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第十五話
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もう夜も更け使用人たちの仕事も終わったころ、刺繍の施されたローブ一枚はおり、ジェラール様の寝室の扉の前に立ち尽くしていた。ジェニーにもこのことを少し話してみたら「最初が痛いだけです。流れに身を任せれば大丈夫ですよ」と言われた。ジェラール様はかなり慣れた様子だったし、たぶん任せておけば大丈夫なのよ。お酒も持って来たし。
意思を固める準備のため、部屋をノックせずに立ち尽くしていたところ、中から扉が開いた。そこには上半身裸のジェラール様の姿があった。腹筋がいくつにも割れて、肩には山のような筋肉が付き、浮き出た鎖骨にのどぼとけ。体中には細かい傷や、抉れたような傷もあり、見ているだけで痛々しい。でもそれ以上に恥ずかしい。
「どうした」
「へ!?えっと、飲みませんか?」
体を見つめすぎて、ぼんやりしていた。シャンパンと、シャンパングラスののった銀トレーを自分の前に出した。シャンパンは氷の入ったバケツに入れられている。
ジェラール様は扉を開け、私は部屋の中へ入った。寝室は広く、天蓋付きのキングベッドが置かれている。奥の扉にはお風呂があるのか、そこだけ壁に妙な線が入っている。私が部屋に入ると、そっと部屋の鍵を閉める音が聞こえた。
テーブルとソファがあり、大きな窓の外はテラスになっている。部屋の明かりはベッドの照明のみで、薄暗い。私はテーブルにトレーを置いた。テーブルには葉巻煙草と灰皿が置かれている。
「突然来てしまってすみません」
「夫婦だ。いつ来ても問題ない」
夫婦という言葉は私とは少し離れている気がした。もっと夫婦というのは長年を共にして、子供がいて、お互いがお互いの愛や恋だけでない信頼感がある状態な気がするから。
手早くシャンパンの蓋を開けて、細長いシャンパングラスに注ぎこんだ。
「この前は本当にすみませんでした。泣いて飛び出してしまって」
「気にしていない」
「それならいいのですが」
シャンパンを受け取ったジェラール様はゆっくりと煽った。私もシャンパングラスを片手に持ち、彼の隣に座った。今度は一人分なんて空けず、腕がぶつかり合う程度。シャンパンを一口飲んでからジェラール様の身体を見た。筋肉が抉れていたり、火傷のような痣、引っかかれていたり、縫われたようなあと。それから右目の傷を見た。
「その傷はどうなさったんですか?」
しばらく黙ってシャンパンを飲んでいたけれど「忘れた」とだけ言った。
「触ってもいいですか?」
「構わないが」
手を伸ばして目元の傷を指でなぞった。その間ジェラール様は目をつむっていた。ざらざらとした、皮ふではない何かを触っているような感触。
「たくさんの苦難を乗り越えてきたのですね」
傷を撫でた手で頬を触ると、その手を掴まれ唇まで滑らかに滑らせた。唇の感触が、吐息が、肌に触れる。
「キスしてくれないか。どこでもいい」
体を伸ばして、ジェラール様の頬にキスをした。肩に手が置かれて、髪の毛を指に巻くようにして触られた。今度は唇にフレンチキスをした。今の私にはこれが限界だった。今度は彼からキスをした。私と違って濃厚なのだ。きっちり唇を凹凸に沿わせて顔をそらし密着させる。ローブと肌の隙間に手が滑り込んできて思わず、息を吸い込んだ。
「逃げるか?」
「逃げませんが、自分でもどうなるか分かりません。初めてってそういうものでしょう」
またジェラール様は小さく笑った。
この日のことは一生忘れないと思う。忘れられないのだと思う。人に触れられることが、愛されるということをこの時よくわかったのだと思う。ただ、自分の欲望のために私をくらいつくすように触れることも、蹂躙することだってできただろう。その筋肉質な恵まれた体でどこか一つでも押さえつけられてしまえば、叫んでも助けは来ない。私は臆病だから叫ぼうとしても声がつぶれて出ないだろう。
まるで割れ物でも扱うみたいに、力加減を慎重に、強く握りしめるなんてことはなかったのだ。本当に長く、体をほぐされた。全身をくまなく触られ、唇を滑らせた。
ベッドとジェラール様の身体の間に挟まれ、彼の匂いに包まれ、裂けるような痛みに顔をゆがめ、体中の筋肉を強張らせた。力を入れれば入れるほどに、痛む。キスされ、肩から順に力を抜いていくと、私は彼を受け入れた。鈍い痛みが続いていたけれど、しばらくそのまま抱きしめて、キスをしているうちに、和らいでいきただ、幸せだった。ひたすらに幸せだった。
両腕を彼の首に絡めて、抱きしめていた。痛みよりなにより、こんなに人に愛されるなんてこと、今までなかった。
「ジェラール様」
「どうした」
「大好きです」
返事をする代わりに、キスをされた。この人は言葉が苦手な代わりに、行動で示してくれる。私は知っている。言葉では見えないものがこの世にはある事がある事を知っている。
愛やそういうことを綺麗ごとだという人もいるけれど、きっとこの世界は綺麗事で出来ている。今ある事に幸せを見出すしかないのだ。
意思を固める準備のため、部屋をノックせずに立ち尽くしていたところ、中から扉が開いた。そこには上半身裸のジェラール様の姿があった。腹筋がいくつにも割れて、肩には山のような筋肉が付き、浮き出た鎖骨にのどぼとけ。体中には細かい傷や、抉れたような傷もあり、見ているだけで痛々しい。でもそれ以上に恥ずかしい。
「どうした」
「へ!?えっと、飲みませんか?」
体を見つめすぎて、ぼんやりしていた。シャンパンと、シャンパングラスののった銀トレーを自分の前に出した。シャンパンは氷の入ったバケツに入れられている。
ジェラール様は扉を開け、私は部屋の中へ入った。寝室は広く、天蓋付きのキングベッドが置かれている。奥の扉にはお風呂があるのか、そこだけ壁に妙な線が入っている。私が部屋に入ると、そっと部屋の鍵を閉める音が聞こえた。
テーブルとソファがあり、大きな窓の外はテラスになっている。部屋の明かりはベッドの照明のみで、薄暗い。私はテーブルにトレーを置いた。テーブルには葉巻煙草と灰皿が置かれている。
「突然来てしまってすみません」
「夫婦だ。いつ来ても問題ない」
夫婦という言葉は私とは少し離れている気がした。もっと夫婦というのは長年を共にして、子供がいて、お互いがお互いの愛や恋だけでない信頼感がある状態な気がするから。
手早くシャンパンの蓋を開けて、細長いシャンパングラスに注ぎこんだ。
「この前は本当にすみませんでした。泣いて飛び出してしまって」
「気にしていない」
「それならいいのですが」
シャンパンを受け取ったジェラール様はゆっくりと煽った。私もシャンパングラスを片手に持ち、彼の隣に座った。今度は一人分なんて空けず、腕がぶつかり合う程度。シャンパンを一口飲んでからジェラール様の身体を見た。筋肉が抉れていたり、火傷のような痣、引っかかれていたり、縫われたようなあと。それから右目の傷を見た。
「その傷はどうなさったんですか?」
しばらく黙ってシャンパンを飲んでいたけれど「忘れた」とだけ言った。
「触ってもいいですか?」
「構わないが」
手を伸ばして目元の傷を指でなぞった。その間ジェラール様は目をつむっていた。ざらざらとした、皮ふではない何かを触っているような感触。
「たくさんの苦難を乗り越えてきたのですね」
傷を撫でた手で頬を触ると、その手を掴まれ唇まで滑らかに滑らせた。唇の感触が、吐息が、肌に触れる。
「キスしてくれないか。どこでもいい」
体を伸ばして、ジェラール様の頬にキスをした。肩に手が置かれて、髪の毛を指に巻くようにして触られた。今度は唇にフレンチキスをした。今の私にはこれが限界だった。今度は彼からキスをした。私と違って濃厚なのだ。きっちり唇を凹凸に沿わせて顔をそらし密着させる。ローブと肌の隙間に手が滑り込んできて思わず、息を吸い込んだ。
「逃げるか?」
「逃げませんが、自分でもどうなるか分かりません。初めてってそういうものでしょう」
またジェラール様は小さく笑った。
この日のことは一生忘れないと思う。忘れられないのだと思う。人に触れられることが、愛されるということをこの時よくわかったのだと思う。ただ、自分の欲望のために私をくらいつくすように触れることも、蹂躙することだってできただろう。その筋肉質な恵まれた体でどこか一つでも押さえつけられてしまえば、叫んでも助けは来ない。私は臆病だから叫ぼうとしても声がつぶれて出ないだろう。
まるで割れ物でも扱うみたいに、力加減を慎重に、強く握りしめるなんてことはなかったのだ。本当に長く、体をほぐされた。全身をくまなく触られ、唇を滑らせた。
ベッドとジェラール様の身体の間に挟まれ、彼の匂いに包まれ、裂けるような痛みに顔をゆがめ、体中の筋肉を強張らせた。力を入れれば入れるほどに、痛む。キスされ、肩から順に力を抜いていくと、私は彼を受け入れた。鈍い痛みが続いていたけれど、しばらくそのまま抱きしめて、キスをしているうちに、和らいでいきただ、幸せだった。ひたすらに幸せだった。
両腕を彼の首に絡めて、抱きしめていた。痛みよりなにより、こんなに人に愛されるなんてこと、今までなかった。
「ジェラール様」
「どうした」
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