㈲ノーザン・クエスト カスバ市ハンブル区マージー通り196-2

あしき×わろし

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18 一触即発

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 年季の入った魔術士ってのは、なんでこういう、いかがわしい場所が好きなんだろう。
 アヤシサの演出としてわからなくはないが、なにも呑む・打つ・買うが揃った頽廃窟スラムに店を構えなくていいだろうに。
 そんな物騒な街並みを、

「ふんふんふーん♪」

 と、ロココ・スタイルで身を固めたロレッタが、足取りも軽くスキップしてゆく。
 何というか──違和感しかない。
 もっとも、この手の場違いに敏感なのは、同伴の俺や往来でたむろっている酔っ払いより、界隈で商売をしている女性であることが多い。

(やっぱ来るか。そりゃ来るよなあ──)

 彼女たちにしてみれば、ヨソ者にド派手な身なりで職場を闊歩されては、商売もあがったりというものだろう。
 しかもそれがうら若い(しかもクソ生意気そうな)少女ロレッタときてる。

 案の定──

 往来で男たちの袖を引いていた女性がひとり、ふたりと路地に消えて、かわりに現れたのは人相のよくない極道者おにいさんたちだった。
 ところがこの方々、

「麗しき姫御前ごぜにおかれては、今宵は何処いずこのサロンにお忍びであらせられるか」

 最近の極道者は、なかなか風流なことを言うもんだ。

 人数はふたり──いや、後ろでそっぽを向いてる男がリーダー格か。ああして周囲を警戒しながら、こちらの様子をうかがっているのだ。
 俺はロゼッタと極道者の間に身体を割り込ませて、

「悪気はないんです。そのう、ちょっと変わった娘でして」
「おやおや、彼氏の登場かね」
「彼氏ィ? そう見える???」
「ロゼッタは黙っててくれ──すいません、すぐに行きますから」
「残念だが、この界隈を職場にしている御婦人が酷くご立腹でね」
「俺もそう思ったんですけど、言ってきくような娘じゃなくて──よく謝っといてください」
「人づては感心せんな。我々と同行して自身の言葉で真摯な反省の意を伝えたまえ」
「すいません。急いでるもんで」
「どうやら少しばかり社会勉強が必要のようだね」
「あ、間に合ってます。会社でビジネスマナー研修やりましたから」
「──なかなか性根のすわった青年だ」

 心を込めた謝罪もむなしく、間合いに不穏な空気が流れ始めた。
 ロレッタはといえば──オラ、ワクワクがとまんねえゾって表情を隠しもしない。こういう揉め事が大好物なのだ。とりあえず、その顔やめろ!
 極道者の片手が背後にまわった。得物エモノ券鍔ユビワ短刀ドス風火輪チャクラム風火輪か──
 俺はといえば長剣を下宿に置いてきている。
 抗争でいりでもあるまいに、刃物をぶらさげてスラム街をうろつくなど、

「袋叩きにして身ぐるみ剥いでください」

 と、お願いするようなものだ。

 じりっ、と極道者が間合いを詰めた。
 ずいっ、とロレッタが間合いを詰め返した。
 いいよな、お前は。触媒なしの呪文でそこそこの魔術を出せるんだから──さて、俺のほうはどうしようかね。
 そう思案をめぐらせたとき、

「やめとかんかィ」

 やたらと威圧ドスのきいた低い声がした。
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