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第十一話
頭を掴まれている私を、カールはただ怯えながら見ているだけだった。数人のメイド達が私を助けるために間に入ろうとしてくれたけれども、マリー夫人に蹴られ殴られて、それ以上止めに入る人はいなかった。この屋敷内に騎士はいない。居ても分からない。
「母上、それはやりすぎです」
「やりすぎ?そんなことないでしょ。それより貴方がシャンとしないからこんなことになっているのよ!嫁に敬語も使われないで、舐められてばかりで良いっていうの?早く馬車に連れていくわよ!公爵が帰ってくる前にね。屋敷に帰ったら、この子が帰りたくなって手紙をよこしたとでも言えばいいわ」
まるで誘拐まがいのことをされ、抵抗することなんて出来なかった。筋肉のない体では大人二人に到底かなわない。両腕を二人につかまれて、足で踏ん張ってみたところで、履いているのはパンプス。これが氷の上を歩くゴムの靴ならもっと違ったのかもしれない。
いやいや、そんなこと考えている暇はない。早くこの二人から逃げないと。でも両手は封じられているし、二人がかりなら抱き上げられるかもしれない。
だめ、逃げられない。
なんて愚かなのよ。私は。これじゃあエリックに助けられた意味がないじゃない。もっと迷惑をかけるだけ。自分で何とか出来るなんて幼稚な考え捨てるんじゃなかったの?仕事をしなければいけない?バカなこと言うな!なんて、なんて私は。
屋敷から出ると、外は雨が降り始め、マリー夫人は一張羅を濡らすのが嫌だったらしく、私のことをカールに任せて、一人足早に馬車の中へと戻った。
「来て、ビオラ。君が居ないと仕事が終わらないんだ。だってあれはほとんど君の仕事みたいなものだろ」
「……」
「それなのに仕事をほっぽってこんなところまで逃げてきて」
冬の冷たい風と、雨とで私の体は一瞬にして冷え切り、精神さえも弱くなってしまった気がした。
私は誰のものでもないのに、なぜ奪い合うようなことになってるの。
カールに腕をつかまれたまま馬車に無理やり入れられそうになったその時、門の方から馬車が屋敷の中へ入ってくる音が聞こえてきた。
「カール、さっさとビオラを馬車の中へ入れなさい!」
「ほら、早く入れって!」
今私がすべきこと、それは抵抗することじゃない。二人に丸め込まれて馬車に乗ることでもない。
「助けて!!」
助けを呼ばれたことに驚いたのだろう。怖気づいた二人は顔を見る見るうちに青白くさせていき、カールは私の腕を強く引っ張り、無理やり馬車の中へ入れようとした。
「お願い助けて!」
「黙れ!」
だけれどもこの馬車のすぐ隣に、高価で大きい馬車が一台止まり、カールは私から手を放し、マリー夫人の目を丸くした。
隣の馬車の扉が開き、降りてきたのは、エリックと、同じく公爵のオルリン公爵。二人は兄弟だ。それともう一人女性が降りてきた。その人を見て私は目を丸くした。彼女も目を丸くしていた。
「エミリア!?」
「お姉様!」
どうしてエミリアが…
「母上、それはやりすぎです」
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いやいや、そんなこと考えている暇はない。早くこの二人から逃げないと。でも両手は封じられているし、二人がかりなら抱き上げられるかもしれない。
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なんて愚かなのよ。私は。これじゃあエリックに助けられた意味がないじゃない。もっと迷惑をかけるだけ。自分で何とか出来るなんて幼稚な考え捨てるんじゃなかったの?仕事をしなければいけない?バカなこと言うな!なんて、なんて私は。
屋敷から出ると、外は雨が降り始め、マリー夫人は一張羅を濡らすのが嫌だったらしく、私のことをカールに任せて、一人足早に馬車の中へと戻った。
「来て、ビオラ。君が居ないと仕事が終わらないんだ。だってあれはほとんど君の仕事みたいなものだろ」
「……」
「それなのに仕事をほっぽってこんなところまで逃げてきて」
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私は誰のものでもないのに、なぜ奪い合うようなことになってるの。
カールに腕をつかまれたまま馬車に無理やり入れられそうになったその時、門の方から馬車が屋敷の中へ入ってくる音が聞こえてきた。
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「ほら、早く入れって!」
今私がすべきこと、それは抵抗することじゃない。二人に丸め込まれて馬車に乗ることでもない。
「助けて!!」
助けを呼ばれたことに驚いたのだろう。怖気づいた二人は顔を見る見るうちに青白くさせていき、カールは私の腕を強く引っ張り、無理やり馬車の中へ入れようとした。
「お願い助けて!」
「黙れ!」
だけれどもこの馬車のすぐ隣に、高価で大きい馬車が一台止まり、カールは私から手を放し、マリー夫人の目を丸くした。
隣の馬車の扉が開き、降りてきたのは、エリックと、同じく公爵のオルリン公爵。二人は兄弟だ。それともう一人女性が降りてきた。その人を見て私は目を丸くした。彼女も目を丸くしていた。
「エミリア!?」
「お姉様!」
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