ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ

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○4章 役所へ行こう

 -11『バーゼン』

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 いくら大きな町の纏め上げる実力者といえども、俺の最強ステータスの前には赤子のようなものだ。

 そう思っていた俺の自信は、瞬く間に打ち砕かれることとなった。

 カンストした攻撃力。
 雑魚ならば明らかなオーバーキルを見舞える最強の矛。

 だが――。

「どうした。当たらなければ意味がないぞ」

 早々に間合いを詰めてクレスレブを振り下ろした俺に、バーゼンは余裕綽々と身を翻して囁いた。

 決して遅い振りではなかった。不意もつけていたと思う。
 しかしその一太刀を、バーゼンに表情一つ崩さずかわされた。

「まずは挨拶だから焦るなって」
「そうか。それではこちらもっ!」

 片足で踏ん張りをつけ、すかさず漆黒の刃を振り返してくる。鋭い横の一閃。これもやはり動きが早く、咄嗟に後ろに下がった俺の右腕を掠めた。

  『ダメージ1  残りHP8』

 まさに光のような速さ。その様は韋駄天。

「くそっ」
「まだまだだよ」

 息つく暇も与えてくれず、バーゼンが更に踏み込んでくる。

 距離をとって下がったつもりなのにそれが一瞬にして詰められる。咄嗟にクレスレブを胸に掲げて一撃を受け止めたが、受けきれず、俺の体は後方数メートルへと吹き飛ばされてしまった。

 乱雑に床に転がされる。
 ダメージこそなかったが、明らかな傷がつけられた。そう、圧倒的強者であるという恐怖が、俺の心に刻み付けられていた。

「マジか。なんでこんなに強いんだ」

 俺のステータスはカンストしている。
 攻撃力だって最強。防御力だって最強。

 けれど俺に圧倒的に足りないもの。

 それは、勘だ。
 瞬時に判断するその経験値の差が、そこに明確な壁として顕在していた。

「あらあら、穏やかじゃないわねぇ」
「加勢するぞ、親友よ」

 スクーデリアとマルコムが入れ替わるように前に出た。

 さすがにあの一瞬だけでもバーゼンが油断ならない相手だと悟ったのだろう。いつになく二人も真面目な表情だ。

 しかし二人を前にしてもバーゼンの余裕は崩れない。

「火球!」

 スクーデリアが魔法の火炎弾を放つ。
 本来の力こそ抑制されているものの、ドラゴンのブレスは強力だ。

 しかしやはり、バーゼンはそれを軽快なステップでかわしてみせる。だが横に跳んだ先には、泥まみれで締まらない顔をしたマルコムが回りこんでいた。

「いくらレディが相手だろうが、可憐な少女たちを苦しめるなら放ってはおけん」
「おっと、汚い」

 マルコムの剣の切っ先が振り下ろされるより早く、バーゼンが靴底でマルコムの腹を蹴り飛ばす。

 マルコムは咄嗟に片腕の篭手で防いだものの、遥か遠くの壁にまで叩きつけられてしまった。

  『ダメージ209 スキル発動 残りHP1』

「汚い手ではあの子たちを愛でられないじゃないか……ん?」

 途端、彼女の頭上。
 なにかが天井を遮り、影を落とす。

 マルコムに向いていた一瞬の隙を逃さず、スクーデリアが上空から飛び込んでいた。小さな竜の翼で風を切り、懐に入り込んだスクーデリアは、すかさず自らの爪をむき出しにして切り裂きにかかる。

 だが、

「竜の亜人か。ふむ、これもまた愛らしい」

 魔法で硬質化されたスクーデリアの爪はバーゼンの柄によって受け止められた。竜の一撃をいとも容易く受け止めながら涼しい顔を浮かべるバーゼン。その圧倒さに、普段おっとりとしたスクーデリアも顔をしかめさせる。

「私が勝てば、きみももふもふさせてくれるのかな」
「ふふっ、冗談をぉ」

 鍔競り合う二人。
 しかしスクーデリアの強がった声色に余裕はない。

 ふんっ、とバーゼンが強く押し込むと、ふわりとスクーデリアの体が持ち上げられた。その一瞬の不自由に、再び振りぬいた横薙ぎの切っ先が襲い掛かる。首を逸らせて咄嗟に回避したスクーデリアたが、まるで踊るように身を翻したバーゼンの回し蹴りを横腹にと叩き込まれ、マルコムの倒れている壁際へと吹き飛ばされた。

  『ダメージ7 残りHP3』

「ほう。さすが竜だな、あれを耐えるか。しかしもう起き上がれまい」

 マルコムにかぶさって倒れたスクーデリアに、バーゼンが投げキッスを送る。

 一瞬にして二人もやられた。
 バーゼンの実力は間違いなく本物だ。

 見たところ普通の人間なのに、どうしてあれだけの力があるのか。

「あの女、普通じゃないわね。イヤな魔力がびんびんする」

 そう口を尖らせて言ったのは、一歩下がって傍観していたヴェーナだった。

「イヤな魔力? どういうことだ」
「普通の人間からは感じられない、邪悪な魔力よ」

「ほう、わかる者がいるのか」

 にたり、とバーゼンの口許が持ち上がる。

「おあいにくさま。あたしも同じ畑の人間だから」
「なるほど。さすがに目の前で力を使えば勘付かれるか」

 勘付く?
 いったい何のことだ。
 話についていけない俺がまったくの蚊帳の外みたいじゃないか。

 しかしその疑問は、ヴェーナの一言によって暴かれた。

「貴方、魔王ね」

「なにっ?!」
「ええっ?!」

 思わず声を上げたのは俺とミュンだった。
 バーゼンの方は、まったく動じた様子もなく不敵な笑みを浮かべて頷いていた。

 魔王というのはあれか。
 ヴェーナが目指していて、ドミナータが騙っていた、あの魔王か。

 いや、待て。
 彼女はこの町の領主だぞ。
 人間が多く住むこのフォルンのトップが魔王だった、と?

「おいおいおいおい。一大事じゃねえか!」
「そうですよ! 魔王といえば人類を滅ぼす怖い存在だって、おじい様の遺した書物にも書かれていますよ!」

「私が魔王だったらおかしいかな」
「当たり前だろ。人間の振りしてこの町を牛耳ってたってことか」
「人聞きが悪い。私は人間だよ。ただ普通に統治していただけだ。たまたま、魔王という称号を得ているだけで」

 いや、たまたまで得られるものじゃないだろ。

 ミュンがさっき言っていたように、魔王なんてものは人類から恐れられているものだ。この事実がもし公表されれば、町は一度に大混乱に陥ることだろう。

 畏怖する象徴に統べられていた。
 その事実は、獣人に対する嫌悪以上に違いない。

「バレてしまっては仕方がない。ここは少し、本気で行かなければならないかな。口を止めるために、ね」

 バーゼンの足元から、まるで大地からエネルギーを汲み上げるかのように、黒い靄が漂い身に纏わり始める。それはゆっくりと全身を覆い、その後、霧散した。

 再び現れたバーゼンの姿は、全身に漆黒の鎧を纏い、より歪に曲がった黒剣を携えた、見るからに禍々しいものであった。

 たまらず、俺はアナライズで戦闘力を確認する。

  『攻撃力 999
   防御力 850』

 防御こそ少ないが、攻撃力はカンスト。

 これほどの能力値、マルコムたちが束になって敵わないのも道理だ。それに加え、卓越した戦闘スキル。

 その絶望的な力強さに、俺は無意識に身を竦ませてしまっていた。
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