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【番外編 1】母の野望は固く実を結ぶ
母の野望は固く実を結ぶ ⑧
しおりを挟む披露宴は優と美佳の招待客ばかりではなく、親のしがらみやら親戚でなかなか圧巻なものになっていた。
特に安西の関係者が蔓延っている感じだ。優には勘弁してと言われたが、そうも行かないのが現実だ。これでも優と全く関係ない人間は省いた方なのだ。
歓談が始まり二人がお色直しで退場すると、待ち構えていたように客が動き始めた。そうなると瞬く間に親族席に人集りが出来、恵莉もにこやかに対応しているが、飲まされる酒量の多さに辟易し始めているのが分かった。
恵莉は楚々とした仮面を被ると「ちょっと失礼します」と席を立ち、競歩かと言う勢いで逃げ出す。千鶴は内心やられたと歯噛みした。
実は恵莉の所に集まってくる招待客の中に、年頃の合いそうな男性を紛れさせていたのだが、どうやらお見通しだったらしい。立ち去り際に恵莉はこっそり舌を出して千鶴を見て行った。
最近は付き合っている男性の話も聞かないし、お見合いなんて絶対にするような娘ではないから、幸正にも協力して貰って仕込んだのだけど、あっさり看破されていたらしい。悔しいと思いつつ、さすが我が娘とも思う。
後は千鶴と幸正が仕込んだ招待客の手腕に賭けるしかない。
この二人が厳選した男性なのだから、まず間違いないと言っていい。因みにこの様な仕込みをしていることは、煩くなることが予想されるため、幸弥には内緒だったりする。
そうこうしているうちに新郎新婦の再入場となり、光源が絞られ音楽が流れ始めた。
今度のドレスはクリームイエローで、胸元をレースの花が飾っている。こちらもエンパイアラインになっているが、スカート部分は前側が膝上で後ろに長くなったマーメイドになっている。髪はウェーブし花冠を着けていた。
美佳は保守的で面白味がないドレスばかり選ぶので、このドレスを選んだのは女三人だ。
(やっぱり思った通り可愛いじゃない)
恵莉もそう思ったらしく二人で目配せした。
優は絶対こう言うことを嫌がると思っていたのに、寧ろ美佳の方が消極的で顔をひきつらせながらキャンドルサービスに回っている。
美佳は披露宴自体、恥ずかしいから嫌だと言っていたので然もあらん。
友人たちの席では美佳の表情も少し和らぎ、優は招待客に何やらまた要らないことを言っているようだ。勝ち誇った笑みを浮かべて次のテーブルに向かった。
ゲストの余興が始まると、ちらほらと席移動がまた始まり、恵莉も席を立った。彼女の周りには独身男性が集まり、何かと声を掛けられていたが、するする躱して美佳の友人席の方に行ってしまう。そこでは楽しそうに笑っているのを見て、千鶴は祝いの席で有るまじき盛大な溜息を吐いた。
どうやら娘の結婚はまだまだ先になりそうだ。
千鶴は高砂に座って爆笑している若夫婦を見て微笑む。
生まれたばかりの頃から優は美佳が大好きで、最初は冗談混じりで言っていた結婚話が紆余曲折を経て確実なものに変わり、夏真っ盛りに二人の家族が増える。
美佳を優のお嫁さんにと言い始めて二十三年。
とんだ親馬鹿かも知れないが、母の野望は漸く固く実を結び満足そうに微笑んだ。
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