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第二章 王国編

第二十二話 狂人、死神、獣

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 「さあみんないくよ!」

 俺たちは再びヤツと戦う構えをとり、イタイタスと向き合う。
 
 既に城内はボロボロに崩壊して この部屋もあちらこちらが大破している。

 「来い!ゴミども!!」

 イタイタスはこの状況すら楽しんでいるかのように笑みを浮かべながら腕を組む。

 「ベル、ボクたちが前に出る。いけるかい?」

 「やったにゃあ!やぁっと戦えるにゃあ!」

 ベルが嬉しそうに飛び跳ねる。
 どんだけ戦いたいんだ。

 「カーフェ、マナ君。サポートは頼んだよ。」

 「はい!」

 「うん。」

 俺たちはサポート。

 カーフェは鎌で近接戦闘もできるから状況に応じてメインで戦う事もあるが俺は魔術しか戦う手段がない。

 だから基本的に後ろから魔術で援護に努めるのだ。
 ジャックの邪魔にならないかがいちばんの心配ではあるがな…。

 「よし…。」

 ダアアアン!!!

 ジャックが飛び出したのを合図に戦闘は再開される。

—————

 ガガガガガガカガ!!!

 イタイタスとジャックの拳が交わる度に大気が震え、両者のオーラがビリビリと伝わる。

 おまけにこの熱。

 ジャックは能力で体温を上げ、触れるもの全てを溶かす熱さとなっているがイタイタスは平気な顔をして笑っている。
 どういう体をしているんだ…。

 「にゃああああ!!!ベルもやるにゃああ!!『ペルソナ』!!」

 ベルが飛び上がり叫ぶ。

 すると体から魔力が溢れ、顔に仮面が創られる。

 それは白くて、猫の顔をしたもの。
 まるで神社にあるようなデザインをしている。
 あれがベルの能力なのか…?

 「ズドーン!!」

 イタイタスの頭上からそのままの勢いで蹴りの姿勢をとり踵を振り下ろした。

 ズドーン!!

 蹴りをガードしたイタイタスだが、脚が地面へとめり込み身動きが取れなくなる。
 
 「チッ!!」

 腕を弾きベルをいなしたがその隙をジャックに突かれ胸に一撃を食らってしまった。

 「ぐっ……めんどくせぇ能力だ…!」

 ベルにやられて痺れた腕を振っている。
 相当なダメージのようだ。

 「まだまだにゃあ!!ドガガガガガガ!!」

 崩れた床を駆け抜け一直線でイタイタスの元へと辿り着いたベルはパンチのラッシュを浴びさせる。

 ドガガガガガガ!!

 絶え間なく続く攻撃にジャックも続き、イタイタスがパンチの猛攻を潜り抜け、かわした先へと回り込み蹴りをお見舞い。

 「ぐうっ…!!」

 しかし躊躇はない。

 ジャックが攻める中もベルは再び攻撃の姿勢をとった。

 「ギャーン!!からのドンドンドンドン!」

 なんとベルの魔力がギャーン!!と跳ね上がり体外にも溢れ出す。

 その状態から繰り出させるパンチと蹴りは文字通りドンドンドンドン!!と轟音を轟かせた。

 「す、すごい…!」

 圧倒的だ…。
 あの三人の戦いはもはや小さな天変地異のように見えてしまう。
 誰かが攻撃をするたびに地形が変わり、空気が震える。

 「ほら、私たちもサポートするよ。」

 呆然と眺めていた俺にカーフェが一言。

 魔力で鎌を創り出しイタイタスが二人の攻撃を防御しているところへ振り下ろす。

 あのイタイタスがガードで手一杯になっている。
 思わず息を呑むがカーフェの言葉を思い出す。

 俺も戦わないと…!
 アイツを倒すんだ…!

 腕を構え、イタイタスに向ける。

 タイミングを見極めろ…。
 一瞬の隙を狙う…!

 ジャック、ベル、カーフェへの対処が捌ききれなくなり一歩後ろへと下がった。

 今だ…!!

 最低限の威力で良い。
 最速で撃ち、チャンスを作る!

 シュン!!

 俺は圧縮した風魔術を放つ。

 魔術は大気に流れる空気となりイタイタスの頭へと衝突。
 突然のことにイタイタスは反応しきれず動きが少し止まった。

 「今です!!!」

 成功だ。

 三人は即座に反応し攻撃を開始する。
 
 「ガキィ!!!!」

 「ビリビリでバチバチバーン!!」

 ベルが叫び地面を踏み鳴らす。

 バーン!!

 踏んだ箇所から電気が流れ、荒れ狂う。

 これによって逃げ場をなくしたイタイタスは残り二名の攻撃を待つのみとなった。

 『白銀』

 カーフェが呟く。

 黒かった鎌から白く輝く魔力が流れ出し、まとわりつく。
 なんと魔力は形を作り、白く不気味な鋭い牙となったのだ。

 「食べちゃえ。」

 振り下ろされた異形の鎌に気付きイタイタスは咄嗟に左腕をガードへと持っていったが…。

 ブチィ!!!

 「な…!?」

 イタイタスの左腕はいとも容易く食いちぎられてしまった。
 ムシャムシャと腕を食べた鎌はしばらくすると消え、カーフェも後ろに下がる。

 「あのエルフめ…!!」

 イタイタスの表情にはさっきまでの笑みはない。
 それをジャックは見逃さなかった。

 「楽しいなァ…。」

 イタイタスの懐へと現れる。

 「キサマァ!!」

 「『ユグドラシル』一点集中!」

 全ての熱を右の拳に集中。
 放たれる熱気は火山を流れるマグマを優に超える。
 
 ドゴオオオン!!!

 ジャックの拳はイタイタスの腹に命中。
 どんどんと肉を溶かし、その体に大きな穴を開けようとするも一歩届かず腕を掴まれ宙へと投げられる。

 投げ飛ばされたジャックだが彼は冷静だった。
 
 「逃しやしないぞ。『アトリエ』!!」

 イタイタスの周りの空間が再び歪み始める。
 
 「おのれえええ!!ジャァァァァック!!」

 圧巻だ。
 勝てるかもしれない…いや、勝てる。
 勝つんだ!

 ギイイイ……。
 
 突然、扉が開く音が不気味に戦慄した。

 「なんだねイタイタス君。負けそうじゃないか。」

 入ってきたのは長いマントに身を包んだ老人。ギロリとこちらを睨んできた。

 そして隣にいたのは…その老人と笑顔で話している聖女様の姿だった。
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