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地獄、心之闇

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敵の動く様子はみられない。
これでは決着がつこうにも着けられない。
(少し攻めてみるか)
札を投げてみる。
悪魔はそれをするりとかわす。
妖怪「君はどうすれば俺の物になってくれるんだい?」
神奈「知らないよ、私に聞くな」
妖怪「ならやっぱり、君を殺してつれていくしかないのか」
神奈「さあな」
妖怪「どうしてそんなに無関心なんだい?君の人生だよ?」
無関心、ねぇ。
確かに、他人からみたら無関心に思われるかもしれない。
他人からみれば。
神奈「私に人生を説くとは随分なご身分だな」
妖怪「そうだね、神様に人生を説くなんて昔は思ってもみなかっただろうね」
今更バレても何も感じない。
平常心…。
妖怪「俺は君の全てを知っているよ」
神奈「…」
妖怪「朝起きる時間、作る朝食、好きなもの、君の過去も…」
過去。
その言葉には敏感だった。
神奈「私の何を知ってるっていうんだ…」
自然と拳に力が入る。
悪魔は志哉に目をむけた。
妖怪「君はこいつに縛られていた、そうだろう?呪子ちゃん」
呪子…。
違う、私は、ただの人間…。
神奈「さあ、どうだったかな。私は幻想郷生まれ幻想郷育ちだが?」
妖怪「そうやって君はまた嘘をつくんだね」
神奈「…」
妖怪「いいじゃないか、ここに知らない人はいないんだから」
バレたっていい。
幸村が一緒に背負うって言ってくれたから。
だから本当の私がここにいる。
(どんな私も好きと言ってくれた幸村がいるから…)
妖怪「……」
深い深呼吸をする。
神奈「そうだな、確かに私は嘘をついた」
妖怪「俺に見破れないものは無いんだよ」
神奈「私は幻想郷生まれじゃない。影崎家生まれだ」
志哉「っ…」
神奈「私は里長、影崎志哉に殺され続け、地獄のどん底に突き落とされた」
大丈夫、大丈夫。
私は巫女様、桜来良の名が汚れぬようにしなければ。
妖怪「殺したい程、憎んでいたんだろう?」
神奈「確かに怖かった、苦しかった、同じ人間なのに、何故自分だけ扱いが酷いんだと、何度も憎んだ、でも…」
妖怪「…でも?」
神奈「感謝もした」
志哉「っ!?」
神奈「あの時殺されかけた程度だったら、緑さんに出会えなかった。緑さんに出会っていなかったら、巫女様にだってなっていなかった、ただの忍として、この世を去るだけだった。そして、絶望・恐怖という感情を教えてくれた」
志哉「れ…ん…?」
神奈「そうだ、私はあの時の呪子、影崎連」
もうなんだっていい。
どうにでもなれ。
あとの事なんか、知らない。
志哉「あの時、俺が殺した…呪子?」
刀を下ろし、志哉をみる。
神奈「影崎殿…いや、父上様」
姿勢を少し正す。
神奈「ありがとうございます…!」
悪魔の顔が、段々と曇ってゆく。
妖怪「これで、これで…いいのか…?」
刀を構え直す。
妖怪「こんな…こんな結末なんて…」
妖怪「こんな結末、認メナイッ!!」
妖怪「こんな幸せな結末なんて誰も望んでないんだよっ!!」
神奈「っ!?」
悪魔から無数の弾幕。
(弾幕ごっこってことか、面白い…!)
妖怪「夢喰『魔夢』!」


無数の弾幕が神奈を襲う。
神奈は、葉を一枚取り出し、霊馬を呼ぶ。
超特急で来たのは蓮だった。
蓮「神奈様!」
神奈はスピードを落とさない蓮に早技で乗り込む。
神奈「蓮、相手は心が読める。気を付けろ!」
蓮「はっ!」
蓮は弾幕を軽々と避け続ける。
悪魔「なにっ!?…足無き巫女め」
神奈「同類『春蘭秋菊』」
春秋の札を取り出し、魔法陣が出現。
そして桃・橙の無数の弾幕が悪魔を囲む。
悪魔「こんなものっ…!」
悪魔は避けようと体勢を変える。
しかし、悪魔の身体が動かない。
神奈「『二重結界』」
神奈がそう言うと、悪魔の前後に魔法陣が出現。
たちまち悪魔は指1本動かせなくなった。そして悪魔を囲んでいた、2色の弾幕が、悪魔目掛けて発射される。
悪魔「あ、足無き巫女め…許さんぞ…!いつか、全てを返してやる…!!」
悪魔はそう言い残すと、粉々になり、暗い空へ消えていった。
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