蒼龍ノ爪痕-少女になっちゃった老将軍、高校生活楽しんだり新たな弟子育てたりする第二の人生始めるらしい-

東山統星

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シーズン2 偉大な詐欺師はパクス・マギアの夢を見る

030 さあ、獲りに行こうか、パクス・マギア!!

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「似たもの同士だとは思っていたが……!!」

 すでに地上は煙と炎まみれ。地上に戻って殴り合いなどできるわけもない。メビウスは痛みに悶えて奈落の底へ落ちていくばかり。今度こそ勝った、とルーシは確信する。

「……。小娘、あと何秒その魔術を使えるのだ?」

 メビウスが尻もちをつくように着陸した場所が、一斉に凍り始める。あれだけ広がっていた火を一瞬で蒸発させてしまった。もちろん都市区間の一部だけではあるが、人間ひとりが立てるだけのエリアは確保したわけである。

「先ほどから煽るような口調ばかり続け、早期決着を念頭においているのだろう? ならばその魔法はいつ解ける?」

「てめェに教える義理はねェ」

「そうか。ならひとつだけ言わせてもらおう」

 白い髮の少女が、銀髪の幼女の首を掴んだ。そして地上へ隕石のごとく落ちていった。傍から見ればゲームのラグのようである。
 メビウスは叩きつけられたルーシの唖然とした表情を見て、彼女を持ち上げる。

「年上は敬うものだぞ? もうお遊びはおしまいだ。隙を見せた貴様に勝ち目はない」

「……。隙、ねェ」

 ルーシは首を圧迫されゲホゲホと咳き込みながら、メビウスの背後を指差す。

「……なんでもう勝負がついた気でいるんだよ。こちらの魔術はまだ万全だし、オマエも妹も殺してやる。必ず、な!!」

「この状況でも吠えるとは、なんと哀れだろうか……!!」

 うようよと広がるルーシの魔術による黒いなにか。これを食らう度になにかしらの法則を組み込まれる、あるいは没収されると考えれば分かりやすいか。正確な効能は不明でも、最低限はもう掴めていた。

「……!!? ゲボぉッ!? おっええ──」

 が、そんな話も吹き飛ばす方法もある。本体に致命的なダメージを与えてしまうことだ。高校生女子程度の腕力があれば、幼女ひとりくらい撲殺することもできるのだから。
 宙ぶらりんになりながら首を締め続けられて全く損傷を食らわない人間なんて存在しない。戦意がなくなるまで、血などの嘔吐物が龍の手にかかろうと、メビウスがその腕力を緩めることはない。

「おい」

 メビウスの背後に何者かが現れた。魔力からしてなかなかの猛者であることがうかがえる。もっとも、クールやルーシには敵わないだろう。

「ウチのボスを勝手に殺すなよ。こっからは政治的取引と行こうぜ?」

 思わず手から力を緩める。振り返った先にいる黒髪の巨漢は、ぐったりとしたモアを抱えていた。
 メビウスはルーシを地面に投げ、「……。貴様は何者だ」と低い声で訊く。といっても当人が思っているよりドスは効いていない。

「ボスの子分だよ。それだけで充分だろ? ッたく、背後から突き刺せって命令してきた癖にダウンしやがって。で、ウチのボスとアンタの妹、交換だ。互いにその場へ置いていこう。んで、歩いて感動の再開ってな」

 モアが目の前にいるのならば、ルーシを痛めつける意味はない。ここは彼の提案に乗ってしまったほうが良さそうだ。

「構わんが、ひとつ訊きたい」

「なんだ?」

「君なら他人の正体や秘密をどのように暴く?」

「さあ。ただまあ、嘘ついてるヤツは常に演技してるわけだからな。どっかでほころびが生まれるんじゃねェの?」

 そんなわけでルーシと謎の青年は去っていった。

「……。演技し続ける定めだからな」

 メビウスはそうつぶやき、いまひとつ生気のないモアを病院へ連れて行こうとした。

「……。ごめん、おじいちゃん」

 が、メビウスの腕の中でうずくまっているモアはビクビクと震えていた。切り取られた耳の痕は生々しく穴が空いており、彼女は時折涙を流す。

「スターリング工業から若返りの薬を強奪したのは事実だし、ルーシ先輩とあの会社のつながりが見えた時点でこうなると思ってた」

 メガネをかけられず、透き通るような金色の目からモアは大粒の涙をこぼす。

「えへへ……。買ってもらったメガネ、もうかけられなくなっちゃった。ホント、あたしバカだよね」

 その苦しむ姿と虚しいという魔力を感じ取ってしまったメビウスは、思わず下を向いて表情を隠す。

「……。耳はロスト・エンジェルスの最新医療で治るはずさ。生き残ったことをいまは噛み締めよう……」

 *

「んで? あのガキをパクス・マギアの容れ物にしちまう計画は頓挫したわけだ。わざわざ口実まで用意してな。これからどうする? CEO」

 先ほどモアを抱えていた青年と、最前瀕死だった幼女はすでにスターリング工業本社に舞い戻ってきていた。傷だらけの幼女ルーシはされど笑みを浮かべ、タバコも咥える。

「どうするもこうするもあるか。セカンド・プラン発令だ。蒼龍のメビウスの息がかかっていない10代のガキからちょうど良いヤツを探せ。もうあんな化け物と闘うのはゴメンだしな」

「オーダーはそれだけか? ッたく、蒼龍のメビウスって言ったらアニキの師匠だぞ? クール・レイノルズを鍛え上げた男が少女になってたのは確かに想定外だが、仮に年寄りのままでも介入してきやがっただろ。ありゃ」

「そうだろうが、迫力が違ったよ。若返ってアドレナリンが出まくっている印象だ」

「ま、関わらねェのが吉だな。またMIH学園でちょうど良い素体を探すよ」

 ルーシは葉巻を置く。そしてクールを“アニキ”と呼び付き従う青年ポールモールが自身の執務室から出ていくと、ぶつぶつと独り言を始める。

「蒼龍のメビウス、か。いまのアンタには時代の変化を止められるだけの力がねェだろうさ。世界を掴めるのは一握りの猛者だけだ。それに成れたはずの男が小娘の姿かい。あひゃぁははは!」

 しばしばヒステリックに笑い続ける癖のあるルーシだが、今回は輪をかけて長く笑っていた。顔が引きつって筋肉が痛む頃、その幼女はソファーに寝転がり宣言する。

「この世界は私には退屈だ……!! だがコイツがありゃ問題はねェ!! ありとあらゆる願いが叶う平和の魔法! 5つの小道具なんて必要ねェ! 未来ある若人を犠牲にすりゃ起こせるんだよ……!! さあ、獲りに行こうか、パクス・マギア!!」
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