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第六話
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「それは、どういうことですか」
「うーん、どう説明すればいいかな。あ、そうだ。貴女には、信頼できる人がいるかい?」
すぐにエリーゼと父の姿が脳裏へ浮かんだ。
「もちろんいます」
「それはとてもいいことだ。私はそういう人間が一人も居ないから羨ましい」
一人もいないなんて、そんなことあるわけないでしょう。私だってこんな嫌われ者だけど、友達になってくれる人がいるし、父は優しく、とても感謝している大切な人。
「そんなことありますか?勘違いでは?」
「勘違いならいいけれど、両親にはほとんど会うことがないし、友人という友人もいない。婚約者や恋人は皆、私にいつも気を使って、私の機嫌を損ねないように言動に注意を払っていたし、皆が欲しているのは私の地位と権力と、有名人だというレッテルだけ」
両手を握りしめながら、目を細めて先ほどまでの笑顔が嘘のように、影を落とした表情へと変わった。深刻な様子なのに、重ねて勘違いだとはソフィアは言えなかった。
「両親に会ったことが無いというのは?」
「乳母に育てられたためだ。年に一度か、二度ぐらいしか会わないな」
「なぜ家族なのに、そんな」
「ウチの両親は冷めているんだ。それに家族というものに血のつながり以外の価値はないと思っているんだろうな」
確かにソフィにも乳母が居たけれど、夜になれば子爵と食事をとって、休みがあればどこか遠くへ連れて行ってもらい一生懸命、愛されていた。悪いことをされれば叱られ、良いことをすれば褒められる。それがケイトには全くなかった。
「親に嫌われるよりも、怖いことはなんだかわかるかい?」
「さあ」
「無関心だよ」
好きの反対は嫌い。愛の反対は無関心。愛されるということはそれほど難しいことだ。愛が冷めて行けば、嫌いになるのではなく、相手を空気のように対応するのだから。
「友人が一人もいないなんてそんなことは」
「こんなの勘違いだと言ってしまえばそうかもしれない。確かに一緒に話をする人間はいるけれど、あくまで仕事上のような関係なんだ。それに小さいころなんて、誰も一緒にスポーツをしてくれなかった。私に怪我をさせたら大変だから」
「へ、へえ」
重い!思っていた10倍重い。きっと上手く愛されずに育ってこんなねじれた性格になってしまったのね。可哀そうと言えば可哀そうだけれども、私にはそれを更生させられるほどの力はない。私はさほど、愛情深くもないのよ。
「こんな感じで弱みを晒してみたけれど、結婚してくれる気にはならない?」
「申し訳ありません。まだマイナスです」
するとケイトは噴き出すように笑った。それは今までの作り固めたような表情なんかではなく、自然と飛び出した笑顔だった。
「あはは!まだマイナスか。そんなに嫌ならば、また今度来るとしよう。今度はお父上がいらっしゃるときにご相談しましょう」
「またいらっしゃるつもりですか?」
一時間口説いた末に、やっとケイトは帰ろうと黒色のコートを羽織り、立ち上がった。やっと帰ってくれることが分かったソフィはため息を吐いた。
「お願いですから、私ではなく、他の女性とご結婚なさってください」
「なぜ?」
「どこからどう見ても釣り合っていないじゃありませんか。こんな赤毛で、ソバカスだらけの女。結婚なんてしたら、どんなことを言われるか分かりませんよ」
ケイトはテーブルに置いたままだった花束を掴むと、それを両手で丁寧に渡した。そして青色の瞳でまっすぐとソフィの瞳を見つめた。
「私は貴女の赤毛もそばかすも、何もかも好きになってしまっただ。だから仕方がない」
「うーん、どう説明すればいいかな。あ、そうだ。貴女には、信頼できる人がいるかい?」
すぐにエリーゼと父の姿が脳裏へ浮かんだ。
「もちろんいます」
「それはとてもいいことだ。私はそういう人間が一人も居ないから羨ましい」
一人もいないなんて、そんなことあるわけないでしょう。私だってこんな嫌われ者だけど、友達になってくれる人がいるし、父は優しく、とても感謝している大切な人。
「そんなことありますか?勘違いでは?」
「勘違いならいいけれど、両親にはほとんど会うことがないし、友人という友人もいない。婚約者や恋人は皆、私にいつも気を使って、私の機嫌を損ねないように言動に注意を払っていたし、皆が欲しているのは私の地位と権力と、有名人だというレッテルだけ」
両手を握りしめながら、目を細めて先ほどまでの笑顔が嘘のように、影を落とした表情へと変わった。深刻な様子なのに、重ねて勘違いだとはソフィアは言えなかった。
「両親に会ったことが無いというのは?」
「乳母に育てられたためだ。年に一度か、二度ぐらいしか会わないな」
「なぜ家族なのに、そんな」
「ウチの両親は冷めているんだ。それに家族というものに血のつながり以外の価値はないと思っているんだろうな」
確かにソフィにも乳母が居たけれど、夜になれば子爵と食事をとって、休みがあればどこか遠くへ連れて行ってもらい一生懸命、愛されていた。悪いことをされれば叱られ、良いことをすれば褒められる。それがケイトには全くなかった。
「親に嫌われるよりも、怖いことはなんだかわかるかい?」
「さあ」
「無関心だよ」
好きの反対は嫌い。愛の反対は無関心。愛されるということはそれほど難しいことだ。愛が冷めて行けば、嫌いになるのではなく、相手を空気のように対応するのだから。
「友人が一人もいないなんてそんなことは」
「こんなの勘違いだと言ってしまえばそうかもしれない。確かに一緒に話をする人間はいるけれど、あくまで仕事上のような関係なんだ。それに小さいころなんて、誰も一緒にスポーツをしてくれなかった。私に怪我をさせたら大変だから」
「へ、へえ」
重い!思っていた10倍重い。きっと上手く愛されずに育ってこんなねじれた性格になってしまったのね。可哀そうと言えば可哀そうだけれども、私にはそれを更生させられるほどの力はない。私はさほど、愛情深くもないのよ。
「こんな感じで弱みを晒してみたけれど、結婚してくれる気にはならない?」
「申し訳ありません。まだマイナスです」
するとケイトは噴き出すように笑った。それは今までの作り固めたような表情なんかではなく、自然と飛び出した笑顔だった。
「あはは!まだマイナスか。そんなに嫌ならば、また今度来るとしよう。今度はお父上がいらっしゃるときにご相談しましょう」
「またいらっしゃるつもりですか?」
一時間口説いた末に、やっとケイトは帰ろうと黒色のコートを羽織り、立ち上がった。やっと帰ってくれることが分かったソフィはため息を吐いた。
「お願いですから、私ではなく、他の女性とご結婚なさってください」
「なぜ?」
「どこからどう見ても釣り合っていないじゃありませんか。こんな赤毛で、ソバカスだらけの女。結婚なんてしたら、どんなことを言われるか分かりませんよ」
ケイトはテーブルに置いたままだった花束を掴むと、それを両手で丁寧に渡した。そして青色の瞳でまっすぐとソフィの瞳を見つめた。
「私は貴女の赤毛もそばかすも、何もかも好きになってしまっただ。だから仕方がない」
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