22 / 22
終わり
しおりを挟む
三年が経った頃、私とジェラールの間には一人の息子が生まれたことで、義母は私に何も言わなくなった。息子の名前はそして息子が生まれたことを報告すると両親がやってきて、散々孫を可愛がった後に、カタリナが離婚したという話をしてた。離婚したのちは、帰ってきて家に住み続けているということだ。そして本当に久しぶりに冷静にカタリナがいない場所で三人で話をした。
「ずっとセラフィナに甘えていたの。貴方は何も言わない、面倒事も起こさない子だったからね」
「カタリナを王宮へ連れて行ったのはいくつだったか覚えてるか?」
「そんなの覚えてない。まだまだ幼かった」
今更私に近づいてくるということに対する、ふつふつとした怒りが湧いた。母も父も私には全く構ってこなかったのに、今更両親は私に媚を売り始めた。私がジェラール様の子を産んだことで私とジェラール様との間に。簡単には離れられない約束事のようなものが出来たからかもしれない。
「あの時はもっと生活が安定したら、セラフィナも連れてこようと思った」
申し訳なさそうに白髪まみれになった頭を撫でながら父は言った。そんな顔したって許されると思っているの?嘘なんていくらでもいえる。
「だけど、カタリナが成長していくにつれて、あの子の癇癪癖がひどくなって、私達でもどうしようもなくなっていた」
俯いた母は小じわが増え、膝の上に置かれた手も欠陥が浮き出て、シミが出来ている。小さいころ母に握られた手は真っ白で柔らかかった。
「特にあの子は貴方に酷い対抗心をあらわにしていたの。カタリナは貴方に嫉妬していたのよ」
「どうして?カタリナは私より良い生活をしてきたじゃないの。それなのにどうして嫉妬する必要があるわけ?私の方が嫉妬してもおかしくないくらいよ」
でも分かっているの。確かにカタリナにはないものを私は持っているかもしれない。それは
「すべてはあの子の責任だって私達も分かっているわ。でも平等に接するには難しすぎたの。少しでもあなたに愛情を注げば、すぐにカタリナは癇癪を起し、不安定になった。だからあなたを守るためには、私達はこれしか方法を思いつかなかった。ごめんなさい。愚かな私達を許してなんて言わないけれど、愛情がないわけではなかったことを知ってほしいの」
ただ黙って私は考えていた。私にはマーサがいたし、案外幸せだった。自分の特性をかえられる人間というのは少ないし、私の知らないところでカタリナはもっとひどい人間なのかもしれない。でもそれをカタリナ自身が自覚するということはきっと遠い未来の話でしょうし、将来的に変化するかなんて誰にも分らない。両親を責める権利はあるけれど、それを行使したところで私の過去が変わるわけじゃない。
「カタリナにはなんて言ってここまでやってきたの?」
「友人のところへ行ってくるって、話したわ」
カタリナは両親が私のところへ顔を出すことさえも嫌なのね。
「確かにお母様とお父様になぜ愛されないのかを悩んだこともあったけれど、今は幸せだから構わないの。それに本当の話を聞けただけで私は十分よ」
「セラフィナ、本当に苦労を掛けた。この結婚だって、すべて」
これらが両親の本音だとは思わない。どこかに建前があって、嘘をついているかもしれない。あの家から私を追い出したのも事実、カタリナが結婚しなくなったからと私が結婚させられたのも事実。両親が私をないがしろにしているかもしれない。
「これからカタリナはどうするの?」
「どうするって?」
「このまま家に居続けるじゃ、お父様もお母様も大変でしょう?」
「でも、これからどうこうできるって話じゃないわよ。どうすればいいのか分からないし」
今までどれぐらいカタリナが両親に頼ってきたかなんて知らないけれど、もっと世界を知った方が良い気がするわ。
「働かせたらどう?」
二人とも眉を顰めた。
「私はマーサと二人きりで住んでいた時、料理を作るのを手伝ったし、洗濯もね。買い物だってやった。それは貴族のすることじゃないけれど、人と関わり合いながら様々なことを学んだわ。カタリナも王宮で働けとかメイドとして働けなんて言わないけど、どれだけ人に頼って生きているのか分からせたらどう?」
この提案に案外二人は納得したようだった。カタリナは王宮の方が住み慣れているし、そっちへ戻って色々やらせてみると話していた。カタリナが何かしら変われば行けれど、そう簡単じゃないでしょうし。運良く物事が運ぶのを願うしかないわね。
「ママ」
「どうしたのノーマン?」
「お花あげる」
「ありがとう」
私の茶髪に、海よりも澄んだ青い瞳。鼻筋や頬にはソバカスが散っていて、何でも興味を示して知識を吸収していく。
タンポポを受け取って、中庭にかけていくノーマンを眺めていた。こんなに純粋無垢な子を、上手く育てられるかしら。こんなにひねくれた私が。
ふと隣へジェラールがやってきた。
「お仕事は終わったんですか?」
「ああ」
彼の方に頭を預けて、ため息を吐いた。相変わらずその瞳はノーマンと同じように澄んでいて美しい。変わったところと言えば髪型をオールバックにしたところ。前より顔が見えるようになったけれど威圧感が増している。目の傷もはっきり見えるし。
「私、この子をちゃんと育てられるかしら」
「俺はお前よりもっと自信がない。どうやって相手をすればいいんだ」
思わず笑ってしまった。ノーマンはまたタンポポをちぎって、こちらポテポテと歩いていてくる。
「どうやって育てられたかった?」
タンポポを握りしめた手をジェラールへ伸ばした。
「あい、あげる」
「ああ」
「ありがとうでしょ」
小突くと「ありがとうな」と言った。ノーマンはにっこりと笑ってまたタンポポを探しに出かけた。
「俺は褒められたかった」
「じゃあ、そうすればいいのよ」
私はジェラール様の腕を抱きしめるように握った。左手にはめられたエメラルドの指輪を見つめた。
「ねえジェラール様」
「なんだ」
「こんな日が続けばいですね」
「そうだな」
「ずっとセラフィナに甘えていたの。貴方は何も言わない、面倒事も起こさない子だったからね」
「カタリナを王宮へ連れて行ったのはいくつだったか覚えてるか?」
「そんなの覚えてない。まだまだ幼かった」
今更私に近づいてくるということに対する、ふつふつとした怒りが湧いた。母も父も私には全く構ってこなかったのに、今更両親は私に媚を売り始めた。私がジェラール様の子を産んだことで私とジェラール様との間に。簡単には離れられない約束事のようなものが出来たからかもしれない。
「あの時はもっと生活が安定したら、セラフィナも連れてこようと思った」
申し訳なさそうに白髪まみれになった頭を撫でながら父は言った。そんな顔したって許されると思っているの?嘘なんていくらでもいえる。
「だけど、カタリナが成長していくにつれて、あの子の癇癪癖がひどくなって、私達でもどうしようもなくなっていた」
俯いた母は小じわが増え、膝の上に置かれた手も欠陥が浮き出て、シミが出来ている。小さいころ母に握られた手は真っ白で柔らかかった。
「特にあの子は貴方に酷い対抗心をあらわにしていたの。カタリナは貴方に嫉妬していたのよ」
「どうして?カタリナは私より良い生活をしてきたじゃないの。それなのにどうして嫉妬する必要があるわけ?私の方が嫉妬してもおかしくないくらいよ」
でも分かっているの。確かにカタリナにはないものを私は持っているかもしれない。それは
「すべてはあの子の責任だって私達も分かっているわ。でも平等に接するには難しすぎたの。少しでもあなたに愛情を注げば、すぐにカタリナは癇癪を起し、不安定になった。だからあなたを守るためには、私達はこれしか方法を思いつかなかった。ごめんなさい。愚かな私達を許してなんて言わないけれど、愛情がないわけではなかったことを知ってほしいの」
ただ黙って私は考えていた。私にはマーサがいたし、案外幸せだった。自分の特性をかえられる人間というのは少ないし、私の知らないところでカタリナはもっとひどい人間なのかもしれない。でもそれをカタリナ自身が自覚するということはきっと遠い未来の話でしょうし、将来的に変化するかなんて誰にも分らない。両親を責める権利はあるけれど、それを行使したところで私の過去が変わるわけじゃない。
「カタリナにはなんて言ってここまでやってきたの?」
「友人のところへ行ってくるって、話したわ」
カタリナは両親が私のところへ顔を出すことさえも嫌なのね。
「確かにお母様とお父様になぜ愛されないのかを悩んだこともあったけれど、今は幸せだから構わないの。それに本当の話を聞けただけで私は十分よ」
「セラフィナ、本当に苦労を掛けた。この結婚だって、すべて」
これらが両親の本音だとは思わない。どこかに建前があって、嘘をついているかもしれない。あの家から私を追い出したのも事実、カタリナが結婚しなくなったからと私が結婚させられたのも事実。両親が私をないがしろにしているかもしれない。
「これからカタリナはどうするの?」
「どうするって?」
「このまま家に居続けるじゃ、お父様もお母様も大変でしょう?」
「でも、これからどうこうできるって話じゃないわよ。どうすればいいのか分からないし」
今までどれぐらいカタリナが両親に頼ってきたかなんて知らないけれど、もっと世界を知った方が良い気がするわ。
「働かせたらどう?」
二人とも眉を顰めた。
「私はマーサと二人きりで住んでいた時、料理を作るのを手伝ったし、洗濯もね。買い物だってやった。それは貴族のすることじゃないけれど、人と関わり合いながら様々なことを学んだわ。カタリナも王宮で働けとかメイドとして働けなんて言わないけど、どれだけ人に頼って生きているのか分からせたらどう?」
この提案に案外二人は納得したようだった。カタリナは王宮の方が住み慣れているし、そっちへ戻って色々やらせてみると話していた。カタリナが何かしら変われば行けれど、そう簡単じゃないでしょうし。運良く物事が運ぶのを願うしかないわね。
「ママ」
「どうしたのノーマン?」
「お花あげる」
「ありがとう」
私の茶髪に、海よりも澄んだ青い瞳。鼻筋や頬にはソバカスが散っていて、何でも興味を示して知識を吸収していく。
タンポポを受け取って、中庭にかけていくノーマンを眺めていた。こんなに純粋無垢な子を、上手く育てられるかしら。こんなにひねくれた私が。
ふと隣へジェラールがやってきた。
「お仕事は終わったんですか?」
「ああ」
彼の方に頭を預けて、ため息を吐いた。相変わらずその瞳はノーマンと同じように澄んでいて美しい。変わったところと言えば髪型をオールバックにしたところ。前より顔が見えるようになったけれど威圧感が増している。目の傷もはっきり見えるし。
「私、この子をちゃんと育てられるかしら」
「俺はお前よりもっと自信がない。どうやって相手をすればいいんだ」
思わず笑ってしまった。ノーマンはまたタンポポをちぎって、こちらポテポテと歩いていてくる。
「どうやって育てられたかった?」
タンポポを握りしめた手をジェラールへ伸ばした。
「あい、あげる」
「ああ」
「ありがとうでしょ」
小突くと「ありがとうな」と言った。ノーマンはにっこりと笑ってまたタンポポを探しに出かけた。
「俺は褒められたかった」
「じゃあ、そうすればいいのよ」
私はジェラール様の腕を抱きしめるように握った。左手にはめられたエメラルドの指輪を見つめた。
「ねえジェラール様」
「なんだ」
「こんな日が続けばいですね」
「そうだな」
1,128
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
わたしの婚約者なんですけどね!
キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は王宮精霊騎士団所属の精霊騎士。
この度、第二王女殿下付きの騎士を拝命して誉れ高き近衛騎士に
昇進した。
でもそれにより、婚約期間の延長を彼の家から
告げられて……!
どうせ待つなら彼の側でとわたしは内緒で精霊魔術師団に
入団した。
そんなわたしが日々目にするのは彼を含めたイケメン騎士たちを
我がもの顔で侍らかす王女殿下の姿ばかり……。
彼はわたしの婚約者なんですけどね!
いつもながらの完全ご都合主義、
ノーリアリティのお話です。
少々(?)イライラ事例が発生します。血圧の上昇が心配な方は回れ右をお願いいたします。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
(完結)可愛いだけの妹がすべてを奪っていく時、最期の雨が降る(全5話)
青空一夏
恋愛
可愛いだけの妹が、全てを奪っていく時、私はその全てを余すところなく奪わせた。
妹よ・・・貴女は知らない・・・最期の雨が貴女に降ることを・・・
暗い、シリアスなお話です。ざまぁありですが、ヒロインがするわけではありません。残酷と感じるかどうかは人によるので、わかりませんが、残酷描写シーンはありません。最期はハッピーエンドで、ほのぼのと終わります。
全5話
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
手放してみたら、けっこう平気でした。
朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。
そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。
だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。
この恋に終止符(ピリオド)を
キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。
好きだからサヨナラだ。
彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。
だけど……そろそろ潮時かな。
彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、
わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。
重度の誤字脱字病患者の書くお話です。
誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
そして作者はモトサヤハピエン主義です。
そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんでも投稿します。
諦めていた自由を手に入れた令嬢
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢シャーロットは婚約者であるニコルソン王太子殿下に好きな令嬢がいることを知っている。
これまで二度、婚約解消を申し入れても国王夫妻に許してもらえなかったが、王子と隣国の皇女の婚約話を知り、三度目に婚約解消が許された。
実家からも逃げたいシャーロットは平民になりたいと願い、学園を卒業と同時に一人暮らしをするはずが、実家に知られて連れ戻されないよう、結婚することになってしまう。
自由を手に入れて、幸せな結婚まで手にするシャーロットのお話です。
妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる
ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。
でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。
しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。
「すまん、別れてくれ」
「私の方が好きなんですって? お姉さま」
「お前はもういらない」
様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。
それは終わりであり始まりだった。
路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。
「なんだ? この可愛い……女性は?」
私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。
振られたから諦めるつもりだったのに…
しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。
自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。
その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。
一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…
婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる