子孫繁栄なんて知らないわ! ~悪役令嬢として生まれた私は、婚約者を自分好みの男の娘にして可愛がる~

矢立まほろ

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 -9 『兆し』

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 なにはともあれ火事騒動は落ち着きを見せた。

 後日、ライゼに連れられた長ネギと友人もう一人が職員室を訪ね、自分たちの過失であると認めたという。

 教員達は「その時初めて吸った」という話を鵜呑みにし、以後気をつけることとして処分は内々に、とても軽微に済まされた。それもおそらく学園側から長ネギの家に対しての配慮があってのことだろう。

 ネギンスの資財によって修繕費は多少賄われ、温室の再建が開始されたのがつい先日のこと。それほど複雑なものでもないし、一週間もあれば直るだろうと伝えられた。

 こと長ネギの自供によって容疑が晴れたリリィは、またマンドラゴラを育てられることにひたすらの喜びを浮かべていた。

 自分が疑われてひどい扱いを受けたのに、それでも気にせず大好きなものにばかり注力するなんて、彼女も見かけによらず逞しいものだ。

 すっかり疑いを晴らしたリリィを祝って、私たちはお祝いパーティをすることになった。スコッティがふざけ半分で言い出したのだ。

 たったそんなことで、と私は思ったけれど、今回の件で疲れたリリィを労うことも出来るかと思い、賛同することにした。

「いっぱい美味しいもの食べて、いっぱいお話しよー!」
「あ、じゃあ僕の屋敷でやろう」

 はしゃぐスコッティに圧されてフェロがそう言い出し、私たちはその日の夕方に集まることになった。私もフェロと一緒に一足先に帰ったのだが、家主であるフェロの父親にそれを伝えると、突然泣き出すほどの勢いで喜んでいたのだった。

「おおお、なんという日だ! フェロが友人を家に連れ、パーティを開くだなんて」
「あの、お父さん。それで今晩にも集まるんだけど、少しでもいいから何か料理を……」
「料理だと?!」

 ぎらりと一瞬だけ睨みつけられ、フェロの背筋がぞくりと伸びる。だが父親の顔は瞬時に綻び、

「そんなもの当然に決まっている! お前の大切な友人がやってくるのだろう! 大急ぎでフルコースを用意させるさ!」
「え、いや。ちょっとでいいんだけど」
「良くはなぁい!」

 ふんと鼻息を荒くして父親は召使達を呼びつけ、彼らを従えて早々に厨房の方へと消えていってしまったのだった。

「……なんだか凄いわね」
「ごめんね、変な人で。たぶん嬉しいんだよ。僕が誰かをここに呼ぶのってもう長いことなかったから」
「そうなの?」

 そう呟くフェロの横顔はどこか寂しそうで、けれどそれでいて硝子の宝石のように綺麗さと儚さを携えていた。吸い込まれそうな澄んだ瞳から目が離せなくなりそうだ。本当に、横顔は西洋人形のように綺麗で可愛らしい。

 一瞬見せた心のアンニュイを振り払うようにフェロはにっと微笑んだ。

「僕も最近、すっごく嬉しいんだ。たくさん友達と話すようになった。こうして友達を家に呼ぶなんて、ずっと考えたこともなかったから」

 私へと向き直る。
 純朴な可愛らしい顔が私を見つめた。

「ユフィのおかげだよ。ありがとう」

 そう言って満面に笑んだフェロを見て、私は言葉をなくしたようにしばらく見詰め合ってしまっていた。

「おおお嬢様ぁ!」
「きゃっ!」

 不意に背後から忠実すぎる執事の声が聞こえ、大袈裟なくらいに肩をビクリと震わせてしまった。気弱な少女みたいな悲鳴まで漏らしてしまって恥ずかしい。

 しかもそれをフェロに真横で聞かれてしまい、

「ふふっ。大丈夫?」と笑われてしまったせいでひどく顔を真っ赤にしてしまった。

 フェロはずるい。
 私好みの美少女顔で優しく笑いかけてくるのだから。私が大嫌いな男の子だとはとても思えなくなるから困ったものだ。いや、だからこそ婚約者としていいのだけど。

 絶対にこの子に女装させてみせる!
 なんなら結婚式は私がタキシードでフェロにドレスを……!

 ――こほん。

 心の涎とともに鼻血まで出そうになったのを堪え、私は突然飛び出してきたウチの変態ストーカー執事へと向き直った。

「ちょっと、アル」
「なんでございましょうお嬢様」

 さっと目の前に傅いたその執事の目には何故か涙が浮かんでいて、私は思わず頬を引きつらせた。

「な、なんで泣いてるのよ」
「感動しているのであります。あのお嬢様が。あの引きこもりでろくに外も出ず、たまに外に出たかと思えば近所の子供達を無視して一人遊びにばかり耽って、寂しく独り言かお人形がせいぜいだったというのに」
「こら、アル!」

 なんでそんなことまで言うのか。

 上気した顔で私が怒鳴りつけると、それを嬉しそうに受け取りながらにこやかに下がっていった。

「そうだったんだね」とフェロが呟く。

「なによ、悪い?」

 笑われるだろうかと彼を見やった。
 しかしフェロはいたって穏やかな表情で首を振った。

「いや。なんというか、安心した」
「どういうことよ」
「ううん、なんでも」
「ちょっと。気になるじゃない」

 それからフェロは私が何を言ってもほくそ笑むばかりで、私はずっとそわそわと、気が気じゃない様子で過ごす羽目になったのだった。
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