㈲ノーザン・クエスト カスバ市ハンブル区マージー通り196-2

あしき×わろし

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16 赤い霊長類の恐怖

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 夢中で菜っ葉をたいらげながら、ふと目線をあげると、ロレッタがテーブルの向こう側に頬杖をついていた。

「あのさ」
「ん?」
「なんでそんなに必死なの?」
「なんでって──旨いからさ。ここの炒め料理ときたら──」
「菜っ葉じゃなくて、冒険クエスト
「ああ、そっちか。まあ──んぐ──仕事だからな」
「そんな仕事やめてさ、もっと楽なのやればいいじゃん」
「簡単に言うけどな。仕事が楽だと給料も安いんだよ」

 他の客からの注文オーダーも一段落ついたのか、ロレッタは勝手に休憩をとって、お喋りをする気のようだった。
 俺はモグモグやりながら、

「誰かさんと違って特別な才能とかないんでね。親から引き継いだ商売でもなきゃ、俺みたいな若造が生業ナリワイにできるのは肉体労働しかないんだよ」
「ふーん、ホントかなぁ──」
「本当だよ。どっかの親方に弟子入りして手に職つける年齢トシでもないしな。役人になるツテでもありゃあ、また違うんだろうけどさ」

 俺はエールをぐびりとやった。
 これがまたいい!
 脂っこくなった口を苦味のきいた発泡性の刺激がきれいに洗い流して、すっきりしたところにまた塩と油まみれの菜っ葉。味がしつこくなったらまたエール。
 で、結局、なにしにきたんだっけ?
 まあいいや、そいつは食ってからだ──ぐびり、パクリ、ぐびり、バクバク、ガツガツ、ぐびり。

「そんなこと言って、ホントはあの赤ゴリラ女が好きなんじゃないのかなぁ──」

 いきなり素っ頓狂な妄想をぶっ込まれて、俺はあやうくエールを吹きだすところだった。

「──あたり?」
「あ、あのな。俺とリアは養成学校の同期生で、いまは同じギルドの代表マスター団員メンバーだよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「ムキになって否定するところがアヤシイ」
「だいたいな、リアのことを赤ゴリラとか言ったら殺されっぞ」
「え? あたしリアがそうだって言ってないよ? フィルって赤ゴリラ女が好きだよねって言ったら、勝手にリアのことだと思ったんでしょ?」
「きったねえな。言ってるようなもんじゃねえかよ」
「リアに言いつけちゃおっかなー、ひひ」

 なんて生意気な小娘ガキだ。
 しかも小娘だけに、この手の嫌がらせを始めるとしつこくて長い。
 俺は辟易しながらも大人の威厳をみせて、

「さ、さてと。悪ふざけはそのくらいにして仕事の話しでもしようぜ」
「あ、逃げた」
「今回は割安な報酬になるかもしれない。だが大迷宮商事は業界大手だ。実績をつくっておけば今後の継続的な仕事が期待できる」
「ほほー、よほど都合がわるいとみえる」

 ほんっとにタチ悪いなぁ──
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