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シーズン1 いざMIH(メイド・イン・ヘブン)学園へ

002 お姉ちゃん(おじいちゃん)と一緒にデパート行くなんて久々だからすっごい楽しみです!

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 なんの因果か美少女になってしまった72歳のメビウス。そうなった日から5日間が経ち、この身体にもだいぶ慣れてきた。

「おじいちゃんさあ、せっかくだしかわいい格好とかしてみたら?」

 藪から棒にそんなことを言い始めたのは、この姿になった元凶の孫娘モアだった。

「まずは君が可愛らしい格好をしてみたらどうだ? 白衣かジャージ以外着ているところを見たことがないぞ?」

「だったら一緒に服買いに行こうよ!」

「この姿で?」

「この姿で」

 この5日間、ずっと家にこもっていた。外部からの刺激がないと人間の脳はどんどん退化していく。ましてや70歳を過ぎているのだからなおさらだ。それなのに外へ出ないのはまずい気もしてくる。

「分かった。ただしこの格好では車の運転はできんな」

「あたしもできないよ~。免許持ってないし!」

「なら仕方ない。タクシーを手配するか」

 ロスト・エンジェルス連邦共和国。他国の200年先を進む技術力を持つ国。ならば当然馬車でなく植民地から獲得したガソリンを使った車があるし、伝書鳩ではなくインターネット機能を持つ携帯電話もあるわけだ。

 とはいえ、メビウスは立派な老人だ。いくら見た目が美少女だからと、いきなりこの年代にふさわしい携帯電話を持てるようになるわけではない。

「おじいちゃん、携帯古いよね~」

「最小限の連絡ならこれで充分だからな」

「スマホに買え替えるべきだよ~。せっかく女子高生くらいの年齢に戻れたんだからさ~」

「中身は立派なジジイだがな」

「それでも見た目は美少女だよ? ほら、肉体に魂が追いつこうとするはずだからさ」

「ああ……。そうかもしれんな」

 タクシーを古臭い携帯電話で呼び、たったふたりが住むにしては空虚な豪邸から出ていく。

「タクシーなどいつ以来だろうな」

「えっ、タクシー使わなかったの?」

「いつも部下が車を手配してくれていたからな。わざわざカネを払って運んでもらう理由がなかったのだよ」

「ふーん。でもその見た目じゃ部下さんたちも動いてくれないだろうね!」

「こちらの不手際でこうなったのだから仕方ないさ」

 と会話している間にタクシーがやってきた。後部座席に座ったモアが速攻で、「ダウン・タウンの“永遠の翼デパート”までお願いします!!」と行き先を決定する。

 財布の中には大量の札束。当然タクシー代が支払えないことはない。
 巷ではキャッシュレス決済が流行っているようだが、この老いぼれからすれば決済の方法すら分からない。だからメビウスはいつも現金派だ。

 タクシーが動き出す。運転手はメビウスたちを見てなにかを思ったのか話しかけてきた。

「お嬢ちゃんたち、もしかして姉妹?」

「ああ、これには訳があって──「そうです!! 似てるでしょ~! 髪色は違うけど、この国じゃ普通のことですしね!」

 ……考えてみれば、メビウスのいまの姿は彼の長女が子どもだった頃にも似ているが、同時にモアとも似通っている。姉妹として通すことがなんら不都合ないくらいには。

「そっか! じゃあ姉妹でお出かけってわけだね!」

「はい! お姉ちゃんと一緒にデパート行くなんて久々だからすっごい楽しみです!」

 ……そうだな。軍人として忙しいからと家庭を棚に上げ、唯一残った家族であるモアと一緒にデパートに行ったことなんてもう何年も前の話だ。

「……。たまには家族孝行しないとな」

 小声でそうつぶやく。運転手には聞こえていないであろうが、モアにはしっかり聞こえていたようだ。

「そうだよお姉ちゃん!! ちゃんと妹孝行してよね!!」

 タクシーは5キロメートルほど走り、“永遠の翼”というデパートにたどり着いた。

「運賃は70メニー40メネーです。お支払いはカードで?」

「いえ、現金で」

 100メニー札を差し出し、「お釣りは結構」と言い残してタクシーから出る。
 目の前には巨大デパートが広がっている。孫孝行するにはうってつけだろう。

「おじいちゃん……いや、お姉ちゃん! やることいっぱいだね!! まずはキャッシュレス社会に慣れてもらわないと!」

「別に現金でもキャッシュレスでも支払った事実は変わらん」

「最近現金使えない店増えてるんだよ? 偽札が出回ってるらしくてさ」

「本当か?」

「ほんと! 最初は携帯電話を最近のヤツに替えるところからスタートだね!」

「あれは親御さんの許可がないと変えられないはずだが?」

 その親御分がいまとなれば姉になっているので、携帯電話を替えるのは困難だ。

「じゃああたしのサブ機あげる! こう見えてもあたしスマホ5台くらい持ってるからさ!」

「ほう……」

「あ、地雷踏んだ?」

 定期的に口座から細かいカネが抜かれていると思っていたら、犯人が直ぐ側にいた。メビウスはモアの頭を拳でグリグリする。

「ヒトのカネを奪うな。しっかり小遣いも渡しているのだから」

「ごめんなさ~いぃ……」

 お仕置きを終え、メビウスはモアから最新の携帯を(よくよく考えれば自分のカネで買ったものだが)受け取った。

「わけが分からんな。バーコードを見せれば決済できるのか?」

「そうだよん! あ……」

「……なんで口座がわしのになっているのだ?」

 再びお仕置き。今度は先ほどより力を強めてモアの頭をグリグリする。

「まったく……。カネ使いが荒いのではないか? わしはたしかに小遣いとして200メニー渡しているはずだが?」

 コーラが1メニーで買え、タバコが4メニーほどだと考えれば、メビウスがどれだけモアに巨額の小遣いを渡しているのか分かるはずだ。

「だって研究するのにだっておカネ必要なんだよ? 月200メニーじゃ足んないくらいに。おじいちゃ──お姉ちゃんにはこの気苦労が分かんないだろうけどっ!」

 なぜか自分は悪くないですよ、くらいなことをいい始めた。メビウスは溜め息をつき、「いくら必要なのだ?」とモアへ訊く。

「正直に言うと1,000メニーはほしいかなぁ……。研究忙しすぎてバイトなんてしてられないし」

「分かった。今月の小遣いはまだだったよな? ほら」

 財布から100メニー札を10枚取り出し、モアへ渡す。
 モアは驚愕に染まった表情になるのだった。
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