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14 魔焔の落とし仔
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報酬をマケるのは罷りならんとブー垂れるロレッタを、俺は根気よく説得(?)した。
「サラメンダの予定があいてなくたって、オールダムはまだローズやヴァレリーとも契約してる。三人いればこんな地方都市のクエストはまわっちまうんだよ。フリーの出番はないぜ」
「べつにいいもん」
「よかないだろ? 知ってるぜ。奨学金とめられちまったんだってな」
「な、なんで知ってんのよ」
「誰でも知ってるって。面接官をこんがり炙ったなんてのは前代未聞だからな。別の職業なら教官を半殺しにしたやつがいるけどさ」
「面接官が悪いんだよ! ヒトのことを子供とかちんちくりんとかバカにするから──」
「同情はするよ。タチの悪い面接官だったな。けど、そこで暴れるから《子供》なんだぜ」
「うるさい!」
「ほら、都合が悪いとすぐキレる」
「うるさいってば!」
「で、どうすんのさ。ルイス家もカンカンだって噂だけど」
「──あんたに関係ない」
うつむき気味の三白眼に恨みがましく見あげられて、ちょっとプライベートに踏み込みすぎたかと後悔したとき、
「ロレッタちゃん、お願いヨー」
俺が石化してしまいそうな一瞥をくれて、ロレッタはカン、カンと鍋を叩く音がする厨房に駆けていった。
(くそっ、怒らせちゃ何にもならないだろ)
会話の流れで煽ってしまった。
なにをしてるんだ、俺は──
少し冷静になろうと頭を振った。
厨房から呪文の詠唱が聞こえてくる。
火龍の御名において告ぐ
太古に契りし盟約に則り
言霊の供物を捧ぐ者共に
いと気高き姿を顕し賜え
パッと厨房のほうが一瞬だけ明るくなって、すぐにバチバチと油が威勢よく弾ける音がした。
ミン国の料理はこっからが早い。すぐに湯気をたてる炒め料理が大皿にのって、次々と厨房から運ばれてくる。
ほとんどは俺のじゃないけど。
「ん!」
菜っ葉炒めの置きかたが乱暴で、あやうく俺の貴重なひと皿がテーブルにこぼれるところだった。
「その──悪かったよ」
「べつに」
給仕として最低限の仕事を果たしながら、ロレッタは仏頂面のままだった。
まあ、こっちもあまり上等な客じゃないしな。なにせエール一杯と、他には何も入ってない菜っ葉のストレート炒めしか頼んでない。
ポケットをまさぐって五十デルをチップに渡すと、俺は菜っ葉に飛びついた。
熱っ! だが、そこがいい。
まず香ばしい胡麻油がふわりと薫って、次に灼けるような熱さとシャキシャキの歯触りがやってきて、絶妙な加減の塩胡椒が口いっぱいに広がって──
それにしても、こんなにしっかり火が通っているのに、なんで菜っ葉がみずみずしさを失わないんだろう?
これに較べたら世間の野菜炒めなんて素材を燃やしているようなもんだ。
ところで、俺はなにをしにきたんだっけ?
「サラメンダの予定があいてなくたって、オールダムはまだローズやヴァレリーとも契約してる。三人いればこんな地方都市のクエストはまわっちまうんだよ。フリーの出番はないぜ」
「べつにいいもん」
「よかないだろ? 知ってるぜ。奨学金とめられちまったんだってな」
「な、なんで知ってんのよ」
「誰でも知ってるって。面接官をこんがり炙ったなんてのは前代未聞だからな。別の職業なら教官を半殺しにしたやつがいるけどさ」
「面接官が悪いんだよ! ヒトのことを子供とかちんちくりんとかバカにするから──」
「同情はするよ。タチの悪い面接官だったな。けど、そこで暴れるから《子供》なんだぜ」
「うるさい!」
「ほら、都合が悪いとすぐキレる」
「うるさいってば!」
「で、どうすんのさ。ルイス家もカンカンだって噂だけど」
「──あんたに関係ない」
うつむき気味の三白眼に恨みがましく見あげられて、ちょっとプライベートに踏み込みすぎたかと後悔したとき、
「ロレッタちゃん、お願いヨー」
俺が石化してしまいそうな一瞥をくれて、ロレッタはカン、カンと鍋を叩く音がする厨房に駆けていった。
(くそっ、怒らせちゃ何にもならないだろ)
会話の流れで煽ってしまった。
なにをしてるんだ、俺は──
少し冷静になろうと頭を振った。
厨房から呪文の詠唱が聞こえてくる。
火龍の御名において告ぐ
太古に契りし盟約に則り
言霊の供物を捧ぐ者共に
いと気高き姿を顕し賜え
パッと厨房のほうが一瞬だけ明るくなって、すぐにバチバチと油が威勢よく弾ける音がした。
ミン国の料理はこっからが早い。すぐに湯気をたてる炒め料理が大皿にのって、次々と厨房から運ばれてくる。
ほとんどは俺のじゃないけど。
「ん!」
菜っ葉炒めの置きかたが乱暴で、あやうく俺の貴重なひと皿がテーブルにこぼれるところだった。
「その──悪かったよ」
「べつに」
給仕として最低限の仕事を果たしながら、ロレッタは仏頂面のままだった。
まあ、こっちもあまり上等な客じゃないしな。なにせエール一杯と、他には何も入ってない菜っ葉のストレート炒めしか頼んでない。
ポケットをまさぐって五十デルをチップに渡すと、俺は菜っ葉に飛びついた。
熱っ! だが、そこがいい。
まず香ばしい胡麻油がふわりと薫って、次に灼けるような熱さとシャキシャキの歯触りがやってきて、絶妙な加減の塩胡椒が口いっぱいに広がって──
それにしても、こんなにしっかり火が通っているのに、なんで菜っ葉がみずみずしさを失わないんだろう?
これに較べたら世間の野菜炒めなんて素材を燃やしているようなもんだ。
ところで、俺はなにをしにきたんだっけ?
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