最強すぎて誰も近寄れない魔王のボクですが、初めて女の子と手を繋ぎました。手汗ヤバイです

矢立まほろ

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○2章 手汗魔王と天才少女

 -7 『ピンチに駆けつけるあの人です』

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 手を繋いでなければいけないなんて不自由だ。
 今更になってそれを痛感する。

 気軽に湯浴みやトイレなんかに行けないし、食事は左手でさせられるし、手汗が出て迂闊にドキドキできないし、エイミの理不尽な暴力を受けることになるし。

『森で引きこもってたほうがよかったんじゃねえか?』

 心の中で、悪魔の羽を生やしたボクがそう囁いてくる。

『けれど、彼女がいなければ外の世界を知れなかったわ』

 天使の羽を生やしたボクが反論する。

『何言ってんだ。良い事なんてないじゃねえか』
『そんなことないわよ』
『じゃあ言ってみろ』

『女の子の良い香りを間近で嗅いだのは初めてだったじゃない』
『お、おう』

『すべすべの肌に触れた時、柔らかくて気持ちいいって思ったでしょう』
『ま、まあな』

『さっき手首を舐められたとき、内心ちょっと喜んでたじゃない』
『あれはドキリとした』

 天使のボクにそそのかされ、悪魔のボクが鼻血を垂らす。

 ――もっと頑張れよ、悪魔のボク! これじゃあまるでボクがスケベの化身みたいじゃないか!

「なにしてるの。顔がサトイモみたいになってるわよ」

 急にエイミに横から覗きこまれ、ボクは慌てて顔を引き締めた。というか、サトイモみたいってどんな顔なのか。

 宿を出たボクたちは、次の町に向かうために買出しをしている最中だ。リリオが率先して店を探して歩き回ってくれている。

「こちらに香辛料が売ってありますです。調達しておきますです」

 市場の人混みを掻き分けながら進む彼女の背を追って、ボクたちはゆっくりと追いかけていった。

 食料に水。
 ひとまずこれさえ揃えば少しの旅に支障はないだろう。

 できれば路馬車も用意できればいいのだけれど、借りるにはそれなりにお金もかかる。

「必要のない出費はさけるべきよ。足があるんだから使えばいいじゃない」と言うエイミによって、歩きで向かうことになった。

「しっかり準備できましたです」

 大量の食材などを鞄に詰め終え、リリオが元気よく背負い込む。

 そろそろ町を出ようか、という時だった。

 ――ズドン、と響くような音が聞こえてきた。

「ん? なに、今の音」
「どうかしたの?」
「あれ、さっき音が聞こえなかった?」

 エイミが首をかしげて返してきたので、聞き間違いだったのだろうかと不安になる。

 確かに聞こえた気がするけど。

「気のせいだったのかな……」

 ――きゃああっ。

 今度は短い悲鳴のような声が聞こえた。
 けれどエイミたちはまったく気付いていないようだ。

 やっぱり何かが起こっている。そんな胸騒ぎがする。

「エイミ、リリオ。ちょっとごめん」

 ボクはエイミの手を引いて、その音が聞こえたと思った方向へ歩みだした。

 たどり着いたのは路地を奥へ進んでいった薄暗い広場だった。

「あ!」

 広場に顔を出した瞬間、慌ててボクとエイミは身体を引っ込める。
 そこには、漆黒の外套を深く被りこんだ二人組みの男たちが何かをしていた。

「おい、こいつはどうする」
「とりあえず一緒にすればいいんじゃないか」

 なにやら声を潜めて話し込んでいる様子だ。
 あからさまに怪しい雰囲気のある彼らだが、ボクたちの注目は、そんな彼らの足元へと注がれていた。

「いよ、っと。こいつ軽いな。ガキじゃあ高くは買い取ってもらえないんじゃないか」

 男が足元に横たわった何かを担ぎ上げる。

「……ミレーナっ!」

 その担がれた影を見て、ボクは思わず声を張ってしまいそうになった。咄嗟にエイミに口許をふさがれ、どうにか堪えることに成功する。

 男が肩に担ぎ上げていたのは、あの飯店の少女、ミレーナだった。

「ガキでもまあまあの値段は付くさ。それに、あの方は老若男女問わず、今はとにかく数が欲しいって言ってたんだ。悪い値はつかないだろうよ」
「それならいいんだが」

「それにしても、このガキもついてねえな。俺達に『誘拐犯だ』って難癖つけて絡んでこなけりゃ、五体満足で平和な生活をできてたもんだろうに」
「結局、誘拐してるから間違ってはねえんだけどな」

 男たちの下品な笑いが路地裏に響く。

 話から推察するに、どうやらミレーナはあれからも手当たり次第に声をかけ続けていたのだろう。そして運よく、いや、運悪く本物の誘拐犯に遭遇してしまったというわけだ。

 気を失ったミレーナを、男は傍に置いた馬車の荷台へと乗せようとする。

「このままじゃまずいよ。あの子まで攫われちゃう」
「わかってるわ。でも、ミレーナが近すぎると迂闊に力を解放できない」

 すぐに飛び出そうにも難しい状況。しかし、男たちは今にもミレーナを馬車へ積みこんでしまいそうだ。そのまま走り去られたら追いかける足が無い。

 どうやって出ようかと迷っていると、

「待ちたまえ!」

 唐突に声が響き、男たちの視線が一方へ向く。ボクたちも思わずその方向へ顔を向けた。

 その先には、路地裏の、わざわざ日が差し込んでいる数少ない場所を選んで佇む青年の姿。

「この世で最も尊ぶべきもの。それは愛の化身、聖母の贈り物。そう、それはいたいけな少女。麗しい悲鳴が響けば、二キロ先でも聞きつけ駆けつける。哀を知り、愛を抱き、キミに会いに来た。それがこの俺様、ユークラストバルト、だぜ!」

 ――またお前か!

 ちゃらい金髪の髪をなびかせながら、白い歯を見せて微笑むユーなんとかの姿がそこにあった。

 こっそり隠れていたはずのボクたちにウインクをしてくる。それを見たエイミは死んだ魚のような顔を返していた。

「なんだお前たちは!」

 外套の男が激昂したように叫ぶ。
 おまけにボクたちまで見つかってしまったようだ。

「ふふっ。貴様らのような外道にこの俺様が名乗る名前などない!」

 さっき名乗ったばかりなのに。

 ああそうか。
 馬鹿なんだ、このユーなんとかさん。

 ユーなんとかに注意が逸れた隙を付いて、ボクとエイミはこっそりと馬車へ歩み寄る。しかし気付かれ、外套の男は短剣を抜いて身構えた。

 しまった。
 無闇に力を解放できないこの状況だと、ボクはただの非力な子供だし、エイミも普通の女の子だ。簡単に返り討ちにあいかねない。

「見られた以上、お前らを生かして帰す訳にはいかねえからな。覚悟しろ――ふごぉ!」

 ボクたちへと切りかかろうとした外套の男が不意に腑抜けた声を漏らし、それと同時に小気味いい金属音が響いた。

 男が膝をついて崩れ落ちる。

「だ、大丈夫でございますですか」

 可愛らしい声と共に現れたのはリリオだった。
 買ったばかりの鍋を片手に構え、きょとんとした顔でボクたちを見ていた。

 鍋のそこは頭の形に添って凹んでいる。なるほど、あれで後ろから思い切り殴られたらしい。外套の男もすっかり気を失っているようだった。

 獣人はもともと身体能力も高いという。
 本当にボクより優秀な護衛なのかもしれない。

「ちっ、他の仲間か」と、ミレーナを担いでいたもう一人の外套の男が舌を打ち、慌てて馬車に乗ろうとする。

「おおっと。この俺様が逃がすと思っているのかい。見ていてくれお嬢さん。この俺様の素晴らしい活躍を!」

 ユーなんとかが腰元の剣を抜く。
 魔法だけじゃなく剣術まで使えるのか、と見直しかけた直後、

「うっせえ、邪魔だボケ男ぉ!」
「うげぇっ」

 斬りかかろうとした所に思い切り腹を蹴飛ばされ、ユーなんとかはあっさりと地面にのた打ち回った。手から弾け飛んだ彼の剣も、軽い音を鳴らして地面に落ちる。よく見ると刃もないレプリカだ。

「お嬢さん……俺の勇姿、見れくれたかい」
「なにがしたかったのさ!」

 思わずボクは蔑んだ目で突っ込んでしまった。

 地に横たわって何故か満足したような達成感に溢れているユーなんとかにエイミは見向きもせず、ボクに囁く。
「一瞬だけ手を離すわ」
「わかった」

 直後、エイミの手が微かに離れた。
 瞬間的にボクの周りに黒い靄が立ちこめ、目の前にいた外套の男を包み込む。

「……うぐ」と外套の男の呻きが漏れた。

 すぐに手を繋いで無差別オーラを取り払ったが、男の力を削ぐには十分だった。男の身体がぐらつき、担いでいたミレーナが地面に落ちる。

「な、なんだ? 魔法か?」

 状況を理解できていないような男だったが、しかし彼を抑えるには足りなかったらしい。男は咄嗟に身を翻させると、急いで馬車へと飛び乗り、馬を走らせ去っていってしまった。

 いい状況判断力だ。
 地面に落とされたミレーナに気を取られていたボクたちの隙をつかれた。

 走り去った馬車の姿はあっという間に見えなくなってしまった。

「ごめん、逃がしちゃった。ボクの力が扱いづらいから」
「万能じゃないのは仕方ないわ。それを責めるようなものでもない。今はただ、この子が無事で良かったって思いましょう」

 そう言って、エイミは気を失ったミレーナを抱きかかえていた。
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