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シーズン1 チャプター2 それでもおれは正義のヒーローなんかじゃないっ!!

049 まさかのヒロイン登場劇

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 とはいえ、ミリットは軽い。女子中学生ということもあるのかもしれないが、ふとももで抱える状態になってもあまり重さを感じない。
 おれは横にいるタイーシャも見る。こちらも痩せている。華奢な体型と言ったほうがよろしいか。

「でも動けねえ……」

 ミリット、この状態知ったら逆ギレしてきそうだしな~。下手な敵よりもよっぽど怖いぜ。
 そんな頃、話し合いを終えたのか車のドアが開く音がした。

「お疲れ。小粋、エコー、シルク──!?」

 ──しまったッ!! この魔力は間違いなく、怪物を憎む少女クラリスのものだ!!

「あら、ずいぶん仲が良いのね」

 ……でも戦闘的ではない。居場所を突き詰めたのだろうが、なにを言いに来たのだろうか。

「傷なら心配ないわ。ロスト・エンジェルスの止血剤は文字通り世界一だから」

「……なにをしに来た?」

「一緒に市民登録した仲じゃない。まあさっきは手酷い目にあったけれど」

「あれはオマエが仕掛けた──「オマエなんて言わないでくれる? 私はクラリスよ」

「……。クラリスが仕掛けたんだろうが」

「だから恨んでいないわよ。恨んでたらそこのスライム娘ごと貴方を吹き飛ばしてるわ」

 ますます意味が分からない。この女はたいていの場合ミステリアスな雰囲気を醸し出してくる。

「まあ……仲直りしましょうってことよ」

「仲直り?」

「私に勝てる怪物なんてそうはいないし、貴方にあそこまでダメージ与えられる怪物狩りもいないでしょ?」

「まあ、そうかもしれないけど……」

「だから同盟を組みましょう」

「へ?」

 なに言っているんだ、コイツ。クラリスの祖父セーラムいわくコイツは怪物を憎んで恨んでいるんだよな? その相手と同盟? 正気なのか?

「そんな怪訝そうな顔になるものかしら?」

「なるだろ、そりゃ」

 本当は大声をあげたいが、ミリットの手前それができないのがもどかしい。

「正直、私が怪物嫌いなのはただの私怨よ。ただの……って言うには強い意味が込められているけれど。でも、私の上に立つ男は夜叉のように怪物絶滅を企てているわ。この意味、分かるかしら?」

「……。二番手のクラリスがやられてトサカに来てる『ノーマッド』総長様は、君をも含めて絶滅闘争を仕掛けると?」

「察しが良いじゃない。そう。総長は私をも消そうとしている。私、あしたには賞金首になっているはずよ。どう思う?」

「……。どうでも良いって言っちゃ駄目か?」

 だって一度は本気で殺されそうになった相手だし、殺そうとした相手だもの。どこかでくたばってくれるのが一番だとは思う。

「残念ね。でも、私という戦力を自由に使えるとしたら?」

「……ずいぶんへりくだるな。そんなにやばいのか?」

「ええ」即答だ。

 ……おれはたしかエルフにこう言ったんだよな。『死に場所探しているなら生き場所を提供してやる』って。そして男に二言はない。

「分かった。鉄血同盟で匿ってやる。ただエコーにはしっかり謝れよ?」

 甘い人間なんだよ、おれって。たぶんな。
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