最強すぎて誰も近寄れない魔王のボクですが、初めて女の子と手を繋ぎました。手汗ヤバイです

矢立まほろ

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○2章 手汗魔王と天才少女

 -8 『少女の優しさを垣間見ました』

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 外套の男と一緒にボクの力を受けてしまったミレーナは、冷や汗を流して少し苦しそうに目をつぶっていた。

「……ごめん。ごめんね、アミー」

 気を失ったままそんなことを呟いていたけれど、しばらくすると、また落ち着いた呼吸で眠るように静かになっていた。

 それから数分もせず、彼女は目を覚ました。

 ゆっくりと瞼が持ち上がる。
 膝枕をするエイミの顔を捉えた瞬間、彼女はぱっと目を見開いて立ち上がった。
 急に動いて血が足りなかったのか、ふらついたところをリリオが咄嗟に支える。

「な、なんじゃ、おぬしら。まさかわらわに変なことをしたのではないじゃろうな」

 強がった風に声を張ってミレーナは言う。
 そんな彼女の頭を、エイミが優しく笑んで撫でた。

 特に何も言ったりはしない。ただ、ひたすら撫でていた。

 エイミなりの励ましや気遣いなのだろうか。

 そんなほんわかした雰囲気を、

「ちっくしょおおお」

 ユーなんとかの品のない声がぶち壊す。

「もう少しで俺様の格好良い所をお嬢さんに見せられるところだったってのに。あと一歩のところでしくじっちまったぜ」

 ――いや、貴方勝手に現れて突っ込んで、あっさり返り討ちにあっただけじゃないですか。

 呆れるボクたちの視線も構わず、ユーなんとかは地団駄を踏むように悔しがり続けていた。

 やがてミレーナも落ち着き、やっと状況を理解できる程度には大人しくなった。

「……わらわを助けてくれた、ということじゃな」
「そうなるわね」
「……そうか。か、感謝するぞ」

 気恥ずかしそうに頬を赤らめ、指先をもじもじさせながらぺこりと頭を下げる。

「かぁわいいですぅ!」とリリオが抱きつき、

「や、やめんか! ちょ、やめ……やめてください」とミレーナが気恥ずかしそうに涙目を浮かべる。

 そんな光景を、ボクとエイミは微笑ましく眺めていた。
 後ろで喧しくしているユーなんとかは聞こえないふりをして。

「よかったね」
「そうね」

 これでとりあえずは一段落といったところだろうか。

「お嬢さん。今度こそは、俺様の華麗なる活躍でお嬢さんの助力になることを約束するぜ。愛に誓って、な」

 きらりと白い歯を輝かせるユーなんとかに、エイミが初めて視線を合わせる。

「あらそう。だったら、今すぐこのことを近くの騎士団か警ら隊にでも伝えてきて頂戴」
「了解だぜ!」

 愛のためなら! と叫びながら、ユーなんとかは喜び勇んで路地の外へと駆け抜けていった。

 そう、まだ問題解決というわけではない。
 それに問題を解決しようにも、逃げ去った馬車の行方もわからない。

 これ以上はボクたちにはどうしようもないだろう。
 騎士団に報告して後のことを任せるのはまったくの妥当だ。

 しかし、

「……いや」

 リリオに抱きつかれたままのミレーナが、奥歯を噛み締めるようにして声を漏らす。

「せっかく見つけたアミーの手がかりなんだもの。こんな……ここで諦めるなんて絶対にいや!」

 それは強い芯のある言葉だった。
 おそらくアミーというのが攫われた親友の名なのだろう。

 どうしてもその子を助けたい。自分が絶対に見つけ出してみせる。

 そんな決意が、彼女の据えられた瞳から滲み出ている。

 しかしエイミは、冷淡そうな目をして言った。

「あなたがどうこうしたところで無意味よ。ただただ顔を突っ込んで、さっきみたいにまた酷い目にあうかもしれない。貴方がやっていることは蛮勇よ。無謀な勇気」
「そ、それは……」

 そのイヤに冷静な彼女の言葉に気圧され、ミレーナは口ごもってしまう。
 しかしすぐにエイミへと目をまっすぐ見据えると、その口許をきりりと結んだ。

「それでも私はアミーを助けるの! 大切な、友達なんだから!」

 改めて意を決したミレーナに、しかしエイミはふふっと微笑を浮かべた。

「じゃあ、行きましょうか」

 不敵にそう笑む。

 てっきり無理だと突き放すのかと思ったのに。

 その急な変わりように拍子抜けするボクたちを余所に、彼女は懐からなにやら小瓶を取り出したのだった。

   ◇

 エイミが取り出したのは小瓶の中に入っている小さな虫だった。

 彼女がそれの蓋を開ける。
 すると中に入っていた虫が羽ばたき、外へと出ようとする。けれど虫の足には紐がつけられていて逃げることはなかった。

 ひたすら一方に向かって飛ぼうとし続けている。

「なにそれ?」
「これはツガイムシというものよ。これのオスは、どれだけ離れていても番になったメスの元へ向かう習性があるの」
「へえ、そうなんだ」

 だから何なのかよくわかっていないけど、相槌を打ってみる。

 エイミはその虫が飛ぼうとしている方向を確認すると、ボクたちを引き連れて町の外へと歩き出した。

「ねえ、どこに行くの」
「さっき、ミレーナが落っこちたいざこざの隙に、ツガイムシの片割れを馬車の荷台に忍ばせておいたの」

「え、ということは」
「このツガイムシの向かう先に、目的の彼らはいるわ」

 まさかそんなことを冷静にやっていたなんて。
 しっかりしているというか、抜け目ないというか。

 エイミらしいところだ。

「あれ、じゃああのユーなんとかは……」
「ああ。うるさかったから遠くに行ってもらっただけよ」

 なんと可哀想なんだ、ユーなんとか。さすがに少し同情する。

 どこまでも自分調子に変わりないエイミに一抹の恐ろしさを感じながら、ボクは彼女のそんな素直さが少し羨ましくもなった。

「それがあればアミーのところに行けるってこと?!」

 リリオを払いのけ、ミレーナが食いつく。

「それはわからないわ。けれど、あの人攫いのところにはたどり着けるはず」
「そっか……そっか」

 じわり、じわりと、ミレーナの口許が緩んでいくのがわかる。

「よ、よし。やはり最強魔術師ミレーナに挫折と言う文字は無かったのじゃ! みなのもの、わらわに続くのじゃ!」

 けろりと機嫌を戻したミレーナは、そう言って高笑いを浮かべながら口調を取り戻し、我先にと前を歩みだしたのだった。

「ちょっと、ミレーナ」
「なんじゃ」
「そっちじゃないわよ」
「ふごぉっ?!」

 空回り気味なのは相変わらずのようだ。
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