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○1章 同時多発的一方通行の片思い
-2 『自称魔王見習いの少女』
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「あたしと勝負しなさい!」
快活な声で投げかけられた言葉に、俺は耳を疑いたくなった。
事故にあって死んだかと思えば、目を覚ませば見知らぬ場所で、俺よりも年下の少女に槍の切っ先を向けられているこの状況。
いったいなんだというのか。
「ちょ、ちょっと待て。状況を整わせろ」
「なにをごちゃごちゃ言ってるの。さっさとその命を寄越しなさい!」
「はいどうぞ、って言えるかっ!」
可愛らしい声で言われても差し出せるはずがない。
それに、どんな理由かは知らないが、せっかく得られた最強ステータスだ。おいそれと捨てるわけにはいかない。
俺はこの最強ステータスで、最高のスローライフを送ってみせるのだから。
しかし目の前の少女はまったく聞く耳もたずといった様子で俺を睨んでいる。
「すてい。すてい……」
「ふしゅー、ふしゅー」
「どう、どう……」
鼻息荒くいきり立っている様子は、獰猛な闘牛を思わせる。
何故、異世界に飛ばされた矢先にこんなことをしなくてはならないのか。
さっさと最強能力で蹴散らすべきか。
――そもそも攻撃力は高いけど、具体的になにができるんだ?
ただただ腕力が強いだけなのか、何か魔法などが使えるのか。
なによりここが現実世界じゃないのは間違いなさそうだが、どんな場所なんかも不明だ。
剣と魔法の世界なのか、それとも割と現実的なファンタジーのない世界なのか。
少女の羽織った外套や麻布の衣服からして、おそらく近未来だということはないだろう。
目を凝らしたり、何かすれば情報がわからないだろうか。
心の奥に問いかけるように意識を深く沈みこませてみる。
――攻撃魔法『フレイム』
まるでずっと昔から知っていた知識のように言葉が浮かび上がってきた。
これが魔法か。やはりこの世界にはあるらしい。
「さあ、いくわよ!」
少女がやりを構えなおし、また俺へと突っ込んでこようとする。
争いというものは同じレベルの者同士にしか発生しない。
つまり面倒ごとを回避するためには、俺の実力を示しておく必要があるということだ。
――ここは牽制のためにも魔法を使ってみるか。
俺は腕に力を込め、掌を正面に向けて唱えた。
「フレイム……うぉっ!」
途端、まるで激しい濁流のような業火の炎が俺の掌から飛び出した。
軽く呟いた程度だったのだが、それは猛烈な勢いで放出され、目の前の少女の脇を巨大な炎柱となって駆け抜けたのだった。
彼女の背後の壁が深く抉られ、くすぶった煙が上がっている。
明らかにやりすぎだろ……。
まあ、これであの少女が諦めてくれるなら問題ない。さすがに俺の力の強さを理解してくれただろう。
そう思った俺は甘かったらしい。
俺の魔法を見た少女は、怯むどころか、目を輝かすように俺を見ていた。
「やっぱり思ったとおり、ちゃんと倒さなくっちゃ。さすがあたしが召喚しただけのことはあるわ」
「おい、ちょっと待て」
いろいろと待て。
何故アレを見て物怖じせず倒すという結論になるのか。それと、あたしが召喚したってどういうことなのか。
「お前が俺をここにつれてきたのか」
「そうよ。あたしはヴェーナ・リーゼン。あんたを召喚したのはまさしく、このあたしよ」
「なんで」
「殺すためよ」
「意味わかんねえよ!」
その少女――ヴェーナはさも当然のことのように言う。
現実世界で死んで、異世界に転生したかと思えば殺されるためだなんて、ふざけるな。
「だからさっさとその命を寄越しなさい」
「だから無理に決まってるだろ」
「どうしてよ」
「お前は誰かに死ねって言われたら死ねるのか?」
「死ねるわけないじゃない」
「でしょうね! それが答えだよ!」
思わず怒鳴り気味で言い返す俺に、少女は尚も不満そうな顔をしていた。
俺がおかしいのか?
とつい頭を捻りたくなる。
「あたしはあんたを倒さないといけないの。そうじゃないと……」
「な、なんだよ……」
血気に溢れていた少女の顔色が暗く沈みこむ。
まさか、なにか深い事情でもあるというのだろうか。
故郷で病床に伏せる危篤の親御さんに俺の首を持って帰って錦を飾るとか、そんな深い事情が――。
無いな。
「あたしは真の魔王になれないのよ!」
「真の、魔王?」
魔王というとあれか。
ゲームでよくあるラスボス的な、悪の親玉みたいなものか。
俺の認知力が曖昧で魔王というイメージが漠然としているが、少なくとも、こんな華奢な少女が名乗るようなものではないのは確かだ。
「魔王になるにはたくさんの経験値が必要なの。けれど魔王見習いのあたしにはまたまたそれが足りない。だから、たくさん経験値をくれそうなステータスが高いけど知能指数低そうなモンスターを召喚して、倒して一気に経験値を得ようって魂胆だったのに!」
「なんだよ、その俺の命を『便利アイテム』みたいに使っちゃおうってノリは! ふざけんじゃねえぞ!」
しかも知能指数が低そうって、さらっと毒を吐きやがって。
まさか俺は、こんな訳のわからないレベリングのために、最強ステータスを授けられた上にこの世界に転移したというのか。
魔王見習いと自称するだけあって、そんな召喚ができるくらいにはすごいのだろう。だが、召喚した後のことをまったく考えていなかったようだ。
「だからあたしに倒されなさい」
「いや、そんな事情聞かされてもできるわけないだろ!」
完全に脳筋の考えるそれである。
俺の最強ステータスをわかって言っているのだろうか。
返り討ちにしようと思えば簡単にできるのに。
「ちなみに、召喚された者は、そいつが暴走しないように、召喚者の命が途切れればそいつも一緒に死ぬことになるわ」
「なに?!」
「だから私を殺そうとしても無駄よ」
なんて理不尽すぎる。
つまり一蓮托生ということか。
それでもヴェーナは俺を殺す満々である。
どうやら諦めてくれることはなさそうだ。
少女の戦闘力は数値の差からして相当に弱い様子。いや、俺が強すぎるのか。
「てやあ!」とまた少女が俺の天頂めがけて槍を振るってきたが、片手で簡単に受け止められ、軽くあしらうことができた。
どうやら俊敏というステータスもあるらしく、それも999とカンストしている俺には、彼女の攻撃を見切るのは容易いことだった。
これぞ最強。
さすが最強。
このストレスフリーはたまらない。
――ついでに、説得、なんていうステータスがあれば最高なんだけどな。
引き下がる気も見せない少女に辟易しながらも、この調子ならたとえ命を狙われようがやられることはないだろう。俺自身の体を目を凝らして見てみても、防御力のステータスは999と表示されている。
「このままほっとくか」
仮にダメージを受けてもやられはしないだろう、とそう思った矢先だった。
「きゃあああああああああああああああ!」
洞窟の壁を伝うように、遠くから大きな叫び声が響いてきた。
快活な声で投げかけられた言葉に、俺は耳を疑いたくなった。
事故にあって死んだかと思えば、目を覚ませば見知らぬ場所で、俺よりも年下の少女に槍の切っ先を向けられているこの状況。
いったいなんだというのか。
「ちょ、ちょっと待て。状況を整わせろ」
「なにをごちゃごちゃ言ってるの。さっさとその命を寄越しなさい!」
「はいどうぞ、って言えるかっ!」
可愛らしい声で言われても差し出せるはずがない。
それに、どんな理由かは知らないが、せっかく得られた最強ステータスだ。おいそれと捨てるわけにはいかない。
俺はこの最強ステータスで、最高のスローライフを送ってみせるのだから。
しかし目の前の少女はまったく聞く耳もたずといった様子で俺を睨んでいる。
「すてい。すてい……」
「ふしゅー、ふしゅー」
「どう、どう……」
鼻息荒くいきり立っている様子は、獰猛な闘牛を思わせる。
何故、異世界に飛ばされた矢先にこんなことをしなくてはならないのか。
さっさと最強能力で蹴散らすべきか。
――そもそも攻撃力は高いけど、具体的になにができるんだ?
ただただ腕力が強いだけなのか、何か魔法などが使えるのか。
なによりここが現実世界じゃないのは間違いなさそうだが、どんな場所なんかも不明だ。
剣と魔法の世界なのか、それとも割と現実的なファンタジーのない世界なのか。
少女の羽織った外套や麻布の衣服からして、おそらく近未来だということはないだろう。
目を凝らしたり、何かすれば情報がわからないだろうか。
心の奥に問いかけるように意識を深く沈みこませてみる。
――攻撃魔法『フレイム』
まるでずっと昔から知っていた知識のように言葉が浮かび上がってきた。
これが魔法か。やはりこの世界にはあるらしい。
「さあ、いくわよ!」
少女がやりを構えなおし、また俺へと突っ込んでこようとする。
争いというものは同じレベルの者同士にしか発生しない。
つまり面倒ごとを回避するためには、俺の実力を示しておく必要があるということだ。
――ここは牽制のためにも魔法を使ってみるか。
俺は腕に力を込め、掌を正面に向けて唱えた。
「フレイム……うぉっ!」
途端、まるで激しい濁流のような業火の炎が俺の掌から飛び出した。
軽く呟いた程度だったのだが、それは猛烈な勢いで放出され、目の前の少女の脇を巨大な炎柱となって駆け抜けたのだった。
彼女の背後の壁が深く抉られ、くすぶった煙が上がっている。
明らかにやりすぎだろ……。
まあ、これであの少女が諦めてくれるなら問題ない。さすがに俺の力の強さを理解してくれただろう。
そう思った俺は甘かったらしい。
俺の魔法を見た少女は、怯むどころか、目を輝かすように俺を見ていた。
「やっぱり思ったとおり、ちゃんと倒さなくっちゃ。さすがあたしが召喚しただけのことはあるわ」
「おい、ちょっと待て」
いろいろと待て。
何故アレを見て物怖じせず倒すという結論になるのか。それと、あたしが召喚したってどういうことなのか。
「お前が俺をここにつれてきたのか」
「そうよ。あたしはヴェーナ・リーゼン。あんたを召喚したのはまさしく、このあたしよ」
「なんで」
「殺すためよ」
「意味わかんねえよ!」
その少女――ヴェーナはさも当然のことのように言う。
現実世界で死んで、異世界に転生したかと思えば殺されるためだなんて、ふざけるな。
「だからさっさとその命を寄越しなさい」
「だから無理に決まってるだろ」
「どうしてよ」
「お前は誰かに死ねって言われたら死ねるのか?」
「死ねるわけないじゃない」
「でしょうね! それが答えだよ!」
思わず怒鳴り気味で言い返す俺に、少女は尚も不満そうな顔をしていた。
俺がおかしいのか?
とつい頭を捻りたくなる。
「あたしはあんたを倒さないといけないの。そうじゃないと……」
「な、なんだよ……」
血気に溢れていた少女の顔色が暗く沈みこむ。
まさか、なにか深い事情でもあるというのだろうか。
故郷で病床に伏せる危篤の親御さんに俺の首を持って帰って錦を飾るとか、そんな深い事情が――。
無いな。
「あたしは真の魔王になれないのよ!」
「真の、魔王?」
魔王というとあれか。
ゲームでよくあるラスボス的な、悪の親玉みたいなものか。
俺の認知力が曖昧で魔王というイメージが漠然としているが、少なくとも、こんな華奢な少女が名乗るようなものではないのは確かだ。
「魔王になるにはたくさんの経験値が必要なの。けれど魔王見習いのあたしにはまたまたそれが足りない。だから、たくさん経験値をくれそうなステータスが高いけど知能指数低そうなモンスターを召喚して、倒して一気に経験値を得ようって魂胆だったのに!」
「なんだよ、その俺の命を『便利アイテム』みたいに使っちゃおうってノリは! ふざけんじゃねえぞ!」
しかも知能指数が低そうって、さらっと毒を吐きやがって。
まさか俺は、こんな訳のわからないレベリングのために、最強ステータスを授けられた上にこの世界に転移したというのか。
魔王見習いと自称するだけあって、そんな召喚ができるくらいにはすごいのだろう。だが、召喚した後のことをまったく考えていなかったようだ。
「だからあたしに倒されなさい」
「いや、そんな事情聞かされてもできるわけないだろ!」
完全に脳筋の考えるそれである。
俺の最強ステータスをわかって言っているのだろうか。
返り討ちにしようと思えば簡単にできるのに。
「ちなみに、召喚された者は、そいつが暴走しないように、召喚者の命が途切れればそいつも一緒に死ぬことになるわ」
「なに?!」
「だから私を殺そうとしても無駄よ」
なんて理不尽すぎる。
つまり一蓮托生ということか。
それでもヴェーナは俺を殺す満々である。
どうやら諦めてくれることはなさそうだ。
少女の戦闘力は数値の差からして相当に弱い様子。いや、俺が強すぎるのか。
「てやあ!」とまた少女が俺の天頂めがけて槍を振るってきたが、片手で簡単に受け止められ、軽くあしらうことができた。
どうやら俊敏というステータスもあるらしく、それも999とカンストしている俺には、彼女の攻撃を見切るのは容易いことだった。
これぞ最強。
さすが最強。
このストレスフリーはたまらない。
――ついでに、説得、なんていうステータスがあれば最高なんだけどな。
引き下がる気も見せない少女に辟易しながらも、この調子ならたとえ命を狙われようがやられることはないだろう。俺自身の体を目を凝らして見てみても、防御力のステータスは999と表示されている。
「このままほっとくか」
仮にダメージを受けてもやられはしないだろう、とそう思った矢先だった。
「きゃあああああああああああああああ!」
洞窟の壁を伝うように、遠くから大きな叫び声が響いてきた。
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