黒猫クエスト

ギア

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21.雨足と共に

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月明かりすらない夜の闇に、ぽつりぽつりと雨粒が葉々の上を跳ねる。
雨足は次第に雑踏へと変わり、夜風にさざめいていた木々の葉音をかき消していく。


そんな中、雨滴を避けるよう森を進む影がある。


先頭を進む小さな影と、それに追従する3つの大きな影。

彼らは雨だれなど気にする様子もなく、何かを目指すかのように雨中を駆る。


「…おい、ユウ。」
「…ん?」


ふと、後方を進むうちの1人の女性が、前にいる金髪の青年へと声をかける。


「…本当に、ついて行って大丈夫なのか?これが罠っていう可能性も…」

「…あぁ、わかってる。
でも他に当てがある訳じゃないし、ここはひとまず“”について行ってみよう。それに…」

「それに…?」


「それに、今度は…信用してみようと思ってね」

「…??」


前方で揺れる長く黒い尻尾を見ながら、金髪の青年は答える。

妙に確信めいたその言葉に、女性は顔を顰めながらも、また彼と同じように先導する獣へとついて行く。


(…まぁ、全部聞こえているんですけどね…)


そんな後ろの会話に耳を傾けながら、俺は泥が跳ねる赤土の上を走る。


悪魔ラウルの使う“読心”は、相手の思考を読んで会話することのできる力。
これを利用すれば、言語の違う相手とも会話を行う事が出来る。

しかしこのように、相手の声量関係なく聞こえてしまうのは、少々気まずい…。


彼女の言うことももっともだ。

人間の言葉を喋る動物なんて、普通なら警戒して当然。
しかも相手は、ココを襲っていたであろう獣だ。

それが突然現れたと思えば、『協力して欲しい』だなんて…罠と考えしまっても仕方ない。
1歩間違えれば、殺されていてもおかしくなかっただろう。


しかしそれでも、何とか協力を得ることは出来た。
あとはココを見つけ出すだけ。


(っふん…!!)


気合いを込めつつ、意識を顔前方へと集中させる。


なぜ俺が、ココの居場所がわかるのか?


それは“『引奪の灯火プロトス』”の能力の応用である。


引奪の灯火プロトス』は、触れた物体を引き寄せる能力。
1度でも触れたことのある物体なら、基本的にいつでも引き寄せることができる。

だが対象が自身より重い場合、物体ではなく、自分自身が物体へと引き寄せられてしまう。


この特性を利用すればまるで“方位磁針”のように、
体が引っ張られる方向から、対象のいる方角を知ることが出来るのだ。


名ずけて、“『指針盤ロケーター・ポイント』”。
…名前には、あまり期待しないでくれ。


しかしこれでわかるのはあくまで、対象ココのいる“方向”のみ。
正確な距離や位置は分からないし、ココが現状どんな目に遭っているのかもわからない。

できれば無事でいて欲しいが…


『…!何か見えてきたよー!』

(…!!)


思考を遮るように囁く、ラウルの声。


その声と共に、まばらに降り注ぐ雨滴の最中。仰々しく靡く蒼林の狭間から、灰黒の巨陰が姿を見せる。


それはまさに、“砦”という出で立ちの建物だった。

古い石造りの外壁に、波打つ赤土の瓦屋根。一際高く伸びた塔は、沈んだ暗雲に届きそうなほどの威圧感を放つ。
相当古い建物なのか、石積みは所々崩れ、そこから無数のツタが根を貼る。


引奪の灯火プロトス』の指し向きは、ちょうどその建物の方向。
どうやらココは、あの建物にいるらしい。


曇天に瞬く稲妻が、ストロボライトのように巨影を照らす。

まるで昔見た、古いモノクロ映画のような光景。
言いようのない威圧感と緊張に、僅かに足が震える。


「…ッ」


ふと浮かぶ不安を殺し、また1歩と前へと踏み出す。


後に残された足跡は、強まりつつある雨に、静かに消されていった。


― ― ― ― ― ―


【現在の黒駒 翔主人公のプロフィール】


黒駒 翔クロコマ ショウ

不慮の事故により、黒猫へと転生してしまった青年。

やり損ねてしまった新作ゲームをプレイするため、人間に戻る方法と元の世界に帰る方法を模索している。

黒い毛並みに、金色の目が特徴。
左頬の口元に、四ツ目月輪熊ヨツメツキノワグマとの戦闘で負った傷跡が残る。

過去のトラウマから、困った人を見捨てられないお人好し。

“簒奪”を司る悪魔『ラウル』と契約しており、“異能”を使うことができる。


異能『引奪の灯火プロトス

悪魔ラウルとの契約で得た、“物質を手元へと引き寄せる”能力。

・引き寄せられるのは、接触したことのある物体のみ。1度でも触ったことあるものは、いつでも引き寄せられる。

・自分より近ければ近いほど、強い力で引き寄せられる。

・自分より重い物体を引き寄せようとした場合、自分自身がその物体へと引き寄せられてしまう。

・1度に引き寄せられる数は1個。集中力次第で2個まで可能。


《“簒奪”を司る悪魔『ラウル』》

穴罠蜘蛛アナワナグモの巣穴で出会った、黒い短剣に封印されている(※自称)大悪魔。
大昔、とある魔法使いによって剣に封印されてしまったことで、その力を失ってしまっているらしい。

封印を解くためには、悪魔の力の源である“欲望”が必要であり、それを得るために黒駒 翔主人公と契約する。

封印されている状態ではあるものの、少しなら“悪魔の力”を使うことができる。


悪魔の力 その① “読心”

相手の思考を直接読み取り、会話する事ができる。

直接思考を読み取っているため、言語関係なく意思疎通が可能。
これを活用し、自動翻訳のようなこともできる。

また、周囲にいる生物の思考を察知することで、索敵まがいのこともできる。


悪魔の力 その② “分体”

自身の分身を作り出すことができる。

大きさは約20cmほどで、外見は日本神話に登場する三足の鴉“八咫烏ヤタガラス”に似ている。

これはあくまで仮の姿であるため、ある程度なら姿形を自在に変えることが可能。
これを利用することで、生物の細胞を模倣・複製し、対象の傷を塞ぐ事なんて事もできる。

しかしあくまで“傷を塞いでいるだけ”であり、傷が治るかどうかは本人の治癒次第。

また燃費がとても悪く、力を失っている今の状態では、長時間分体を維持することはできない。
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