黒猫クエスト

ギア

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09.蓋を開けてみれば

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(ふぬぬぬ…!!!)
『頑張れ頑張れ!!』


ラウルの明るい鼓舞の声を背に、俺は手前に落ちた1つの小石へと必死に視線を注ぐ。

途端、


(おりゃあ!!)


カタッ


俺が一際強く念じると同時に、ひとりでに宙に浮く小石。
これを動かすイメージで…!


ヒュッ!
ゴッ


「ニ゙ャッ!?」
(いだっ!?)


飛んできた小石は俺の額へとぶつかり、鈍い音を鳴らす。


これが“契約”によって手にれた力。

名は、“『引奪の灯火プロトス』”。

簡単に言えば、“物体を自分の手元へと引き寄せる能力”だ。


実験してみてわかったことをまとめると

・引き寄せられるのは触ったことがある物のみ。1度触ったことあるものは、いつでも引き寄せられる。

・自分より近ければ近いほど、強い力で引き寄せることができる。

・自分より重い物体を引き寄せようとした場合、物体ではなく、自身の方が物体へと引き寄せられてしまう。

・1度に引き寄せられる数は1個まで。頑張れば2個までいける。

といったような感じだ。


シンプルで使いやすく、汎用性もそこそこ。
ラウルは『地味でパッとしないハズレ能力』と言っていたが、俺としてはかなり“当たり”の能力だと思う。


しかしこの力、なかなかコントロールが難しい。

動かそうと思っってもまったく動かなかったり、逆に意図していないタイミングで勝手に動いたり…
おかげで顔中傷だらけだ。


『うーん…“合言葉”を決めてみる、っていうのはどうかな?』

(合言葉…?)

『そうそう。したい行動、やりたい動作、それにあらかじめ自分の中での“合言葉”を決めておくんだよ。
そうすれば“合言葉”と動作を、身体が勝手に記憶して、集中力や成功率が上がるんだ!』

(なるほど…)


条件反射ルーティーン”…みたいなものか?


“条件反射”とは、習慣や訓練によって、外部からの特定の刺激に、ある決まった反応を示すようになることだ。


『パブロフの犬』という有名な実験がある。

1.犬にベルを聞かせる。
2.犬に餌を与える。この時、犬は餌に反応してヨダレを出す。
3.1と2を繰り返す。これによって犬は『ベルが鳴ると餌が貰える』と学習する。

すると犬は、ベルを聞いただけでもヨダレを出すようになる。

これが“条件反射”だ。


これは人間にも当てはめることが出来る。

例えば、レモンや梅干しなんかの酸っぱいものを思い浮かべた時、口の中でヨダレが出てるのを感じることができるかもしれない。

これは脳がレモンや梅干しを=酸っぱい物と認識しているから起こる現象だ。
梅干しを食べない外国人にその画像を見せても、恐らくヨダレは出ないだろう。


これと似た、“ルーティーン”というものがある。
これはある程度決められた動作や行動をパターン化・・・・・し、集中力を高めたりミスを減らしたりすること。

プロのスポーツ選手なんかも、このルーティーンを行う事で集中力を高めたり、プレイの質を向上さたりすると聞く。




(えーと…『引奪の灯火プロトス』!)


ラウルの助言を頼りに、とりあえず異能の名を呼んでみる。


ヒュッ!

(うおっ…!?)


念じると同時に引き寄せられる小石。
さっきよりも速度が速い。

サッと首を逸らすと、飛んできた小石は後ろの壁へとぶつかり転がる。

明らかに先程よりも、引き寄せ始めるまでのタイムラグや、軌道のブレが少ない。
なるほど…確かに、これは効果があるのかも。


しかしわ実験に時間をかけ過ぎてしまった。

外は既に日が暮れ、穴から入る夕日が穴の中を赤く染めている。
揺れる木陰が光を点滅させ、遠くから聞こえてくる鳥の声が夕闇の訪れを告げている。


今更外に出たところで、寝床に着く頃には真っ暗だろう。

今晩はここで過ごすか…


(…ん?)


ふと、穴の景色に違和感を覚える。

何か・・が、無い。


『どうしたの?そんなキョロキョロして…』


挙動不審の俺に、ラウルが怪訝な声をかける。


(…俺と一緒に落ちてきたヤツは…どこにいった?)

『どこに…って、ほらそこに倒れて…あれ?』


ラウルは視線を向けるが、そこにあるのは枯葉と細々とした骨かすだけ。


カワウソもどきヤツの、亡骸がない。

もしかして、実は生きていた…?

いや、この狭い空間だ。例え生きていたとしても、隠れられるような場所なんてどこにも…


『ご主人!後ろ!!』

(…っ!?)


ラウルの叫び声に、慌てて振り向く。


夕闇を遮るように迫る、大きな茶色の影。 
節々に別れた6つの足、それに支えられたまるまるとした腹部。
毒々しく滲む黒い斑点模様に、全身を覆う長く刺々しい毛。その中で光を反射する、大小様々な8つの無情の瞳。


ひと目で理解すわかる。

コイツが穴罠蜘蛛アナワナグモか…!


(デカすぎだろ…!)


ラウルの話では、俺と同等かそれよりもよりも小さいサイズだったはず…。
しかしこの個体は、俺よりも一回り…いや、ふた回り以上大きい。
少なく見積っても1m以上の大きさがある。

外見はタランチュラにそっくりだが、その大きさは明らかに常識離れしている。


シュラッ!


(ッ…ぶなっ!?)


まるでしなる鞭のように素早く動く穴罠蜘蛛アナワナグモの前足。
掠りそうになりながらも、ラウルの掛け声のおかげで何とか避けられる。


「ぎゅるる…」


俺が手の届かない場所にいると判断すると、何かを擦るような何声を立てながら、出てきた穴へと戻る。
蓋が閉まるとそれはまるで何事も無かったかのような、先程までと同じような地面となる。


なるほど…どうりであのカワウソもどきの亡骸がない訳だ。

周囲をよく見てみると、まるで取ってつけた丸い蓋のような、不自然な地面や壁がある。
恐らくあの蓋のついた穴を通じて、亡骸を回収したのだろう。


『…っ!ご主人っ!また来た!!』

(っっ!!)


途端、背をつけていた土壁から蜘蛛が現れる。
気配がまったくしなかった。

この距離、避けきれな…!


シュカッ!


(ぐっっ…!!??)


右後ろ足、引き裂くような鋭い痛み。

毛むくじゃらの先端に着いた、黒漆の爪が僅かに掠る。


蜘蛛は再度、穴へと帰る。
どうやらここらにある穴は全て繋がっているらしい。


鮮血が垂れる足を引き摺りながら、できるだけ穴から離れた場所に移動する。


(くそっ…!)


焦る身体が、無理やり鼓動を早くさせる。
それがより一層出血を酷くし、判断力を鈍らせる。

ただでさえ腹が減って力が出ないというのに、このままじゃジリ貧だ。


それだけじゃない。いつ襲ってくるかも分からない相手に、不安を、恐怖を本能的に感じてしまう。

姿の見えない悪意が、すり減った精神をさらに削る。
それはまるで毒のように、ゆっくりと心を蝕んで…


『ちょっと、大丈夫?』

(え、あ、あぁ…)


焦る俺に、ラウルの心配そうに声をかける。

まるで濁り切った思考を晴らすように、その声は乾いた脳に反響する。


…そうだ、焦ったってしょうがないのだ。


「ふぅー…」


息を吐き、呼吸を整える。

空腹と苦難続きで、どうやら知らぬ間に気を病んでいたらしい。

焦れば焦るほど出血は増え、より死に近づいてしまう。
それこそ、穴罠蜘蛛ヤツの思うつぼだ。


そうだ。今の俺はひとりじゃない。
それに新たな力もある。


まだ、戦える。



(…うし!)


気を取り直し、再び立ち上がる。


夜が、始まる。
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