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シーズン3 自分から助かろうとする者のみが助かる

035 クラウド100GBがおじいちゃん、基お姉ちゃんがいっぱいで幸せだよ

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「んで? 飲んでくれるの?」

「それがヒトにものを頼む態度か?」

 メビウスは口調とは裏腹に苦笑いを浮かべる。どうにも72歳まで歳を重ねてしまうと、こういう小生意気な態度すらも愛らしく見えるものなのだろう。

「まあ、良かろう。君の入塾を認める」

 そんなわけでメビウスはこの姿になって最初の弟子をとったのであった。

 *

「というわけで登校じゃな」

 メビウスをまじまじ見つめるモアをさておいて、白髮少女は孫娘の指示通りの学生服に着替える。
 ケーラやミンティと関わってから(あれから5~6時間ほど喫茶店で喋っていた)次の日には授業を受けねばならないというハードスケージュールだが、どうやら学生は元気に満ちあふれているらしく、モアはまったく疲れている様子がなかった。

「まったく、ケーラくんとミンティには困ってしまうよ。男子があれだけお喋りだとは思わなかった」

「まあ、男の子でも喋りたがりなヒトっているからね~。というか、おじいちゃん」

「ん?」

「すでにメイクし始めてるのはある種の関心すら抱くけどさ、どうもあたしたちMIH学園内で狙われてるらしい」

「どういう意味だ?」

「ほら」

 モアはスマートフォンの画面を見せてくる。すっかり老眼から解放され目をこらせようともしないメビウスは、「評定金額の1パーセント? わしが1億2,000万メニーでモアが500万メニーの賞金首?」と怪訝な声になる。

「どこかの誰かさんがあたしたちに懸賞金を懸けたみたい。多分ルーシ先輩……だと思う」

「……。あの小娘がそのような回りくどい方法を採るかのう」

「可愛さが大噴火してるけど、大丈夫? あたしは大丈夫じゃない」

「良く分からんことを言うな。大体、あの銀髪の幼女は君へも懸賞金を懸けていたのだろう? それでも潰せなかったわけだから、MIH学園にいる者でもう隠し玉はないのではないか?」

「あー。クラウド100GBがおじいちゃん、基お姉ちゃんがいっぱいで幸せだよ」モアは意味の分からないことを言って惚けるが、「はっ! 我を失ってた! おじいちゃん、さっきなんて言ったっけ? ……。あ、懸賞金の話ね。あたしが付けられてたフダは500万メニーなんて超高額じゃないよ? せいぜい10万メニーくらいだったし」

 学生を捕まえるために10万メニーというのも異例の金額だが、モアの値札はいま50倍に膨れ上がっているようだ。仮にルーシが付けたとしたら、彼女はもうなりふり構うつもりなんてないのであろう。モアに必ずトドメを刺し、無法者としてのケジメをつけたいのかもしれない。

 だが、メビウスにはどうしてもこの“懸賞金”の考案者がルーシだとは思えなかった。

「しかし、あの女狐めぎつねがこんなハイリスク・ハイリターン極まりない計画を建てるのか?」

「そんなに危険と得られるものがでかいの?」

「それはそうじゃ。カネに糸目を付けなければ、MIH学園の生徒でなくても噂を耳にして首を掻こうとしてくるだろう」メビウスはうんざりするほど見たモアのうっとりした表情を怪訝に思い、「だから彼女がやった可能性は低いと思う。話が広がって困るのはヤツのほうも一緒だからのう」

「えっ、じゃあさ。あえて問題を広げようとしてる可能性は?」

 されどモアは納得しない。あのルーシはまどろっこしい方法を使ってでも自分たちを消したいはずだからだ。メビウスとモアが生還している時点でルーシは祖父に勝ちきれていない。ならば外部の手を借りるという話は充分に有り得る。

「いや……第三の勢力が襲いかかってきているのだろう」

 メビウスの口調は重たかった。

 *

「それにしたってさぁ、授業受けるタイミング被んないよね」

「きょうは一緒なのだからよいだろう」

「まあそうなんだけども……」

 メビウスとモアは隣国ガリアの宮殿のような校舎にて、授業を受けていた。私語はうるさすぎなければ認められており、いつだか驚いたように加熱タバコらしき集中剤を吸い込む生徒もちらほら見受けられる。

「てか、魔術理論学ってお姉ちゃんに一番要らないヤツじゃん」

「新たな発見があるかもしれんぞ? 日進月歩だからな」

「どうなんだろう……」

 そんな中、ひとりの少年が立ち上がりメビウスたちの元へ向かってくる。

「げっ。お姉ちゃんのファーストキス奪った女狐じゃん」

 赤髪を刈り上げている少女の器を持つフロンティアは、ひどく赤面し小声でモアに耳打ちする。

「そういう話をするんじゃねえ! オレの沽券に関わるだろうが!」

「間違っちゃいないもん。だいたいあたし、アンタのこと嫌いだし」

「そういう性格の所為で友だちできねーンじゃねえの?」

「うぐっ。正論パンチこそしてほしくない……」

「自覚あるのかよ」

 そんな会話を交わすふたりだが、メビウスの顔を一瞥したフロンティアは立ち上がった目的を思い出した。

「ウィンストンって先輩が懸賞金懸けたのは知ってますか? め、バンデージさん」

「ウィンストン?」

「オレらが入学する前にルーシ先輩が詰めて退学させたっていうヒトです」

「あー。知ってるよ。なんでもMIH学園の裏ビジネスを取り仕切ってたとか」

「そのウィンストン先輩はメイド・イン・ヘブン学園への復学を狙ってるみてーで、自分をゴン詰めしたルーシ先輩への上納品としてバンデージさんとついでに隣のチビも捕らえるつもりなんじゃないでしょうか」

「チビは余計だね? なんならあとで泣き叫ぶまで詰めようか?」

 とりあえずモアの精神状態はだいぶ回復したようだ。フロンティアとの会話もそつなくこなしている。もうそれだけできょうを生きた意味はあった。
 とか思いつつ、ガールズ・トークを訊く。

「喧嘩しに来たわけじゃねえっての。カルシウムが足りてねえからチビなんだよ」

「はー!? あたしきのうヨーグルト50個くらい食べました~! 牛乳も2リットルは飲んでます~。てかさ、そっちこそ肌荒れとか気にしないの? お姉ちゃんを見てみなよ。この毛穴ひとつない潤いきった肌を!」

「てめ……自分は割とボロボロな癖に姉の威を借りるんじゃねえ!!」
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