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○4章 役所へ行こう
-15『スローライフが送りたい』
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「あんた……まさか最初からその魂胆で」
ヴェーナに冷たい目を向けられながら、俺は呆然と、目の前に浮かび出たポップアップを眺めていた。
「……ま、魔王? 俺が?」
「なにとぼけているのよ。継承の儀を済ませたってことは、魔王になるつもりだったってことじゃない」
「いやいや、違う。おかしいだろ。俺は少しもそんなことなんて」
「戦闘を繰り返して経験値を積んだでしょ」
「まあ、エマのクエストをずっとやってたしな」
いや、でもそれは生活のためにやってたわけで。
「産んでくれた両親に思いを馳せたことは?」
「それは……あったような気も。いや、でも今じゃないし。というかアバウトすぎるだろ、それ」
そんなの誰だってするじゃないか。
「魔王を前に、倒すって宣言した」
「……しちゃった」
ヴェーナの仇と思ってつい。いや、でも……。
「それで魔王も倒して、やったぜ、って言った」
「……言っちゃった」
…………。
「極めつけに、さっきお尻を叩いた」
「土を払っただけじゃねえか……っていうか、だからそのふざけたローカルルール感はなんなんだよ!」
事故じゃねえか、こんなの。
当たり屋と変わらないだろ!
断固拒否だ。
俺はスローライフが送りたいんだ。
こんな、平穏の平民生活とは正反対になりそうな称号なんて、断じて反対だ。
「ふざけるな。こんなの無効。誰もそんなもん望んじゃいねえよ!」と叫ぶものの、俺を見る取り巻きたちの目は、一様に冷ややかなものだった。
「親友よ……いや、まさか友と思っていた男が、魔王となることを渇望する悪だったとは!」
「いや、マルコム。違うから。俺は魔王なんてなってないから」
「ならばその授与された称号はなんだ! 正式な段取りを踏まえて得たそれに、なんの偽りがある!」
偽りしかないんですけど!
「そ、そうだ。お前、俺にだって剣は向けないよな。俺とお前の仲だもんな」
あはは、と乾いた笑みをマルコムに向ける。
しかし彼から返ってきたのは、汚物を見るような視線と、構えられた剣先だった。
「お前、仲間なら魔王でも剣を向けないんじゃなかったのか!」
「美少女に限る!」
「この糞勇者!」
ある意味最後までぶれてない奴め。
勢いのまま、じゃれついてくる子犬のように剣を振りかぶってきたマルコムを蹴り飛ばす。そんな様子を、スクーデリアが微笑みながら眺めていた。
「応援するわぁ、魔王様ぁ。勇者様なんてやっつけちゃいましょ」
「なっ、スクーデリアよ! きみは私の味方なのではなかったのか」
「さあ、どうだったかしらぁ」
呑気な調子のスクーデリアの横で、ミュンは今にも卒倒しそうなくらいに顔を青ざめさせている。抱きかかえたポチの首を締まりそうなほど力んでいるようだ。
「え、エイタさんが魔王……わたしのクレスレブも……。それじゃあ、クレスレブは魔王の所有する剣ということに……。これじゃあリリーテナ家を復興させるどころか、悪名を広めることに……あわわわっ」
顎を震わせておどおどしていたミュンだが、しばらくして、
「……はっ。これはもう、魔王の所有する剣としてクレスレブを喧伝するしかないのでは。リリーテナの名を世界中に轟かせることができますし、勇者の家名が少し悪落ちくらいおじい様も許してくださるはず」
もはや目を回しそうなほどに混乱した様子で言うミュンだった。
「おい、しっかりしろミュン。お前が唯一まともな人間なんだから」
「え、エイタさん。私、決めました。エイタさんが魔王の力でこの世を統べるというのでしたら、このミュン・リリーテナ。その家名を世界中に轟かせるべく、最後までお付き合いします!」
「いや、そんなつもりないから」
みんな、俺をなんだと思ってやがるんだ。
魔王なんて称号、たまたま手に入っただけ。俺は決して悪さなんてしたくないし、誰の恨みも買いたくない。ただのんびりとこの世界で暮らせれば文句ないんだ。
「このやろう。この世界に来てからこんなのばっかりだ……」
充実はしているし、社畜のように人間味を失ってはいない。
楽しいこともいっぱいあるし、仲間たちと一緒にいる時間はかけがえのないものだとも思っている。それくらいに、今の俺にはしっくりきていると言えるだろう。
けどさ、違うんだよ。俺が求めているものはさ。
ああ、もう。
頼むから――。
「俺にスローライフを送らせてくれ!」
心の底からの叫びだった。
ヴェーナに冷たい目を向けられながら、俺は呆然と、目の前に浮かび出たポップアップを眺めていた。
「……ま、魔王? 俺が?」
「なにとぼけているのよ。継承の儀を済ませたってことは、魔王になるつもりだったってことじゃない」
「いやいや、違う。おかしいだろ。俺は少しもそんなことなんて」
「戦闘を繰り返して経験値を積んだでしょ」
「まあ、エマのクエストをずっとやってたしな」
いや、でもそれは生活のためにやってたわけで。
「産んでくれた両親に思いを馳せたことは?」
「それは……あったような気も。いや、でも今じゃないし。というかアバウトすぎるだろ、それ」
そんなの誰だってするじゃないか。
「魔王を前に、倒すって宣言した」
「……しちゃった」
ヴェーナの仇と思ってつい。いや、でも……。
「それで魔王も倒して、やったぜ、って言った」
「……言っちゃった」
…………。
「極めつけに、さっきお尻を叩いた」
「土を払っただけじゃねえか……っていうか、だからそのふざけたローカルルール感はなんなんだよ!」
事故じゃねえか、こんなの。
当たり屋と変わらないだろ!
断固拒否だ。
俺はスローライフが送りたいんだ。
こんな、平穏の平民生活とは正反対になりそうな称号なんて、断じて反対だ。
「ふざけるな。こんなの無効。誰もそんなもん望んじゃいねえよ!」と叫ぶものの、俺を見る取り巻きたちの目は、一様に冷ややかなものだった。
「親友よ……いや、まさか友と思っていた男が、魔王となることを渇望する悪だったとは!」
「いや、マルコム。違うから。俺は魔王なんてなってないから」
「ならばその授与された称号はなんだ! 正式な段取りを踏まえて得たそれに、なんの偽りがある!」
偽りしかないんですけど!
「そ、そうだ。お前、俺にだって剣は向けないよな。俺とお前の仲だもんな」
あはは、と乾いた笑みをマルコムに向ける。
しかし彼から返ってきたのは、汚物を見るような視線と、構えられた剣先だった。
「お前、仲間なら魔王でも剣を向けないんじゃなかったのか!」
「美少女に限る!」
「この糞勇者!」
ある意味最後までぶれてない奴め。
勢いのまま、じゃれついてくる子犬のように剣を振りかぶってきたマルコムを蹴り飛ばす。そんな様子を、スクーデリアが微笑みながら眺めていた。
「応援するわぁ、魔王様ぁ。勇者様なんてやっつけちゃいましょ」
「なっ、スクーデリアよ! きみは私の味方なのではなかったのか」
「さあ、どうだったかしらぁ」
呑気な調子のスクーデリアの横で、ミュンは今にも卒倒しそうなくらいに顔を青ざめさせている。抱きかかえたポチの首を締まりそうなほど力んでいるようだ。
「え、エイタさんが魔王……わたしのクレスレブも……。それじゃあ、クレスレブは魔王の所有する剣ということに……。これじゃあリリーテナ家を復興させるどころか、悪名を広めることに……あわわわっ」
顎を震わせておどおどしていたミュンだが、しばらくして、
「……はっ。これはもう、魔王の所有する剣としてクレスレブを喧伝するしかないのでは。リリーテナの名を世界中に轟かせることができますし、勇者の家名が少し悪落ちくらいおじい様も許してくださるはず」
もはや目を回しそうなほどに混乱した様子で言うミュンだった。
「おい、しっかりしろミュン。お前が唯一まともな人間なんだから」
「え、エイタさん。私、決めました。エイタさんが魔王の力でこの世を統べるというのでしたら、このミュン・リリーテナ。その家名を世界中に轟かせるべく、最後までお付き合いします!」
「いや、そんなつもりないから」
みんな、俺をなんだと思ってやがるんだ。
魔王なんて称号、たまたま手に入っただけ。俺は決して悪さなんてしたくないし、誰の恨みも買いたくない。ただのんびりとこの世界で暮らせれば文句ないんだ。
「このやろう。この世界に来てからこんなのばっかりだ……」
充実はしているし、社畜のように人間味を失ってはいない。
楽しいこともいっぱいあるし、仲間たちと一緒にいる時間はかけがえのないものだとも思っている。それくらいに、今の俺にはしっくりきていると言えるだろう。
けどさ、違うんだよ。俺が求めているものはさ。
ああ、もう。
頼むから――。
「俺にスローライフを送らせてくれ!」
心の底からの叫びだった。
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