ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ

文字の大きさ
49 / 49
○エピローグ

 異世界ライフは続いていく

しおりを挟む
 バーゼンとの一件は、結局、何事もなかったかのように市民には伝えられることなく収束した。

 獣人保護の条例も撤回され、半ば軟禁状態だった獣人たちも、今ではもとの生活に戻っている。あまり事件のことを口外しても、獣人の特別視が余計に目をつけられ、無駄に更なる波風をたてかねないと判断したのだろう。

 獣人の自由を保障するという誓約を俺たち、そして獣人代表としてエルと取り交わし、そうして自体は丸く収まったのだった。

「はい、まおー様」

 ピカルさんの酒場でヴェーナたちと夕飯を食べている俺の後ろから、エルがにんまりと口許を緩めて酒を持ってくる。ドキリ、と俺の心臓が高鳴りそうになった。

「おいやめろ。それは秘密だ」
「あ、ごめんなさい。大事な大事な秘密でしたね」

 反省した風に言いつつも、これはわかっていてやってる様子だ。それはすっかりピカルさんたちにも少しずつ気付かれており、

「おう、魔王様よぉ。借金さっさと返せや」
「あ、はい。すみません」

 ネタで魔王を自称している痛い子みたいな扱いだが、まあ、実際はバレているのかどうか怪しいものだ。おそらく事実までは知られていないのだろうが。

 そもそも俺が魔王だと知られれば、こんなところで呑気に酒を飲めてなどいないだろう。

 気付かれないかとヒヤヒヤしたが、しかしそんなことより、酒場の連中はみんなエルが帰ってきたことにばかり夢中の様子だった。

「やっぱりエルちゃんのついでくれた酒は最高だぜ!」
「ピケルの親父の眩しい日の出を眺めながら飲む酒は、泥水を啜るみたいだったからなあ」

「おう、お前ら。好きに言うじゃねえか……」

 こめかみに血管を浮かび上がらせたピケルさんが冒険者の連中に激しいラリアットをかましていく。そんな馬鹿げた光景に周囲からは笑いが飛びかい、ひどく活気付いていた。

 エルや他の獣人の従業員が戻ってきて、こびの酒場もすっかり賑わいを取り戻している。

 そっと、眺めていた俺の手元に一皿のデザートが置かれる。

「あれ。俺、頼んでない――」
「お礼です」

 ふっ、とエルの囁くような吐息が耳元にあたる。その謎の色っぽさとくすぐったさに、ぞわぞわと背筋がざわついた。男の癖に。

 そうして優しく笑んだエルは、ピカルさんのラリアットで卒倒した冒険者たちの介抱に向かっていった。

「一件落着、元通りですね」

 膝上に乗せたポチにご飯を食べさせながらミュンが言う。

「すっかり元通りならよかったんだけどな」と俺は嘆息をつく。その俺の背後では、いきった目を俺に向けながら食事を取るマルコムとヴェーナの姿。隙あらば俺を攻撃しようと、テーブルの下にそれぞれ剣と吹き矢を忍ばせている。

「なんか暗殺者増えたんだが……」
「それだけエイタさんが人気者ってことですよ」
「はぁ。今すぐこの称号を返上したい」

 溜め息が続けて漏れる。
 俺の隣に座っていたスクーデリアが胸を押し当てるように抱き付いてきた。

「勇者なんて放っておけばいいわぁ。魔王様ならあんな男、ちょちょいのちょいでしょうし。一思いに、いますぐあの男を消し炭にしません?」
「物騒なことを言うなスクーデリア。っていうか、公衆の前で魔王って言うな」

「いいじゃなぁい。魔王の象徴であるケルベロスも飼っているんだし。何も恥ずべきことない魔王様よぉ」
「そういう問題じゃない」

 スクーデリアは俺の魔王としての力に取り入ろうとしているのだろう。すっかりマルコムではなく俺にばかり執着するようになっている。そしてあわよくば、マルコムを殺させようとけしかけてくるから面倒くさい。

「なあ、マルコム」
「なんだ、元親友よ」

 ふとマルコムに声をかけてみると、どす黒く濁ったような声が返ってきた。

「俺は別に無害だし、平和的にいこうぜ。仲良くしよう。親友じゃないか」
「元、親友だ」
「どうしてそんなに目の敵にするんだ。アレとはいえ、同じ屋根の下で暮らす仲間だろ」

「いいや、貴様は私から奪い去った」
「何をだよ」
「私のファン第一号をだ!」

 スクーデリアを指出しながら、激昂した様子でマルコムは叫ぶ。

「そこかよ!」と思わず力の限りに突っ込んでしまった。

「魔王などどうでもよい! 私は私のハーレムが壊されることが許せないのだ! お前に私の哀しみがわかるか!」
「わかるかボケ!」

 くっそ下らない理由じゃねえか!
 どこまでいっても変わらない馬鹿で安心はしたが。

 と、そんな騒いだ隙を窺ってヴェーナが吹き矢を飛ばしてきたのを俺は咄嗟に回避した。

「お前もほんと変わらねえな」
「当然」
「あの時は身を挺してまで俺を守ってくれたってのに」
「かっ、勘違いしないで。あんたを殺すのはあたし。誰にもそれを邪魔されたくないだけよ」

 口を尖らせながらヴェーナは言う。

「あたしがあんたを殺すまで、あんたを殺そうとする奴はすべてあたしが退ける。――あんたはあたしのものなんだから」

 ヴェーナの言葉に、俺はふと、思った。

「それって、なんか愛の告白みたいだな」
「なっ?!」

 つまりずっと一緒にいるつもりってことだろう。まるで漫画かなにかの台詞みたいだ。

 途端、ヴェーナの顔が真っ赤に染まっていった。今にも噴火しそうな火山のように煙をくすぶらせ、提灯のように頬を膨らんでいく。

「ば、馬鹿っ! 」

 駆け寄ってきたヴェーナに思い切り殴られた。拳に強化魔法がかけられていて、殴られた頬が驚くほどに痛かった。

「お前っ! 死んだらどうするんだよ!」
「ふん。死んじゃえ!」

 と言うものの、ダメージ表記がない。あれ、どういうわけだ。

「お前、さてはデレたな」
「どういう意味よ!」

 もう一度殴られる。

  『ダメージ1 残りHP9』

 そんなことはなかったか。
 きっとさっきのは何かの間違いだったのだろう。

「あたしは絶対にあんたを殺すから!」
「元親友よ、私もお前を!」
「あらぁ。私は勇者様さえついでに殺せればなんでもいいわぁ」
「わわっ。みなさん、落ち着いてくださいよ!」

 仲間たちが冗談半分本気半分に談笑する。
 そんな光景を、俺は、ひりひりと痛む頬をさすりながら微笑ましく眺めていた。

 ――拝啓、実家の父さん、母さん。

 突然命を狙われたり、多額の借金を背負わされたり、しまいには魔王になんてなっちゃったけど。

 貴方の息子は、なんだかんだでたくましく生きてます。

 剣と魔法の異世界生活。

 この先どうなるかわからない。
 いや、この連中のことだ。どうせまた変なことがいっぱい起こるに違いない。

 けれど――こういうのも悪くないなって、思い始めたり始めなかったり。

 いろいろと面倒ごとは続くだろうけれど、俺は今日も、このどうしようもなく馬鹿げた連中と、この世界で生き続けていくことだろう。

「あ、そうそう」

 突然、背後から手をかけられる。振り向くと、気味が悪いほど満面の笑みを浮かべたエマの姿があった。

 朗らかな顔で彼女が言う。

「いいクエストがあるんだよー。ちょっと受け手がいなくて困っててさー」

 突きつけられたのは一枚の紙切れ。
 それを見て、俺はまた、一際大きな溜め息をついて肩をすくめる。

 テーブルを囲む仲間たちの顔をがらりと見やり、そして、小さく頷いた。

「――それで。どんな依頼なんだ?」


   終
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

翼
2019.04.27

ゲームってこういう一ダメージは確実に喰らいますね

あらすじ見て確かにと思いました!
今から読んでみます!

2019.04.27 矢立まほろ

感想ありがとうございます!
初めて感想をいただいたので凄く嬉しいです!

そうですね。私も、ダメージ1をくらいっていう内容は、私が小さい頃にやったゲームの思い出からきています。他の作者様の作品でも「ゲームあるある」みたいなのをうまく使っているので、私もそれを使えないかと思って書いてみました。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。

解除

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。