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~探偵の失踪編 第6章~
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[八重紅狼、集結]
「はぁ・・・はぁ・・・上手く撒けたみたいね・・・」
レイアは追跡してきた監督員達を撒き、母を殺したと思われる女と少年の後を追っていた。街道には無数の足跡があるが、レイアは女性が履いていたヒールの形を思い出してその痕跡を追うことにした。
背後からの追手に注意しながら街道についているヒール跡を追っていく。暫く街道を歩いていると、彼女の足跡が街道から外れて、奥に広がる森の中へと続いて行っていた。
「逃がさない・・・絶対に逃がすものかッ!」
レイアは母を失った悲しみと父を悲しませた怒りを胸に抱き、呼吸を整える。
レイアは痕跡を見失わないように意識を集中させながら森の中へと入って行く。その森に生えている木は冬だというのに葉が枯れておらず、熱帯林のように葉が生い茂っていた。そのせいでまだ昼間だというのに森の中は夜道のように真っ暗になっていた。
あらゆる方向から聞こえてくる動物の鳴き声を気味悪がりながら痕跡を追い続けていると、急に視界の開けた所に出た。
・・・だがレイアは目の前に広がっている光景を目にした瞬間、思わず絶句した。
「嘘・・・なに・・・これ・・・なんで・・・なんで・・・」
レイアは周囲を見渡し、空を見上げた。その視線の先には、本来ならば今浮かんでいる筈が無いものが浮かんでいた。
「・・・なんで『月』が出ているの?それになんで『夜』になっているの?」
レイアは目の前に広がっている月と無数の星々が宝石のように煌めいている夜空を見て困惑を隠せなかった。でもそれもそうだ・・・だって森に入ってからまだ30分と経っていないのだから・・・
「私・・・森の中で迷ってなんかないわよ⁉それにそんなに森の中にいた訳でもないのに・・・なんで⁉」
レイアが慌てて胸元から懐中時計を取り出して時間を確認すると、時計の針が勢い良く回転しており、正確の時刻を表すことが出来なくなっていた。
「何よ、これ・・・時計の針が何でこんなに回ってるのよ・・・この時計・・・つい最近買ったばかりなのに・・・」
レイアが目の前で起こっている理解できない現象に狼狽えて周囲を見渡すと、直ぐ近くに大きな館があるのに気が付いた。館の傍には巨大な湖があり、その湖は周囲を森に囲まれていた。
レイアが館の方に視線を移すと、朝に出会ったユリシーゼとヨーゼフが館の入口の前に立っていた。レイアは彼女達を見た瞬間、2人に大声で叫ぼうとした。
だがその瞬間、館の入口が開いて扉から人影が現れた。レイアは咄嗟に近くの木に隠れ、様子を覗き見る。
「来たか、ヨーゼフ、ユリシーゼ。・・・少し遅かったな?」
「主席から急用を頼まれちゃってね~。それで遅れちゃったんだよ~。」
「・・・そうか。・・・なら早く入れ。お前達が最後だぞ。」
片眼鏡をかけており、髪の毛をオールバックにして後ろで結んでいる男性がドアをより大きく開けて2人に中へ入るよう促す。男の顔には濃い皴が所々に入っていることからそれなりに年を取っているように見える。
ヨーゼフとユリシーゼを館に入れるとその男性は扉を閉じた。レイアは彼らの姿が消えたのを確認すると木の影から飛び出す。
「この館・・・ここがあいつ等の拠点なの?」
レイアは周囲を見渡して見張りがいないことを確認すると、ヨーゼフ達が消えた扉の前へと近づく。
扉の前に来ると、そっと扉に手をかけて鍵がかかっていることを確認する。
『やっぱり鍵がかかってる・・・』
レイアは腰のポケットからキーピック用の針金を取り出すと、鍵穴へと慎重に滑り込ませる。音を出さないように、丁寧に。
だがいくら粘っても鍵が開錠されることは無かった。レイアは小さく溜息をつくとポケットに針金をしまう。
『この鍵は無理ね・・・特殊な鍵じゃないと開かない仕組みになってる・・・何処か中に入る所はあるかしら・・・それか覗けるところ・・・』
レイアは館の周囲を歩き始める。姿勢を低くして、足音を立てずに。
館の周囲を半周ほど回り、裏側へと到着すると館のある一室を照らしている光が透明なガラスから煌々と洩れていた。館の裏側には広大な広場が広がっており、所々地面が抉れていることから彼らの訓練場所なのだろう。
レイアがそっと窓から中を覗くと、そこには側面に細かい彫刻がなされた大きな木製の長机があった。椅子は長机のそれぞれ左右に3つずつと正面に1つ設置されており、左右の椅子は既にすべて埋まっていた。
座っているのはヨーゼフとユリシーゼ、先程ドアを開けていた老紳士にピエロのようなフェイスペイントを施した赤いスーツを着用した人物、長い茶髪をポニーテールでまとめている少々眼つきがするどい女性と少し長めの緑髪で髪質が尖っている男性だった。
『これは・・・彼らは一体何の集まりなの?もし彼らがコーラス・ブリッツに所属しているなら・・・まさか彼らが八重紅狼?でもそうだとすればまだ2人到着してない・・・』
レイアが彼らと豪華な造りとなっている室内を窓の隅から見渡していると、部屋のドアが開いて『ある男』が入ってきた。『男』は正面の席に座ると、左右に座っているヨーゼフ達に声をかけた。
「こんばんは、八重紅狼の諸君。・・・いや、おはようと言った方が正しいのかな?」
『男』は静かに・・・そして何処か重苦しい声で語り掛ける。レイアも思わず息を呑んで何とかして会話を盗み聞こうとする。
『男』はヨーゼフの方に顔を向ける。
「ヨーゼフ。よくぞ、『ジャッカルの血』を引いている者を殺してくれた。・・・緊急の指令だったが、迅速に対処してくれて助かるよ。」
「えへへ~褒められちゃった~・・・」
ヨーゼフが嬉しそうに頬を緩ませる。レイアの心に宿っている憎しみの炎が激しさを増していく。
「でもあの女の人だけで良かったの~?というか、傍にいたもう1人の女の人・・・殺した人の娘さんだったっけか?あっちは殺さなくていいの?」
「ああ・・・今は大丈夫だ・・・『今は』、な。」
『男』はそう告げると、再び全体に話し始める。
「では、本題に入るとしようか。・・・今回君達を呼んだ理由だ。既に知っていると思うが、第七席のユーグレスが殺された。殺したのはヴァンパイア族の女・・・名前は確か、シャーロット・ドラキュリーナ・・・だったかな?」
「へぇ、ヴァンパイア族もやるじゃねぇか。で、なんだ?そいつらを根絶やしにして来いって言うのが次の指令か?」
緑髪の男が『男』を睨みつけながら話す。
「いいや、それはまだだ。・・・それにまだこの話には続きがある・・・それを聞いて欲しい。」
「・・・」
「本来ならば、ユーグレス1人で奴らを根絶やしにすることは十分に出来た。彼の序列は下から数えた方が早いが・・・実力は確かにあったからな。・・・そのシャーロットとかいう女ヴァンパイアの首も問題なく跳ね飛ばせたはずだ。」
「だけど負けた。・・・想定外の人物が割り込んできたから。」
「その通りだ、アルレッキーノ。奴らの助っ人に入ってきたのは、フォルト・サーフェリート、ロメリア・サーフェリート、ケストレル・アルヴェニアの3人だ。」
「ほう・・・ケストレル・・・彼は生きていたのですね?アリア殿が斬り刻んで川に突き落としたと聞きましたが」
「・・・」
「ケストレルは元八重紅狼の第六席・・・今のアリアの席に座っていた男だ。奴が生きていた事・・・そして敵になったことは我々にとっては痛手だ・・・」
『男』は机の上に両手を置くと、ゆっくりと組んだ。
「だがそれよりも・・・フォルトという子供の方が厄介だ。現に奴はヴァンパイアの里に忍び込ませていた密偵を殺害し、ユーグレスを倒すのに絶大なアシストをした。息の根を止めたのはヴァンパイアの女だが、そのきっかけを作ったのはフォルトだ。」
『男』はヨーゼフ達を睨みつける。
「それにフォルトというガキは『ジャッカル』の血を受け継いでいる・・・それも色濃く、な。私には分かる。」
「・・・どうして分かるのでしょうか?」
「『血』が騒ぐのだよ。・・・奴の名前を告げる、又はお前達の情報から奴の事を頭の中で思い描くたびに背筋に悪寒が走る・・・今までこの感覚は『兄』に対してしか覚えなかったのに・・・嫌な感覚だ。不快極まる。」
『男』は両手を離すと、右ひじを机の上に置いて右手に頬を乗せる。
「奴は今この大陸に向けて進行している。・・・『兄』の武器に認められた者達と我らの裏切者を連れてな。早急に手を打たねば我らの強大な障害となる。・・・よって貴様らには只今より新たな指示を与える。」
「何かな~何かな~!皆で奴らを血祭りにするのかな~?」
ヨーゼフが無邪気にはしゃぎ出すと、『男』は落ち着いた声で指示を出していく。
「ヨーゼフ・アルレッキーノ・ゴルド・ジャスロード・ユリシーゼの5名は今から帝都を陥落させに行け。私とアリアはウィンデルバーグに行き、準備を整える。」
「おぃッ!奴らを殺しに行くんじゃねぇのかよ!まさかビビってんじゃねえだろうな⁉」
ジャスロードと呼ばれる緑髪の男が机を思いっきり叩いて『男』に意見を述べる。『男』はジャスロードを睨みつける。
「帝都を陥落させ、支配することは我らの目的達成への第一歩となる。それに・・・奴らの底力は未だ計り知れん。無暗にぶつかるよりまずは奴らに協力する連中を滅ぼし、地盤を崩してから一気に潰す。・・・厄介な者達はフォルト含む6名のみ・・・それ以外の者達は貴様らにとっては相手にならないだろう。」
「・・・」
「理解してくれたか?」
「・・・ちっ、了解した。つまんねー仕事だぜ・・・」
「僕もだよ~!折角楽しく遊べると思ったのに~!」
「まぁまぁ・・・何時かはきっと彼らと遊べると思うからさ、ちょっとの間我慢しようぜ?だから今回は大人しく帝都を滅ぼしに行くとしようじゃないか!」
「・・・ところで帝都にいるフォルエンシュテュール家はどうしましょう?奴らも我々の仲間ですが・・・一緒に滅ぼしますか?」
「私が来るまで奴らは生かしておけ。捉えて何処かの部屋に放り込んでおけばいいだろう。」
「了解しました。」
ユリシーゼが頭を下げると、『男』は皆を軽く見渡す。
「では、会議はここまでだ、諸君。それぞれの仕事に早速取り掛かってくれ。」
『男』がヨーゼフ達に号令をかける。レイアは会議の様子を一部始終見ており、激しく動く心臓を押さえる。
『帝都を陥落させに行くですって?それにフォルト君達を殺す為に地盤を崩すといっていたけどフォルト君と帝都には何も関係は無いはず・・・ロメリアさんも勘当されているから仲が良い訳ないし・・・彼らの目的は何なの?何がしたいの?何で帝都を滅ぼすの?』
レイアは彼らの本当の狙いが読めず、首を傾げる。
その時だった。『男』が頬を吊り上げて窓の外にいるレイアに向けて微笑んだ。
「・・・と、その前に1つ、入り込んだ鼠を排除しないといけないな。」
「!」
レイアは直ぐに顔を引っ込めて後ろを振り向いた。だが彼女の目の前には、何と先程まで館の中にいた『男』が双剣を両手に持って立っていた。
『いつの間に⁉今さっきまで館の中にいたはずじゃあ・・・』
レイアは驚きながらも腰に掛けている鞭を手に取って応戦体勢をとると、『男』は既に抜いていた細身の双剣を構える。
「こんにちは、レイア・ミストレル。こんな月が綺麗な夜に迷子になったのかな?」
男はレイアに向けて双剣を勢い良く振るう。双剣が風を斬る音が周囲に静かに響く。
「はぁ・・・はぁ・・・上手く撒けたみたいね・・・」
レイアは追跡してきた監督員達を撒き、母を殺したと思われる女と少年の後を追っていた。街道には無数の足跡があるが、レイアは女性が履いていたヒールの形を思い出してその痕跡を追うことにした。
背後からの追手に注意しながら街道についているヒール跡を追っていく。暫く街道を歩いていると、彼女の足跡が街道から外れて、奥に広がる森の中へと続いて行っていた。
「逃がさない・・・絶対に逃がすものかッ!」
レイアは母を失った悲しみと父を悲しませた怒りを胸に抱き、呼吸を整える。
レイアは痕跡を見失わないように意識を集中させながら森の中へと入って行く。その森に生えている木は冬だというのに葉が枯れておらず、熱帯林のように葉が生い茂っていた。そのせいでまだ昼間だというのに森の中は夜道のように真っ暗になっていた。
あらゆる方向から聞こえてくる動物の鳴き声を気味悪がりながら痕跡を追い続けていると、急に視界の開けた所に出た。
・・・だがレイアは目の前に広がっている光景を目にした瞬間、思わず絶句した。
「嘘・・・なに・・・これ・・・なんで・・・なんで・・・」
レイアは周囲を見渡し、空を見上げた。その視線の先には、本来ならば今浮かんでいる筈が無いものが浮かんでいた。
「・・・なんで『月』が出ているの?それになんで『夜』になっているの?」
レイアは目の前に広がっている月と無数の星々が宝石のように煌めいている夜空を見て困惑を隠せなかった。でもそれもそうだ・・・だって森に入ってからまだ30分と経っていないのだから・・・
「私・・・森の中で迷ってなんかないわよ⁉それにそんなに森の中にいた訳でもないのに・・・なんで⁉」
レイアが慌てて胸元から懐中時計を取り出して時間を確認すると、時計の針が勢い良く回転しており、正確の時刻を表すことが出来なくなっていた。
「何よ、これ・・・時計の針が何でこんなに回ってるのよ・・・この時計・・・つい最近買ったばかりなのに・・・」
レイアが目の前で起こっている理解できない現象に狼狽えて周囲を見渡すと、直ぐ近くに大きな館があるのに気が付いた。館の傍には巨大な湖があり、その湖は周囲を森に囲まれていた。
レイアが館の方に視線を移すと、朝に出会ったユリシーゼとヨーゼフが館の入口の前に立っていた。レイアは彼女達を見た瞬間、2人に大声で叫ぼうとした。
だがその瞬間、館の入口が開いて扉から人影が現れた。レイアは咄嗟に近くの木に隠れ、様子を覗き見る。
「来たか、ヨーゼフ、ユリシーゼ。・・・少し遅かったな?」
「主席から急用を頼まれちゃってね~。それで遅れちゃったんだよ~。」
「・・・そうか。・・・なら早く入れ。お前達が最後だぞ。」
片眼鏡をかけており、髪の毛をオールバックにして後ろで結んでいる男性がドアをより大きく開けて2人に中へ入るよう促す。男の顔には濃い皴が所々に入っていることからそれなりに年を取っているように見える。
ヨーゼフとユリシーゼを館に入れるとその男性は扉を閉じた。レイアは彼らの姿が消えたのを確認すると木の影から飛び出す。
「この館・・・ここがあいつ等の拠点なの?」
レイアは周囲を見渡して見張りがいないことを確認すると、ヨーゼフ達が消えた扉の前へと近づく。
扉の前に来ると、そっと扉に手をかけて鍵がかかっていることを確認する。
『やっぱり鍵がかかってる・・・』
レイアは腰のポケットからキーピック用の針金を取り出すと、鍵穴へと慎重に滑り込ませる。音を出さないように、丁寧に。
だがいくら粘っても鍵が開錠されることは無かった。レイアは小さく溜息をつくとポケットに針金をしまう。
『この鍵は無理ね・・・特殊な鍵じゃないと開かない仕組みになってる・・・何処か中に入る所はあるかしら・・・それか覗けるところ・・・』
レイアは館の周囲を歩き始める。姿勢を低くして、足音を立てずに。
館の周囲を半周ほど回り、裏側へと到着すると館のある一室を照らしている光が透明なガラスから煌々と洩れていた。館の裏側には広大な広場が広がっており、所々地面が抉れていることから彼らの訓練場所なのだろう。
レイアがそっと窓から中を覗くと、そこには側面に細かい彫刻がなされた大きな木製の長机があった。椅子は長机のそれぞれ左右に3つずつと正面に1つ設置されており、左右の椅子は既にすべて埋まっていた。
座っているのはヨーゼフとユリシーゼ、先程ドアを開けていた老紳士にピエロのようなフェイスペイントを施した赤いスーツを着用した人物、長い茶髪をポニーテールでまとめている少々眼つきがするどい女性と少し長めの緑髪で髪質が尖っている男性だった。
『これは・・・彼らは一体何の集まりなの?もし彼らがコーラス・ブリッツに所属しているなら・・・まさか彼らが八重紅狼?でもそうだとすればまだ2人到着してない・・・』
レイアが彼らと豪華な造りとなっている室内を窓の隅から見渡していると、部屋のドアが開いて『ある男』が入ってきた。『男』は正面の席に座ると、左右に座っているヨーゼフ達に声をかけた。
「こんばんは、八重紅狼の諸君。・・・いや、おはようと言った方が正しいのかな?」
『男』は静かに・・・そして何処か重苦しい声で語り掛ける。レイアも思わず息を呑んで何とかして会話を盗み聞こうとする。
『男』はヨーゼフの方に顔を向ける。
「ヨーゼフ。よくぞ、『ジャッカルの血』を引いている者を殺してくれた。・・・緊急の指令だったが、迅速に対処してくれて助かるよ。」
「えへへ~褒められちゃった~・・・」
ヨーゼフが嬉しそうに頬を緩ませる。レイアの心に宿っている憎しみの炎が激しさを増していく。
「でもあの女の人だけで良かったの~?というか、傍にいたもう1人の女の人・・・殺した人の娘さんだったっけか?あっちは殺さなくていいの?」
「ああ・・・今は大丈夫だ・・・『今は』、な。」
『男』はそう告げると、再び全体に話し始める。
「では、本題に入るとしようか。・・・今回君達を呼んだ理由だ。既に知っていると思うが、第七席のユーグレスが殺された。殺したのはヴァンパイア族の女・・・名前は確か、シャーロット・ドラキュリーナ・・・だったかな?」
「へぇ、ヴァンパイア族もやるじゃねぇか。で、なんだ?そいつらを根絶やしにして来いって言うのが次の指令か?」
緑髪の男が『男』を睨みつけながら話す。
「いいや、それはまだだ。・・・それにまだこの話には続きがある・・・それを聞いて欲しい。」
「・・・」
「本来ならば、ユーグレス1人で奴らを根絶やしにすることは十分に出来た。彼の序列は下から数えた方が早いが・・・実力は確かにあったからな。・・・そのシャーロットとかいう女ヴァンパイアの首も問題なく跳ね飛ばせたはずだ。」
「だけど負けた。・・・想定外の人物が割り込んできたから。」
「その通りだ、アルレッキーノ。奴らの助っ人に入ってきたのは、フォルト・サーフェリート、ロメリア・サーフェリート、ケストレル・アルヴェニアの3人だ。」
「ほう・・・ケストレル・・・彼は生きていたのですね?アリア殿が斬り刻んで川に突き落としたと聞きましたが」
「・・・」
「ケストレルは元八重紅狼の第六席・・・今のアリアの席に座っていた男だ。奴が生きていた事・・・そして敵になったことは我々にとっては痛手だ・・・」
『男』は机の上に両手を置くと、ゆっくりと組んだ。
「だがそれよりも・・・フォルトという子供の方が厄介だ。現に奴はヴァンパイアの里に忍び込ませていた密偵を殺害し、ユーグレスを倒すのに絶大なアシストをした。息の根を止めたのはヴァンパイアの女だが、そのきっかけを作ったのはフォルトだ。」
『男』はヨーゼフ達を睨みつける。
「それにフォルトというガキは『ジャッカル』の血を受け継いでいる・・・それも色濃く、な。私には分かる。」
「・・・どうして分かるのでしょうか?」
「『血』が騒ぐのだよ。・・・奴の名前を告げる、又はお前達の情報から奴の事を頭の中で思い描くたびに背筋に悪寒が走る・・・今までこの感覚は『兄』に対してしか覚えなかったのに・・・嫌な感覚だ。不快極まる。」
『男』は両手を離すと、右ひじを机の上に置いて右手に頬を乗せる。
「奴は今この大陸に向けて進行している。・・・『兄』の武器に認められた者達と我らの裏切者を連れてな。早急に手を打たねば我らの強大な障害となる。・・・よって貴様らには只今より新たな指示を与える。」
「何かな~何かな~!皆で奴らを血祭りにするのかな~?」
ヨーゼフが無邪気にはしゃぎ出すと、『男』は落ち着いた声で指示を出していく。
「ヨーゼフ・アルレッキーノ・ゴルド・ジャスロード・ユリシーゼの5名は今から帝都を陥落させに行け。私とアリアはウィンデルバーグに行き、準備を整える。」
「おぃッ!奴らを殺しに行くんじゃねぇのかよ!まさかビビってんじゃねえだろうな⁉」
ジャスロードと呼ばれる緑髪の男が机を思いっきり叩いて『男』に意見を述べる。『男』はジャスロードを睨みつける。
「帝都を陥落させ、支配することは我らの目的達成への第一歩となる。それに・・・奴らの底力は未だ計り知れん。無暗にぶつかるよりまずは奴らに協力する連中を滅ぼし、地盤を崩してから一気に潰す。・・・厄介な者達はフォルト含む6名のみ・・・それ以外の者達は貴様らにとっては相手にならないだろう。」
「・・・」
「理解してくれたか?」
「・・・ちっ、了解した。つまんねー仕事だぜ・・・」
「僕もだよ~!折角楽しく遊べると思ったのに~!」
「まぁまぁ・・・何時かはきっと彼らと遊べると思うからさ、ちょっとの間我慢しようぜ?だから今回は大人しく帝都を滅ぼしに行くとしようじゃないか!」
「・・・ところで帝都にいるフォルエンシュテュール家はどうしましょう?奴らも我々の仲間ですが・・・一緒に滅ぼしますか?」
「私が来るまで奴らは生かしておけ。捉えて何処かの部屋に放り込んでおけばいいだろう。」
「了解しました。」
ユリシーゼが頭を下げると、『男』は皆を軽く見渡す。
「では、会議はここまでだ、諸君。それぞれの仕事に早速取り掛かってくれ。」
『男』がヨーゼフ達に号令をかける。レイアは会議の様子を一部始終見ており、激しく動く心臓を押さえる。
『帝都を陥落させに行くですって?それにフォルト君達を殺す為に地盤を崩すといっていたけどフォルト君と帝都には何も関係は無いはず・・・ロメリアさんも勘当されているから仲が良い訳ないし・・・彼らの目的は何なの?何がしたいの?何で帝都を滅ぼすの?』
レイアは彼らの本当の狙いが読めず、首を傾げる。
その時だった。『男』が頬を吊り上げて窓の外にいるレイアに向けて微笑んだ。
「・・・と、その前に1つ、入り込んだ鼠を排除しないといけないな。」
「!」
レイアは直ぐに顔を引っ込めて後ろを振り向いた。だが彼女の目の前には、何と先程まで館の中にいた『男』が双剣を両手に持って立っていた。
『いつの間に⁉今さっきまで館の中にいたはずじゃあ・・・』
レイアは驚きながらも腰に掛けている鞭を手に取って応戦体勢をとると、『男』は既に抜いていた細身の双剣を構える。
「こんにちは、レイア・ミストレル。こんな月が綺麗な夜に迷子になったのかな?」
男はレイアに向けて双剣を勢い良く振るう。双剣が風を斬る音が周囲に静かに響く。
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