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-2 『適役としての敵役』
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「ねえ、大丈夫ー? きっとみんなも、本当に心からの優しさを持って選んでくれたんだよー」
演劇の配役が決まってからというもの、こと休み時間ごとにスコッティがそう話しかけてきていた。
その隣でリリィが鞄から薄茶色の水の入った瓶を取り出し、
「あ、あの。これ。マンドラゴラの根を煎じたお水は、とても疲労回復や鬱予防に効果があるそうなんです。あの。だから、どらごんちゃんの根を少しわけてもらいました」
そう言ってリリィまでひどく気遣った風に差し出してくるのだが、彼女の鞄からちらりとはみ出て見えるマンドラゴラを見ると、なんだか飲む気も失せてしまう。
「ありがとう。後でいただいておくわ」
リリィが傷つかないように瓶だけを受け取って、私はなるたけの笑顔を浮かべておいた。
どうにも配役が決まってからずっと、私が落ち込んでいる風に思われているらしい。
たしかにどれだけ良いように言いくるめても、敵役なんて誰がしたいものか。それがクラスメイトたちから押しつけであることは明白だったし、担任の先生は気づかなかったようだが、私たちの中ではわからない人はいなかっただろう。
そのおかげで「不本意な役をさせられた」と、二人は私を慰めてくれているようだった。
それにしてはスコッティは励ましが下手だし、リリィも随分と変化球だ。それでも懸命に励まそうとしてくれているのはわかったので、私としても悪くはない気分だった。
これで二人が私をサンドイッチに挟むようにくっついて座って、「元気出して」と甘くささやいてくれたらこの上なく元気が出るというものなのに。
――こほん。
まあ冗談は置いておいて。
そんな風に献身的に接してくれる彼女たちを前にして非常に申し上げにくいのだが……。
――私、別にそんなに気にしてないのだけど。
強いて言えば面倒だなって思ってるくらいか。別に長ネギたちにはめられてショックを受けていることもないし、まあやると決まったのならそれなりにやるだけだ。
別にとやかく言われたくらいで凹む私じゃない。それならとっくに登校拒否していたことだろう。
残念ながら、私の心は硝子ではない。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、私が廊下を歩いたり教室にやってくる度に、必ずどこかの女子生徒の集まりから陰口が飛んでくるのだった。
「あの子、悪役になったんですって」
「ライゼくんにひどいこと言ったんでしょ。ぴったりじゃない」
「悪女ってやつね。あー、イヤだわ」
集団の心理なのか、口々に好き放題言ってくる。
上位貴族優先の暗黙の了解も守らず、好き放題に暮らす私をただでさえ鬱陶しがっている彼女たちだ。そこにライゼへのやっかみ疑惑まで加えられて、もはや隠すつもりもない様子で私を攻撃してきている。
それはおそらく私だけじゃなく、フェロやリリィたちにも届いていることだろう。だから殊更、リリィもスコッティも同情した風に励ましてくるのだった。
「どっちも大袈裟ね」と私は蚊帳の外のように呟く。
けれど今も仲間として励ましてくれているリリィたちには感謝だ。その気持ちだけは素直にうれしいと思った。
「偉い貴族なら公然とした悪口も許される。随分と生ぬるい社会ね」
実際、今のこの学園の常識で言えば私が常軌を脱しているのだ。貴族の階級社会が当たり前。下の者は上の者に逆らってはいけない。もし逆らえば村八分、というところか。
ある意味では規律がしっかりできている。けれどそれは、人間性などをすべて蔑ろにした、型枠だけの決まりにすぎない。
そんな社会、クソ食らえだ。
「ユフィーリアさん、敵役がんばってねー」
「良い舞台にして上げるから」
「お似合いよ、すっごく」
はいはい。どうぞご勝手に言っててくださいな。
けらけらと笑う彼女たちに浅ましさを感じながら、私はのんびりと学園生活を過ごしていた。
演劇の配役が決まってからというもの、こと休み時間ごとにスコッティがそう話しかけてきていた。
その隣でリリィが鞄から薄茶色の水の入った瓶を取り出し、
「あ、あの。これ。マンドラゴラの根を煎じたお水は、とても疲労回復や鬱予防に効果があるそうなんです。あの。だから、どらごんちゃんの根を少しわけてもらいました」
そう言ってリリィまでひどく気遣った風に差し出してくるのだが、彼女の鞄からちらりとはみ出て見えるマンドラゴラを見ると、なんだか飲む気も失せてしまう。
「ありがとう。後でいただいておくわ」
リリィが傷つかないように瓶だけを受け取って、私はなるたけの笑顔を浮かべておいた。
どうにも配役が決まってからずっと、私が落ち込んでいる風に思われているらしい。
たしかにどれだけ良いように言いくるめても、敵役なんて誰がしたいものか。それがクラスメイトたちから押しつけであることは明白だったし、担任の先生は気づかなかったようだが、私たちの中ではわからない人はいなかっただろう。
そのおかげで「不本意な役をさせられた」と、二人は私を慰めてくれているようだった。
それにしてはスコッティは励ましが下手だし、リリィも随分と変化球だ。それでも懸命に励まそうとしてくれているのはわかったので、私としても悪くはない気分だった。
これで二人が私をサンドイッチに挟むようにくっついて座って、「元気出して」と甘くささやいてくれたらこの上なく元気が出るというものなのに。
――こほん。
まあ冗談は置いておいて。
そんな風に献身的に接してくれる彼女たちを前にして非常に申し上げにくいのだが……。
――私、別にそんなに気にしてないのだけど。
強いて言えば面倒だなって思ってるくらいか。別に長ネギたちにはめられてショックを受けていることもないし、まあやると決まったのならそれなりにやるだけだ。
別にとやかく言われたくらいで凹む私じゃない。それならとっくに登校拒否していたことだろう。
残念ながら、私の心は硝子ではない。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、私が廊下を歩いたり教室にやってくる度に、必ずどこかの女子生徒の集まりから陰口が飛んでくるのだった。
「あの子、悪役になったんですって」
「ライゼくんにひどいこと言ったんでしょ。ぴったりじゃない」
「悪女ってやつね。あー、イヤだわ」
集団の心理なのか、口々に好き放題言ってくる。
上位貴族優先の暗黙の了解も守らず、好き放題に暮らす私をただでさえ鬱陶しがっている彼女たちだ。そこにライゼへのやっかみ疑惑まで加えられて、もはや隠すつもりもない様子で私を攻撃してきている。
それはおそらく私だけじゃなく、フェロやリリィたちにも届いていることだろう。だから殊更、リリィもスコッティも同情した風に励ましてくるのだった。
「どっちも大袈裟ね」と私は蚊帳の外のように呟く。
けれど今も仲間として励ましてくれているリリィたちには感謝だ。その気持ちだけは素直にうれしいと思った。
「偉い貴族なら公然とした悪口も許される。随分と生ぬるい社会ね」
実際、今のこの学園の常識で言えば私が常軌を脱しているのだ。貴族の階級社会が当たり前。下の者は上の者に逆らってはいけない。もし逆らえば村八分、というところか。
ある意味では規律がしっかりできている。けれどそれは、人間性などをすべて蔑ろにした、型枠だけの決まりにすぎない。
そんな社会、クソ食らえだ。
「ユフィーリアさん、敵役がんばってねー」
「良い舞台にして上げるから」
「お似合いよ、すっごく」
はいはい。どうぞご勝手に言っててくださいな。
けらけらと笑う彼女たちに浅ましさを感じながら、私はのんびりと学園生活を過ごしていた。
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