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シーズン2 Ready Freddie?-愛という名の欲望-
9 イブの登場
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やれやれ、とキズナは首を横に振った。
一ヶ月の間、キズナはずっとサングラスをかけながら生活してきた。真夜中に街を出歩いても、問題ない程度には慣れている。
しかし、傍から見ればキズナは変人だ。13歳にふさわしい童顔と低身長なのに、まだ入学したばかりなのに、堂々と色付きメガネをかけてくる生徒なんてなかなかいない。
「あ、あれ? どうされました?」
「話すと長くなる、と思ったけどそうでもないか。どのみち情報はすぐに出回りますしね。だから簡潔に言います」キズナはサングラスをずらし、「ぼくはサキュバスとのハーフです。累計で30秒間、男女問わず目を見つめ合うと、いわゆる“チャーム”がかかっちゃうんですよ」
ある種当然の反応として、彼女は口をポカンと開けた。
久々に裸眼になり、一瞬で目が疲れたキズナは、縦にずらしていたそれを元に戻す。
「ちゃ、“チャーム”?」
「ええ、そうです。誰彼構わず魅了してたら疲れちゃうんで、こうやって目が見えないようにしてるんですよ」
そんな困惑する黒髪の少女と、余裕があるように見せかけているキズナの隣に、誰かが急接近してくる。なにか危険な兆候を感じたキズナは、黒髪少女と近づいてくる白髪(しろがみ)少女の間に入り込むように立ち位置を変えた。
「チッ……あら、アーテルさん。ごきげんよう」
挨拶の前に露骨な舌打ちをされた。しかもキズナの方向なんて向いていない。意図的に無視したのだろう。
「あ、あ……」
「元王族、デビル家のご令嬢は挨拶もできないのですか?」
「こ、こんにちは」
「はぁ。随分ご丁寧な挨拶ですわね」嫌味と溜め息とともに、「後で話したいことがありますので、授業が終わり次第第3校舎の噴水まで来てくださいませ」
「え、あ、え?」
完全に置いていかれたキズナだが、黒髪少女、基アーテル・デビルの顔から血の気が引き始めているので、とりあえずアーテルに小声で、「もう行きましょう」と伝える。
「は、はい」
「あら。後輩に庇われるとは、KOM学園序列第1位も落ちぶれたものですわね」
(序列1位? つか、態度がムカつくな。コイツ)
異世界転生1ヶ月目。いままで“チャーム”を試したこともなかったキズナは、ここでサングラスを外して彼女の目を見据える。
「……なんの用ですか? ヒトの顔になにかついていますの?」
「なんだって良いでしょ。ただ、そういう高圧的な態度が大嫌いなだけだ」
「へえ。それは私に対する宣戦布告ですか?」
白い髪の少女は、キズナより10センチ以上高い高身長の少女は、キズナをあざ笑うような態度だった。
「そう思ってくれて結構です。貴方たちの間になにがあったのかは知らないけど、こっちから見れば貴方の態度は不愉快だ」
刹那、白い髪の少女は、乱暴にキズナの胸倉を掴む。
「不愉快なのはどちらかしらね? この私に対し、面と向かって大口叩くほうがよほど不愉快だわ」
(どういう腕力だよ……。これでも体重50キロくらいあるんだぞ?)
と、あたりが騒がしくなってきたときだった。白髪の少女の目が一瞬ピンク色に変化したのは。
(“チャーム”かかったのかな?)
しばし、沈黙が流れた。キズナは胸倉を掴まれたまま、おそらく30秒経過したはずだと信じる。
やがて、答えが明かされる。
アルビノみたいな髪色と白い目の少女は、キズナから手を離した。そして、一目散に走り去っていった。
「あれ?」
周りが再び騒然とする中、むしろ一番驚いたのはキズナのほうであった。
目を30秒見た相手が、熱烈な愛情を抱いてくるとの説明を受けていたものの、まさかあんな全力で疾走し始めるとは思ってもなかった。
「まあ、好きなヒトの顔も見られないくらい照れ屋ってことかなぁ」
ともかく、不愉快な絡み方をしてきた少女は消えた。黒髪少女アーテル・デビルも、胸をなでおろしていることだろう。だからキズナは、アーテルの方を(サングラスをかけ直して)振り返った。
「き、キズナ様。いまの魔術は?」
「さっき言った“チャーム”ってヤツですよ。たぶん」
実際、脳内までは分からないので曖昧な返事しかできない。
「つ、つまり、イブ様はキズナ様に恋煩いしていると?」
「まあ、たぶん」
(なんか、クッソ恥ずかしいな。なんでだろ)
なんというか、実際“チャーム”を使ってみると恥ずかしくなってくる。
友人的な意味で好きになったヒトはいても、恋愛には疎すぎるキズナは、どうしても恋というものを理解できない。
そんな動乱の中、予鈴が鳴ってくれた。これは逃げるチャンスだと、キズナはオリエンテーションが開かれるという教室に……そういえば、どこで開かれるのだろうか。
「ねえ、アーテルさん、いや、様? ともかく、中等部のオリエンテーションってどこで開かれるか知ってますか?」
「中等部? キズナ様は高等部ではないのですか!?」
「え? アーテルさんも中等部じゃないんですか?」
甚だしい勘違いをしていたようだ。確かにアーテルはキズナより高身長だし、着ている学生服のエンブレムも微妙に違う。つまり、1歳年上ではなく、4歳年上というわけだ。
そういう混乱の中、予鈴が鳴り止んでしまった。これでは初日から大物になってしまう。
「と、ともかく、ぼくもう行きますよ。初日から遅刻して悪目立ちしたくないし」
「は、はい。あの、ご健闘を!」
「そちらこそ。またどこかで会いましょう」
*
なぜこの学校は無駄に広いのだろう。結局、教室にたどり着いたときには、初日の授業はほとんど終わっていた。
ただ、私立大学の講義室みたいな場所に集まる生徒たちのほとんどは、遅刻してきたキズナに関心がないようであった。スマートフォンをいじくっていたり、誰かを睨みつけていたりと、色々忙しいらしい。
(ホントに女子校なのかよ、ここ。余裕で“チャーム”掛けられそうなくらい睨み合ってるヤツらばっかだし。てか、なんて書いてあるか読めない)
そんなカオスな部屋にて、キズナは一番後ろの席へ申し訳無さそうに座る。
4K有機ELモニターの数十倍美麗な3Dホログラムが、目まぐるしく校内での注意事項らしき情報を載せてくる。それは、未だ口語しか理解できていないキズナをフリーズさせるのだった。
一ヶ月の間、キズナはずっとサングラスをかけながら生活してきた。真夜中に街を出歩いても、問題ない程度には慣れている。
しかし、傍から見ればキズナは変人だ。13歳にふさわしい童顔と低身長なのに、まだ入学したばかりなのに、堂々と色付きメガネをかけてくる生徒なんてなかなかいない。
「あ、あれ? どうされました?」
「話すと長くなる、と思ったけどそうでもないか。どのみち情報はすぐに出回りますしね。だから簡潔に言います」キズナはサングラスをずらし、「ぼくはサキュバスとのハーフです。累計で30秒間、男女問わず目を見つめ合うと、いわゆる“チャーム”がかかっちゃうんですよ」
ある種当然の反応として、彼女は口をポカンと開けた。
久々に裸眼になり、一瞬で目が疲れたキズナは、縦にずらしていたそれを元に戻す。
「ちゃ、“チャーム”?」
「ええ、そうです。誰彼構わず魅了してたら疲れちゃうんで、こうやって目が見えないようにしてるんですよ」
そんな困惑する黒髪の少女と、余裕があるように見せかけているキズナの隣に、誰かが急接近してくる。なにか危険な兆候を感じたキズナは、黒髪少女と近づいてくる白髪(しろがみ)少女の間に入り込むように立ち位置を変えた。
「チッ……あら、アーテルさん。ごきげんよう」
挨拶の前に露骨な舌打ちをされた。しかもキズナの方向なんて向いていない。意図的に無視したのだろう。
「あ、あ……」
「元王族、デビル家のご令嬢は挨拶もできないのですか?」
「こ、こんにちは」
「はぁ。随分ご丁寧な挨拶ですわね」嫌味と溜め息とともに、「後で話したいことがありますので、授業が終わり次第第3校舎の噴水まで来てくださいませ」
「え、あ、え?」
完全に置いていかれたキズナだが、黒髪少女、基アーテル・デビルの顔から血の気が引き始めているので、とりあえずアーテルに小声で、「もう行きましょう」と伝える。
「は、はい」
「あら。後輩に庇われるとは、KOM学園序列第1位も落ちぶれたものですわね」
(序列1位? つか、態度がムカつくな。コイツ)
異世界転生1ヶ月目。いままで“チャーム”を試したこともなかったキズナは、ここでサングラスを外して彼女の目を見据える。
「……なんの用ですか? ヒトの顔になにかついていますの?」
「なんだって良いでしょ。ただ、そういう高圧的な態度が大嫌いなだけだ」
「へえ。それは私に対する宣戦布告ですか?」
白い髪の少女は、キズナより10センチ以上高い高身長の少女は、キズナをあざ笑うような態度だった。
「そう思ってくれて結構です。貴方たちの間になにがあったのかは知らないけど、こっちから見れば貴方の態度は不愉快だ」
刹那、白い髪の少女は、乱暴にキズナの胸倉を掴む。
「不愉快なのはどちらかしらね? この私に対し、面と向かって大口叩くほうがよほど不愉快だわ」
(どういう腕力だよ……。これでも体重50キロくらいあるんだぞ?)
と、あたりが騒がしくなってきたときだった。白髪の少女の目が一瞬ピンク色に変化したのは。
(“チャーム”かかったのかな?)
しばし、沈黙が流れた。キズナは胸倉を掴まれたまま、おそらく30秒経過したはずだと信じる。
やがて、答えが明かされる。
アルビノみたいな髪色と白い目の少女は、キズナから手を離した。そして、一目散に走り去っていった。
「あれ?」
周りが再び騒然とする中、むしろ一番驚いたのはキズナのほうであった。
目を30秒見た相手が、熱烈な愛情を抱いてくるとの説明を受けていたものの、まさかあんな全力で疾走し始めるとは思ってもなかった。
「まあ、好きなヒトの顔も見られないくらい照れ屋ってことかなぁ」
ともかく、不愉快な絡み方をしてきた少女は消えた。黒髪少女アーテル・デビルも、胸をなでおろしていることだろう。だからキズナは、アーテルの方を(サングラスをかけ直して)振り返った。
「き、キズナ様。いまの魔術は?」
「さっき言った“チャーム”ってヤツですよ。たぶん」
実際、脳内までは分からないので曖昧な返事しかできない。
「つ、つまり、イブ様はキズナ様に恋煩いしていると?」
「まあ、たぶん」
(なんか、クッソ恥ずかしいな。なんでだろ)
なんというか、実際“チャーム”を使ってみると恥ずかしくなってくる。
友人的な意味で好きになったヒトはいても、恋愛には疎すぎるキズナは、どうしても恋というものを理解できない。
そんな動乱の中、予鈴が鳴ってくれた。これは逃げるチャンスだと、キズナはオリエンテーションが開かれるという教室に……そういえば、どこで開かれるのだろうか。
「ねえ、アーテルさん、いや、様? ともかく、中等部のオリエンテーションってどこで開かれるか知ってますか?」
「中等部? キズナ様は高等部ではないのですか!?」
「え? アーテルさんも中等部じゃないんですか?」
甚だしい勘違いをしていたようだ。確かにアーテルはキズナより高身長だし、着ている学生服のエンブレムも微妙に違う。つまり、1歳年上ではなく、4歳年上というわけだ。
そういう混乱の中、予鈴が鳴り止んでしまった。これでは初日から大物になってしまう。
「と、ともかく、ぼくもう行きますよ。初日から遅刻して悪目立ちしたくないし」
「は、はい。あの、ご健闘を!」
「そちらこそ。またどこかで会いましょう」
*
なぜこの学校は無駄に広いのだろう。結局、教室にたどり着いたときには、初日の授業はほとんど終わっていた。
ただ、私立大学の講義室みたいな場所に集まる生徒たちのほとんどは、遅刻してきたキズナに関心がないようであった。スマートフォンをいじくっていたり、誰かを睨みつけていたりと、色々忙しいらしい。
(ホントに女子校なのかよ、ここ。余裕で“チャーム”掛けられそうなくらい睨み合ってるヤツらばっかだし。てか、なんて書いてあるか読めない)
そんなカオスな部屋にて、キズナは一番後ろの席へ申し訳無さそうに座る。
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