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○4章 役所へ行こう
-12『圧倒的な差』
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「あたしがやるわ」
魔法で槍を取り出したヴェーナが、いつになく力のこもった声で言った。
歯を食いしばるようにしてバーゼンを睨んでいる。その表情は、獲物に食らいつこうとする獅子のように険しい。
「おあつらえ向きの経験値。魔王にぐっと近づくわね」
そうか。
これほどの強敵ならば、ヴェーナには倒すメリットがある。
いや、そもそもバーゼンは魔王なのだから、彼女を倒すことでヴェーナもその資格を得られるのではないか。そうすれば俺を殺す必要だってなくなる。
「お前、まさか俺を想ってやる気を」
「念のためにその次はあんたも殺すから」
そっちの殺る気かーい。
ふざけんな。少しでも見直そうとした俺の気持ちを返せ。
まあ何はともあれ、やる気を出してくれたのはいいことだ。
「よし、ここは二人で――」
そう俺が声をかけるより早く、ヴェーナは槍を片手に駆け出す。まったく、どこまでも自分勝手な奴だ。
「魔王、覚悟!」
「威勢は合格だな!」
まっすぐに突っ込んだヴェーナの初撃をバーゼンが受け止め、真正面から組み合った二人の熱い火花が交錯した。
槍の利点はその間合いの長さ。
咄嗟に半歩下がったヴェーナが、相手のリーチの外から突きを繰り出す。
直線の動き。これを剣で受けるのは難しい。
しかしバーゼンはいとも容易く、突出した矛先を剣の柄で弾いて受け流した。
腕が大きく振られる形となって隙だらけになったヴェーナの懐に、バーゼンの返しの刃が襲い掛かる。それをヴェーナは、両肩を突き出して胸部をへこませることでどうにか回避してみせた。
少しでも胸が豊かだったら死んでいた。絶壁でよかったな、ヴェーナ。
「何か言った?」
「な、なにも」
戦いの最中にも関わらず気取られ、ぎろりと睨まれた。その凄んだ殺気だけでダメージを受けそうなくらいに鋭かった。
しかし、
「余所見している場合かい」
バーゼンがその隙を見逃すはずがない。
視線が逸れた一瞬のうちに距離を詰めて襲い掛かる。
槍の優位をなくしたヴェーナは、どうにかバーゼンの剣戟を受け止めるだけで精一杯だった。しかし圧倒的なステータス差の前では、その防御も容易く崩れる。
「きゃあっ!」
相手の勢いを殺せず、後ろに倒れこむヴェーナ。すかさず駆け寄って二の刃を繰り出すバーゼンだが、しかしその刃先は、彼女に降り注ぐ直前に遮られた。
「ほう」
剣戟を防いだのは、白銀の刃先を煌かせた魔剣、クレスレブ。ヴェーナの危地に俺が急いで駆けつけ、間に割って入ったのだ。かろうじてヴェーナへの一撃は防げたものの、その剣の重さに、気を抜くと肩が外されそうな力を感じた。
ステータスに寄った力任せにバーゼンの剣を押し退ける。
「俺だっているんだぜ」
「ああ、忘れてはいないさ。眼中になかっただけでね」
「へっ、余裕だな」
あまりに舐められすぎて苛立ちすら覚えてくる。
だが、そう思うだけ、俺の心はまだ挫けていないということだ。
「邪魔しないで」
唇を噛み締めて立ち上がったヴェーナがそう強がる。
「あんたがあたしを守り理由なんてないじゃない。あたしが死んだらいい厄介払いになるのに、なんで」
どこまでも不思議そうに小首を傾げるヴェーナ。
だがそんな彼女に、俺は柔らかな笑顔を投げかけた。
「仲間がやられててぼうっと見てるわけにはいかないだろ」
「なか……ま……」
そうだ。
出会いも、理由も本当にふざけたものだったけれど。なんだかんだ俺たちは一緒にいて、一緒に旅してきた。なんともふざけたメンバーで。
ヴェーナが悪い奴ではないことを俺は知っている。虐げられた獣人の少女のために激昂できることも。ミュンやスクーデリアたちといると、本当に純朴な少女になることも。
「俺の命を狙ってくる物騒な奴だが、同じ釜の飯を食べて、同じ屋根の下で寝て。なんだかんだ俺たちのクエストも手伝ってくれる。それってもう、立派な仲間じゃねえか」
そんな奴がピンチになってるんだ。助けない理由がどこにある。
「俺に任せろ、ヴェーナ」
絶対に勝つ。
勝って、エルたちを解放するんだ。
バーゼンの言っていた保護は、確かにある意味ではその通りなのだろう。獣人たちを邪険に思う人だって少なからずいる。けれど、そこにいたがっていた獣人たちの意思を無視してまで閉じ込めるのは間違っている。
短い間だけど、ピカルさんの酒場で楽しそうに働いていたエルの姿。あの時のエルは、誰かに強制されているわけでもなく、純粋に笑顔を浮かべて働いていた。
それを奪っていい権利なんて、いくら領主だろうが持てるはずがない。
「バーゼン。お前の幻想は俺が打ち砕くぜ」
「威勢はみんな立派だが。果たしてその中身はどうかな」
「見せてやるよ」
今度は油断しない。
自分に足りない経験の差を、ステータス差で埋めてやる。
「いくぜ」
「こい」
バーゼンが剣を構えなおすより早く、俺は自分の足元にフレイムを打ち込んだ。
マリーの時と同じ作戦だ
まず第一に相手の視界を奪う。これで俺の行動は予測できないはず。
「もう一度……」
呟くようにそう漏らし、俺はまたフレイムを、今度はバーゼンのいた場所へ向かって撃ち込んだ。
火球の風圧で噴煙が晴れる。
「……っ?!」
火球が撃ち出された先にバーゼンの姿はなかった。そのことに気付くのとほぼ同時に、まだ視界が晴れ切っていない左側からバーゼンが飛び出してくる。
「足を止めていれば、自ら自分の位置を教えているようなものだよ」
「……くっ!」
バーゼンの斬りかかりを寸での所で受け止めたが、体勢が悪く、踏ん張れずに倒れこむ。わざと大袈裟に距離を稼いで倒れることで、バーゼンの二撃目の振り下ろしをどうにかかわすことができた。
だが追撃に容赦はない。
間髪を入れずに追い討ちの突き。
さすがにそれは見切っていた俺は、クレスレブの刀身でそれを弾き、返しの刃を差し込んだ。
いったか、と思う程度には手ごたえがあった。だがその感触を与えたのは、彼女の腕の篭手だった。受け止められたクレスレブが押し返され、生じた隙に、一切の無駄のないバーゼンの刺突に左腕を貫かれた。
『ダメージ3 残りHP5』
「ほう。思いのほか固いな」
続けてバーゼンのもう一撃。必死に身を捩ったものの、脇腹をかすった。
『ダメージ1 残りHP4』
ダメージが保障されているせいでかすり傷すら致命になりかねない。
「これならどうだ」
力任せにクレスレブを投擲する。
だがバーゼンもそれを回避した――はずのクレスレブが背後から再び襲い掛かる。
ヴェーナが首筋に刺してきた針がまだ残っていたのだ。それと魔剣の呪いを利用した奇怪な戦法。
さすがのバーゼンもそれは予想外だったのか、初めて驚愕に表情を崩す。だがそれも最初だけで、冷静にその飛翔する刃を剣で弾いていた。
ならばもう一回、と繰り返す。
何度も、何度も。
投げては引き戻して。牽制にフレイムを撃ちこんで、その直後にまた投げて。
しかし二度も虚はつけず、バーゼンは俺の攻撃のことごとくを見切っていた。
通用していない。さすがの魔王か。
息を切らせながら、俺は咄嗟に距離をとった。
「もうへばったのかい」
「へっ。まさか。まだ準備運動だよ」
「それは凄い」
口ばかりは達者に動いてくれるのに、剣の冴えはさっぱりだ。これでは最強ステータスの意味がない。
一撃。
ただ全力の一撃だけでもぶつけられたら。
その隙は、ないのか。
「ぼうっとしていると死んでしまうよ?」
その一瞬の考え事を見抜かれていたかのように、バーゼンが懐まで詰め寄ってくる。気迫のこもった顔が瞬間的に眼前に迫り、物怖じして足が震えそうになった。
バーゼンの素早い横薙ぎ。
退いたら駄目だ。
気持ちまで負けたら何も残らない。
「うおおぉ!」
あえて俺からも前に突き進んで剣を振る。切っ先が火花を散らせて組み合った。
俺は力任せにバーゼンを押し返した。物怖じせずに、ただ実直に打ち込む。
絶え間なくがむしゃらに剣を振るう俺の猛攻に、バーゼンが初めて足を僅かに引かせた。
いける。
俺には最強ステータスだってある。力では負けていない。
このまま押し切って、一度の隙に全力を叩き込めれば――。
しかしバーゼンだって手を緩めない。
力の入りすぎた俺の隙を見ればすかさず剣を突き立ててくる。
膝元をかすった一撃。
『ダメージ1 残りHP4』
だが退かない。
構わず剣を振るって押し切ろうとする。
振り下ろした剣を受け止められ、その間に脇腹に蹴りを入れられた。
『ダメージ1 残りHP3』
ダメージは低い。まだいける。
一歩も退かない俺の連続の攻撃を受けて、バーゼンの足は少しずつ壁際へと押され始めている。
一撃だ。
決めれば勝てる。俺の、最強の力で。
『ダメージ1 残りHP2
ダメージ1 残りHP1』
攻撃を受けながらも、ついにバーゼンを壁際まで追い詰めた。
避けるスペースはない。身を翻す暇も与えない。ここで、渾身の一撃で決める。
フレイム以上の、最大の力を込めた魔法。それをクレスレブに乗せて叩き切る。
「いい気迫だ」と、壁を背にして行き場をなくしたバーゼンが微笑を浮かべた。
「へへっ。やられてばっかなのはイヤなもんでね」
「そうか。なら、申し訳ないな」
「え?」
組み合った剣を互いに強く弾き、半歩ずつ下がった瞬間だった。
「奥の手とは最後まで隠しておくものだよ」
「…………? っ、しまった!」
気付くのが遅れた。
互いに剣を弾きあったその刹那、バーゼンはもう片方の手に魔力を蓄えていた。上手く体で隠すように。その溜められた魔力が、バーゼンの手から、巨大な黒炎の魔法弾となって射出された。
完全に不意をつかれた魔法攻撃。
ずっと彼女が剣戟にばかり頼っていたから、その可能性を失念していた。
魔王という称号を得るほどの実力者。
魔法の一つや二つ、使役できてもおかしくはない。
完全に虚をつかれた俺は、もはや手足の一つも動かせなかった。クレスレブで魔法を切り裂く暇もない。
直撃。
俺にもうHPは残されていない。
死をもたらす禍々しい炎が俺の視界を覆い尽くそうとした時だった。
瞬間、何かが俺の目の前を遮った。
――ヴェーナだった。
体を広げて、まるで俺の盾になるように、その黒炎の魔法を一身に受けていた。灼熱の炎が小柄な体を包む。
『ダメージ500 残りHP0』
「ヴェーナ!」
俺の叫び声も空しく、身を黒く焦がしたヴェーナは眠るように静かにその場へ倒れこんだ。
「そんな……」
明らかな致命。
ヴェーナのHPは、無惨にも一瞬で溶けた。暗殺目標である俺を庇って。
「おい、嘘だろ」
地面に突っ伏すように転がったヴェーナの体を見て、俺は絶望に歪んだ悲壮の顔を浮かべる。
「ヴェーナ……ヴェーナぁぁぁぁ!」
しかし必死の慟哭を漏らす俺の隣で、バーゼンはたんたんと、鈍色の刃を狙い済ませていた。
魔法で槍を取り出したヴェーナが、いつになく力のこもった声で言った。
歯を食いしばるようにしてバーゼンを睨んでいる。その表情は、獲物に食らいつこうとする獅子のように険しい。
「おあつらえ向きの経験値。魔王にぐっと近づくわね」
そうか。
これほどの強敵ならば、ヴェーナには倒すメリットがある。
いや、そもそもバーゼンは魔王なのだから、彼女を倒すことでヴェーナもその資格を得られるのではないか。そうすれば俺を殺す必要だってなくなる。
「お前、まさか俺を想ってやる気を」
「念のためにその次はあんたも殺すから」
そっちの殺る気かーい。
ふざけんな。少しでも見直そうとした俺の気持ちを返せ。
まあ何はともあれ、やる気を出してくれたのはいいことだ。
「よし、ここは二人で――」
そう俺が声をかけるより早く、ヴェーナは槍を片手に駆け出す。まったく、どこまでも自分勝手な奴だ。
「魔王、覚悟!」
「威勢は合格だな!」
まっすぐに突っ込んだヴェーナの初撃をバーゼンが受け止め、真正面から組み合った二人の熱い火花が交錯した。
槍の利点はその間合いの長さ。
咄嗟に半歩下がったヴェーナが、相手のリーチの外から突きを繰り出す。
直線の動き。これを剣で受けるのは難しい。
しかしバーゼンはいとも容易く、突出した矛先を剣の柄で弾いて受け流した。
腕が大きく振られる形となって隙だらけになったヴェーナの懐に、バーゼンの返しの刃が襲い掛かる。それをヴェーナは、両肩を突き出して胸部をへこませることでどうにか回避してみせた。
少しでも胸が豊かだったら死んでいた。絶壁でよかったな、ヴェーナ。
「何か言った?」
「な、なにも」
戦いの最中にも関わらず気取られ、ぎろりと睨まれた。その凄んだ殺気だけでダメージを受けそうなくらいに鋭かった。
しかし、
「余所見している場合かい」
バーゼンがその隙を見逃すはずがない。
視線が逸れた一瞬のうちに距離を詰めて襲い掛かる。
槍の優位をなくしたヴェーナは、どうにかバーゼンの剣戟を受け止めるだけで精一杯だった。しかし圧倒的なステータス差の前では、その防御も容易く崩れる。
「きゃあっ!」
相手の勢いを殺せず、後ろに倒れこむヴェーナ。すかさず駆け寄って二の刃を繰り出すバーゼンだが、しかしその刃先は、彼女に降り注ぐ直前に遮られた。
「ほう」
剣戟を防いだのは、白銀の刃先を煌かせた魔剣、クレスレブ。ヴェーナの危地に俺が急いで駆けつけ、間に割って入ったのだ。かろうじてヴェーナへの一撃は防げたものの、その剣の重さに、気を抜くと肩が外されそうな力を感じた。
ステータスに寄った力任せにバーゼンの剣を押し退ける。
「俺だっているんだぜ」
「ああ、忘れてはいないさ。眼中になかっただけでね」
「へっ、余裕だな」
あまりに舐められすぎて苛立ちすら覚えてくる。
だが、そう思うだけ、俺の心はまだ挫けていないということだ。
「邪魔しないで」
唇を噛み締めて立ち上がったヴェーナがそう強がる。
「あんたがあたしを守り理由なんてないじゃない。あたしが死んだらいい厄介払いになるのに、なんで」
どこまでも不思議そうに小首を傾げるヴェーナ。
だがそんな彼女に、俺は柔らかな笑顔を投げかけた。
「仲間がやられててぼうっと見てるわけにはいかないだろ」
「なか……ま……」
そうだ。
出会いも、理由も本当にふざけたものだったけれど。なんだかんだ俺たちは一緒にいて、一緒に旅してきた。なんともふざけたメンバーで。
ヴェーナが悪い奴ではないことを俺は知っている。虐げられた獣人の少女のために激昂できることも。ミュンやスクーデリアたちといると、本当に純朴な少女になることも。
「俺の命を狙ってくる物騒な奴だが、同じ釜の飯を食べて、同じ屋根の下で寝て。なんだかんだ俺たちのクエストも手伝ってくれる。それってもう、立派な仲間じゃねえか」
そんな奴がピンチになってるんだ。助けない理由がどこにある。
「俺に任せろ、ヴェーナ」
絶対に勝つ。
勝って、エルたちを解放するんだ。
バーゼンの言っていた保護は、確かにある意味ではその通りなのだろう。獣人たちを邪険に思う人だって少なからずいる。けれど、そこにいたがっていた獣人たちの意思を無視してまで閉じ込めるのは間違っている。
短い間だけど、ピカルさんの酒場で楽しそうに働いていたエルの姿。あの時のエルは、誰かに強制されているわけでもなく、純粋に笑顔を浮かべて働いていた。
それを奪っていい権利なんて、いくら領主だろうが持てるはずがない。
「バーゼン。お前の幻想は俺が打ち砕くぜ」
「威勢はみんな立派だが。果たしてその中身はどうかな」
「見せてやるよ」
今度は油断しない。
自分に足りない経験の差を、ステータス差で埋めてやる。
「いくぜ」
「こい」
バーゼンが剣を構えなおすより早く、俺は自分の足元にフレイムを打ち込んだ。
マリーの時と同じ作戦だ
まず第一に相手の視界を奪う。これで俺の行動は予測できないはず。
「もう一度……」
呟くようにそう漏らし、俺はまたフレイムを、今度はバーゼンのいた場所へ向かって撃ち込んだ。
火球の風圧で噴煙が晴れる。
「……っ?!」
火球が撃ち出された先にバーゼンの姿はなかった。そのことに気付くのとほぼ同時に、まだ視界が晴れ切っていない左側からバーゼンが飛び出してくる。
「足を止めていれば、自ら自分の位置を教えているようなものだよ」
「……くっ!」
バーゼンの斬りかかりを寸での所で受け止めたが、体勢が悪く、踏ん張れずに倒れこむ。わざと大袈裟に距離を稼いで倒れることで、バーゼンの二撃目の振り下ろしをどうにかかわすことができた。
だが追撃に容赦はない。
間髪を入れずに追い討ちの突き。
さすがにそれは見切っていた俺は、クレスレブの刀身でそれを弾き、返しの刃を差し込んだ。
いったか、と思う程度には手ごたえがあった。だがその感触を与えたのは、彼女の腕の篭手だった。受け止められたクレスレブが押し返され、生じた隙に、一切の無駄のないバーゼンの刺突に左腕を貫かれた。
『ダメージ3 残りHP5』
「ほう。思いのほか固いな」
続けてバーゼンのもう一撃。必死に身を捩ったものの、脇腹をかすった。
『ダメージ1 残りHP4』
ダメージが保障されているせいでかすり傷すら致命になりかねない。
「これならどうだ」
力任せにクレスレブを投擲する。
だがバーゼンもそれを回避した――はずのクレスレブが背後から再び襲い掛かる。
ヴェーナが首筋に刺してきた針がまだ残っていたのだ。それと魔剣の呪いを利用した奇怪な戦法。
さすがのバーゼンもそれは予想外だったのか、初めて驚愕に表情を崩す。だがそれも最初だけで、冷静にその飛翔する刃を剣で弾いていた。
ならばもう一回、と繰り返す。
何度も、何度も。
投げては引き戻して。牽制にフレイムを撃ちこんで、その直後にまた投げて。
しかし二度も虚はつけず、バーゼンは俺の攻撃のことごとくを見切っていた。
通用していない。さすがの魔王か。
息を切らせながら、俺は咄嗟に距離をとった。
「もうへばったのかい」
「へっ。まさか。まだ準備運動だよ」
「それは凄い」
口ばかりは達者に動いてくれるのに、剣の冴えはさっぱりだ。これでは最強ステータスの意味がない。
一撃。
ただ全力の一撃だけでもぶつけられたら。
その隙は、ないのか。
「ぼうっとしていると死んでしまうよ?」
その一瞬の考え事を見抜かれていたかのように、バーゼンが懐まで詰め寄ってくる。気迫のこもった顔が瞬間的に眼前に迫り、物怖じして足が震えそうになった。
バーゼンの素早い横薙ぎ。
退いたら駄目だ。
気持ちまで負けたら何も残らない。
「うおおぉ!」
あえて俺からも前に突き進んで剣を振る。切っ先が火花を散らせて組み合った。
俺は力任せにバーゼンを押し返した。物怖じせずに、ただ実直に打ち込む。
絶え間なくがむしゃらに剣を振るう俺の猛攻に、バーゼンが初めて足を僅かに引かせた。
いける。
俺には最強ステータスだってある。力では負けていない。
このまま押し切って、一度の隙に全力を叩き込めれば――。
しかしバーゼンだって手を緩めない。
力の入りすぎた俺の隙を見ればすかさず剣を突き立ててくる。
膝元をかすった一撃。
『ダメージ1 残りHP4』
だが退かない。
構わず剣を振るって押し切ろうとする。
振り下ろした剣を受け止められ、その間に脇腹に蹴りを入れられた。
『ダメージ1 残りHP3』
ダメージは低い。まだいける。
一歩も退かない俺の連続の攻撃を受けて、バーゼンの足は少しずつ壁際へと押され始めている。
一撃だ。
決めれば勝てる。俺の、最強の力で。
『ダメージ1 残りHP2
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攻撃を受けながらも、ついにバーゼンを壁際まで追い詰めた。
避けるスペースはない。身を翻す暇も与えない。ここで、渾身の一撃で決める。
フレイム以上の、最大の力を込めた魔法。それをクレスレブに乗せて叩き切る。
「いい気迫だ」と、壁を背にして行き場をなくしたバーゼンが微笑を浮かべた。
「へへっ。やられてばっかなのはイヤなもんでね」
「そうか。なら、申し訳ないな」
「え?」
組み合った剣を互いに強く弾き、半歩ずつ下がった瞬間だった。
「奥の手とは最後まで隠しておくものだよ」
「…………? っ、しまった!」
気付くのが遅れた。
互いに剣を弾きあったその刹那、バーゼンはもう片方の手に魔力を蓄えていた。上手く体で隠すように。その溜められた魔力が、バーゼンの手から、巨大な黒炎の魔法弾となって射出された。
完全に不意をつかれた魔法攻撃。
ずっと彼女が剣戟にばかり頼っていたから、その可能性を失念していた。
魔王という称号を得るほどの実力者。
魔法の一つや二つ、使役できてもおかしくはない。
完全に虚をつかれた俺は、もはや手足の一つも動かせなかった。クレスレブで魔法を切り裂く暇もない。
直撃。
俺にもうHPは残されていない。
死をもたらす禍々しい炎が俺の視界を覆い尽くそうとした時だった。
瞬間、何かが俺の目の前を遮った。
――ヴェーナだった。
体を広げて、まるで俺の盾になるように、その黒炎の魔法を一身に受けていた。灼熱の炎が小柄な体を包む。
『ダメージ500 残りHP0』
「ヴェーナ!」
俺の叫び声も空しく、身を黒く焦がしたヴェーナは眠るように静かにその場へ倒れこんだ。
「そんな……」
明らかな致命。
ヴェーナのHPは、無惨にも一瞬で溶けた。暗殺目標である俺を庇って。
「おい、嘘だろ」
地面に突っ伏すように転がったヴェーナの体を見て、俺は絶望に歪んだ悲壮の顔を浮かべる。
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そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
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