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○4章 役所へ行こう
-13『最強の力』
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魔王を自称する少女に出会ってから、まだまったく時間は経っていなかった。
半年。いや、全然違う。
まだ二月くらいだろうか。
洞窟のようなところで召喚されて、出会いがしらに命を狙われて。
クエストに同行するようになったと思えば、少しも協力してくれなくて説教までする始末。
間借りした念願のマイホームですら隙あらば暗殺未遂。
――こいつ、ろくな想い出がねえな。
そもそも俺を殺すために一緒にいるのだから当たり前と言えば当たり前だが。
けれど、短い時間でも一緒に過ごし、一緒に冒険に出た仲間だ。
自分の経験値稼ぎのために俺を召喚するような身勝手な奴。
しかしそんな少女が、俺のために命を投げ捨ててまで助けてくれた。
いや、助けてくれたのは二度目なのだ。
本当ならば、俺はもう、元の世界で事故にあって死んでいたはずなのだ。
そんな俺に、この世界で生きることを与えてくれたのがヴェーナだった。
なんだよ、くそっ。
「別れの余韻は十分かい?」
はっと現実に引き戻されるようなバーゼンの冷たい声。
それと同時に繰り出された彼女の刺突を、俺は身を揺らして無心にかわした。
「……最低の不幸者じゃねえか、俺」
「…………?」
「そういや、一度も感謝の言葉を伝えたことなかったな。あいつはいっつも我侭で、一緒にいると危なっかしくてハラハラさせられて。すっかり忘れてた」
この第二の人生は、ヴェーナに与えられたもの。
その理由がどうであれ、俺は今、この生活が楽しくて、楽しくて、仕方がない。元の世界にいた頃よりもずっと。
みんなでクエストに行って、酒場で冒険者仲間と酒を交わして、たっぷりの充実した疲労感の中、自分の家で家族のような仲間たちと一緒に眠る。そんな血の通ったように明るい生活が好きになっていた。
ヴェーナが死ぬと、俺も死ぬのだという。召喚された時の契約のようなもの。まだ俺が生きているということは、ヴェーナが嘘を言っていたのか、それともロスタイムのようなものなのか。
いや、そもそもこの世界での生活そのものがロスタイムなのだ。
「お前は許さない」
食いしばるように声を漏らす。
「――絶対に、倒す!」
これは決定事項だ。
最強の俺が決めたんだ。必ずそうする。そうしてみせる。
「ふふっ。やれるか――っ!」
余裕の微笑を浮かべようとしたバーゼンの真横を、かまいたちのように刃の形状をした衝撃波が通り抜ける。俺がクレスレブを力任せに振るった風圧だ。それはバーゼンの背後の壁に深い傷をつけ、破片を当たりに撒き散らした。
壁にかかっていた彫刻が跡形もなく吹き飛んでいる。
「いくぞ、バーゼン!」
その怒りに満ちた俺の声は、かすり傷でも死ぬほどひどく不利な状況にも関わらず、無傷のバーゼンを少なからず圧倒していた。
絶対にヴェーナの仇を討つ。
その気迫に鼓舞されるように、バーゼンも己の顔を引き締めた。
互いににらみ合う。
永遠のような一瞬の緊張。
しかし動き出してからは早かった。
実直にぶつかるように真正面から剣先を交錯させる。
俺の魔力のこもった剣の振り下ろしを、バーゼンは両手を使って耐えた。
力では勝っている。
けれどあと少し、もう一押しが足りない。
じわりと押し寄せてくる疲労感。
がむしゃらに魔力を使いすぎているせいだろうか。さすがに疲労が見え始める。
「っ! もらった!」
そのわずかな疲労による猛攻の鈍りを察したバーゼンが、攻勢逆転の一打を繰り出した。
鋭い返しの刃。
しまった。
この先唯一と言えるような一瞬の隙を見逃さないその人たちに、俺はどう対処することもできなかった。
やられた。
もう少しなのに、最後の最後で、やはり届かないのか。
そう思った瞬間、
「ぐはっ」と鮮血を吐き出したのは、俺ではなく、バーゼンのほうだった。
『ダメージ2 残りHP8』
「そんな……何故……」
不意のダメージにバーゼンの眉間が歪む。
彼女の背後。
死角となったそこから、いつの間にかヴェーナが槍を突き立て、バーゼンの腹を抉っていた。
どうしてヴェーナが。死んだはずじゃ。
――いや、今はそれどころじゃない。
不意の急襲で体勢が崩れた今がチャンスだ。
「うおぉぉぉぉ!」
ステータスの全てを振り絞った、最強の力をクレスレブに込める。
白銀の刀身が魔力を纏う。白く発光し、放った光がまるで巨大な剣のように形作られていく。その切っ先の長さは優に二倍以上はあろうか。
これが本当に、最後の一撃だとばかりに、今出せる力の全てを注ぎ込む。
バーゼンの背後にいたヴェーナがさっと横に下がるのを見て、俺は一切の迷いなく、クレスレブを全力で振り下ろした。
『ダメージ1000 残りHP0』
魔力の光の剣につぶされたバーゼンの頭上に、勝利を告げるように、無機質なダメージ表記が浮かんだ。
半年。いや、全然違う。
まだ二月くらいだろうか。
洞窟のようなところで召喚されて、出会いがしらに命を狙われて。
クエストに同行するようになったと思えば、少しも協力してくれなくて説教までする始末。
間借りした念願のマイホームですら隙あらば暗殺未遂。
――こいつ、ろくな想い出がねえな。
そもそも俺を殺すために一緒にいるのだから当たり前と言えば当たり前だが。
けれど、短い時間でも一緒に過ごし、一緒に冒険に出た仲間だ。
自分の経験値稼ぎのために俺を召喚するような身勝手な奴。
しかしそんな少女が、俺のために命を投げ捨ててまで助けてくれた。
いや、助けてくれたのは二度目なのだ。
本当ならば、俺はもう、元の世界で事故にあって死んでいたはずなのだ。
そんな俺に、この世界で生きることを与えてくれたのがヴェーナだった。
なんだよ、くそっ。
「別れの余韻は十分かい?」
はっと現実に引き戻されるようなバーゼンの冷たい声。
それと同時に繰り出された彼女の刺突を、俺は身を揺らして無心にかわした。
「……最低の不幸者じゃねえか、俺」
「…………?」
「そういや、一度も感謝の言葉を伝えたことなかったな。あいつはいっつも我侭で、一緒にいると危なっかしくてハラハラさせられて。すっかり忘れてた」
この第二の人生は、ヴェーナに与えられたもの。
その理由がどうであれ、俺は今、この生活が楽しくて、楽しくて、仕方がない。元の世界にいた頃よりもずっと。
みんなでクエストに行って、酒場で冒険者仲間と酒を交わして、たっぷりの充実した疲労感の中、自分の家で家族のような仲間たちと一緒に眠る。そんな血の通ったように明るい生活が好きになっていた。
ヴェーナが死ぬと、俺も死ぬのだという。召喚された時の契約のようなもの。まだ俺が生きているということは、ヴェーナが嘘を言っていたのか、それともロスタイムのようなものなのか。
いや、そもそもこの世界での生活そのものがロスタイムなのだ。
「お前は許さない」
食いしばるように声を漏らす。
「――絶対に、倒す!」
これは決定事項だ。
最強の俺が決めたんだ。必ずそうする。そうしてみせる。
「ふふっ。やれるか――っ!」
余裕の微笑を浮かべようとしたバーゼンの真横を、かまいたちのように刃の形状をした衝撃波が通り抜ける。俺がクレスレブを力任せに振るった風圧だ。それはバーゼンの背後の壁に深い傷をつけ、破片を当たりに撒き散らした。
壁にかかっていた彫刻が跡形もなく吹き飛んでいる。
「いくぞ、バーゼン!」
その怒りに満ちた俺の声は、かすり傷でも死ぬほどひどく不利な状況にも関わらず、無傷のバーゼンを少なからず圧倒していた。
絶対にヴェーナの仇を討つ。
その気迫に鼓舞されるように、バーゼンも己の顔を引き締めた。
互いににらみ合う。
永遠のような一瞬の緊張。
しかし動き出してからは早かった。
実直にぶつかるように真正面から剣先を交錯させる。
俺の魔力のこもった剣の振り下ろしを、バーゼンは両手を使って耐えた。
力では勝っている。
けれどあと少し、もう一押しが足りない。
じわりと押し寄せてくる疲労感。
がむしゃらに魔力を使いすぎているせいだろうか。さすがに疲労が見え始める。
「っ! もらった!」
そのわずかな疲労による猛攻の鈍りを察したバーゼンが、攻勢逆転の一打を繰り出した。
鋭い返しの刃。
しまった。
この先唯一と言えるような一瞬の隙を見逃さないその人たちに、俺はどう対処することもできなかった。
やられた。
もう少しなのに、最後の最後で、やはり届かないのか。
そう思った瞬間、
「ぐはっ」と鮮血を吐き出したのは、俺ではなく、バーゼンのほうだった。
『ダメージ2 残りHP8』
「そんな……何故……」
不意のダメージにバーゼンの眉間が歪む。
彼女の背後。
死角となったそこから、いつの間にかヴェーナが槍を突き立て、バーゼンの腹を抉っていた。
どうしてヴェーナが。死んだはずじゃ。
――いや、今はそれどころじゃない。
不意の急襲で体勢が崩れた今がチャンスだ。
「うおぉぉぉぉ!」
ステータスの全てを振り絞った、最強の力をクレスレブに込める。
白銀の刀身が魔力を纏う。白く発光し、放った光がまるで巨大な剣のように形作られていく。その切っ先の長さは優に二倍以上はあろうか。
これが本当に、最後の一撃だとばかりに、今出せる力の全てを注ぎ込む。
バーゼンの背後にいたヴェーナがさっと横に下がるのを見て、俺は一切の迷いなく、クレスレブを全力で振り下ろした。
『ダメージ1000 残りHP0』
魔力の光の剣につぶされたバーゼンの頭上に、勝利を告げるように、無機質なダメージ表記が浮かんだ。
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