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シーズン1 チャプター3 怪物と人間の垣根を超えて
068 鉄血同盟VSセブン・スター”ハイライト”
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「おおおお……効いたぜクソ野郎……!!」
ハイライトは血の塊を口から吐き出す。スーツもすでにボロ布同然。それでもこの男から戦意が消えることはない。
「だがまだ足りねェ。これが必殺技だって言うんなら、オマエはなにもかもが足りなさ過ぎる」
天気が悪くなってきた。
異世界転生30日16時23分46秒目。ロスト・エンジェルスに雷鳴が響き渡る。
「なにもかもが足りないオマエは、天気には敵わねェ」
ハイライトは空中高く舞い、なんと雷を手でつかんだ……!!
「おれの新魔術は雷をも支配する!! スライム娘ごときが雷に敵うと思うなよォ!?」
そして掴まれた雷は、槍のように変怪していく。変怪した雷の槍をハイライトはおれを刺し殺すためだけに投擲した。
──まずいッ!! あんな攻撃まともに喰らったら確実にやられる!! でも分離してスライムをまた失うのは自殺行為だ!! どうすれば……どうすれば良い!?
「鬼子母神ッ!!」
刹那、空中に赤い鬼が現れた。
鬼は雷を真二つに叩き割り、地上へ降りてくる。
「小粋……」
「天気が悪くなったから嫌な予感がしたんだ。タイラー、セブン・スターと喧嘩するんならおれたちを呼んでくれよ」
背後にも気配を感じる。おそらくエコーとシルク。ふたりはタイーシャを回収しに来たみたいだ。
そうか、どうすれば良いなんて考える必要はない。俺には仲間がいるんだ。困ったときに絶対助けてくれる、絶対助ける仲間が。
「さァて!! 往生の時間だ!! セブン・スター!!」
小粋は地面を蹴り、ハイライトとの間合いを縮める。しかしただ狭めただけでは死にに行くようなものだ。つまりこの動作には必ず意味がある。
そんなとき、小粋が地面になにかを置いていったことを知る。空っぽの瓶だ。これを吸収しろってことか?
だけど迷っている暇なんてない。おれは瓶を飲み込む。
そうしたら、なぜか身体がふわふわ浮いていってしまった。なにか空気でも入れられたような感覚だ。空中で泳ぐような動作をしながら、おれはなんとか小粋がハイライトの攻撃を喰らう前に彼の前へ立った。
「よっしゃ。お役御免だな」
「あァ? オマエ、なに吸収しやがった?」
ハイライトが怪訝そうな表情になる。対照的に小粋はニヤリと笑う。
「バーカ。死ね」
単調な煽りだがハイライトはだいぶ苛立ちが溜まっていたらしく、雷の槍をおれへ容赦なくぶつけてきた。
こ、小粋。オマエおれを捨て駒にしたのか?
その刹那、槍に触れたおれは大爆発を起こした。ダイナマイトを使ったときのように。
スライム娘であるおれは爆発しても身体が無数のスライムに溶けるだけで、大したダメージは負わない。
だがハイライトの場合はどうだろう。大爆発を至近距離で喰らった“人間”は一体どうなる?
「ぐぉおおおおおおおッ!!?」
断末魔とともに肉の焦げる匂いが漂う。地上にダイブしてスライムを集結させスライム娘に戻ったおれは、それをぽかーんと口を開けながら見ていた。
「勝った、のか?」
フラグとしか思えないセリフとともに、やがておれは現実に戻ってくる。そんなおれの肩を小粋が叩く。
「勝ったさ。あの爆発耐えられる“人間”なんているはずがね──」
刹那、刹那だった。小粋がブーメランのように吹き飛ばされたのは。
おれは固唾を呑み込む。まさか、あの男はまだ生きているのか? しかも小粋を吹っ飛ばせるだけの体力を残しているのか?
その答えは、狼人間のごとく銀色の毛を生やしたハイライトが出てきたことで導き出された。
「チクショウ。ああ、チクショウ。人獣になっちまったぜ……」
本物の狼のごとく吠えるハイライト。おれはその間なにもすることができなかった。ただ、恐怖で動けなかった。
「おい、スライム娘。天下無双のセブン・スターがあれくらいの攻撃でやられると盲信してたのか? 甘めェな。甘めェよ。……てめェはァ!!」
絶望の迫撃が始まる。瞬間的に距離を縮められたおれは、狼の爪で引っかかれた。傷口から溢れ出るスライム。身長がさらに縮んで150センチほどになってしまった。
「おらァ!! 全怪物の皇帝陛下は突っ立って慈悲を乞うしか能がねェのか!? そんなわけねェよなァ!? なあ!!」
矢先、無操作状態のように棒立ちのまま嬲られるおれの本能が語りかけてくる。
いま、天候の悪化で“雨”が降っている。スライムを集めるにはうってつけのはずだ。問題はどうやって恵みの雨にあやかるか。
「……!!?」
おれが取った行動は奇想天外だった。身体そのものを拳に変怪させたのだ。わずか、というかコア部分だけ分離させ、残りはすべて巨人の腕のようなスライムの塊へ変えた。
「ヘッ!! 一か八かの博打に賭けるのか!? だがこんなデカブツをおれにぶつけることなんてできるのか!?」
「できるかできないかじゃない。やるしかないんだよ。おれはタイラントだからな」
「意味分かんねェな!! タイラントがどうしたっていうんだ!?」
「おれはみんなの希望を背負ってる。だから負けちゃいけない。そうだろ…………タイーシャ!!」
ハイライトはあまりにも間抜け過ぎた。たとえタイーシャの魔力がすくなくて察知しづらかったとしても、逃してしまえば身体が拘束される危険性を持っているのだから。
彼女はもうひとりのスライム娘であり、当然雨水でスライムを回復できる。おれの狙いは端からそれだった。
「チクショウ!? スライムがひっついて離れねェ!? このガキがァ!!」
人間の身体を保つのには案外スライムを使う。だからおれは150センチまで縮まった。
しかしそれはあくまでも人間の形を保ちたいときだけだ。いま振り下ろさんとする拳は、ゆうに30メートルを超えている。
「オマエを倒して小粋とタイーシャの復讐をさせてもらう!!」
「……やれるものならやってみろ!! 金剛石の壁!!」
「怪物奥義!! ──捕食者の右腕!!」
ダイヤモンドのごとく魔力の塊を前面に押し出したハイライト。
大雨と雷鳴の中、超巨大拳を振り落とすおれ。
交差は一瞬。
ついに、勝敗が決した。おれは140センチにまで縮んだ身体を取り戻し、倒れ込んだ。
ハイライトは血の塊を口から吐き出す。スーツもすでにボロ布同然。それでもこの男から戦意が消えることはない。
「だがまだ足りねェ。これが必殺技だって言うんなら、オマエはなにもかもが足りなさ過ぎる」
天気が悪くなってきた。
異世界転生30日16時23分46秒目。ロスト・エンジェルスに雷鳴が響き渡る。
「なにもかもが足りないオマエは、天気には敵わねェ」
ハイライトは空中高く舞い、なんと雷を手でつかんだ……!!
「おれの新魔術は雷をも支配する!! スライム娘ごときが雷に敵うと思うなよォ!?」
そして掴まれた雷は、槍のように変怪していく。変怪した雷の槍をハイライトはおれを刺し殺すためだけに投擲した。
──まずいッ!! あんな攻撃まともに喰らったら確実にやられる!! でも分離してスライムをまた失うのは自殺行為だ!! どうすれば……どうすれば良い!?
「鬼子母神ッ!!」
刹那、空中に赤い鬼が現れた。
鬼は雷を真二つに叩き割り、地上へ降りてくる。
「小粋……」
「天気が悪くなったから嫌な予感がしたんだ。タイラー、セブン・スターと喧嘩するんならおれたちを呼んでくれよ」
背後にも気配を感じる。おそらくエコーとシルク。ふたりはタイーシャを回収しに来たみたいだ。
そうか、どうすれば良いなんて考える必要はない。俺には仲間がいるんだ。困ったときに絶対助けてくれる、絶対助ける仲間が。
「さァて!! 往生の時間だ!! セブン・スター!!」
小粋は地面を蹴り、ハイライトとの間合いを縮める。しかしただ狭めただけでは死にに行くようなものだ。つまりこの動作には必ず意味がある。
そんなとき、小粋が地面になにかを置いていったことを知る。空っぽの瓶だ。これを吸収しろってことか?
だけど迷っている暇なんてない。おれは瓶を飲み込む。
そうしたら、なぜか身体がふわふわ浮いていってしまった。なにか空気でも入れられたような感覚だ。空中で泳ぐような動作をしながら、おれはなんとか小粋がハイライトの攻撃を喰らう前に彼の前へ立った。
「よっしゃ。お役御免だな」
「あァ? オマエ、なに吸収しやがった?」
ハイライトが怪訝そうな表情になる。対照的に小粋はニヤリと笑う。
「バーカ。死ね」
単調な煽りだがハイライトはだいぶ苛立ちが溜まっていたらしく、雷の槍をおれへ容赦なくぶつけてきた。
こ、小粋。オマエおれを捨て駒にしたのか?
その刹那、槍に触れたおれは大爆発を起こした。ダイナマイトを使ったときのように。
スライム娘であるおれは爆発しても身体が無数のスライムに溶けるだけで、大したダメージは負わない。
だがハイライトの場合はどうだろう。大爆発を至近距離で喰らった“人間”は一体どうなる?
「ぐぉおおおおおおおッ!!?」
断末魔とともに肉の焦げる匂いが漂う。地上にダイブしてスライムを集結させスライム娘に戻ったおれは、それをぽかーんと口を開けながら見ていた。
「勝った、のか?」
フラグとしか思えないセリフとともに、やがておれは現実に戻ってくる。そんなおれの肩を小粋が叩く。
「勝ったさ。あの爆発耐えられる“人間”なんているはずがね──」
刹那、刹那だった。小粋がブーメランのように吹き飛ばされたのは。
おれは固唾を呑み込む。まさか、あの男はまだ生きているのか? しかも小粋を吹っ飛ばせるだけの体力を残しているのか?
その答えは、狼人間のごとく銀色の毛を生やしたハイライトが出てきたことで導き出された。
「チクショウ。ああ、チクショウ。人獣になっちまったぜ……」
本物の狼のごとく吠えるハイライト。おれはその間なにもすることができなかった。ただ、恐怖で動けなかった。
「おい、スライム娘。天下無双のセブン・スターがあれくらいの攻撃でやられると盲信してたのか? 甘めェな。甘めェよ。……てめェはァ!!」
絶望の迫撃が始まる。瞬間的に距離を縮められたおれは、狼の爪で引っかかれた。傷口から溢れ出るスライム。身長がさらに縮んで150センチほどになってしまった。
「おらァ!! 全怪物の皇帝陛下は突っ立って慈悲を乞うしか能がねェのか!? そんなわけねェよなァ!? なあ!!」
矢先、無操作状態のように棒立ちのまま嬲られるおれの本能が語りかけてくる。
いま、天候の悪化で“雨”が降っている。スライムを集めるにはうってつけのはずだ。問題はどうやって恵みの雨にあやかるか。
「……!!?」
おれが取った行動は奇想天外だった。身体そのものを拳に変怪させたのだ。わずか、というかコア部分だけ分離させ、残りはすべて巨人の腕のようなスライムの塊へ変えた。
「ヘッ!! 一か八かの博打に賭けるのか!? だがこんなデカブツをおれにぶつけることなんてできるのか!?」
「できるかできないかじゃない。やるしかないんだよ。おれはタイラントだからな」
「意味分かんねェな!! タイラントがどうしたっていうんだ!?」
「おれはみんなの希望を背負ってる。だから負けちゃいけない。そうだろ…………タイーシャ!!」
ハイライトはあまりにも間抜け過ぎた。たとえタイーシャの魔力がすくなくて察知しづらかったとしても、逃してしまえば身体が拘束される危険性を持っているのだから。
彼女はもうひとりのスライム娘であり、当然雨水でスライムを回復できる。おれの狙いは端からそれだった。
「チクショウ!? スライムがひっついて離れねェ!? このガキがァ!!」
人間の身体を保つのには案外スライムを使う。だからおれは150センチまで縮まった。
しかしそれはあくまでも人間の形を保ちたいときだけだ。いま振り下ろさんとする拳は、ゆうに30メートルを超えている。
「オマエを倒して小粋とタイーシャの復讐をさせてもらう!!」
「……やれるものならやってみろ!! 金剛石の壁!!」
「怪物奥義!! ──捕食者の右腕!!」
ダイヤモンドのごとく魔力の塊を前面に押し出したハイライト。
大雨と雷鳴の中、超巨大拳を振り落とすおれ。
交差は一瞬。
ついに、勝敗が決した。おれは140センチにまで縮んだ身体を取り戻し、倒れ込んだ。
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