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3.閑話 妹視点 -1
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十歳上の兄がいる。
友達の兄弟について「いじわるされる」「毎日ケンカする」「ゲームやおもちゃを独占される」など色々な話を聞くが、その度に自分の兄とは全く違っていて驚く。
物心がつく前から”子役”という仕事をしていた。兄も昔は同じ仕事をしていたらしいが、中学校に上がる前にすっぱりと辞めたらしい。
所属事務所のルールとして、基本的に仕事現場には親が同行する。子役は単価が安いので、事務所スタッフがべったり着いていくのは難しいと聞いたことがあった。担当者は数人の子役を受け持っていて手が回らないと言われていた。しかし母が学費や生活費の為に仕事復帰することになり、途中からは兄が着いてきてくれることになった。
兄は優しく、我儘を言えば怒られるが仕事を頑張れば頭を撫でて褒めてくれる。他のことよりもできる限り妹である自分のことを優先してくれる自慢の兄だった。
「アイちゃんがお兄さんかっこいいねって!」
「アイちゃん……? ああ、共演してる子か。ありがとうって言っといて。」
「うん!」
兄はかっこいい。本人は何を伝えても軽くあしらうからお世辞だと思っているかも知れない。――今思えばお世辞も多少は混じっていた時もあったのだろうが。
「お兄さんって彼女いるのかな?」
九歳年上の共演者がこんなことを聞いてきたことがあった。兄は離れたところで教科書を開き勉強をしている。大抵は撮影現場の隅で終わるまで宿題や参考書を広げている。時間も潰せるし集中できてちょうど良いと常々話していた。
今も邪魔にならない所で何かノートに書き込む姿を二人で見て、幼いながらに隣に立つ共演者の問いの意味と目的を理解した。
「好きな人がいるから、彼女はいらないって。」
冷静に考えれば十歳下の、小学生の妹にこんなことを話す男子高校生は滅多にいないだろう。もちろん、当たり前のように嘘だ。学校での様子もそれ以外も、家や仕事現場以外の兄のことで知っていることは何もない。
「えっ、そうなんだ……。残念。ありがとう。」
絶賛売り込み中のその女優は肩を落として去って行った。その後ろ姿を見送ってホッとしたのを覚えている。
万が一、あの彼女と付き合うことになれば色々な障害が間違いなく立ち塞がるだろう。結果的には退けて本当に良かったと思う。実際、あの女優はベッドシーン流出というスキャンダルを起こし売れっ子だった仕事は激減、今は細々と深夜帯やローカル番組で活動しているらしい。兄と付き合っていれば情事が漏れることなどはなかったと思うので、男の見る目がないというよりは運の問題だろうが。
兄はたまに授業をサボりつつ現場に同行してくれて、どうしても無理な時は事務所の担当者に送りは任せ、それも難しい時は一人で母にも事務所にも内緒で現場へ行った。そして終わるまでにやってきた兄に抱きついて、謝りながら褒めてもらうのが嬉しかった。
しかしその仕事も友達の習い事の話や遊びに行った話を聞き、放課後に後ろ髪を引かれるように帰宅することが増えて「もう辞めたい」と言った。両親は少し申し訳なさそうにして「良いよ」と受け入れ、兄も「そうか」とだけ言った。
事務所の担当者には「残念だ」と言われつつキリの良いところで最後の仕事を終えた。
普通の生活を手に入れた数カ月後に兄は就職と同時に家を出た。
仕事がなくなり兄もいなくなり、ぽっかりと穴が空いたように感じたが、中学、高校と学校生活を送る内にそんな感覚は薄れていった。
兄は正月とその他両親が呼んだ時しか帰ってこないが、一度彼女を連れてきたことがあった。しかし結局「浮気されたらしい」と両親が密かに話していたのを聞いた。
兄が軽んじられたことに血が昇ったが、一呼吸置いて考えてみると彼女の言い分も想像できると思った。兄は優しい。しかし飄々としているから試したくなったのではないか。それ以外の理由なら知らないが。
その後早々に進路が決まり、色々考えていた。周囲の大学、又は将来を見据えて専門学校や専攻を探し決定する姿を見ている内に自分の将来を考えるようになった。兄のようにスーツを着て会社員をするのか、何をするのか、やりたいのか。結論が出た後は行動のみだった。事務所へ行き、そして兄を実家に呼び出した。
兄はやっぱり格好良くて優しかった。本当のことを言えば仕事を辞めてついてくれるのではと期待したが、そこまで甘くはなかった。
友達の兄弟について「いじわるされる」「毎日ケンカする」「ゲームやおもちゃを独占される」など色々な話を聞くが、その度に自分の兄とは全く違っていて驚く。
物心がつく前から”子役”という仕事をしていた。兄も昔は同じ仕事をしていたらしいが、中学校に上がる前にすっぱりと辞めたらしい。
所属事務所のルールとして、基本的に仕事現場には親が同行する。子役は単価が安いので、事務所スタッフがべったり着いていくのは難しいと聞いたことがあった。担当者は数人の子役を受け持っていて手が回らないと言われていた。しかし母が学費や生活費の為に仕事復帰することになり、途中からは兄が着いてきてくれることになった。
兄は優しく、我儘を言えば怒られるが仕事を頑張れば頭を撫でて褒めてくれる。他のことよりもできる限り妹である自分のことを優先してくれる自慢の兄だった。
「アイちゃんがお兄さんかっこいいねって!」
「アイちゃん……? ああ、共演してる子か。ありがとうって言っといて。」
「うん!」
兄はかっこいい。本人は何を伝えても軽くあしらうからお世辞だと思っているかも知れない。――今思えばお世辞も多少は混じっていた時もあったのだろうが。
「お兄さんって彼女いるのかな?」
九歳年上の共演者がこんなことを聞いてきたことがあった。兄は離れたところで教科書を開き勉強をしている。大抵は撮影現場の隅で終わるまで宿題や参考書を広げている。時間も潰せるし集中できてちょうど良いと常々話していた。
今も邪魔にならない所で何かノートに書き込む姿を二人で見て、幼いながらに隣に立つ共演者の問いの意味と目的を理解した。
「好きな人がいるから、彼女はいらないって。」
冷静に考えれば十歳下の、小学生の妹にこんなことを話す男子高校生は滅多にいないだろう。もちろん、当たり前のように嘘だ。学校での様子もそれ以外も、家や仕事現場以外の兄のことで知っていることは何もない。
「えっ、そうなんだ……。残念。ありがとう。」
絶賛売り込み中のその女優は肩を落として去って行った。その後ろ姿を見送ってホッとしたのを覚えている。
万が一、あの彼女と付き合うことになれば色々な障害が間違いなく立ち塞がるだろう。結果的には退けて本当に良かったと思う。実際、あの女優はベッドシーン流出というスキャンダルを起こし売れっ子だった仕事は激減、今は細々と深夜帯やローカル番組で活動しているらしい。兄と付き合っていれば情事が漏れることなどはなかったと思うので、男の見る目がないというよりは運の問題だろうが。
兄はたまに授業をサボりつつ現場に同行してくれて、どうしても無理な時は事務所の担当者に送りは任せ、それも難しい時は一人で母にも事務所にも内緒で現場へ行った。そして終わるまでにやってきた兄に抱きついて、謝りながら褒めてもらうのが嬉しかった。
しかしその仕事も友達の習い事の話や遊びに行った話を聞き、放課後に後ろ髪を引かれるように帰宅することが増えて「もう辞めたい」と言った。両親は少し申し訳なさそうにして「良いよ」と受け入れ、兄も「そうか」とだけ言った。
事務所の担当者には「残念だ」と言われつつキリの良いところで最後の仕事を終えた。
普通の生活を手に入れた数カ月後に兄は就職と同時に家を出た。
仕事がなくなり兄もいなくなり、ぽっかりと穴が空いたように感じたが、中学、高校と学校生活を送る内にそんな感覚は薄れていった。
兄は正月とその他両親が呼んだ時しか帰ってこないが、一度彼女を連れてきたことがあった。しかし結局「浮気されたらしい」と両親が密かに話していたのを聞いた。
兄が軽んじられたことに血が昇ったが、一呼吸置いて考えてみると彼女の言い分も想像できると思った。兄は優しい。しかし飄々としているから試したくなったのではないか。それ以外の理由なら知らないが。
その後早々に進路が決まり、色々考えていた。周囲の大学、又は将来を見据えて専門学校や専攻を探し決定する姿を見ている内に自分の将来を考えるようになった。兄のようにスーツを着て会社員をするのか、何をするのか、やりたいのか。結論が出た後は行動のみだった。事務所へ行き、そして兄を実家に呼び出した。
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