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シーズン3 自分から助かろうとする者のみが助かる
031 自分から助かろうとする者が助かる
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メビウスとルーシの死闘から一週間、噂はMIH学園中に広がっていた。
「モアのアネキがルーシに勝ったらしいぞ!」
「ルーシは105億メニーの怪物だぞ? あっさり新規にやられちまうのかよ?」
「どうなるか分かんねェなぁ、この学校」
そうした状況はさておき、メビウスはモアの義耳つくりのため躍起になっていた。すでに契約金として振り込まれたカネは全額寄付に移されているが、その程度でメビウスの総資産が尽きるはずもない。
ただ、肝心の孫娘はひどく塞ぎ込んでいた。
幼児帰りしてしまったかのようにメビウスから離れず、虚ろな目つきで遠くを見据えているモアを鑑みれば、偽物の耳であろうと必要なのは確実だ。
「モア」
「……。なに? おじいちゃん」
「私はお姉ちゃんではなかったか?」
「……。怒ってるの?」
「怒ってなどいない──「ごめんなさい。悪いところがあるんなら直すから、お願いだからあたしを見捨てないで。あたしはおじいちゃんのこと愛してるよ? おじいちゃんはどうなの?」
会話なんて終始こんな感じである。互いにとって良いことがない。メビウスがモアにかけられる言葉は知れているし、モアがそう安々とメビウスの言葉を受け入れるとは思えない。
「……。どうしたものか」
英雄として生きてきた人間が青少年のメンタルについて知れるわけもない。ただもっとも、いわゆるPTSDになった兵士は前線で何十回も見てきたが、モアの反応はそれに似ている。そこから解決方法が見いだせるかもしれない。
「ジョンならこういう場面に詳しそうだな……」
そんなわけでかつての教え子ジョン・プレイヤーに電話しようとしたとき、逆にメビウスの携帯電話が鳴った。
『おお、お疲れ様っす。メビウスさん』
「ジョン。孫娘がPTSDになってしまった。解決を手伝ってほしい」
『えーっ。そりゃやべーや。おれすぐそっち向かいますよ』
超端的な説明で済ませようとするメビウスもだが、一切のひるみを見せないジョンもなかなかのものだ。わずか20秒で通話が切られ、メビウスは、白い髮の少女はモアの隣に座る。そうすると、やがてモアがメビウスの膝に倒れ込んできた。彼女は指を咥えながら、時折右耳に痛みが走るのか、傷跡を抑えることがあるようだ。
*
「ちゃーす。メビウスさんにモアちゃん」
ジョン・プレイヤーは白いスーツを身にまとい、メビウスの邸宅へ現れた。ジョンを見て挨拶より先にメビウスの腕をガッと掴んだモアは、やはり怯えた目つきをしていた。
「で? なにがあったんですか? まずはそっから教えてくんないと」
「ああ。モア、言えるか?」
「当人が言わなくても良いっすよ。ただ、本人が一番分かってるはずだ。自分を生かすのも殺すのも自我次第だって」
ジョンの言い草にモアがピクリと反応を示す。
「自分から助かろうとする者が助かる。そうじゃなかったか? モアちゃん」
モアは頭を抱え、腕で顔を隠す。
「ただまあ、助からないのも自由だ。君は老人をひとり高校において逃げることだってできる。自分の人生は自分で切り拓くモンだしな」
「そ、そのような言い方はないだろう」
てっきり慰めるものだとばかり思っていたメビウスは、ここに来て旗色がオカシイことに気がつく。
「こういう言い方しかないんですよ、メビウスさん」
されど、高身長で金髪の髭面なジョン・プレイヤーは自分の態度を変えることはない。
「モアちゃんは無法者相手とはいえ、若返り薬を奪うという明確な罪を犯した。盗みや傷害が犯罪じゃないなんて寝言吐かすような子でもないわけだし、やっぱここは本人に立ち直って貰わなきゃ」
「そ、そうかもしれんが」
「……。もう良いよ、おじいちゃん、ジョンさん」
モアは生気のない声色だった。ここまで否定的な言い草をされるとは思ってもいなかった、という顔色である。やはりモアはメビウスやジョンに守ってもらいたいのであろう。子どもが持つ権利として。唯一の肉親に、歳の離れた友だちに。
だけど、もう拗ねて問題が過ぎ去るのを待っていても仕方ない。モアには彼女にしか知り得ない危険情報もある。
『私の目的は人間を容器にしたパクス・マギアだ。オマエも知っているよな? 5つのラプラスっていう小道具集めることで起こる平和の魔法。それらは10代の未来ある学生魔術師を犠牲にしても成り立つんだよ……!!』
もしもあのルーシの発言が事実ならば、パクス・マギアを起こすためにMIH学園の誰かが犠牲になってしまう。せめてそれだけでも伝える義務がある。
「……。ルーシ先輩の狙いは子どもの身体にあり得ない量の魔力を挿入して、パクス・マギアを強引につくること。あたしはスターリング工業から若返り薬を強奪したのもあってルーシ先輩のヘイトを買ってた。だからちょうど良いと選ばれたんだよ。そしてあのヒトは……容れ物にまったく容赦しなかっただけさ」
「え? なに、ルーシ?」
ジョン・プレイヤーが露骨な反応を示した。
「モアちゃん、ルーシに詰められたの?」
「……そうです」
「マジかよ。クールの野郎にチクっとくわ」
ジョンとクールは旧知の仲だ。そのため、ルーシがクールの娘になっていることを知っていたのであろう。
「チクったくらいで行動を改めるとは思えなかったな。あの小娘は」
「つかさ、メビウスさん。モアちゃん関係なくて申し訳ねェんだけど、クールの野郎の息子がMIH学園へ通ってるって知ってる?」
「……は?」
「アイツ、着払いで獣人の息子送りつけられたらしくてさ。おれと同じ目に遭ってやがる。おもしれェよなぁ。ま、それがなんだって話ですが」
結局なにも解決していない。解決していないが、モアの義耳がもうそろそろ完成する頃だ。メビウスが出向いて回収しても良いのだが、ここ一週間まったく外へ出ていないモアに外出を促すのが狙いなので、白い髮の少女メビウスはモアへ言う。
「なにひとつうまく行かないときもある。それを打破できるのは確かに自分だけだ。モア、義耳が完成したらしいから行こう」
「モアのアネキがルーシに勝ったらしいぞ!」
「ルーシは105億メニーの怪物だぞ? あっさり新規にやられちまうのかよ?」
「どうなるか分かんねェなぁ、この学校」
そうした状況はさておき、メビウスはモアの義耳つくりのため躍起になっていた。すでに契約金として振り込まれたカネは全額寄付に移されているが、その程度でメビウスの総資産が尽きるはずもない。
ただ、肝心の孫娘はひどく塞ぎ込んでいた。
幼児帰りしてしまったかのようにメビウスから離れず、虚ろな目つきで遠くを見据えているモアを鑑みれば、偽物の耳であろうと必要なのは確実だ。
「モア」
「……。なに? おじいちゃん」
「私はお姉ちゃんではなかったか?」
「……。怒ってるの?」
「怒ってなどいない──「ごめんなさい。悪いところがあるんなら直すから、お願いだからあたしを見捨てないで。あたしはおじいちゃんのこと愛してるよ? おじいちゃんはどうなの?」
会話なんて終始こんな感じである。互いにとって良いことがない。メビウスがモアにかけられる言葉は知れているし、モアがそう安々とメビウスの言葉を受け入れるとは思えない。
「……。どうしたものか」
英雄として生きてきた人間が青少年のメンタルについて知れるわけもない。ただもっとも、いわゆるPTSDになった兵士は前線で何十回も見てきたが、モアの反応はそれに似ている。そこから解決方法が見いだせるかもしれない。
「ジョンならこういう場面に詳しそうだな……」
そんなわけでかつての教え子ジョン・プレイヤーに電話しようとしたとき、逆にメビウスの携帯電話が鳴った。
『おお、お疲れ様っす。メビウスさん』
「ジョン。孫娘がPTSDになってしまった。解決を手伝ってほしい」
『えーっ。そりゃやべーや。おれすぐそっち向かいますよ』
超端的な説明で済ませようとするメビウスもだが、一切のひるみを見せないジョンもなかなかのものだ。わずか20秒で通話が切られ、メビウスは、白い髮の少女はモアの隣に座る。そうすると、やがてモアがメビウスの膝に倒れ込んできた。彼女は指を咥えながら、時折右耳に痛みが走るのか、傷跡を抑えることがあるようだ。
*
「ちゃーす。メビウスさんにモアちゃん」
ジョン・プレイヤーは白いスーツを身にまとい、メビウスの邸宅へ現れた。ジョンを見て挨拶より先にメビウスの腕をガッと掴んだモアは、やはり怯えた目つきをしていた。
「で? なにがあったんですか? まずはそっから教えてくんないと」
「ああ。モア、言えるか?」
「当人が言わなくても良いっすよ。ただ、本人が一番分かってるはずだ。自分を生かすのも殺すのも自我次第だって」
ジョンの言い草にモアがピクリと反応を示す。
「自分から助かろうとする者が助かる。そうじゃなかったか? モアちゃん」
モアは頭を抱え、腕で顔を隠す。
「ただまあ、助からないのも自由だ。君は老人をひとり高校において逃げることだってできる。自分の人生は自分で切り拓くモンだしな」
「そ、そのような言い方はないだろう」
てっきり慰めるものだとばかり思っていたメビウスは、ここに来て旗色がオカシイことに気がつく。
「こういう言い方しかないんですよ、メビウスさん」
されど、高身長で金髪の髭面なジョン・プレイヤーは自分の態度を変えることはない。
「モアちゃんは無法者相手とはいえ、若返り薬を奪うという明確な罪を犯した。盗みや傷害が犯罪じゃないなんて寝言吐かすような子でもないわけだし、やっぱここは本人に立ち直って貰わなきゃ」
「そ、そうかもしれんが」
「……。もう良いよ、おじいちゃん、ジョンさん」
モアは生気のない声色だった。ここまで否定的な言い草をされるとは思ってもいなかった、という顔色である。やはりモアはメビウスやジョンに守ってもらいたいのであろう。子どもが持つ権利として。唯一の肉親に、歳の離れた友だちに。
だけど、もう拗ねて問題が過ぎ去るのを待っていても仕方ない。モアには彼女にしか知り得ない危険情報もある。
『私の目的は人間を容器にしたパクス・マギアだ。オマエも知っているよな? 5つのラプラスっていう小道具集めることで起こる平和の魔法。それらは10代の未来ある学生魔術師を犠牲にしても成り立つんだよ……!!』
もしもあのルーシの発言が事実ならば、パクス・マギアを起こすためにMIH学園の誰かが犠牲になってしまう。せめてそれだけでも伝える義務がある。
「……。ルーシ先輩の狙いは子どもの身体にあり得ない量の魔力を挿入して、パクス・マギアを強引につくること。あたしはスターリング工業から若返り薬を強奪したのもあってルーシ先輩のヘイトを買ってた。だからちょうど良いと選ばれたんだよ。そしてあのヒトは……容れ物にまったく容赦しなかっただけさ」
「え? なに、ルーシ?」
ジョン・プレイヤーが露骨な反応を示した。
「モアちゃん、ルーシに詰められたの?」
「……そうです」
「マジかよ。クールの野郎にチクっとくわ」
ジョンとクールは旧知の仲だ。そのため、ルーシがクールの娘になっていることを知っていたのであろう。
「チクったくらいで行動を改めるとは思えなかったな。あの小娘は」
「つかさ、メビウスさん。モアちゃん関係なくて申し訳ねェんだけど、クールの野郎の息子がMIH学園へ通ってるって知ってる?」
「……は?」
「アイツ、着払いで獣人の息子送りつけられたらしくてさ。おれと同じ目に遭ってやがる。おもしれェよなぁ。ま、それがなんだって話ですが」
結局なにも解決していない。解決していないが、モアの義耳がもうそろそろ完成する頃だ。メビウスが出向いて回収しても良いのだが、ここ一週間まったく外へ出ていないモアに外出を促すのが狙いなので、白い髮の少女メビウスはモアへ言う。
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