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2. 杏里 ~逃がさないから覚悟して?
杏里 ⑩
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トロトロ更新で済みません (o_ _)o))
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一旦自宅に戻って黒珠と合流すると、二人揃って瑠珠が同僚に連れて行かれた居酒屋へ向かった。
杏里が何度電話をかけても出なかったのに、黒珠からの電話番号にはすぐ出たのが些か気に食わないけど、一先ず連絡が取れただけでも良しとしなければ、と自分にしつこいくらい言い聞かせる。
車なら瑠珠の会社まで二十分ちょっとだ。
けど今の杏里にはそれすらももどかしい。
助手席で苛々する杏里の頭に、黒珠の大きな手がポンと置かれ、床を打っていた爪先がピタリと止まった。頭に手を乗せたまま首を黒珠に向ける。
『子供扱いするなよ』と言いかけて止めた。実際、子供だし。
薄く笑みを這わせた黒珠の横顔を見たら、理由もなく大丈夫のような気がしてくるから不思議なものだ。
(黒珠のこの包容力って、いいよなぁ。羨ましいよなぁ。俺に黒珠くらいの包容力があったら、瑠珠も俺を見てくれるのかなぁ?)
じっと横顔を見詰める彼の視線が気になったのか、黒珠がチラリと視線を投げて来て「なに?」と訊いて来た。
「黒珠って、いい男だよなと思ってさ。俺が女だったら間違いなく惚れる。てか、男でも惚れるな」
「……あ~~~ぁ、ありがと…?」
「なんだよ、その返事」
「男に惚れられても嬉しくないなと、一瞬思った」
「セクシャル的な意味じゃなくてさ」
「わかってる。解ってるんだけど、この間それっぽい誘い掛けられて、ちょっと過敏になってるかも」
「マジかッ!? で? で? 架純ちゃん知ってんの!?」
因みに架純ちゃんと言うのは、黒珠と同じ年の彼女で、居酒屋のバイトから社員に登用された頑張り屋さんだ。
のほほんとした瑠珠とは対照的に、姐御肌のさっぱりした性格をしているからなのか、何故だか偶に二人のデートに引っ張り出される事がある。黒珠は苦笑して何も言わないけど、杏里が同じ立場なら絶対に勘弁して欲しい。
(どうせ俺は心が狭いからいいんだ!)
誰が聞いている訳でもないのに、こっそり言い訳している自分が可笑しい。
「知ってるも何も、バイト中に彼女の前で声かけられた。必死に笑い堪えていたのが、思い出す度に腹立つ」
珍しく拗ねた顔をする黒珠に杏里が小さく吹き出すと、彼は横目で睨み返して来て「このまま引き返すか?」と空恐ろしい冗談を言って来た。瑠珠の元に辿り着けないまま引き返すなんて、今の杏里にはこれ以上ないくらいの脅し文句だ。
「わ――――ッ!! 黒珠っ! 悪い! ごめん! 黒珠いつも泰然としたとこあるから、ちょっと嬉しくなっただけなんだってばっ。馬鹿にしたとか、そんなんじゃないんだよぉ」
慌てた形相で必死に言い訳をすれば、今度は黒珠が可笑しそうに笑いだした。
「冗談だよ」
「ひっでぇ」
肩を震わせながら運転する彼を睨み、唇を尖らせる。黒珠はチラチラこちらを見つつ、滑らかに運転する姿はやっぱり格好良いので、杏里は再び言葉を呑み込んだ。
(夏休みになったら、速攻で免許取ってやる!)
瑠珠に何かあるたびに、黒珠の運転で移動する情けなさをずっと感じていた。
十八になったし、行こうと思えば直ぐにでも行けなくはないけど、学校が終わってから教習場に通うのは、仕事や瑠珠の時間に合わせ辛いから嫌なので、正直に行きたくない。ただ瑠珠が仕事に行っている間なら、朝一で行ったって構わないくらいだ。その為に入校手続きはして来たし、空き時間の可能な限りの予約もして来た。そこに抜かりはない。
マンションの敷地内でなら、黒珠の補助が付いて何度か運転させて貰っている。彼曰く筋は悪くないそうなので、後はしっかり技術を叩き込んでくるだけだ。
そんなこんなとしているうちに、車は瑠珠の会社の最寄りの居酒屋前に到着した。
店の前に着いたと瑠珠に電話をかけると、今度は直ぐに出てくれた。
(先刻の電話は、別に無視していた訳じゃないよな……?)
つい依怙贔屓だと口走って、彼女を呆れさせた。
気が付かなかっただけとは言っていたけど、気になってしまう小心者だ。瑠珠のことに関しては。
そう言う所が自分でもガキ臭いと自覚しているけど、どう足掻いたって瑠珠の歳を越えることは出来ないんだし、無理して大人っぽくしたところで、本当に子供の頃から杏里を知っている瑠珠には、きっと逆効果だ。
杏里と黒珠は、ハザード点滅させたメタリックグレーのセダンに寄り掛かり、彼女が出て来るのを黙って待っていた。
通りすがりに投げかけられる視線を無視し、店の玄関をガン見している杏里を黒珠がニヤニヤして見ている。彼が言いたいことは、何となく判った。
ちょっと前の杏里だったら、間違いなく店に乗り込んでいただろう。
「俺だって、多少は成長してんだよ」
瑠珠が出て来るのを待てるくらいには。
こっそり注釈を入れている杏里のことなど、お見通しとばかりの黒珠。
「はいはい。そうだな。待てが出来るようになったもんな」
「俺は犬かよ」
「…成長しているって、話だったよな?」
「分かってて言ってるだろ?」
喉を鳴らして笑う黒珠を横目に、間もなくして瑠珠が店から出て来た。
直ぐに二人に気が付いて、瑠珠が手を振って来る。その後ろからひょっこり顔を見せた男に、杏里の眉が険しく寄せられた。
瑠珠と何やらコソコソ喋っているのがムカつく。
「なんだよ、アイツ」
無意識に漏れた言葉。
それと同時に足が踏み出ていた。
「瑠珠ッ!」
名前を呼ぶと、彼女の目がこちらを見た。当然、男の目もこちらを向く。
杏里は男に一瞥だけくれて瑠珠と男の間に割り込み、彼女の背後に寄り添うと前に促す。
「ちょ、杏里、待って」
肩越しに振り仰いだ彼女の言葉を無視した。
瑠珠はグイグイ前に押し出されながら、「今日はご馳走様」と男に向かって小さく頭を下げる。それすらも腹立たしいが、男に視線を向けると呆気に取られた顔をしていたので、それはちょっとだけ溜飲を下げてくれた。
「姉がお世話になりました」
呆けた顔をしている男に、黒珠が礼を言って頭を下げているのを見るともなしに見て、杏里は後部座席に瑠珠を押し込んだ。
彼女が男を気にしてなのか、黒珠を気にしてなのかは知らないが、杏里の向こう側を見ようとするのを遮るようにドアを閉めた。
「調子悪かった癖に、何やってんの?」
他の男なんかに気を取られている瑠珠が、心底ムカつく。
剣呑な表情で彼女に迫れば、瑠珠は顔を引き攣らせて後退って行き、反対側のドアに追い詰められる。
「こ、これには理由があってね」
「理由? どんな?」
訊きたくもないが、聞かなければ瑠珠に小さい男だと思われる。それだけの為だけに彼女からの言葉を待った。
杏里から目を逸らさない瑠珠の喉が上下する。
「それは俺も是非とも聞きたいな」
遅れて車に戻った黒珠の援護を受けて、杏里がさらに間合いを詰める。
怯えた瑠珠の目が、杏里と、ルームミラー越しから姉に威圧を掛ける黒珠の間を、何度も往復させていた。
怖がらせるのは本意ではないが、ここはキッチリさせないと、また同じ事態を招いて貰っては困る。
瑠珠はまだ杏里の恋人ではない。
彼に彼女を止める権利はなく、瑠珠には選択肢がある。あの男を選ぶことだってあるのだ。
(絶対阻止する。邪魔な芽は可能な限り摘み取ってやる!)
滑るように走り出した車の中で、瑠珠はビクビクしながら事の顛末を話し出した。
話を聞いて、杏里から地の底を這うような唸り声が漏れる。
(鈍い鈍いと思ってたけど、ここまで鈍かったかッ!)
ちょっと話を聞いただけで、杏里にも男――高槻が瑠珠狙いだって分かるのに、彼女には全く伝わっていないらしい。それは有難くもあるけど、瑠珠の事だから、うっかり付き合うことになる可能性もない訳ではない。
まだ、その気にはならないと彼女は言うだろうけど、そんな言葉が当てにならないことを知っている。
彼女は寂しがり屋だから。
無意識に杏里を求めてくれるのは、そこに愛があると信じたいけれど……。
黒珠が何度も深い溜息を吐き、杏里の溜息が重なると、いよいよ瑠珠はしゅんとなって項垂れた。
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一旦自宅に戻って黒珠と合流すると、二人揃って瑠珠が同僚に連れて行かれた居酒屋へ向かった。
杏里が何度電話をかけても出なかったのに、黒珠からの電話番号にはすぐ出たのが些か気に食わないけど、一先ず連絡が取れただけでも良しとしなければ、と自分にしつこいくらい言い聞かせる。
車なら瑠珠の会社まで二十分ちょっとだ。
けど今の杏里にはそれすらももどかしい。
助手席で苛々する杏里の頭に、黒珠の大きな手がポンと置かれ、床を打っていた爪先がピタリと止まった。頭に手を乗せたまま首を黒珠に向ける。
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薄く笑みを這わせた黒珠の横顔を見たら、理由もなく大丈夫のような気がしてくるから不思議なものだ。
(黒珠のこの包容力って、いいよなぁ。羨ましいよなぁ。俺に黒珠くらいの包容力があったら、瑠珠も俺を見てくれるのかなぁ?)
じっと横顔を見詰める彼の視線が気になったのか、黒珠がチラリと視線を投げて来て「なに?」と訊いて来た。
「黒珠って、いい男だよなと思ってさ。俺が女だったら間違いなく惚れる。てか、男でも惚れるな」
「……あ~~~ぁ、ありがと…?」
「なんだよ、その返事」
「男に惚れられても嬉しくないなと、一瞬思った」
「セクシャル的な意味じゃなくてさ」
「わかってる。解ってるんだけど、この間それっぽい誘い掛けられて、ちょっと過敏になってるかも」
「マジかッ!? で? で? 架純ちゃん知ってんの!?」
因みに架純ちゃんと言うのは、黒珠と同じ年の彼女で、居酒屋のバイトから社員に登用された頑張り屋さんだ。
のほほんとした瑠珠とは対照的に、姐御肌のさっぱりした性格をしているからなのか、何故だか偶に二人のデートに引っ張り出される事がある。黒珠は苦笑して何も言わないけど、杏里が同じ立場なら絶対に勘弁して欲しい。
(どうせ俺は心が狭いからいいんだ!)
誰が聞いている訳でもないのに、こっそり言い訳している自分が可笑しい。
「知ってるも何も、バイト中に彼女の前で声かけられた。必死に笑い堪えていたのが、思い出す度に腹立つ」
珍しく拗ねた顔をする黒珠に杏里が小さく吹き出すと、彼は横目で睨み返して来て「このまま引き返すか?」と空恐ろしい冗談を言って来た。瑠珠の元に辿り着けないまま引き返すなんて、今の杏里にはこれ以上ないくらいの脅し文句だ。
「わ――――ッ!! 黒珠っ! 悪い! ごめん! 黒珠いつも泰然としたとこあるから、ちょっと嬉しくなっただけなんだってばっ。馬鹿にしたとか、そんなんじゃないんだよぉ」
慌てた形相で必死に言い訳をすれば、今度は黒珠が可笑しそうに笑いだした。
「冗談だよ」
「ひっでぇ」
肩を震わせながら運転する彼を睨み、唇を尖らせる。黒珠はチラチラこちらを見つつ、滑らかに運転する姿はやっぱり格好良いので、杏里は再び言葉を呑み込んだ。
(夏休みになったら、速攻で免許取ってやる!)
瑠珠に何かあるたびに、黒珠の運転で移動する情けなさをずっと感じていた。
十八になったし、行こうと思えば直ぐにでも行けなくはないけど、学校が終わってから教習場に通うのは、仕事や瑠珠の時間に合わせ辛いから嫌なので、正直に行きたくない。ただ瑠珠が仕事に行っている間なら、朝一で行ったって構わないくらいだ。その為に入校手続きはして来たし、空き時間の可能な限りの予約もして来た。そこに抜かりはない。
マンションの敷地内でなら、黒珠の補助が付いて何度か運転させて貰っている。彼曰く筋は悪くないそうなので、後はしっかり技術を叩き込んでくるだけだ。
そんなこんなとしているうちに、車は瑠珠の会社の最寄りの居酒屋前に到着した。
店の前に着いたと瑠珠に電話をかけると、今度は直ぐに出てくれた。
(先刻の電話は、別に無視していた訳じゃないよな……?)
つい依怙贔屓だと口走って、彼女を呆れさせた。
気が付かなかっただけとは言っていたけど、気になってしまう小心者だ。瑠珠のことに関しては。
そう言う所が自分でもガキ臭いと自覚しているけど、どう足掻いたって瑠珠の歳を越えることは出来ないんだし、無理して大人っぽくしたところで、本当に子供の頃から杏里を知っている瑠珠には、きっと逆効果だ。
杏里と黒珠は、ハザード点滅させたメタリックグレーのセダンに寄り掛かり、彼女が出て来るのを黙って待っていた。
通りすがりに投げかけられる視線を無視し、店の玄関をガン見している杏里を黒珠がニヤニヤして見ている。彼が言いたいことは、何となく判った。
ちょっと前の杏里だったら、間違いなく店に乗り込んでいただろう。
「俺だって、多少は成長してんだよ」
瑠珠が出て来るのを待てるくらいには。
こっそり注釈を入れている杏里のことなど、お見通しとばかりの黒珠。
「はいはい。そうだな。待てが出来るようになったもんな」
「俺は犬かよ」
「…成長しているって、話だったよな?」
「分かってて言ってるだろ?」
喉を鳴らして笑う黒珠を横目に、間もなくして瑠珠が店から出て来た。
直ぐに二人に気が付いて、瑠珠が手を振って来る。その後ろからひょっこり顔を見せた男に、杏里の眉が険しく寄せられた。
瑠珠と何やらコソコソ喋っているのがムカつく。
「なんだよ、アイツ」
無意識に漏れた言葉。
それと同時に足が踏み出ていた。
「瑠珠ッ!」
名前を呼ぶと、彼女の目がこちらを見た。当然、男の目もこちらを向く。
杏里は男に一瞥だけくれて瑠珠と男の間に割り込み、彼女の背後に寄り添うと前に促す。
「ちょ、杏里、待って」
肩越しに振り仰いだ彼女の言葉を無視した。
瑠珠はグイグイ前に押し出されながら、「今日はご馳走様」と男に向かって小さく頭を下げる。それすらも腹立たしいが、男に視線を向けると呆気に取られた顔をしていたので、それはちょっとだけ溜飲を下げてくれた。
「姉がお世話になりました」
呆けた顔をしている男に、黒珠が礼を言って頭を下げているのを見るともなしに見て、杏里は後部座席に瑠珠を押し込んだ。
彼女が男を気にしてなのか、黒珠を気にしてなのかは知らないが、杏里の向こう側を見ようとするのを遮るようにドアを閉めた。
「調子悪かった癖に、何やってんの?」
他の男なんかに気を取られている瑠珠が、心底ムカつく。
剣呑な表情で彼女に迫れば、瑠珠は顔を引き攣らせて後退って行き、反対側のドアに追い詰められる。
「こ、これには理由があってね」
「理由? どんな?」
訊きたくもないが、聞かなければ瑠珠に小さい男だと思われる。それだけの為だけに彼女からの言葉を待った。
杏里から目を逸らさない瑠珠の喉が上下する。
「それは俺も是非とも聞きたいな」
遅れて車に戻った黒珠の援護を受けて、杏里がさらに間合いを詰める。
怯えた瑠珠の目が、杏里と、ルームミラー越しから姉に威圧を掛ける黒珠の間を、何度も往復させていた。
怖がらせるのは本意ではないが、ここはキッチリさせないと、また同じ事態を招いて貰っては困る。
瑠珠はまだ杏里の恋人ではない。
彼に彼女を止める権利はなく、瑠珠には選択肢がある。あの男を選ぶことだってあるのだ。
(絶対阻止する。邪魔な芽は可能な限り摘み取ってやる!)
滑るように走り出した車の中で、瑠珠はビクビクしながら事の顛末を話し出した。
話を聞いて、杏里から地の底を這うような唸り声が漏れる。
(鈍い鈍いと思ってたけど、ここまで鈍かったかッ!)
ちょっと話を聞いただけで、杏里にも男――高槻が瑠珠狙いだって分かるのに、彼女には全く伝わっていないらしい。それは有難くもあるけど、瑠珠の事だから、うっかり付き合うことになる可能性もない訳ではない。
まだ、その気にはならないと彼女は言うだろうけど、そんな言葉が当てにならないことを知っている。
彼女は寂しがり屋だから。
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