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シーズン3 自分から助かろうとする者のみが助かる
044 私は……おれは、ただこの世界のために一生懸命働いていただけなんだぞ?
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「……細胞が再生し始めているな」
各自がそれぞれの闘争に挑んでいく中、メビウスは辛うじて生き残っていた。
エアーズの攻撃によって細胞再生が無効化されており、食らった攻撃を免疫や魔力で修復できていなかったが、これでようやく動ける。
と、思い、隣に転がっているフロンティアの傷口を塞ごうとしたら。
「──うぐぅ!!」
メビウスはまたもや吐血し、手にびっちゃりと血液がこびりつく。呼吸も不整脈のごとく整わず、やがて力なく地面に膝を屈してしまった。
「ばんで……メビウスさん……オレ、こんなところで死ぬのかな……」
仰向けに地面へ転がり、曇り始めた空が命運を象徴するように雨を降らす。フロンティアの弱気な口振りに、メビウスは返事すらできない。
そんなとき。
「メビウスさん! こんなやべー場面に呼んでくんねェなんて水臭せェッスよ!!」
……ごく一部の者は魔力のみで天候すら変えることができる。連邦国防軍が何度も実験したという“核兵器”に良く似ている爆発がもたらした雨は、笑顔を浮かべるサングラス姿のジョン・プレイヤーによって降り止んだ。
「やっぱりアンタ“蒼龍のメビウス”じゃん。そりゃ強くて当たり前だ」
放っておけば数分後には絶命していたメビウスとフロンティアの元に、スタスタとミンティが歩み寄ってきた。彼はこれまた軍用品の興奮剤と医療セットを両手に抱えている。
「ほら、着払い勢らしく仲良くしようぜ。ちょっとキツく閉めっけど我慢してくれ」
「ありがと……う」
「いまから死ぬわけじゃあるめェ。そんな顔するなよ」
フロンティアの治療をミンティが請け負う中、メビウスの手元には軍用興奮剤が置かれている。脳内麻薬を強制的に発生させる、下手な麻薬よりもよほど中毒性と危険性の高い劇薬である。
ジョンがメビウスに近寄ってきた頃、白い髪の少女は後ろ髪を孫娘からもらったヘアピンで止め、彼に不敵な笑みを見せる。
「戦闘準備万端って感じッスね。やっぱ弟子に獲物盗られるのは嫌なんですか?」
「当たり前だろう。わしを誰だと思っている。私は……蒼龍のメビウスだ」
やられっぱなしでは終われない。あの幼女を無力化しなければならない。いままさにメビウスたちは危害を加えられているのだから。
そんな覇気を完全に取り戻したメビウスは、興奮剤をなんの躊躇もなく心臓に打ち込む。
「って、これ腕に打つヤツッスよ? 心臓に打ち込んじゃったら後々寿命縮まっちゃう」
メビウスは、白い髪の少女は、胸に打った注射器をポケットにしまい、口調とは裏腹にニヤリと笑うジョンへ告げる。
「なにを言っておるのだ。わしはもう72歳のジジイじゃ。寿命などいまさら惜しくもないわい」
愛らしい表情のメビウスは、地面を蹴り壊すかのように天空高く舞い上がっていくのだった。
その頃、ひとつの闘いが幕を下ろしつつあった。
「どうしたよォ、エアーズ。熱出したみてーに顔色が悪りィ゙ぜ?」
「うるせェよ……。クソ野郎がァ!!」
子どもじみた口喧嘩は空中高くで起きているし、高射砲らしき物体は消えかかっている。エアーズの運命も決まりつつあるというわけだ。
「おっと、最後の賭けなんて許すと思うか?」
ルーシは一撃離脱を狙ったエアーズの読みを当て、もう息も絶え絶えのエアーズが即座の攻撃を選ばなかったことに疑念を抱くが、呼吸も苦しい空中にいれば判断を間違えてもおかしくはない。いわゆる囮でないと踏んだルーシは、エアーズへ黒い鷲の翼を発射した。
「ぐぅッ!?」
ありったけの魔力を込め、存在感の薄れていた高射砲がくっきり浮かぶ。だが、当てれば確実に相手を鎮められる大砲も、当たらなければブリキのおもちゃというものである。
「ぐうの音は出るのかい……惜しいな。私と手を組めば、この世界も掴めただろうに」
どのみち、突き刺した時点で勝ちは確定だ。ルーシはすこしエアーズを殺すことを躊躇しているが、エアーズもエアーズで放っておけば勝手に死ぬくらい傷だらけ。どうにかして配下に加えられないかと、ルーシはいわば慢心していた。
「だがまあ、オマエは頑張りやさんだ。最期のチャンスをくれてやるよ。ここで私についてくるって決めるのなら、てめェに刺した翼は再生用に使ってやろう。さあ、どうする?」
エアーズは思わず、「はッ……」と苦い笑い声をあげる。彼は続けた。
「てめェのケツ舐めながら生きるくれーなら、ここで地獄堕ちたほうがマシだ。どっちにしても死ぬんなら、断じてオマエには従わねェ!!」
「残念だよ……!!」
殺すしかない。ここまでやって心がへし折れない相手なんて、飼い切れるわけがない。飼い慣らせない仲間などクール・レイノルズだけで充分だ。
ルーシの翼が妖しく光り、エアーズはついに爆散と臨終のときを迎えていた。
が、ここでルーシは踏みとどまる。地上から、なにかが来ている。大爆発で半壊した廃工場を中心に、廃墟が広がる地上から、何者かが来ている。
──まさか、蒼龍のメビウスが……あの場面で生き残った? どうやって生き延びた? どう考えても死ぬべきだっただろ。
ルーシの喉が干からびるように乾いていく。唾液を何度も飲み込み、焦りをまったく隠せていない。
──オカシイだろうが。私は……おれは、ただこの世界のために一生懸命働いていただけなんだぞ? ……オカシイだろうがッ!!
エアーズから自身の翼を引き剥がし、落下していく彼へは目もくれない。圧倒的理不尽が直ぐ側まで迫ってきている。もう生き残れないかもしれない。ついにツキがすべてなくなってしまったのだ。落ち目の乱暴者など、誰も助けようとは思わない。
「それが……なんだって言うんだよッ!! おお、蒼龍!! しっかりトドメを刺してやるべきだったんだよなァ!!」
各自がそれぞれの闘争に挑んでいく中、メビウスは辛うじて生き残っていた。
エアーズの攻撃によって細胞再生が無効化されており、食らった攻撃を免疫や魔力で修復できていなかったが、これでようやく動ける。
と、思い、隣に転がっているフロンティアの傷口を塞ごうとしたら。
「──うぐぅ!!」
メビウスはまたもや吐血し、手にびっちゃりと血液がこびりつく。呼吸も不整脈のごとく整わず、やがて力なく地面に膝を屈してしまった。
「ばんで……メビウスさん……オレ、こんなところで死ぬのかな……」
仰向けに地面へ転がり、曇り始めた空が命運を象徴するように雨を降らす。フロンティアの弱気な口振りに、メビウスは返事すらできない。
そんなとき。
「メビウスさん! こんなやべー場面に呼んでくんねェなんて水臭せェッスよ!!」
……ごく一部の者は魔力のみで天候すら変えることができる。連邦国防軍が何度も実験したという“核兵器”に良く似ている爆発がもたらした雨は、笑顔を浮かべるサングラス姿のジョン・プレイヤーによって降り止んだ。
「やっぱりアンタ“蒼龍のメビウス”じゃん。そりゃ強くて当たり前だ」
放っておけば数分後には絶命していたメビウスとフロンティアの元に、スタスタとミンティが歩み寄ってきた。彼はこれまた軍用品の興奮剤と医療セットを両手に抱えている。
「ほら、着払い勢らしく仲良くしようぜ。ちょっとキツく閉めっけど我慢してくれ」
「ありがと……う」
「いまから死ぬわけじゃあるめェ。そんな顔するなよ」
フロンティアの治療をミンティが請け負う中、メビウスの手元には軍用興奮剤が置かれている。脳内麻薬を強制的に発生させる、下手な麻薬よりもよほど中毒性と危険性の高い劇薬である。
ジョンがメビウスに近寄ってきた頃、白い髪の少女は後ろ髪を孫娘からもらったヘアピンで止め、彼に不敵な笑みを見せる。
「戦闘準備万端って感じッスね。やっぱ弟子に獲物盗られるのは嫌なんですか?」
「当たり前だろう。わしを誰だと思っている。私は……蒼龍のメビウスだ」
やられっぱなしでは終われない。あの幼女を無力化しなければならない。いままさにメビウスたちは危害を加えられているのだから。
そんな覇気を完全に取り戻したメビウスは、興奮剤をなんの躊躇もなく心臓に打ち込む。
「って、これ腕に打つヤツッスよ? 心臓に打ち込んじゃったら後々寿命縮まっちゃう」
メビウスは、白い髪の少女は、胸に打った注射器をポケットにしまい、口調とは裏腹にニヤリと笑うジョンへ告げる。
「なにを言っておるのだ。わしはもう72歳のジジイじゃ。寿命などいまさら惜しくもないわい」
愛らしい表情のメビウスは、地面を蹴り壊すかのように天空高く舞い上がっていくのだった。
その頃、ひとつの闘いが幕を下ろしつつあった。
「どうしたよォ、エアーズ。熱出したみてーに顔色が悪りィ゙ぜ?」
「うるせェよ……。クソ野郎がァ!!」
子どもじみた口喧嘩は空中高くで起きているし、高射砲らしき物体は消えかかっている。エアーズの運命も決まりつつあるというわけだ。
「おっと、最後の賭けなんて許すと思うか?」
ルーシは一撃離脱を狙ったエアーズの読みを当て、もう息も絶え絶えのエアーズが即座の攻撃を選ばなかったことに疑念を抱くが、呼吸も苦しい空中にいれば判断を間違えてもおかしくはない。いわゆる囮でないと踏んだルーシは、エアーズへ黒い鷲の翼を発射した。
「ぐぅッ!?」
ありったけの魔力を込め、存在感の薄れていた高射砲がくっきり浮かぶ。だが、当てれば確実に相手を鎮められる大砲も、当たらなければブリキのおもちゃというものである。
「ぐうの音は出るのかい……惜しいな。私と手を組めば、この世界も掴めただろうに」
どのみち、突き刺した時点で勝ちは確定だ。ルーシはすこしエアーズを殺すことを躊躇しているが、エアーズもエアーズで放っておけば勝手に死ぬくらい傷だらけ。どうにかして配下に加えられないかと、ルーシはいわば慢心していた。
「だがまあ、オマエは頑張りやさんだ。最期のチャンスをくれてやるよ。ここで私についてくるって決めるのなら、てめェに刺した翼は再生用に使ってやろう。さあ、どうする?」
エアーズは思わず、「はッ……」と苦い笑い声をあげる。彼は続けた。
「てめェのケツ舐めながら生きるくれーなら、ここで地獄堕ちたほうがマシだ。どっちにしても死ぬんなら、断じてオマエには従わねェ!!」
「残念だよ……!!」
殺すしかない。ここまでやって心がへし折れない相手なんて、飼い切れるわけがない。飼い慣らせない仲間などクール・レイノルズだけで充分だ。
ルーシの翼が妖しく光り、エアーズはついに爆散と臨終のときを迎えていた。
が、ここでルーシは踏みとどまる。地上から、なにかが来ている。大爆発で半壊した廃工場を中心に、廃墟が広がる地上から、何者かが来ている。
──まさか、蒼龍のメビウスが……あの場面で生き残った? どうやって生き延びた? どう考えても死ぬべきだっただろ。
ルーシの喉が干からびるように乾いていく。唾液を何度も飲み込み、焦りをまったく隠せていない。
──オカシイだろうが。私は……おれは、ただこの世界のために一生懸命働いていただけなんだぞ? ……オカシイだろうがッ!!
エアーズから自身の翼を引き剥がし、落下していく彼へは目もくれない。圧倒的理不尽が直ぐ側まで迫ってきている。もう生き残れないかもしれない。ついにツキがすべてなくなってしまったのだ。落ち目の乱暴者など、誰も助けようとは思わない。
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