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シーズン3 自分から助かろうとする者のみが助かる

045 男であることを捨てきれねェアンタじゃ無理だ

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 蒼龍のメビウス陣営VS黒鷲のルーシ陣営による長きに渡った闘争も、いよいよ大詰めに入りつつある。
 まず、ルーシ側の戦力はルーシを除き無力化されている。リヒトはどの対決にも割り込めず、ポールモールはラッキーナ・ストライクから現れた謎の幻体2体に敗北。
 対するメビウス側。こちらは重症のフロンティアとその治療を行うミンティ、最前落下したエアーズを除き、未だ健在だ。主なメンバーはメビウス、モア、ラッキーナ、ジョンなどが当てはまる。

 蒼龍と大鷲という天空の覇者同士の闘いは、結局、メビウスが介入してきた時点でルーシたちの負けが始まっていた。そして、メビウスを挑発してエアーズとぶつけさせた黒幕がルーシであり、ラッキーナを確実に“パクス・マギア”への踏み台にしようとした結果の安全策が完全に裏目へと出てしまったのだ。

 では、性格が起因になって負けを認めそうにもない幼女ルーシ・レイノルズは、如何にしてこの状況から勝利と呼べる糧を掴み取るか。

 ルーシの立派なスーツはもうボロ布と変わらない。身体中傷だらけで、いまにも意識が飛びかけている。それでも葉巻らしきなにかを咥え、自分を鼓舞することだけは忘れない。

「小娘ェ!!」

 メビウスが声を張り上げた。可愛らしい本来の声色はどこへ消えたのかと訝りたくなる。まるで男性時代の全盛期を彷彿とさせる圧倒的な覇気と魔力。その驚異的な存在はルーシの皮膚をひとりでに震わせる。

「貴様は自分の哲学の実現こそ全人類のためになると思っているエゴイストだ!! ありとあらゆるヒトを騙し続け、ただの人殺しが世界を変えると吹き上がる様は滑稽でしかない! そして、貴様はわしの……私の妹を踏みにじり、友だちに傷を負わせた!! 生かしてはおけぬ!!」

「それがなんだって言うんだァ!? てめェら愚民どもは私の言うことに従っておけば良い!! オマエにはこの世界を良くすることはできねェ!! なぜならば……この世界の無秩序を無自覚のうちに受け入れているからだ……!!」

 ルーシの背中に広がる黒い鷲の翼が、すこしずつ色素をなくしていく。銀色に変怪したそれは、やがて金色に生え変わった。

「おォ、蒼龍!! てめェは“龍”だよなァ!? ならば私は金の大鷲だ!! さらに言えば……」

 メビウスの目をまばゆい雷光がかする。最前、ジョンの魔力によって回復したはずの天気が再び曇り始め、雷鳴が鳴り響いた。ルーシはあたかも当然のごとく、雷に手をかざしてそのエネルギーを拾い始めた。

「この雷鎚は私そのものだ!! この天空に覇権はふたつもいらねェ!! “生き物”の龍が“災害”の雷に敵うと思うなァ!!」

 災害がそのまま降り注ぐような戦場であっても、メビウスは至って冷静だった。過酷な最前線から離れて数十年。メビウスはいわば必殺技といえる隠し玉を展開した。

 それを見上げるジョンは、思わずテンションが上がって写真を撮る。

が現れたぞォ!! かっこいいなぁ! 相変わらずかっけェよ、メビウスさん!!」

 ジョンは手を叩き、子どものごとく大喜びするのであった。
 この東街を呑み込むほど巨大化した氷の東洋龍の上に乗り、メビウスは無数に降り注ぐ雷撃を次々と凍らせていく。雷すらも凍結させてしまう龍はルーシを食らい尽くすべく動き始めた。

「馬鹿げた馬力だなぁ……!!」

 額に汗を垂らしたルーシは、されど不敵な笑みに顔を包む。

「おお、蒼龍!! もう随分失っちまったなぁ!! 親愛なる部下がやられ、この惨劇はさしもの中央委員会も隠蔽し切れない!! オマエがいなければ全部うまく行っていたのに、オマエが現れてから全部台無しだ!! だが──!!」

 金鷲の翼に雷のエネルギーが集中し始める。まばゆく直視もできない翼は、強烈な熱波をもってメビウスの氷龍ひょうりゅうを崩す構えだ。

「この後に及んで悪あがきなど……!!」

「あがきもせずにやられることが男道とでも言うのかい!? 女になっちまった以上、は使えねェよなぁ!?」

 まだ、ルーシは勝機を探していた。こんな理不尽に負けてたまるものかと、隙のない闘い方をしてくるメビウスの欠点を洗っていたわけだ。

 そこでルーシは気がつく。メビウスの魔術は、男性の魂を持つ者が女性の肉体を介して発現しているということに。
 皇帝の魔術カイザ・マギアも然りレクス・マギアやレジーナ・マギアも然り、性別やDNAの構成がひとつ違うだけで使えない魔術などいくらでもある。ルーシは、メビウスが無理やり男性型の魔術を使っていると解釈し、そこに最大の隙があると考えた。

「……なにを言っておる」

「ああ。言い直してやろうか? ……男から女になっちまったアンタにァ、無理だ」

 瞬間、ルーシの翼から羽根が分離し、氷の龍の上に立つメビウスを突き刺す。やはり貫通自体にはなんの意味もない。ただ触れただけではなんの意味も持たないが、それだけで終わるわけもない。

「……ッ!!?」

「やはりそうか……!! 女の身体で魔術を使うために相当無理していたようだなぁ? ちょっとでも魔力を本体に残してりゃ、この惨劇は避けられた……!!」

 メビウスは嘔吐物のように炎を撒き散らし始めた。内蔵へ突如訪れた謎の痛みによって、その龍娘は嗚咽を漏らしながら焔を吐き散らす。

 そして、メビウスは脊髄反射的に行った龍娘の炎の撒き散らしによって、東の街を呑み込む勢いであった氷の龍を溶かしてしまう。
 じゅわっ……と蒸発していく必殺技。このままでは不発のまま負けてしまう。メビウスは慌てるように龍の頭に触れ、一気にルーシへ直撃させた。

「フフフ……。辞めておけよ。男であることを捨てきれねェアンタじゃ無理だ」

 が、明らかなパワー不足に直面する。ルーシを呑み込むことはできたが、彼女が凍りそうな感覚はまったく掴めていない。対して雷は容赦なく降り注いでいる。氷でできた龍が壊されるのも時間の問題だ。

 と、ルーシの読みがここに来て的中したときだった。

「……!!? なぜ曇り雲が消え始めている!?」
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