最強すぎて誰も近寄れない魔王のボクですが、初めて女の子と手を繋ぎました。手汗ヤバイです

矢立まほろ

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○2章 手汗魔王と天才少女

 -11『それは仕組まれた罠でした』

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「この先よ」

 ツガイムシの誘導によってたどり着いたのは、町からやや離れたところの山間にある小さな坑道跡だった。

 傷んだ柱や、レールの欠けたトロッコの導線がそのまま放置されていて、ずっと昔から使われていない場所なのだとわかる。

「ここ、わらわの父が二十年くらい前に潰れたって言ってたのじゃ」

 ミレーナがそう言う。
 たしかにそれくらいは経っていそうな劣化具合だ。

 けれど奥深く続く行動にはランタンの明かりがのびていて、人のいる気配はそれなりに漂っていた。

「身を隠すにはおあつらえ向きってことね」

 エイミの言葉に、ボクも頷く。

「アンセルと二人で中に入るわ。みんなは少しはなれて待っててくれるかしら」
「いやじゃ! 絶対にわらわも行くのじゃ!」
「そう。だったら自己責任よ」
「もちろんなのじゃ」

 アーセナは頑として引き下がらない様子だった。
 リリオやパーシェルも同じだついてくるつもりらしい。

「お嬢様方にどこまでもついていきますですよ」
「パーシェルは監視の任がありますから。いや、でもちょっと暗いところは怖いんですけど……」

 及び腰になったパーシェルを余所に、ボクたちは坑道の中へと入っていった。

「ま、待ってくださいよー。謀反ですか? パーシェルへの謀反ですかー?!」
「静かにしなさい」
「……はい」

 エイミに怒られ、しょぼんと肩を落とす。そしてボクの服を指先で掴むと、

「監視。そう、監視です。密着した監視は大事ですから」と謎に強がりを見せ付けてくる。

 だが、ガタッ、と暗闇の向こうで何か音がするたび、「ひぇっ!」とパーシェルがボクの服を引いていた。

 監視対象にすがっている姿は監視者としてどうなのだろう。

 等間隔に並ぶランタンの明かりを頼りに坑道の奥へ進んでいくと、やがて少し開けた明るい空間に出た。

 ドーム状になった場所だ。
 トロッコのレールの連結部が中央にあり、そこから更に左右へ延びている。その脇には布の被せられた大きな何かが所狭しに置かれていた。

 採石場かと思ったが、どうやら何か倉庫としても使われていたようだ。

「なにかしら、これ」

 エイミが布を取り払う。
 埃が舞い、全員が深く咳き込んだ。

 そこにあったのは、衝車や投石器だった。

 どうやらここは兵器庫だったらしい。

「な、なんですか、これ」

 パーシェルがボクの裾を引っ張りながら恐る恐る尋ねてくる。知らないらしい。

「こっちの衝車っていうのは門とかを壊すための攻城兵器だよ。それに、こっちの振り子みたいなのは、スプーンの皿みたいになってるところに石をおいて遠くに飛ばす兵器だね」
「ど、どうしてそんなものがここに」

 衝車の先端につけられた大きな鏃がぎらりと光り、ひぃっ、とパーシェルの情けない悲鳴が漏れる。

「……謀反ですか? やっぱり謀反のためですか?」
「違うよ。たぶん」
「こんなの、あたったらお腹に穴が空いちゃいますよぉ」

 人に向かっては使わないから大丈夫なんだけどな、とボクはあえて言わないでおいた。

 それにしてもどうしてこんなに兵器が。
 こういったものは国が管理しているはずだ。

 もしかすると本当に――。

 不思議に思いながら歩いていると、それらの陰に金属の格子が見えた。

「あれは……檻?」

 片隅に、猛獣を入れるためのような大きな鉄の檻が置かれていた。

 それを見たアーセナが叫ぶ。

「アミー!」

 急に駆け出したかと思うと、その檻の格子へと掴みかかった。

 最初は薄暗くてよくわからなかったが、檻の中には、幾人かの人間が囚われているようだった。

 間違いない。
 やはりここが誘拐犯の拠点なのだろう。

 その中で、土で薄汚れた顔に涙の筋を作っていた女の子がいた。目は赤く充血し、頬がやせこけた風に浮きでてしまっている。

 彼女を含め、檻の中にいた人たちは、ボクたちにあまり大きな反応を見せれないほど弱っているようだった。

 檻の鉄板に腰をつけ、亡者のように虚ろな目で顔を持ち上げている。

「アミー、アミー!」
「みれ……な?」
「そうだよ。助けに来たんだから」

 最前にいた女の子に向かい、ミレーナは喜び喘ぐように檻へしがみつく。

「待ってて。すぐに助けるから」
「……無理だよ。逃げて。ミレーナまで捕まっちゃう」
「無理じゃない。私は最強なんだから」

 ミレーナは必死に檻を壊そうと、近くに落ちていたショベルなどで叩く。だが、頑丈なそれは空しく金属音を響かせるばかりだ。

「な、なんで人間さんがこんなに閉じ込められてるんですか?! もしかして、謀反ですか?!」

 勝手に騒ぎ立てるパーシェルを余所に、ボクとエイミは冷静に周囲を見回した。

 檻には大きな錠がつけられている。
 だが、それを開けられるような鍵は見当たらない。

 ボクの力ならこじ開けられるだろうが、力を解放すれば、その無差別な靄で中にいる人だって殺しかねないだろう。

「ミレーナ、逃げて」
「大丈夫。待ってて」
「駄目、逃げて!」

 ミレーナの親友であるアミーがそう叫んだ瞬間だった。

 薄暗かった洞窟に、眩しいほどの照明がつけられた。

 おそらく魔法だ。
 天頂付近に丸い発光球が浮かび上がり、ボクたちの目を眩ませるほど明るく放ち始める。

 その光を放つ球体の真下に、いつの間にか男が佇んでいた。

「おやおや。突然の来客かと思えば随分と騒がしい。近頃の若いものには礼儀と言うものが携わっていないから困り者だ」

 白髪に白い髭。
 高位の魔術師が羽織る紫の色をした豪奢な外套。

 痩せ細りしわの寄った老人だが、そのしゃんとした佇まいからは少しの老いも感じられない。しゃくれた口許を歪ませ、恍惚に満ちたように目を輝かせながら、その老人はボクたちを見つめていた。

「誰?」とエイミが尋ねる。

「誰、とは失礼な。勝手に人の縄張りに入り込んでおいて。盗人猛々しいとはよく言ったものだ」
「その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ」

「おお、怖い。こんな老いぼれに向けるような言葉ではないぞ」
「あら、そう。ただのハイキングに来たおじいさんには見えないのだけれど」

 くっくっ、とその老人は余裕を孕んで笑う。

 その雰囲気は明らかに異質だ。

 彼がここの誘拐犯の首領なのだろう。
 そう思わせるには十分すぎるほどの貫禄があった。

 老人がゆっくりと腕を持ち上げ、指先を弾いて鳴らす。
 瞬間、ボクたちを取り巻くように透明度の高い氷の壁が地面から突き上がる。

「この規模の魔法を一瞬で?!」

 さすがのエイミも驚いた顔を見せた。

 並の人間ならば呪文の詠唱に時間がかかるものだが、それを省略し、瞬く間に展開して見せたのだ。

 魔法の心得がないリリオにはその凄さがまったく理解できていない様子だったが、ボクとエイミはその事実をはっきり理解していた。

 一介の魔術師がこの規模の魔法を使おうものなら、おそらく三十秒は詠唱に有するだろう。

 この男、只者ではない。

「勇み足で踏み込んだはいいものの、もう少し考えるべきだったな」

 老人がにやつくと同時に、質素な外套を羽織った若い男達がぞろぞろと出てくる。町で会った誘拐犯と同じ装いの連中だ。

「誰もいなかったのは罠だったんだ。ボクたちが来るって気付いてたんだ」

 おそらくツガイムシに気付いたのだろう。
 あれだけの魔術師ならばおかしい話ではない。

 彼らの拠点だというのに誰もいないことをもっと不審がるべきだった。

 見つかる前に人質を解放しようと考えたのが裏目に出たわけだ。

 魔術師の老人を筆頭に、高台に上って氷の壁越しにボクたちを取り囲んだ男たちは規律正しく動きを揃えている。十分に組織立っている証左と言える。

 ただの野盗などと侮っていたけれど、この連中はもっと性質が悪そうだ。

「ここを知られた以上、生かしては帰せんのでな。そのまま死んでもらうぞ」

 躊躇のない老人の言葉に、周りの男達が揃ってクロスボウを構える

「私達を殺してもいいのかしら。貴方達は檻の中の彼らを奴隷として取引しているのでしょう。私達も商品にするという考えは無いのかしら」

 少しでも状況の打破を考えているのか、エイミが言う。だが老人は高らかに笑みを浮かべて言葉を返した。

「予定にない異常は計画の破綻を招く。二兎を追って事を仕損じるのは、先を見れない三流のすることだ」
「イヤに優秀ね。困ったものだわ」

 その冷静さ、冷淡さ。
 相手にしづらい反応に、エイミもバツが悪そうに奥歯を噛む。

 ボクの力が使えれば氷の壁なんて簡単に消し飛ばせるだろう。
 けれど、すぐ近くにいるリリオたちにまで影響を与えてしまう。結局、みんなを助けることは出来ない。

 やはり力の不便さが際立って、口惜しさが胸を詰める。

 いつもこうだ。

 誰かを殺しすぎるほどの強大な力か、誰も守れないほどの弱い力。

 ボクにはその二極しかない。

 本当に役立たずみたいだ。
 そのやるせなさに反吐が出る。

 このまま蜂の巣にされる他ないのだろうか。そう唇を噛んだ矢先だった。

「わらわは絶対にアミーを助けるのじゃ!」

 そう、ボクの後ろ向きな鬱蒼を吹き飛ばすような声が洞窟の中に反響した。
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