【完結】妹ばかり愛され追い出された姉ですが、無口な夫と暮らす日々が幸せすぎます

コトミ

文字の大きさ
19 / 22

第十九話

 結婚式は本当に盛大だった。さすが侯爵家の息子である。久しぶりに見た両親の羽振りの良さは変わらず、カタリナも周囲に人々がいるせいかとても明るかった。私も、ジェラール様も近づいて挨拶することはしなかった。きっとここへ呼んだのは形式上だろうし、昨日のことがあったから、カタリナの機嫌を損ねると思った。でもクック家の親族とは挨拶が出来た。

 夫妻はどちらも穏やかな物腰で、高齢に見えた。クック男爵の方は現役を引退されているようで髪の毛は真っ白、皴もくっきりと刻まれている。夫人はまるで孫の結婚を祝うような心持をしているように見えた。

「カタリナの姉のセラフィナ・モンフォールと申します」
「あらあら、これはどうもご丁寧に」

 男爵とジェラール様が話している間に、私は夫人に頭を下げた。夫人も丁寧に頭を下げた。

「モンフォール様の領地から王都までは長旅ではなかったのではありませんか?」
「長旅ではありましたが、いろいろ立ち寄りましたので、楽しい旅でございました。それ以上に妹がクック家に嫁ぐことができ、嬉しく思っております。本当にありがとうございます」

 夫人は扇子をはためかせながら「オホホホ」と優雅に笑った。表情は平和と純粋さであふれ、嫌な様子なんて全くない。それでも貴族の女性は裏の顔がありそうで怖い。

「私共としてもヴァロア家には感謝しておりますのよ。オリバーは末息子で、他の兄弟に比べて成長も遅かった。結婚できるのかさえ分からず、ずっと心配の種でしたの。その不安がなくなって、心が軽くなりましたわ」
「そうでございましたか。妹をどうぞよろしくお願いいたします」

 顔を見ると、意味ありげな表情をして、にっこりと笑っていた。視線をそらし、扇子を開いたり閉じたりしている。

「世間的に結婚という形式であればよろしいのです。カタリナが理想の女性なんて思ってはおりませんよ。ただオリバーが死ぬまで妻としていてくれればそれで」

 彼女の視線は他の人々と会話をするオリバーの方へあった。母親たちは皆、どうしてこんな息子を可愛がるのかしら。ふと私と目が合った。見下すような、私を蔑むような視線。

「うふふ、貴方だって似たようなものでしょう?あのモンフォール伯爵が女性を愛すなんてなんだか信じられないもの」
「いいえ、そんなことありません」

 一瞬目を丸くして驚いていたけれど、またにっこりと笑った。

「そう」

 式が行われる前に、使用人らしき人に呼ばれ準備をしているというカタリナのところへ行った。使用人たちは皆、せわしなく動き回り、挨拶を終えた人々が通り過ぎて行った。部屋についたものの、ノックさえせず入ることをしなかった。壁に背をつけて、聞こえてくる音に耳を澄ませていた。

「どうして?ねえどうして?お父様、どうしてセラフィナが私よ良い生活してるの?あの男、冷徹な暴力的な男だったんじゃないの?」
「いや、きっとセラフィナはあの家で苦労しているに違いない」
「いいえ、あいつ、すごく幸せそうな顔してたわ。あの男も、大層セラフィナを愛してるって顔で見つめてた。なんでよ」

 部屋中を歩き回る足音。それから何かが床にたたきつけられ割れる音がした。

「それなのにオリバーは、私と合うたびに私ん顔色をうかがうばっかり。いつもいつも私が何かしてあげないといけないのよ。あいつが私にしてくれることなんて何一つない。こんなことなら私がジェラールと結婚するんだった。それもこれも全部あの母親のせいよ。ジェラールは殴るとか、怒鳴るとか、無言で何を考えてるか分からないからとか、私を不安にさせる事ばっかり言って、そんなの結婚したくなくなるに決まってるでしょう」

 声色はどんどんヒステリックになっていき、甲高く部屋の中に響いていた。両親の声は何一つ聞こえてこない。

「なんであいつばっかり幸せになるわけ?意味わかんない。私はあいつより努力して、必死に生きてきたのに報われないわけ?何もしてない努力もしてないセラフィナは何でも上手くいってるのに」

 今度はしゃくりあげるような声色になり、泣きだしているようだった。

「もういやよ。私ばっかり不運だわ。誰も私のことを好きになってくれないし、誰も私に嫌な顔を向ける。意味わからない」

 壁から離れ、その場から立ち去った。カタリナが今までどんな人間関係でどんな生活をしてきたなんてわからないけれど、彼女は不満ばかり。きっとあの子は人生において目に見える事だけじゃないということが分からないと、きっとあの子自身どんな富に恵まれても幸せになれないのでしょうね。
 教会で見た父と母は私を見るなり、目をそらして挨拶さえしようとしなかった。もう私は絶縁されたも同然なのかもしれない。私にはもうジェラール様しかいらっしゃらないのかもしれないわね。

 それにしても、隣に立つジェラール様は今までにないほど落ち込んでいる。表情は変わっていないけれど、結婚式だというのに陰鬱な雰囲気を纏っている。朝からまともに私と会話していないし、何かと理由をつけて、私のそばから離れていく。

 腹の奥がモヤモヤとする。

あなたにおすすめの小説

(完結)可愛いだけの妹がすべてを奪っていく時、最期の雨が降る(全5話)

青空一夏
恋愛
可愛いだけの妹が、全てを奪っていく時、私はその全てを余すところなく奪わせた。 妹よ・・・貴女は知らない・・・最期の雨が貴女に降ることを・・・ 暗い、シリアスなお話です。ざまぁありですが、ヒロインがするわけではありません。残酷と感じるかどうかは人によるので、わかりませんが、残酷描写シーンはありません。最期はハッピーエンドで、ほのぼのと終わります。 全5話

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。

猫屋敷むぎ
恋愛
王都最古の大聖堂。 ついに幸せいっぱいの結婚式を迎えた、公女リシェル・クレイモア。 しかし、一年前。同じ場所での結婚式では―― 見知らぬ女を連れて現れたセドリック王子が、高らかに宣言した。 「俺は――愛を選ぶ! お前との婚約は……破棄だ!」 確かに愛のない政略結婚だったけれど。 ――やがて、仮面の執事クラウスと共に踏み込む、想像もできなかった真実。 「お嬢様、祝砲は芝居の終幕でと、相場は決まっております――」 仮面が落ちるとき、空を裂いて祝砲が鳴り響く。 シリアスもラブも笑いもまとめて撃ち抜く、“婚約破棄から始まる、公女と執事の逆転ロマンス劇場”、ここに開幕! ――ミステリ仕立ての愛と逆転の物語です。スッキリ逆転、ハピエン保証。 ※「小説家になろう」にも掲載。 ※ アルファポリス完結恋愛13位。応援ありがとうございます。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

振られたから諦めるつもりだったのに…

しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。 自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。 その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。 一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…   婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。

夢を現実にしないための正しいマニュアル

しゃーりん
恋愛
娘が処刑される夢を見た。 現在、娘はまだ6歳。それは本当に9年後に起こる出来事? 処刑される未来を変えるため、過去にも起きた夢の出来事を参考にして、変えてはいけないことと変えるべきことを調べ始める。 婚約者になる王子の周囲を変え、貴族の平民に対する接し方のマニュアルを作り、娘の未来のために頑張るお話。

【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!?  今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!

黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。 そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※