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シーズン1 Spread Your Wings-交差した終わりと始まり-
1 転生
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注意一瞬後悔一生。そんな言葉がよく似合う死に方だった。
冬休み直前の日、館浜希砂は泣けだしの勇気を振り絞り、保健室登校のために学校へ向かっていた。ただ、目の焦点はまったく合っていなかった。お通夜かよ、と言われるほど顔色も悪かった。
「帰りたい」
誰にも聞こえていないであろう独り言。実際、誰もキズナに関心を持つことはない。都会の人間は薄情だ。いまにも倒れそうなキズナをいないもののように扱う。
だが、高校に入れるかも怪しい不登校児の扱いなんて、そんなものだ。
「くだらな。ぼくも、みんなも」
そんなキズナは、赤信号だというのに大通りの横断歩道を渡ろうとする。それはもはや自殺と変わりないし、実際猛スピードで駆け抜けてきた車に轢かれ、グチャグチャ、と身体の肉がえぐられていくのだった。
*
「死は救済ではないらしい」
異世界転生もののライトノベルが流行っている時代、ひとりくらいは本当に異世界へ行ったことがあるのではないか、とぼんやり考えていたキズナであったが、まさか自分がそれに当てはまるとは思ってもなかった。
「でも、あれだな。立体駐車場の屋上に転生? 転移? するのは珍しいかも」
もっとも、高級車が並ぶ立体駐車場に転生するのは珍しいパターンかもしれない。キズナが知る限り、転生といえば大草原か教会のどちらか。
まあ、そんなことはどうでも良いだろう。いま起きている事態を鑑みれば。
それでもなお、どうにも頭がうまく回らないキズナだが、できる限り頭を使っていまの状況を考えてみる。
「まず、ぼくは死んだらしい。あんな痛い思いは二度と忘れられないから、それは確かだろうね。そして、死んだあとの世界は無ではないらしい。自殺するようなヒトって無に帰ることを望んでる気がするけども、やっぱり親からもらった命を自ら捨てるのは大罪らしい」
とにかく“らしい”が多い気がするものの、実際推測以外でこの状態を察することはできない。誰かが親切丁寧に教えてくれれば良いのだが、そういう宛があるとも考えられなかった。
「まあ、別にそんなこと、どうでも良いんだけど」
とりあえず、吐き捨てた。吐き捨て、壁に手を載せてこの世界の風景を眺めることにした。
簡潔に感想を述べるのであれば、発展した街だ、といったところだ。
高層ビルが立ち並び、舗装された道路には様々な車やバイク、自転車に歩行者で溢れている。
歩行者に目を向けると、みんなスマートフォンを持っている。音楽プレイヤー代わりに、セルフィーのために、メッセージを交わすべく。
また、定期的に発砲音のような音が響いていた。パトカーが頻繁にサイレンを鳴らしながら走り回っているのだから、よほど治安が悪いのだろう。
空気は澄んでいる。田んぼしかないような田舎町にも負けていないほど、空気が美味しい。都会では絶対に味わえないのは確かだ。
そんなわけで、推定20メートルほどの高台から街を見下ろし終わったキズナは、行く宛もないため、エレベーターの前のベンチに座り込む。
「わっ、見て。すっごい──がいる」
「ホントだ。もしかして転生者かな?」
(これが言語チートってヤツなのかな?)
ビルの広告塔を見れば、英語なのかフランス語なのかも分からない言語が広がっている世界。当然、口語なんて理解しようがない。
だというのに、キズナは自らを一瞥しなにかを言った白人少女たちの口語を、一部を除き理解できた。
「だったら役所に報告しないと。市民の義務だし」
「まあそうだけど、この子顔色が悪いぞ? まず現状を把握させたほうが良いんじゃねえの?」
「それこそ国が説明してくれるでしょ。──連邦共和国は異世界人だらけだし、ノウハウもあるはずだよ!」
やはり一部分聞き取れないが、ひとまず彼女たちはなにかに納得したのか、キズナのもとへ近づいてきた。
「ねえ、君って転生者?」
「さあ」ぶっきらぼうな返しだ。
「じゃあさ、私たちの質問に答えてってよ」
「良いよ」やはりいい加減な返事である。
「まず、前世の記憶は残ってる? 断片的でなく、物心ついたときあたりからの記憶ね」
「思い出したくないけど、あるよ。そう、いくらでも」
「う、うん。そうなんだ~……」
たじろいだ金髪ロングヘアの少女に代わり、緑髪ショートヘアの三白眼な少女がキズナに問いかけてくる。
「んじゃあさ、この世界の言語理解できるか?」
「一部理解できるよ。まったく読めないけど、話すことはできる」
「そりゃあたしたちと会話成立してるもんなぁ……。変な質問しちまった」
「でも、さっきの会話の一部は分かんなかった。ぼくのこと見てなにか言ってたでしょ?」
金髪の少女と緑髪の少女は目を合わせ、怪訝そうな表情になった。
「えっと、最後に質問して良い?」金髪の少女はかがんでキズナと視線を合わせ、「君は何世紀から来たの? あ、ついでに国名も教えてくれると嬉しい」
「21世紀だね。国名は日本だよ」
なにやら難問でも解いているような表情であったふたりだったが、途端に解読したかのような表情になった。
「だったら申請もかんたんだよ! ねえねえ、君の名前は?」
「館浜キズナだよ」
「キズナちゃん、よろしくね!」
そこは“くん”ではないのか、とかどうだって良いことを浮かべる。
「って! 名前聞いといて私らが名乗らないの失礼だったね! ごめん! 私はパーラ!」
愛嬌溢れた笑みでそう言われる。たいていの者は毒素が抜かれてしまうような、そういう笑顔だった。
「あたしはメント。よろしくな」
緑髪の少女メントもまた、爽やかな笑顔を見せてきた。目つきが若干怖いものの、そんな悪い人間だとも感じない。
「うん。パーラさんにメントさん」
「暗い顔、似合わないよ~! なにか嫌なことあったの?」
「ないと言えば嘘になるけど、まず申請ってヤツをこなさないといけないんじゃないの?」
「あっ、そうだった! キズナちゃん、ごめんだけど着いてきてくれる? 車で10分くらいのところに市役所があるからさ!」
「ああ、うん」
キズナは意味も分からぬまま、すぐそばにあった軽自動車のもとへ向かっていく。
冬休み直前の日、館浜希砂は泣けだしの勇気を振り絞り、保健室登校のために学校へ向かっていた。ただ、目の焦点はまったく合っていなかった。お通夜かよ、と言われるほど顔色も悪かった。
「帰りたい」
誰にも聞こえていないであろう独り言。実際、誰もキズナに関心を持つことはない。都会の人間は薄情だ。いまにも倒れそうなキズナをいないもののように扱う。
だが、高校に入れるかも怪しい不登校児の扱いなんて、そんなものだ。
「くだらな。ぼくも、みんなも」
そんなキズナは、赤信号だというのに大通りの横断歩道を渡ろうとする。それはもはや自殺と変わりないし、実際猛スピードで駆け抜けてきた車に轢かれ、グチャグチャ、と身体の肉がえぐられていくのだった。
*
「死は救済ではないらしい」
異世界転生もののライトノベルが流行っている時代、ひとりくらいは本当に異世界へ行ったことがあるのではないか、とぼんやり考えていたキズナであったが、まさか自分がそれに当てはまるとは思ってもなかった。
「でも、あれだな。立体駐車場の屋上に転生? 転移? するのは珍しいかも」
もっとも、高級車が並ぶ立体駐車場に転生するのは珍しいパターンかもしれない。キズナが知る限り、転生といえば大草原か教会のどちらか。
まあ、そんなことはどうでも良いだろう。いま起きている事態を鑑みれば。
それでもなお、どうにも頭がうまく回らないキズナだが、できる限り頭を使っていまの状況を考えてみる。
「まず、ぼくは死んだらしい。あんな痛い思いは二度と忘れられないから、それは確かだろうね。そして、死んだあとの世界は無ではないらしい。自殺するようなヒトって無に帰ることを望んでる気がするけども、やっぱり親からもらった命を自ら捨てるのは大罪らしい」
とにかく“らしい”が多い気がするものの、実際推測以外でこの状態を察することはできない。誰かが親切丁寧に教えてくれれば良いのだが、そういう宛があるとも考えられなかった。
「まあ、別にそんなこと、どうでも良いんだけど」
とりあえず、吐き捨てた。吐き捨て、壁に手を載せてこの世界の風景を眺めることにした。
簡潔に感想を述べるのであれば、発展した街だ、といったところだ。
高層ビルが立ち並び、舗装された道路には様々な車やバイク、自転車に歩行者で溢れている。
歩行者に目を向けると、みんなスマートフォンを持っている。音楽プレイヤー代わりに、セルフィーのために、メッセージを交わすべく。
また、定期的に発砲音のような音が響いていた。パトカーが頻繁にサイレンを鳴らしながら走り回っているのだから、よほど治安が悪いのだろう。
空気は澄んでいる。田んぼしかないような田舎町にも負けていないほど、空気が美味しい。都会では絶対に味わえないのは確かだ。
そんなわけで、推定20メートルほどの高台から街を見下ろし終わったキズナは、行く宛もないため、エレベーターの前のベンチに座り込む。
「わっ、見て。すっごい──がいる」
「ホントだ。もしかして転生者かな?」
(これが言語チートってヤツなのかな?)
ビルの広告塔を見れば、英語なのかフランス語なのかも分からない言語が広がっている世界。当然、口語なんて理解しようがない。
だというのに、キズナは自らを一瞥しなにかを言った白人少女たちの口語を、一部を除き理解できた。
「だったら役所に報告しないと。市民の義務だし」
「まあそうだけど、この子顔色が悪いぞ? まず現状を把握させたほうが良いんじゃねえの?」
「それこそ国が説明してくれるでしょ。──連邦共和国は異世界人だらけだし、ノウハウもあるはずだよ!」
やはり一部分聞き取れないが、ひとまず彼女たちはなにかに納得したのか、キズナのもとへ近づいてきた。
「ねえ、君って転生者?」
「さあ」ぶっきらぼうな返しだ。
「じゃあさ、私たちの質問に答えてってよ」
「良いよ」やはりいい加減な返事である。
「まず、前世の記憶は残ってる? 断片的でなく、物心ついたときあたりからの記憶ね」
「思い出したくないけど、あるよ。そう、いくらでも」
「う、うん。そうなんだ~……」
たじろいだ金髪ロングヘアの少女に代わり、緑髪ショートヘアの三白眼な少女がキズナに問いかけてくる。
「んじゃあさ、この世界の言語理解できるか?」
「一部理解できるよ。まったく読めないけど、話すことはできる」
「そりゃあたしたちと会話成立してるもんなぁ……。変な質問しちまった」
「でも、さっきの会話の一部は分かんなかった。ぼくのこと見てなにか言ってたでしょ?」
金髪の少女と緑髪の少女は目を合わせ、怪訝そうな表情になった。
「えっと、最後に質問して良い?」金髪の少女はかがんでキズナと視線を合わせ、「君は何世紀から来たの? あ、ついでに国名も教えてくれると嬉しい」
「21世紀だね。国名は日本だよ」
なにやら難問でも解いているような表情であったふたりだったが、途端に解読したかのような表情になった。
「だったら申請もかんたんだよ! ねえねえ、君の名前は?」
「館浜キズナだよ」
「キズナちゃん、よろしくね!」
そこは“くん”ではないのか、とかどうだって良いことを浮かべる。
「って! 名前聞いといて私らが名乗らないの失礼だったね! ごめん! 私はパーラ!」
愛嬌溢れた笑みでそう言われる。たいていの者は毒素が抜かれてしまうような、そういう笑顔だった。
「あたしはメント。よろしくな」
緑髪の少女メントもまた、爽やかな笑顔を見せてきた。目つきが若干怖いものの、そんな悪い人間だとも感じない。
「うん。パーラさんにメントさん」
「暗い顔、似合わないよ~! なにか嫌なことあったの?」
「ないと言えば嘘になるけど、まず申請ってヤツをこなさないといけないんじゃないの?」
「あっ、そうだった! キズナちゃん、ごめんだけど着いてきてくれる? 車で10分くらいのところに市役所があるからさ!」
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