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出会いと後日譚
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ガラスに流れる薄い黒文字を呼んだとき、ガラスにノイズがはしる。至近距離で眺めていたために、ノイズからコポコポと水中のような音がしていることに気づく。ノイズが人の形になっていく。それの身長がおよそ咲音の目と顎の間で止まると、いつの間にか少女の形となっていた。水色のパーカーに、スカートを穿いている。
「わぁッ!?」
「うぉわ! よく、驚く子だなあー。ソフィアさんも心配するわけだ。ダイジョーブ? 心臓止まってなぁい?」
心臓が止まっている高校生に心臓の心配をされる。なぜ先程の絵本作家さんとのことを知っているんだろう、と少女は思ったが、それよりも。それよりも、彼女と言葉をかわせたことが、たまらなくうれしく思えた。
「あ、の、おねーさん、家に来てくれる来訪者の人。で、合ってますか」
「お。そーだよ現代っ子~。なあに、連れってくれる」
咲音は何度もうなずく。あはは~と笑い雪葉は
「うれしいな。聞いてお嬢さん。あのね、隣の二人は一日目にそれぞれ別々の家に行ったんだ。端っこの二人は、色んな人と、この三日間話しててとっても楽しそう。ワタシは全然、誰もお話してくれないの。ワタシおしゃべり大好きなのに……。はっ! こんな矢継ぎ早に話すから、みんなどっか行っちゃうのかな。ごめんねお嬢さん」
咲音はふるふると首を横に振る。目をガラスの彼女から遺体の彼女に移す。
「家で、宣伝映像観て、おねーさんの遺体が映ったとき、目が離せなくなったんです。わたしは人と話すのは苦手だけど、おねーさんとはずぅっとお話したいなと、思ったから」
小さな年上が咲音に笑いかける。とても優しい笑みであった。
「そうか。苦手なのにこんな得体の知れないやつに、話しかけてくれたの。ありがとう。ワタシもキミとずっとお話したいな」
ニコニコ雪葉は笑って、咲音に手を伸ばす。
「……それって、うちに来てくれるの。うれしい。お母さんに、聞いてくるます」
ガラス越しに手を重ね、2人で笑いあう。うれしさのあまり、咲音は噛んでしまったが、そんなことも今は気にならない。
そうして300年生きる彼女は、咲音の両親にも受け入れられ、咲音の友人、家族となった。
後日談。それから5年後。
真夜中に、自分の部屋にあるパソコンを起動する。光が灯っていくパソコンを、咲音はじっと見つめる。パスワードの入力画面になったとき、コポコポと音がしてくる。細胞がつながっていくように、人間の形が成っていく。初めて会ったときと変わらぬ姿だ。パチリと目が合う。ふにゃっとどちらからともなく笑う。
「誕生日、おめでとう」
「ありがとう。同い年になったね。うれしい」
「おおきくなったね~」
零時ちょうど。咲音の誕生日だ。椅子の上で体育座りしながら、そっと画面に触れる。雪葉の頬を触る。当然のことながら、人の熱は感じない。
「……触れられないね。何年も前から触れたいのに。1人だけの友だちなのに……」
はあ。咲音は体内の空気を全て出す勢いで溜息を吐く。
「あ~~~。早く18歳になりたい……。いつから脳移植の実験、応募できるんだっけ」
くすくすと画面の向こうの雪葉は笑い、
「せっかちだなあ。確か実験体として応募できるのは、3年後じゃなかった? お、1年先に応募できる年齢になるじゃん。実験が成功したら、一緒になれるね。触れられる。お金もいらないって言うし。失敗したら。バイバイだけど」
なんて言う。
「やめてよバイバイとか! 楽しみにしてるのに」
あはは~と癖の笑い方をしてごめんごめんと画面中を動き回る。
「さ、さ。誕生日も祝えたし、もう寝なよ。少しワタシと話したかったんでしょ。睡眠不足は人間の敵だよ。死んじゃったら、会えなくなる」
「え、開いたばかりなのに。んー、でも……そーだね。……うん。うん。……おやすみ」
シャットダウンボタンに指を近づけ、友人に挨拶をする。
「うん。おやすみなさい。いい夢を」
光の消える画面の中で、雪葉が静かに返事をする。そうしてベッドに寝転がり、暗くなったコンピューターを見ながら、咲音は目蓋を閉じた。
「わぁッ!?」
「うぉわ! よく、驚く子だなあー。ソフィアさんも心配するわけだ。ダイジョーブ? 心臓止まってなぁい?」
心臓が止まっている高校生に心臓の心配をされる。なぜ先程の絵本作家さんとのことを知っているんだろう、と少女は思ったが、それよりも。それよりも、彼女と言葉をかわせたことが、たまらなくうれしく思えた。
「あ、の、おねーさん、家に来てくれる来訪者の人。で、合ってますか」
「お。そーだよ現代っ子~。なあに、連れってくれる」
咲音は何度もうなずく。あはは~と笑い雪葉は
「うれしいな。聞いてお嬢さん。あのね、隣の二人は一日目にそれぞれ別々の家に行ったんだ。端っこの二人は、色んな人と、この三日間話しててとっても楽しそう。ワタシは全然、誰もお話してくれないの。ワタシおしゃべり大好きなのに……。はっ! こんな矢継ぎ早に話すから、みんなどっか行っちゃうのかな。ごめんねお嬢さん」
咲音はふるふると首を横に振る。目をガラスの彼女から遺体の彼女に移す。
「家で、宣伝映像観て、おねーさんの遺体が映ったとき、目が離せなくなったんです。わたしは人と話すのは苦手だけど、おねーさんとはずぅっとお話したいなと、思ったから」
小さな年上が咲音に笑いかける。とても優しい笑みであった。
「そうか。苦手なのにこんな得体の知れないやつに、話しかけてくれたの。ありがとう。ワタシもキミとずっとお話したいな」
ニコニコ雪葉は笑って、咲音に手を伸ばす。
「……それって、うちに来てくれるの。うれしい。お母さんに、聞いてくるます」
ガラス越しに手を重ね、2人で笑いあう。うれしさのあまり、咲音は噛んでしまったが、そんなことも今は気にならない。
そうして300年生きる彼女は、咲音の両親にも受け入れられ、咲音の友人、家族となった。
後日談。それから5年後。
真夜中に、自分の部屋にあるパソコンを起動する。光が灯っていくパソコンを、咲音はじっと見つめる。パスワードの入力画面になったとき、コポコポと音がしてくる。細胞がつながっていくように、人間の形が成っていく。初めて会ったときと変わらぬ姿だ。パチリと目が合う。ふにゃっとどちらからともなく笑う。
「誕生日、おめでとう」
「ありがとう。同い年になったね。うれしい」
「おおきくなったね~」
零時ちょうど。咲音の誕生日だ。椅子の上で体育座りしながら、そっと画面に触れる。雪葉の頬を触る。当然のことながら、人の熱は感じない。
「……触れられないね。何年も前から触れたいのに。1人だけの友だちなのに……」
はあ。咲音は体内の空気を全て出す勢いで溜息を吐く。
「あ~~~。早く18歳になりたい……。いつから脳移植の実験、応募できるんだっけ」
くすくすと画面の向こうの雪葉は笑い、
「せっかちだなあ。確か実験体として応募できるのは、3年後じゃなかった? お、1年先に応募できる年齢になるじゃん。実験が成功したら、一緒になれるね。触れられる。お金もいらないって言うし。失敗したら。バイバイだけど」
なんて言う。
「やめてよバイバイとか! 楽しみにしてるのに」
あはは~と癖の笑い方をしてごめんごめんと画面中を動き回る。
「さ、さ。誕生日も祝えたし、もう寝なよ。少しワタシと話したかったんでしょ。睡眠不足は人間の敵だよ。死んじゃったら、会えなくなる」
「え、開いたばかりなのに。んー、でも……そーだね。……うん。うん。……おやすみ」
シャットダウンボタンに指を近づけ、友人に挨拶をする。
「うん。おやすみなさい。いい夢を」
光の消える画面の中で、雪葉が静かに返事をする。そうしてベッドに寝転がり、暗くなったコンピューターを見ながら、咲音は目蓋を閉じた。
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