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シーズン3 自分から助かろうとする者のみが助かる
046 邪魔だよ、オマエら。本当に、本当に邪魔だ!!
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薄暗い天気が、またもや明るくなった。それと同時に雷撃も鳴り止んでしまう。
「誰のカイザ・マギアで──いや、ジョン・プレイヤーか……!! 師匠のピンチを救うとはイカした弟子だな……!!」
だが、それでもなおルーシは負けを認めない。蒼い氷の龍に呑み込まれてから数十秒、未だ彼女に凍る兆しは見受けられないからだ。
「だが!! これを耐え切りゃ私の勝ちだ!! 違うか!?」
「違わんが……耐えきれると本気で信じているのか?」
矢先、氷龍の中に龍娘の姿をした少女メビウスが現れた。彼女は次々とワープしていき、やがて絶好のチャンスだと攻撃しまくっていたルーシの眼前へたどり着く。幼女は冷や汗を垂らし、ついに口角をあげられる余裕もなくなった。
が、彼女はそれでも自分を奮い立たせるためにニヤつく。
「はは……。こりゃ厄介だ。一筋縄じゃいかない連中がみんなアンタの勝利を信じている。信じられるから命も懸けられる。邪魔だよ、オマエら。本当に、本当に邪魔だ!!」
ルーシは背中に金鷲の翼を広げ、爆発したようにメビウスとの間合いを狭める。その身長150センチ程度の幼女は、拳を固く握りしめていた。
「ぐうッ!!」
「最後はステゴロと洒落込もうぜ……? 魔術使いながら口喧嘩なんて、女のやることだもんなぁ?」
顔面に手痛い一撃を食らったメビウスは、しかし冷静にルーシの腹部に拳をにじりこませる。
「ぐおッ!!」
「プロの軍人だった私に白兵戦で勝てると思うなよ?」
「……。はッ。ならこちらは21世紀最大の怪物だ。もう何万人と手にかけてきたし、何百万人と死滅へ追い込んでやった。先ほどの繰り返しになるかもしれねェが、“軍人”ごときが“怪物”には敵わねェ」
「そんなわけがなかろう……!!」
お互い本気で撲殺するために殴り合いをしているわけだが、戦場がメビウスの生み出した氷龍の体内である以上、両者ともに食らうダメージは二倍だ。相手の拳と指の感覚がなくなり痛みが走る氷点下の状況が組み合わさり、強靭過ぎるが故に勝負がなかなかつかなかったふたりの決着が見えつつある。
「現に、“災害”は“生き物”に負けたではないか」
「ジョン・プレイヤーなんて災害よりもタチ悪りィ゙だろ」
「いや……あれをやったのはラッキーナくんじゃ」
メビウスはいたずらっぽい笑顔を浮かべ、驚愕のあまり構えることを忘れていたルーシの肩を掴み、渾身の頭突きを食らわせる。
「いッてェなァ!!」
「まだ倒れんのか。タフさは人外の域じゃな」
「うるせェ!! ラッキーナがやっただぁ!? そりゃ素敵だなぁ!! 地上は楽しそうでなによりだよ!!」ルーシは錯乱しているかのような口調で、「ああ、クソ!! アンタの孫娘もついでにやられていればありがたいんだがなぁ! あの薄ら馬鹿の所為で全部台無しになりかけているんだからよぉ!!」
いつも通りの相手を煽ることで優位に立とうとしているのではない。ただ、苛立ちがピークに到達しただけだ。
だからルーシは、ろくな対策もとらずにメビウスの右ストレートを顔面に打ち込まれるのだった。
「ぐああああッ!!」
鼻がへし折れ、歯も飛んだ。そんなルーシは膝をつき、呼吸を落ち着かせようとする。
だが、メビウスがそれを許すはずもない。彼女は即座に迫撃を仕掛け、ルーシの首を掴む。
「貴様は……貴様だけは殺さねばならぬ!! たとえこの身が果てようとも!!」
握力が恐ろしい勢いで強まっていく。雷撃による氷龍破壊は免れたが、雲が消え去り快晴になってしまったので、今度は溶けてしまう可能性を留意しなければならない。
もっとも、氷の龍が形を保てなくなる前に決着はつくだろう。おそらく引き分け、要するに両者とも凍死することで闘いが終わると老将軍だったメビウスは推測していた。
「おえッ!! ぐへぇ!! ごッ……!!?」
メビウスの腕に首を掴まれ、ルーシは天高くトロフィーでも見せつけるかのように持ち上げられている。こうなってしまうと振り払う手段がない。もう奥の手なんて全部使い尽くした。なにも切り札など残っていない。
青白く顔を染め上げたルーシは、やがてジタバタと逃げようとする素振りも見せなくなった。彼女の細い首についている肉へ爪を染み込ませ、至るところに生々しい穴が空いている。
あと10秒も経てば21世紀最大の怪物が二度目の死を迎えるだろう。そしてメビウスもまた、内蔵が強烈な寒さの所為で機能不全を起こし始めていることを悟った。
それが故、相討ちで終わる、とふたりが同じ未来を想像した折。
氷龍が熱波に晒され、あっという間に溶けてしまった。
「……なにが起きたのだ?」
メビウスとルーシは地上へ落下していく。普段寒い国であるロスト・エンジェルスだが、このときに限れば気温40度に迫る勢いで暑くなっていた。
必殺技が溶かされてしまったことで、メビウスは生き延びる可能性が増えたものの、同時にルーシを仕留める機会も失ってしまった。意識が飛びかけているメビウスに、数十メートル離れた場所より真っ逆さまに落ちていくルーシへ接近する体力も魔力も、すでに残されていなかったのである。
「おーい!! メビウスさーん!!」
聞き慣れた声の男が、地上から手を振っている。
白い髪の少女メビウスは苦笑いを浮かべ、「最高指導者で軍の最高司令官が最前線に出てはならないだろうに」とセリフとは裏腹に、どこか嬉しそうな声色でつぶやく、
「メビウスさんー! 身体に力入んねェンすか!?」
が、メビウスの体力と魔力は残っていない。このままでは飛び降り自殺のような真似をする羽目になりそうだ。72年間生きてきたのに、どんな戦場でも生き残ってきたのに、最期はこんな終わり方なのか。
そんなメビウスと地上の距離が20メートルを切ったときだった。
「バンデージさん!! 強盗から助けてもらった恩くらい返させてください!!」
長身の地味な見た目の茶髪少女が、メビウスの場所まで駆け上がり、彼女を自分の腕に抱えた。そして、ラッキーナ・ストライクはいつものオドオドした表情でなく、柔和な笑顔を浮かべていた。
「誰のカイザ・マギアで──いや、ジョン・プレイヤーか……!! 師匠のピンチを救うとはイカした弟子だな……!!」
だが、それでもなおルーシは負けを認めない。蒼い氷の龍に呑み込まれてから数十秒、未だ彼女に凍る兆しは見受けられないからだ。
「だが!! これを耐え切りゃ私の勝ちだ!! 違うか!?」
「違わんが……耐えきれると本気で信じているのか?」
矢先、氷龍の中に龍娘の姿をした少女メビウスが現れた。彼女は次々とワープしていき、やがて絶好のチャンスだと攻撃しまくっていたルーシの眼前へたどり着く。幼女は冷や汗を垂らし、ついに口角をあげられる余裕もなくなった。
が、彼女はそれでも自分を奮い立たせるためにニヤつく。
「はは……。こりゃ厄介だ。一筋縄じゃいかない連中がみんなアンタの勝利を信じている。信じられるから命も懸けられる。邪魔だよ、オマエら。本当に、本当に邪魔だ!!」
ルーシは背中に金鷲の翼を広げ、爆発したようにメビウスとの間合いを狭める。その身長150センチ程度の幼女は、拳を固く握りしめていた。
「ぐうッ!!」
「最後はステゴロと洒落込もうぜ……? 魔術使いながら口喧嘩なんて、女のやることだもんなぁ?」
顔面に手痛い一撃を食らったメビウスは、しかし冷静にルーシの腹部に拳をにじりこませる。
「ぐおッ!!」
「プロの軍人だった私に白兵戦で勝てると思うなよ?」
「……。はッ。ならこちらは21世紀最大の怪物だ。もう何万人と手にかけてきたし、何百万人と死滅へ追い込んでやった。先ほどの繰り返しになるかもしれねェが、“軍人”ごときが“怪物”には敵わねェ」
「そんなわけがなかろう……!!」
お互い本気で撲殺するために殴り合いをしているわけだが、戦場がメビウスの生み出した氷龍の体内である以上、両者ともに食らうダメージは二倍だ。相手の拳と指の感覚がなくなり痛みが走る氷点下の状況が組み合わさり、強靭過ぎるが故に勝負がなかなかつかなかったふたりの決着が見えつつある。
「現に、“災害”は“生き物”に負けたではないか」
「ジョン・プレイヤーなんて災害よりもタチ悪りィ゙だろ」
「いや……あれをやったのはラッキーナくんじゃ」
メビウスはいたずらっぽい笑顔を浮かべ、驚愕のあまり構えることを忘れていたルーシの肩を掴み、渾身の頭突きを食らわせる。
「いッてェなァ!!」
「まだ倒れんのか。タフさは人外の域じゃな」
「うるせェ!! ラッキーナがやっただぁ!? そりゃ素敵だなぁ!! 地上は楽しそうでなによりだよ!!」ルーシは錯乱しているかのような口調で、「ああ、クソ!! アンタの孫娘もついでにやられていればありがたいんだがなぁ! あの薄ら馬鹿の所為で全部台無しになりかけているんだからよぉ!!」
いつも通りの相手を煽ることで優位に立とうとしているのではない。ただ、苛立ちがピークに到達しただけだ。
だからルーシは、ろくな対策もとらずにメビウスの右ストレートを顔面に打ち込まれるのだった。
「ぐああああッ!!」
鼻がへし折れ、歯も飛んだ。そんなルーシは膝をつき、呼吸を落ち着かせようとする。
だが、メビウスがそれを許すはずもない。彼女は即座に迫撃を仕掛け、ルーシの首を掴む。
「貴様は……貴様だけは殺さねばならぬ!! たとえこの身が果てようとも!!」
握力が恐ろしい勢いで強まっていく。雷撃による氷龍破壊は免れたが、雲が消え去り快晴になってしまったので、今度は溶けてしまう可能性を留意しなければならない。
もっとも、氷の龍が形を保てなくなる前に決着はつくだろう。おそらく引き分け、要するに両者とも凍死することで闘いが終わると老将軍だったメビウスは推測していた。
「おえッ!! ぐへぇ!! ごッ……!!?」
メビウスの腕に首を掴まれ、ルーシは天高くトロフィーでも見せつけるかのように持ち上げられている。こうなってしまうと振り払う手段がない。もう奥の手なんて全部使い尽くした。なにも切り札など残っていない。
青白く顔を染め上げたルーシは、やがてジタバタと逃げようとする素振りも見せなくなった。彼女の細い首についている肉へ爪を染み込ませ、至るところに生々しい穴が空いている。
あと10秒も経てば21世紀最大の怪物が二度目の死を迎えるだろう。そしてメビウスもまた、内蔵が強烈な寒さの所為で機能不全を起こし始めていることを悟った。
それが故、相討ちで終わる、とふたりが同じ未来を想像した折。
氷龍が熱波に晒され、あっという間に溶けてしまった。
「……なにが起きたのだ?」
メビウスとルーシは地上へ落下していく。普段寒い国であるロスト・エンジェルスだが、このときに限れば気温40度に迫る勢いで暑くなっていた。
必殺技が溶かされてしまったことで、メビウスは生き延びる可能性が増えたものの、同時にルーシを仕留める機会も失ってしまった。意識が飛びかけているメビウスに、数十メートル離れた場所より真っ逆さまに落ちていくルーシへ接近する体力も魔力も、すでに残されていなかったのである。
「おーい!! メビウスさーん!!」
聞き慣れた声の男が、地上から手を振っている。
白い髪の少女メビウスは苦笑いを浮かべ、「最高指導者で軍の最高司令官が最前線に出てはならないだろうに」とセリフとは裏腹に、どこか嬉しそうな声色でつぶやく、
「メビウスさんー! 身体に力入んねェンすか!?」
が、メビウスの体力と魔力は残っていない。このままでは飛び降り自殺のような真似をする羽目になりそうだ。72年間生きてきたのに、どんな戦場でも生き残ってきたのに、最期はこんな終わり方なのか。
そんなメビウスと地上の距離が20メートルを切ったときだった。
「バンデージさん!! 強盗から助けてもらった恩くらい返させてください!!」
長身の地味な見た目の茶髪少女が、メビウスの場所まで駆け上がり、彼女を自分の腕に抱えた。そして、ラッキーナ・ストライクはいつものオドオドした表情でなく、柔和な笑顔を浮かべていた。
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