【完結】妹ばかり愛され追い出された姉ですが、無口な夫と暮らす日々が幸せすぎます

コトミ

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第十四話 ジェラール視点

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 小さいころから周りの大人たちはみんなどこかネジが外れ狂っていた。父親は権力に固執し、母親は失敗を恐れ、周囲の視線を気にするばかり。周りの人間たちも同じだった。宝石や高いドレスで着飾る女たち。まるでそれが自分の価値のように周囲に見せびらかせていることに吐き気がした。自分の地位のためなら妹や娘さえ国王の愛人にする男なんてこの世に生まれてこない方が良い。

 俺が正しいと思うことは世間一般では間違いで、この貴族社会で順応するんは周りに合わせ、人を見下すようでなければいけない。

 そんな社会に溶け込む気はなかった。だから俺は努力をたゆまなかった。剣が出来ればいい、強ければいいという男はいるが、それだけではダメだ。きっといつか力だけではどうにもならない壁に直面する。人に騙されず、自分自身で生き抜く知性が無ければいけない。

 父親の地位に頼らず、騎士団で功績をあげ、国王に取り入った。地位と国境近くの土地を与えられた。俺は結婚なんてするつもりはなかった。ろくでもない親に育てられた俺が、まともな父親に、それ以前に夫になれる気がしなかった。王宮では冷徹な騎士団長だとか、何百人と戦地で人を殺していると言われ続け、嫌われ者だった。だから結婚なんてする気はなかったというのに。人生は上手くいかない。

 と思っていたのに、人生は唐突にうまくいったりする。ヴァロア家のカタリナの代わりに嫁いできた姉のセラフィナは、今まで会ってきた貴族の女達とは確実に何かが違う。

 結婚式の誓いのキスの時、彼女は子供みたいに純粋な瞳で俺のことを見つめてきた。そこに嫌悪や、我慢なんてものは存在しない。本当に何も知らない子どもみたいに綺麗なのだ。

 初めて女性に対してこんなにも好意的な感情を出だした。これは恋愛的な感情ではないかもしれない。それより動物をめでるような、子供をかわいがるような愛おしさ。

 少しウエーブのかかった背中まで伸びる茶髪。ほっそりとした首に面長な顔がのっている。鼻と頬までソバカスが散っていて、鼻は綺麗な形をしていて、唇は桃色で薄い。眉毛は少し太く、茶色の瞳のある目はまん丸。睫毛は長く、瞬くたびにこちらの心がゆすぶられる。体はコルセットで無理やり締め上げたようなウエストではない、自然体。胸から腰まで、ドレスに体の線が綺麗に現れている。

 性欲なんてものは適度に発散するものだったが、セラフィナを見て初めて自主的に欲情した。女という物はすべて同じものだと思っていたが、違っていた。セラフィナの匂いに、見た目に、物を持ち上げる動作や、視線、それらすべてに身体が反応して、抱きしめて、キスをして、俺だけのものにしてしまいたいと思う。

 だが、十九歳など男なんていくらでも知っていて、結婚するまでに恋人までいたかもしれない。初夜とは名ばかりで、処女なはずがない。

 でも俺が迫った時、体中が動かなくなった。太ももや二の腕、触っているところは柔らかい、でも関節という関節が動かないのだ。激しい緊張が俺にまで伝わってきた。涙を流した時、抱こうなんて気にはならず、両腕で包み込むように抱きしめ、額にキスをした、

「絵でもなんでも見たことがないものですから、リアルな様子が分からなくて。裸になる事さえ恥ずかしいというのに、触ったりするだなんて。それに私、男性とはほとんど触れ合ったことがなく、キスをしたのもジェラール様が初めてなのです」

 俺の手から離れて部屋から飛び出してしまったとき、腕を組んで悩んだ。まさかキスさえしたことがない処女だったとは思っていなかった。明日からまた屋敷を空けるから、今ならいいと思っていたらそんなことはなかったということだ。

 それでも他の女の時と違い俺が傷ついていないのは、セラフィナが俺自身を拒絶したわけではないからだろう。心の底から俺を嫌い、煙たがってるわけではない。さて、どうしたものか。俺は駆け引きなんてのは苦手だし、人に優しくするのはもっと苦手だ。あっちから歩み寄ってくるのを待つしか考えが浮かばないな。

 屋敷を離れ数日、耳に飛び込んできた情報に身体が強張った。屋敷を空けている隙に、犯罪集団の宝石商が俺の領地へ入ったという知らせだ。この宝石商らは、王国で問題となっていた犯罪者集団で、宝石を売りつけた日の夜に強盗に入り、買った宝石ともども持ち去ってしまう凶悪犯だ。怪我をしたり、火事にあったりする家々もあり、貴族の間で情報交換されていた。

 一日も短縮し、大きな不安を抱えて早く帰った。きっと何かしら買っているに違いないと踏んでいたが、セラフィナは無事で宝石なんて何も買っていなかった。

 この聡明で、愛らしく、純粋な女性がこの世にあと何人いるものか。その瞬間は理性のタガが吹き飛んで、欲に任せて抱きしめキスをした。腕をつかむ手の力は弱く、カモミールのような匂いがした。背中は骨に触れ、折れてしまいそうなほど細く感じた。

 恥ずかしがり肩に顔をうずめたとき、耳は真っ赤で大きな茶色い瞳は、控えめに伏せられていた。

 そんな様子だから、きっとまだまだ抱けるのも先だろうと考えていた夜、俺の寝室へ初めてセラフィナがやってきた。
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