないまま、19年間過ごしてきた自室のベッドに座り込んだ。現実を受け止め切れなかった。明日も明後日もこのベッドで寝起きして、朝にはマーサが作ってくれた朝食を食べて、勉強をして森へキノコを採りに行く。または図書館へ本を読みに行く。ただ穏やかな幸せな時間が流れると思っていたのに。

 何も変わらなかった平和で平らな日常が一気に音を立てて動き出した。刺激なんて何もないところで育った私が何も知らないところへ行って、我慢できるのか分からない。大きな不安と、困惑、緊張、悲しみ。いろんな感情が一斉に襲われ夜は一睡もできなかった。

 早朝、母、父、カタリナ、マーサに見送られながら私は家を出た。マーサは目元を腫らしていたけれど、三人は平然とやらなければいけないことをやっているような様子。カタリナに関しては、眠そうに欠伸をしてつまらなそうにつま先で小石を蹴っていた。

「これは、あっちの家へやるお金。こっちは一週間で使うお金だ」

 持参金は宝石箱のようなものに入っていた。中を覗くと袋に入った金貨がごっそりと収まっている。それから小さな袋に入った銀貨と銅貨をもらった。こちらは一週間で使うものだ。

「それとね。貴方には何もしてやれなかったから」

 母から最後に手渡されたのは真珠のネックレスだった。エメラルドの宝石が首の中央になる部分に付けられている。

「それ、私にくれるって言ったじゃないの!この人にあげる必要ないでしょ」

 カタリナはそう言って私と母の間に割って入ってきた。
 こんなにカタリナがほしいならカタリナに渡そうかしらと、母に返そうとしたけれと突き返された。こんなに豪華な物私は必要ないのに。

「カタリナには新しいの買ってあげるから」

 まるで私を泥棒か何かを見るように、蔑む目で見つめてきた。言ってやりたかった。私が何かした?私は貴方に何もしていないし、私は何も貴女から取り上げたことはないのよ。でも貴方は私から何もかもを奪ったでしょ?なんだって買ってもらえるじゃない!

 胸が熱くなった。その言葉を吐きだせばどれだけ楽になれたか分からないけれど、空気を淀ませることを言う気にはならなかった。

 だから私はカタリナの前にネックレスを出した。奪い取るようにネックレスを取った。

「ありがとう。お父様、お母様、カタリナも元気でね」

 彼女は私から目をそらした。馬車へ乗り込もうと背を向けた時、思わず振り返った。馬車に足をかけた瞬間、唐突な不安に飲み込まれた。このまま馬車に乗ってしまったら本当に引き戻せない気がした。

「あの、お母様も、お父様も来てくれないの?だって、このままじゃ私の家族は誰も結婚式に参列しないことになるでしょ?」

 心細かった。誰でもいいから一緒に来て、不安を取り除いてほしかった。ただ一人で誰も知らないところへ行く勇気なんて私にはない。だってずっとお屋敷に居続けたんだもの。でも二人は申し訳なさそうに、力なく微笑むだけだった。

「何言ってるの?19歳でしょ、19歳なのに、そんな甘えた子供みたいなこと言うの?」

 呆れたようにカタリナは笑っていた。私は顔が熱くなった。私は何も悪くないはずなのに、私がまるで足かせみたいな、そんな様子に。私の気持ちなんてちっとも知らないくせに。

「そ、そうよね。ごめんなさい。ちょっと、不安になっちゃったの。突然だったから。じゃあね」

 最後に一度馬車から離れて、後ろの方に立っていたマーサにハグをした。マーサはボロボロと泣いて、ぐずぐずと鼻を鳴らしていた。両手でハンカチを握りしめて

「じゃあね。家族のことよろしくね」
「え、ええ。私もついて行けたならよかったのに」

 後ろでカタリナが「使用人ごときが何言ってるの」と小さな声で言ったのが聞こえた。今すぐ殴り掛かってやろうかと振り返った時マーサに抱きしめられた。

「お幸せに。お嬢様」
「ありがとう。マーサも元気でね」
「はい」

 馬車へ乗り込んで扉を閉めると、馬車は動き出した。最初の内は手を振っていた。だんだん見えなくなって、背もたれの窓から外を見ると、カタリナは一番に屋敷へ入っていた。マーサと両親は見えなくなるまでそこに立っていた。最後に少しだけ両親の心を感じた気がした。

 家族の絆は血ではなく、どれだけ長く一緒にいたのかで決まるということが私にはわかった。

 一人旅は悲しいものだった。御者と共に町を転々とし、時には野宿をして、食事をした。夜に見える星空だけが私の心の救いだった。本当に綺麗で、心が安らいだ。


 モンフォール家に着いたのは、一週間経った後のお昼過ぎだった。とても大きなお屋敷に圧倒され、住所を間違えたのではないかと思ったほどだ。お屋敷を囲む塀はどこまでも続くのではないかと思われるほど長く、誰も入れないという強い意志が感じられるほど高い。門には衛兵が立っていて、潜り抜ける瞬間と言ったら、王宮にやってきたのではないかと錯覚するほどだ。(私は王宮を見たことがないが)

 庭園は綺麗に手入れされ、動物の形をしたトピアリーもあった。あまりにも場違いなところへ来てしまった事で、私の不安と緊張はより一層高まった。

 お屋敷の大きな玄関前、噴水近くで馬車は止まり、立っていた衛兵が寄ってきて、扉を開けてくれた。

「あ、ありがとう」

 トランクを持って、馬車から出てみると、心臓がバクバクと鳴った。ここで、暮らすの?本当に?私が?というか結婚するの?

 太い柱の立った、両開きの扉が見える前で、立ちつくしていると、玄関の扉が開き、一斉に女性達が走って私の方へ駆け寄ってきた。使用人やメイドのような装い。

「やっと来た!貴方、セラフィナ・ヴァロア?子爵の長女?」
「は、はい。そうですが」
「もうすぐ結婚式が始まるわよ!早く早く!」

 一人にトランクを取られ、腕を引っ張られ、背中を押され、無理やり走らされた。一体私に何が起こっているというの?どうなってるわけ?

「ウエディングドレスは?」
「え?」
「こっちには届いてないわよ。持ってきてるのよね?」
 
 ど、どういうこと?ウェディングドレス?
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