【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ

文字の大きさ
18 / 32

第十八話

しおりを挟む
 目を覚まして私はベッドの横に置いてある椅子にエリックが座っていることに気が付いた。ラフなシャツに身軽そうな黒のパンツ姿。両腕を組んで、ウトウトと頭を揺らしている。

「父と、母は?」

 目を覚ましたエリックは椅子から立ち上がり両腕を高く伸ばしてから、大きく息を吐いた。立ち上がった椅子から、新聞がぽつんと座っていた。それから平然とした様子で私を見た。その緑色の瞳は怒りを孕んでいるようだった。

「死んでなかった」

 怒りなどよりも先に私は安堵が体の中に巡り、硬直していた体がから力が抜け、ベッドに沈んでいくように感じた。目頭が熱くなって、涙が零れた。

「よかった、死んでなかった」

 手で涙を拭いて、大きく息を吸った。
 立って腕を組んだままエリックは床を見つめていた。その背中は少し怖いと感じた。ピリピリとした空気が肌でもわかる。今までにないぐらいに彼は憤りを感じている。恩師である父を侮辱されたと感じたから?私があんなに大げさにしなければ、もっと冷静だった。嘘だってわかったはずなのに。

「誰から二人が死んだと聞いたんだ?」
「それは、ミーナという女性から」
「フィリップ伯爵の愛人か?」
「…そう」

 それを聞きエリックは手を握りしめて、壁まで歩いていくと、握りしめた拳で壁を殴りつけた。部屋に振動が伝わり、驚いて布団を握りしめた。

「くそ、あいつ、嘘つきやがった。ぶっ殺してやる」
「ぶって、しかも殺すだなんて、穏やかじゃないわ」

 面白がったためだろう。キッと睨まれて、でもすぐその顔はすぐに緩んで、ため息が漏れた。

「俺はもう我慢ならない。伯爵からは止められていたが、あの人はまだ帰ってこない」

 今までにないほどに低い、声色だった。

「どういうこと?」

 踵を返して、私のところまでやってくると、起き上がろうとする私の肩を掴んで、ベッドに無理やり寝かされ、布団をかけられた。私は手で彼の手首を強くつかんだ。
 彼は少し驚き、眉をしかめた。

「貴方が私に隠し事をするのが嫌でたまらないのよ。私が無能だとでもお思いで?今、体はとても弱っているけれども、頭は冴えてるわ」

 まるで叱られてしまった子供の様に、黙ったまま俯いてしまった。

「ねえ、貴方は何が心配なの?何を恐れているの?」

 彼の骨が浮き出た両手を包み込むように握った。

「手紙の中でも、ここでも貴方は私にとても優しいわ。私があなたの迷惑になることも分かってる。でも隠し事はしないで。私は大丈夫」

 ため息を吐き目元を強くこすったエリックはソファに置いていた新聞を私の方へ投げて渡した。その新聞はミランダ・ローズが書いているものだった。その中には表紙に、私とエリックの関係のことが大々的に書かれていた。精神がおかしくなった私が、父親が亡くなったと勘違いして、半狂乱になったと、そう書かれていた。
 持っていた新聞の端を握りしめ、新聞には大きくしわが寄った。

「大量の手紙も来てる。止めようとしたが、止められなかった」
「いいえ、貴方が悪いわけじゃないでしょ。何も謝ることないわ」

 それにしても、私よりもエリックに対して酷い書かれようだ。まるでエリックのことを酷く恨んでいるようにも見える。

「ねえ、彼女に何かしたの?こんなにひどく書く必要ある?」
「ある」

 まさかそんなことないと思っていたので、思わず「はあ」と声が漏れた。何をしたのかということは聞かなかった。エミリアが言っていた荒れていた時代に何かあったのだろう。

「私が半狂乱になったって書かれているけど、みんなこう思っているってわけよね?ミーナのことは誰も分からなかったの?」
「いや、言ったが、フラン家がミーナの奴をかくまって、そんな奴を入れていないと。それに人が多すぎて、どうにもならなかった」

 顎を触りながら端から端まで新聞を眺めていると、エリックに新聞を取られてしまった。

「貴方はこれから何をするつもりなの?」
「何って?」
「私のために何化かてくれようとしているのでしょう?何をする目的なの?」

 それを聞き私は小さく笑ってから「最終的な目的」と聞いた。エリックは私と向き合い、ため息交じりに言った。
「フィリップ領をウィットビル領にしたい」
「優しい人ね。私の生きがいを奪い返してくれるだなんて」
「元々伯爵は私にくれる予定だったらしい。あの人はすでに領地をくれると手紙で教えてくれた。でもあの人はまだ帰ってこない」

 なんだか楽しそうな気がしてきて、私はにっこりと笑った。

「面白そうね。じゃあ、これから何をするの?」
「ミランダ・ローズに書いてほしい記事がたくさんあるが、希望薄だろうな」
「私に良い案があるわ」

 カールやフラン子爵ほどに秘密が隠されている人間はいない。それにマリー夫人のこともいろいろ明かされることになるだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

あなたの言うことが、すべて正しかったです

Mag_Mel
恋愛
「私に愛されるなどと勘違いしないでもらいたい。なにせ君は……そうだな。在庫処分間近の見切り品、というやつなのだから」  名ばかりの政略結婚の初夜、リディアは夫ナーシェン・トラヴィスにそう言い放たれた。しかも彼が愛しているのは、まだ十一歳の少女。彼女が成人する五年後には離縁するつもりだと、当然のように言い放たれる。  絶望と屈辱の中、病に倒れたことをきっかけにリディアは目を覚ます。放漫経営で傾いたトラヴィス商会の惨状を知り、持ち前の商才で立て直しに挑んだのだ。執事長ベネディクトの力を借りた彼女はやがて商会を支える柱となる。  そして、運命の五年後。  リディアに離縁を突きつけられたナーシェンは――かつて自らが吐いた「見切り品」という言葉に相応しい、哀れな姿となっていた。 *小説家になろうでも投稿中です

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

【完】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 第18回恋愛小説大賞で、『奨励賞』をいただきましたっ! ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。 ※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)  

平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」  その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。  王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。  ――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。  学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。 「殿下、どういうことでしょう?」  私の声は驚くほど落ち着いていた。 「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」

【完結】旦那様の幼馴染が離婚しろと迫って来ましたが何故あなたの言いなりに離婚せねばなりませんの?

水月 潮
恋愛
フルール・ベルレアン侯爵令嬢は三ヶ月前にジュリアン・ブロワ公爵令息と結婚した。 ある日、フルールはジュリアンと共にブロワ公爵邸の薔薇園を散策していたら、二人の元へ使用人が慌ててやって来て、ジュリアンの幼馴染のキャシー・ボナリー子爵令嬢が訪問していると報告を受ける。 二人は応接室に向かうとそこでキャシーはとんでもない発言をする。 ジュリアンとキャシーは婚約者で、キャシーは両親の都合で数年間隣の国にいたが、やっとこの国に戻って来れたので、結婚しようとのこと。 ジュリアンはすかさずキャシーと婚約関係にあった事実はなく、もう既にフルールと結婚していると返答する。 「じゃあ、そのフルールとやらと離婚して私と再婚しなさい!」 ……あの? 何故あなたの言いなりに離婚しなくてはならないのかしら? 私達の結婚は政略的な要素も含んでいるのに、たかが子爵令嬢でしかないあなたにそれに口を挟む権利があるとでもいうのかしら? ※設定は緩いです 物語としてお楽しみ頂けたらと思います *HOTランキング1位(2021.7.13) 感謝です*.* 恋愛ランキング2位(2021.7.13)

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

処理中です...