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-11『姑息な手段』
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いよいよ演劇が始まった。
主人公を演じるライゼは、その煌びやかな衣装をなびかせ、舞台上を縦横無尽に駆け回っていく。颯爽と現れては腰元の剣で小悪党を斬り伏せ、民を助ける。まさしく正義の味方。
彼が壇上を待って爽やかな笑顔を振りまく度、客席からは黄色い歓声が大きく上がった。
さすがこの学園の貴公子。
もはや生徒の親類を除けば大半が彼のファンなのだろう。
ライゼが活躍することが求められている。そして台本も、そうなるように筋道が敷かれている。
高潔な貴族による英雄譚。
なんてわかりやすく、陳腐なのだろう。
彼を前にすれば悪役モンタージュですら引き立てるための脇役でしかない。
スポットライトがライゼを輝かしく照らす。
目がくらむほどまぶしい姿。
妖艶に役を演じてみせる彼に、観客たちは恋をするように目を奪われていく。
私は自分の出番が来るのを待ちながら、そんなワンマンショーを静かに眺めていた。
後ろの舞台袖では出番の近いスコッティが深呼吸して息を整えている。しかしまったく深く吸えておらず過呼吸気味だ。そんな彼女を、ルックが背中を撫でて落ち着かせようとしている。
「ちょっとは落ち着いたらどうだい」
「ふんっだ。ルックは気分が楽でいいよねー。木だもんね」
「俺は鳩の役さ」
そう言うルックの格好はしっかりと木の被り物から顔を出した間抜けなもので、頭の上にはいつもの鳩が巣を作って乗っかっている。
「俺の又従兄弟のこの子も緊張してるって、ずっとくるっぽーくるっぽーってうるさいんだ」
もはやどんどん血縁が遠ざかっていることには突っ込む気になれない。スコッティも呆れた調子で深呼吸を続けている。
そんなスコッティにリリィが駆け寄って、ぶどうジュースの入ったグラスを手渡した。
「あの。よかったらどうぞ。喉が渇くと余計に大変かと思いますし」
「ありがとー、リリっちー」
「差し入れでいただいたみたいで。まだまだ瓶でいっぱいあるみたいですよ」
貴族ばかりだからか、その家や知り合いから様々な差し入れが用意されている。他にもお菓子や軽食のようなものまで様々だ。
私は何も喉を通る気がしなかったから口にはしなかった。
スコッティが、リリィに手渡されたジュースをすぐに飲み干し、瓶がまだまだたくさん置かれた机の方へと駆け寄っていく。
「本番中に小便が我慢できなくなってもしらないぞー」と遠目からルックが微笑みながら言うが、スコッティはまったく聞こえない様子で次々とジュースを飲んでいっていた。
まったくマイペースだ。
だが、下手に気を張るよりはずっといいだろう。
実際、スコッティの緊張は僅かばかり先ほどよりマシになっているように見えた。
「もうすぐ出番だって言うのに大丈夫かしら」
そろそろ私やフェロと一緒に、最初の顔見せだ。もう準備を始めないといけない。
舞台袖の一番舞台に近いところでは既にフェロが準備している。彼も端からずっとライゼを眺めている。
フェロとは出店の勧誘の時以来、ほとんど話してはいなかった。さっきドレスのことをほんの少し褒めてくれたけど、それも私が変に突き放すように言ってしまった。それっきり、フェロはずっと一人で舞台袖にいる。
かといって私も、自分から彼のところへ行くのはどこか心が竦んでいた。
なんだろう。
いつもは寄り添って一緒にいるのに、さっきから変な感じだ。
フェロのことを考えようとした瞬間、心が逸る。
まあ、そんなことを考えていても仕方がない。
「さて、私もそろそろ――」
ドレスの裾をはたいてフェロの元へ向かおうとしたときだった。
「……きゃっ!」
何かにぶつかられた。
今度はスコッティじゃない。
しかも同時に、若干の冷たさが私の太股を襲った。
その冷たさの正体はすぐにわかった。
私のドレスの太股あたりに、でかでかとワインレッドの染みができあがっていた。ぶどうジュースだ。
私が顔を持ち上げたすぐ目の前で、長ネギが空のグラスを片手に嘲け笑った下卑い顔を浮かべていた。
主人公を演じるライゼは、その煌びやかな衣装をなびかせ、舞台上を縦横無尽に駆け回っていく。颯爽と現れては腰元の剣で小悪党を斬り伏せ、民を助ける。まさしく正義の味方。
彼が壇上を待って爽やかな笑顔を振りまく度、客席からは黄色い歓声が大きく上がった。
さすがこの学園の貴公子。
もはや生徒の親類を除けば大半が彼のファンなのだろう。
ライゼが活躍することが求められている。そして台本も、そうなるように筋道が敷かれている。
高潔な貴族による英雄譚。
なんてわかりやすく、陳腐なのだろう。
彼を前にすれば悪役モンタージュですら引き立てるための脇役でしかない。
スポットライトがライゼを輝かしく照らす。
目がくらむほどまぶしい姿。
妖艶に役を演じてみせる彼に、観客たちは恋をするように目を奪われていく。
私は自分の出番が来るのを待ちながら、そんなワンマンショーを静かに眺めていた。
後ろの舞台袖では出番の近いスコッティが深呼吸して息を整えている。しかしまったく深く吸えておらず過呼吸気味だ。そんな彼女を、ルックが背中を撫でて落ち着かせようとしている。
「ちょっとは落ち着いたらどうだい」
「ふんっだ。ルックは気分が楽でいいよねー。木だもんね」
「俺は鳩の役さ」
そう言うルックの格好はしっかりと木の被り物から顔を出した間抜けなもので、頭の上にはいつもの鳩が巣を作って乗っかっている。
「俺の又従兄弟のこの子も緊張してるって、ずっとくるっぽーくるっぽーってうるさいんだ」
もはやどんどん血縁が遠ざかっていることには突っ込む気になれない。スコッティも呆れた調子で深呼吸を続けている。
そんなスコッティにリリィが駆け寄って、ぶどうジュースの入ったグラスを手渡した。
「あの。よかったらどうぞ。喉が渇くと余計に大変かと思いますし」
「ありがとー、リリっちー」
「差し入れでいただいたみたいで。まだまだ瓶でいっぱいあるみたいですよ」
貴族ばかりだからか、その家や知り合いから様々な差し入れが用意されている。他にもお菓子や軽食のようなものまで様々だ。
私は何も喉を通る気がしなかったから口にはしなかった。
スコッティが、リリィに手渡されたジュースをすぐに飲み干し、瓶がまだまだたくさん置かれた机の方へと駆け寄っていく。
「本番中に小便が我慢できなくなってもしらないぞー」と遠目からルックが微笑みながら言うが、スコッティはまったく聞こえない様子で次々とジュースを飲んでいっていた。
まったくマイペースだ。
だが、下手に気を張るよりはずっといいだろう。
実際、スコッティの緊張は僅かばかり先ほどよりマシになっているように見えた。
「もうすぐ出番だって言うのに大丈夫かしら」
そろそろ私やフェロと一緒に、最初の顔見せだ。もう準備を始めないといけない。
舞台袖の一番舞台に近いところでは既にフェロが準備している。彼も端からずっとライゼを眺めている。
フェロとは出店の勧誘の時以来、ほとんど話してはいなかった。さっきドレスのことをほんの少し褒めてくれたけど、それも私が変に突き放すように言ってしまった。それっきり、フェロはずっと一人で舞台袖にいる。
かといって私も、自分から彼のところへ行くのはどこか心が竦んでいた。
なんだろう。
いつもは寄り添って一緒にいるのに、さっきから変な感じだ。
フェロのことを考えようとした瞬間、心が逸る。
まあ、そんなことを考えていても仕方がない。
「さて、私もそろそろ――」
ドレスの裾をはたいてフェロの元へ向かおうとしたときだった。
「……きゃっ!」
何かにぶつかられた。
今度はスコッティじゃない。
しかも同時に、若干の冷たさが私の太股を襲った。
その冷たさの正体はすぐにわかった。
私のドレスの太股あたりに、でかでかとワインレッドの染みができあがっていた。ぶどうジュースだ。
私が顔を持ち上げたすぐ目の前で、長ネギが空のグラスを片手に嘲け笑った下卑い顔を浮かべていた。
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