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3.閑話 -3
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「おふざけだとしても、私に見られたのが許せなかったんじゃないですかね。」
未だ雨が降っている。
通常ならば連れ立って歩くのはリスクでしかないが、妹と南はそれぞれ傘で顔が隠せるからと並んで歩いていた。
「顔……、大丈夫ですか?」
「元々俺のせいだから。コケたとでも言えば大丈夫だよ。」
「すみません……。でもまさかおにいちゃんの家に南さんがいるとは思いませんでした。」
「俺も、まさか妹に合鍵渡してるとは。」
「あ……、最近お願いしてもらったんです。家よりおにいちゃんちの方が事務所とかスタジオ近いので、遅くなった時とかは泊まらせてもらうんです。」
「へえ……。」
扉が開いて、妹の声が聴こえたと同時に大和を壁に押し付けた。背を向けていてかつ急なことで大和は抵抗する暇もなかった。『あの妹に』見せ付ける。なぜそんなことをしたのか、南自身わかっていない。
「もう少し仕事増えたらおにいちゃんと一緒に住もうと思って。」
「は。」
「まだこれおにいちゃんに言ってないんですけど、大学とか仕事行くのに実家よりおにいちゃんちらへんの方がやっぱり便利なんですよね。」
「……さすがに本人が反対するんじゃないか。」
「大丈夫です! おにいちゃんって意外と私に甘いので。」
南は傘で顔が隠れていて良かったと思った。――イラッとした。
(……なんでムカついてんだ?)
意外と、ではないだろう。妹のために身体まで張っている。本人は知る由もないが。当たり前のように断言する妹に苛ついているのか。大和のことを何でもわかっているかのように話すのが引っ掛かるのか。
「意外と私家事やるんですよ。おにいちゃんの負担も減るし、良い案だと思うな。私もいつでも相談とかできるし、そしたら南さんも遊びに来てくださいね。」
「やっぱり同居はさすがに嫌がるんじゃないか?」
「そうですかね。でも多分、無理なら適当なボロボロのワンルーム借りるしかないって泣き付いたらいけると思います。」
この兄妹は、完全にそれぞれ相手に向ける情のベクトルの種類が異なっている。大和は気付いて――いない。どこまでも『小さな妹』として目が離せない。妹はマネージャー就任という無茶な要求を受け入れられたことで、かつての独占欲が再燃している。
南は同居は嫌がっても結局は妹のシナリオ通りになる未来が容易に想像できた。
「策士だな。」
「ふふ。……おにいちゃんに会いたくなってきた。戻ろうかな。」
「今は止めといた方が良いんじゃないか。」
「そうかなあ……まあ、あんな悪ふざけ、妹に見られるのは恥ずかしいですよね。今日は止めときます。」
「悪ふざけな……。」
南は口元を歪めた。自分も戻りたい。戻って――めちゃくちゃに犯してやりたくなった。そしたら今度こそタダでは済まないだろう。最もまず玄関を開けられないだろうが。
そうこう話している内に、駅前に到着した。
妹は軽く頭を下げて「また来週、お願いします」と言って改札口へ消えた。南は近場のドラッグストアで保冷剤を購入し、タクシーを拾ってスケジュールを確認する。
「土曜ならいけるか……。」
結局南の頬は痣ができた。帰宅中からしっかり冷やしたことで腫れは目立たなかったが。その痣のせいでメイク時間が大幅に延び、期待した土曜日は潰れた。しかし木曜日の収録後にしっかりと痣を大和に見せ付けて情に訴えることに成功し、翌週にはホテルに連れ込み時間を掛けて身体を繋げた。
「視聴率ってどうなってます?」
「おっ……、南くんが視聴率気にするなんて、どうしたの。」
「この番組続けたいからさ。」
収録前にプロデューサーに雑談のように現状を聞く。普段ならば呼ばれるまでは楽屋にいるが、今は出演者がバラバラと定位置に着いていくのを横目に立ち話をしている。
「へえ、良いことだ。始まって以来上々だよ。最近平均値が少し上がってるか。心配ないよ。」
「そうか。もしなんか変化があれば教えてください。必要なら打ち合わせでもロケでも出るから。」
「マジで何があったの。」
準備が整ったようだ。後は南のみ。
プロデューサーの肩を叩き、セットに向かう南は振り返った。
「この番組を続けないといけなくなったんですよ。……個人的な事情で。」
「なんだそりゃ」とその後ろ姿を見てプロデューサーは笑った。不穏なセリフだったが、その南の表情が妙に楽しげだったからだ。大方、誰かと賭けでもしているのかと結論付けて、撮影開始の指示を出した。
未だ雨が降っている。
通常ならば連れ立って歩くのはリスクでしかないが、妹と南はそれぞれ傘で顔が隠せるからと並んで歩いていた。
「顔……、大丈夫ですか?」
「元々俺のせいだから。コケたとでも言えば大丈夫だよ。」
「すみません……。でもまさかおにいちゃんの家に南さんがいるとは思いませんでした。」
「俺も、まさか妹に合鍵渡してるとは。」
「あ……、最近お願いしてもらったんです。家よりおにいちゃんちの方が事務所とかスタジオ近いので、遅くなった時とかは泊まらせてもらうんです。」
「へえ……。」
扉が開いて、妹の声が聴こえたと同時に大和を壁に押し付けた。背を向けていてかつ急なことで大和は抵抗する暇もなかった。『あの妹に』見せ付ける。なぜそんなことをしたのか、南自身わかっていない。
「もう少し仕事増えたらおにいちゃんと一緒に住もうと思って。」
「は。」
「まだこれおにいちゃんに言ってないんですけど、大学とか仕事行くのに実家よりおにいちゃんちらへんの方がやっぱり便利なんですよね。」
「……さすがに本人が反対するんじゃないか。」
「大丈夫です! おにいちゃんって意外と私に甘いので。」
南は傘で顔が隠れていて良かったと思った。――イラッとした。
(……なんでムカついてんだ?)
意外と、ではないだろう。妹のために身体まで張っている。本人は知る由もないが。当たり前のように断言する妹に苛ついているのか。大和のことを何でもわかっているかのように話すのが引っ掛かるのか。
「意外と私家事やるんですよ。おにいちゃんの負担も減るし、良い案だと思うな。私もいつでも相談とかできるし、そしたら南さんも遊びに来てくださいね。」
「やっぱり同居はさすがに嫌がるんじゃないか?」
「そうですかね。でも多分、無理なら適当なボロボロのワンルーム借りるしかないって泣き付いたらいけると思います。」
この兄妹は、完全にそれぞれ相手に向ける情のベクトルの種類が異なっている。大和は気付いて――いない。どこまでも『小さな妹』として目が離せない。妹はマネージャー就任という無茶な要求を受け入れられたことで、かつての独占欲が再燃している。
南は同居は嫌がっても結局は妹のシナリオ通りになる未来が容易に想像できた。
「策士だな。」
「ふふ。……おにいちゃんに会いたくなってきた。戻ろうかな。」
「今は止めといた方が良いんじゃないか。」
「そうかなあ……まあ、あんな悪ふざけ、妹に見られるのは恥ずかしいですよね。今日は止めときます。」
「悪ふざけな……。」
南は口元を歪めた。自分も戻りたい。戻って――めちゃくちゃに犯してやりたくなった。そしたら今度こそタダでは済まないだろう。最もまず玄関を開けられないだろうが。
そうこう話している内に、駅前に到着した。
妹は軽く頭を下げて「また来週、お願いします」と言って改札口へ消えた。南は近場のドラッグストアで保冷剤を購入し、タクシーを拾ってスケジュールを確認する。
「土曜ならいけるか……。」
結局南の頬は痣ができた。帰宅中からしっかり冷やしたことで腫れは目立たなかったが。その痣のせいでメイク時間が大幅に延び、期待した土曜日は潰れた。しかし木曜日の収録後にしっかりと痣を大和に見せ付けて情に訴えることに成功し、翌週にはホテルに連れ込み時間を掛けて身体を繋げた。
「視聴率ってどうなってます?」
「おっ……、南くんが視聴率気にするなんて、どうしたの。」
「この番組続けたいからさ。」
収録前にプロデューサーに雑談のように現状を聞く。普段ならば呼ばれるまでは楽屋にいるが、今は出演者がバラバラと定位置に着いていくのを横目に立ち話をしている。
「へえ、良いことだ。始まって以来上々だよ。最近平均値が少し上がってるか。心配ないよ。」
「そうか。もしなんか変化があれば教えてください。必要なら打ち合わせでもロケでも出るから。」
「マジで何があったの。」
準備が整ったようだ。後は南のみ。
プロデューサーの肩を叩き、セットに向かう南は振り返った。
「この番組を続けないといけなくなったんですよ。……個人的な事情で。」
「なんだそりゃ」とその後ろ姿を見てプロデューサーは笑った。不穏なセリフだったが、その南の表情が妙に楽しげだったからだ。大方、誰かと賭けでもしているのかと結論付けて、撮影開始の指示を出した。
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