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~帝都決戦編 第13章~

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[刹那の顕現]

 「ジャッカルッ・・・貴様ッ・・・」

 ウルフェンは双剣を強く握りしめ、フォルトを睨みつける。フォルトは一歩前へ足を踏み出す。

 「久しいな、ウルフェン。まさかあの日から300年も経った今、こうして再会できるとは思いもしなかったよ。」

 フォルト___いや、フォルトに憑依しているジャッカルが先程ウルフェンに貫かれた胸を見る。既に傷は塞がっており、跡も残ってはいない。

 「そうか・・・あの時計を壊した際に時計の中に入れていた魂の欠片がお前の武器を通してこの少年の体に入ったのか。・・・ふ、もし別の方法で破壊されていればこうはなっていなかっただろうな。」

 ジャッカルは全身に魔力を込める。彼の魔力はあのウルフェンですら怖気づくような程強烈で、ウルフェンの頬を汗がつぅ・・・と流れる。

 「・・・私と戦うつもりか?」

 「残念だが、そのつもりだ。」

 「何故だ?もうお前は死んでいる・・・奴らに肩入れをする必要は無い筈だ。例えお前が私を倒したとしても、お前に何の得がある?」

 「肩入れ、か___そんなもの、決まっているだろう。」

 ジャッカルはそう言って鎖を持って勢いよく回し始めた。

 「お前の自分勝手な理由でこの世界に住む人々と心中するのを防ぐ為だ。・・・私が生きている時にも言っただろう。世界を変えることなど出来ない。悪を滅ぼしても、また新たな悪が生まれるだけ・・・ならば、力のある私達がすべきことは何か。それは『恩を返す』ということだ。全員を助ける必要は無い。ただ目の前で困っている人々を助けるだけでいい。自分がされて嬉しかったことを相手にするだけでいいと私は言ったはずだ。」

 ジャッカルの目つきが鋭くなる。

 「なのにお前は勝手に絶望して、憎悪して、大勢の人間を殺した。罪のない人間を、何の根拠もなく殺した。そして挙句の果てにあんな大昔の遺産まで引っ張り出しては、この世界と無理心中を図ろうとしている・・・まるで子供だ。悲劇のヒーローでも演じているつもりか?」

 ジャッカルの魔力がどんどん上昇していく。

 「お前は私の唯一の家族だ。何をしようとな。だから私はお前を止める。これ以上___お前の我儘に彼らを付き合わせる訳には行かない。」

 ジャッカルがそう告げた瞬間、ウルフェンの目の前へ瞬きの間に移動し、鎖鎌を振るう。ウルフェンは彼の姿を目で捉えられず、反射的に双剣で斬撃を防ぐ。だが弾いたのは良いものの、反応が遅れてしまった事もあって鎖鎌の刃がウルフェンの首を僅かに掠める。

 ジャッカルはウルフェンに対し猛攻をかける。フォルトの体から繰り出されるそれらの技は遥か遠い彼方へと追いやった筈の記憶を呼び起こす。体格や戦闘年数では圧倒的に有利だったウルフェンは攻撃を防ぐだけで精一杯だった。

 激しい猛攻の中で、ウルフェンはジャッカルの鎖鎌を止める。両者の武器が激しくぶつかり合う中、ジャッカルが呟く。

 「リミテッド・バースト・・・《霧影牢鎖》。」

 ジャッカルが雲のように霞んで消える。そして次の瞬間、ウルフェンの体を鎖鎌の刃が斬り裂いた。

 だがウルフェンも同時に能力を解放しており、斬られたウルフェンは影の中に消えた。直後、ウルフェンがジャッカルの背後に現れて彼を斬る。ジャッカルの体もまた、斬られた瞬間に雲のようにその場から消える。

 「そこかッ!」

 ウルフェンが霧の中から僅かな魔力の波動を感じ取って斬りかかった。するとウルフェンの双剣は見事、ジャッカルを捉えた。

 ___が、次の瞬間ウルフェンはジャッカルに接近したことが誤った判断だと理解してしまった。

 「リミテッド・バースト・・・《舞踏花風》。」

 ジャッカルはいつの間にかロメリアが持っていた棍を持っており、棍の力を解放してウルフェンを全力で吹き飛ばした。ウルフェンは双剣で棍を防いだが、双剣が弾き飛ばされ、自身の左脇腹に直撃した。内臓が破裂し、骨が砕ける音が体の中に響く。

 ジャッカルは物凄い速さで吹き飛ばされると、石の柱を砕いて壁に深くめり込んだ。ジャッカルがぶつかった石の柱は大きな音を立てて崩壊し、壁からはがれて床に倒れ込んだウルフェンの上に瓦礫として積み重なった。ジャッカルは口に咥えていた鎖鎌を棍に巻き付ける。

 ジャッカルが棍を体の周りで回し始めると、鎖鎌がヒュンヒュン風を切りながらジャッカルの周囲を囲む。その時ウルフェンが足元から双剣で斬り上げながら現れたが、ジャッカルは僅かなに横にずれるだけで攻撃を回避する。ウルフェンは続けて影の中から無数の刃を一気に出現させる。ジャッカルはその場から横へ飛び退いて、それらの攻撃を躱す。

 ジャッカルが飛び退いた所から先ほど倒壊した石柱の下敷きになっていた筈のウルフェンが現れる。どうやら潰される前に影の中に逃げ込んだようだ。ウルフェンは口から血の塊を吐き出すと、ジャッカルを睨みつける。

 「さっきの攻撃で仕留めたつもりだったんだがな。・・・攻撃を受ける瞬間に魔力を腹部の一点に集中させてダメージを抑えた、か___やるじゃないか。伊達に300年間生き続けただけのことはある。」

 ジャッカルはそう言うと、再び棍を激しく回し始める。棍に巻き付いている鎖鎌が床を擦り、鋭い傷跡を残す.。ジャッカルの周囲に僅かながら竜巻が発生し、風の刃がジャッカルの周囲を取り囲む。ウルフェンも首を左右に曲げて骨を鳴らすと、双剣を握る手に力を込める。

 少しの間、互いが見つめ合っていると、ジャッカルが口を開いた。

 「一つ聞いてもいいか?___何故ウィンデルバークであんな『嘘』をついた?」

 ジャッカルの言葉にウルフェンが一瞬眉をひそめる。

 「・・・何の話だ?」

 「ウィンデルバークでこの少年達に正体を見抜かれた時、言っていただろう。『私は兄と違って人殺しを楽しんでいた。』、と。・・・そんなこと言った覚えはないとは言わせんぞ。私はあの時計に魂の一部を預けていた影響で、あの時計の身の回りにあったことは全て把握している。」

 「・・・それが嘘だと?ふんっ、馬鹿馬鹿しい・・・本当のことに決まっているだろう。私は人殺しをお前よりも楽しんでいた。いや、楽しむというよりも罪悪感が無い言った方が正しいか。」

 「相変わらず嘘が下手だな、ウルフェン。300年経っても変わらんか。」

 ジャッカルの言葉にウルフェンの頬が僅かに痙攣する。ジャッカルは棍を回しながら話を続ける。

 「お前は誰よりも、私以上に争いを好む正確ではなかったはずだ。人を殺しても常に罪悪感を覚えていたのも、お前じゃないのか?あの時、お前は私の行動規範を言っていたが、あれは昔のお前自身の規範だろう。何故自分を悪だと認識させるためにあんな嘘をついた。」

 「・・・」

 「ウルフェン。」

 ジャッカルがウルフェンに尋ねる。暫しの静寂が辺りを漂った後、ウルフェンはゆっくりと語りだした。

 「・・・疲れたんだよ、意味のない事を繰り返すのが。貴様が死んだ後、世界はまたもや混沌の時代に逆戻りした。貴様という絶対的な抑止力がこの世から去ったことで、腐った王政や人間どもがのさばった。」

 ウルフェンは持っている双剣の刃を見る。血が付着した刃を通してウルフェンの姿が写る。

 「しかもあの当時の俺達と共に活動していた仲間達は皆あの武器の力に溺れて、争いの火を更に強くした。私設の軍隊と新たな国を勝手に作り、武力で周辺国を制圧していった奴・・・帝都や古都の腐った王政に加担して戦争を悪化させた奴・・・どいつもこいつも私利私欲で武器を使った。・・・唯一、お前の遺志を継いで活動していたエミリアは帝都から送られた暗殺部隊に家にいる所を狙われて殺された。そしてその時、お前の子供の行方も分からなくなった。」

 「・・・だからこんな真似をしたのか。」

 ジャッカルが尋ねると、ウルフェンが自嘲的な笑みを浮かべる。

 「どれだけ助けようが、意味は無い。少しでも助けるのが遅れれば罵られ、助けてもそれが当然とばかりに感謝の一言も無い。助ける価値の無い屑でも見殺しにすれば軽蔑され、助けても何故助けたと別の理由で侮蔑される。更には優れている力を持つ故に拒絶される・・・こんな救いようの無い連中、殺してしまっても問題無いだろう?」

 ウルフェンがやや感情を昂らせながら早口に言う。ジャッカルもウルフェンの言葉に少しは共感できた。確かに彼が生きている中でも、そのような経験は少なくない。だが、ジャッカルがこの世を去ってから治安が悪化したのが原因なのだろうか・・・如何やらウルフェンの弱まっていた心に追い打ちをかけるような出来事が連続して起こってしまったようだ。

 しかしジャッカルはウルフェンの話を聞いた後、疑問が浮かんだ。それならば何故今の今までこの計画を実行しなかったのか。ウルフェンがその気になれば100年前でも200年前でも人類を根絶することは出来る筈だ。わざわざ帝都の地中深くに眠っていた古代兵器を使わずとも。

 それでもウルフェンはわざわざこの時期を選んだ。それも世界が比較的平和になったこのタイミングに・・・ジャッカルはウルフェンが何を考えているのか___思考した。

 そしてある仮説がジャッカルの中に浮かび上がった。それは弟___ウルフェンが元来持っていた性格から導き出した仮説だった。

 「___それでもまだ人間が持つ善の心の可能性を捨てきれなかったんだろう?」

 ジャッカルがそう言い放つとウルフェンが目を大きく見開いた。ジャッカルはさらに話を続ける。

 「私がこの世を去った後、お前は人間の醜さをまざまざと見せつけられた。絶望したお前は同じこの世界を憎んでいる者達を集め、世界を滅ぼそうと動き出した___でもその動機の本質は人々の善の心を再び呼び起こす為じゃないのか?」

 ジャッカルがそう言うと、ウルフェンは鼻で笑い飛ばす。

 「はっ!突然何を言い出すかと思えば、馬鹿げたことを___」

 「ならばなぜ今日この日まで本格的に侵攻しなかった?お前がその気になればいつでも滅ぼせたはずだ___帝都も、古都も。古都への襲撃も、お前がいれば簡単に殲滅できただろう。それにわざわざ私の子孫を狩り続ける必要も無い・・・どんな才があろうとも、私に並ぶ才能と長年培ってきたスキルの前には並大抵の者達では及ばないはず。無視しても、大した影響はない・・・だがお前はわざわざ面倒な手間をかけた。___お前が作戦も練れない馬鹿でない事位、私には分かっている。」

 「・・・」

 「探していたんだろう?自分よりも強く、成し遂げられなかった夢を叶えてくれそうな者を。そして世界が一致団結して『ウルフェン・エルテューリア』という空前絶後の大悪人を倒すことをきっかけに融和の橋を世界中にかけるということを___その為には、全人類に危機感を抱かせる必要がある。そこで、この今、巨大彗星が最接近するこの瞬間まで、待った。・・・違うか?」

 ジャッカルはウルフェンに尋ねる。ウルフェンは暫くジャッカルの目をじっと見つめていたが、少し俯いてから溜息を吐いた。

 「___戯言は済んだか?」

 ウルフェンはそう呟き、魔力を解放する。そしてジャッカルを見下すように顔を少し上げる。

 「貴様が何の根拠もない空想をベラベラ喋ってくれたおかげで、準備が整った。」

 ウルフェンはそう告げて、両手に持つ双剣を地面に突き刺した。すると突如双剣を突き刺した床が黒に染まっていき、謁見の間全域を闇で覆った。一筋の光も通さない闇に包まれ、ジャッカルの目の前は黒に染まる。

 「覆い隠せ、無限の深淵・・・《黒影刀幻・虚》」

 ウルフェンの詠唱が終えたその瞬間、ジャッカルに無数の斬撃が襲い掛かる。ジャッカルは咄嗟に棍を回し、攻撃を防ごうとする。しかし斬撃は棍と鎖鎌をすり抜け、そのままジャッカルの体を斬り刻んだ。ジャッカルは自分の記憶に無い攻撃に困惑しつつも、意識を研ぎ澄ます。

 『こんな技___初めて見るな。』

 ジャッカルは襲い掛かる影の刃を次々と躱しながら、ウルフェンの気配を探る。しかしこの暗闇のせいなのか、ジャッカルの気配が全方位から感じられ、正確な位置が掴めない。真っ暗で視界が完全に塞がれているので、目視での補足も厳しい。

 それでもジャッカルは四方八方から襲い掛かる影の斬撃を僅かな違和感を感じ取って避けていく。僅かに刃が頬を掠めたりするものがあったりするが、致命的な傷は勿論、直撃する斬撃は1つも無かった。

 『___化物めッ!』

 ウルフェンは感覚で躱していくジャッカルを嫌悪する。何処までも想像を軽く超えてくる存在に。

 ウルフェンは影から出てくると、暗闇を駆け抜けてジャッカルへ直接接近する。ジャッカルは周囲から襲い続ける斬撃を対処している中、異質な気配を感じ取り、ウルフェンが接近していることを感じ取った。

 ジャッカルはウルフェンがすぐ傍に来ると彼の攻撃を防ごうとした。だがウルフェンは巧みな回転を加えた回転歩法を取り入れた斬撃で不意を突いてウルフェンの左腹を斬る。本来は首を斬る予定が弾かれて別の個所になってしまったが、それでも深手を与えることに成功する。ジャッカルは少し顔をしかめる。

 ウルフェンはそれから猛攻に出た。影の力を活かした高速移動と回転歩法を組み合わせてジャッカルにダメージを与えていく。ジャッカルは防御に専念するが、防ぎきれていなかった。リミテッド・バーストを発動しようにも、ウルフェンの熾烈な攻撃が妨害する。

 『これは・・・少しマズいな。』

 ジャッカルが攻撃を懸命に防いでいると、暗闇の中からウルフェンの声が聞こえてきた。

 「どうした?先程から私の攻撃を防いでばかりで。___ほら、私を捉えてみせろ。最強の暗殺者?」

 ウルフェンの声が僅かに高い。どうやら自分の兄を手玉にとれているのがよほど嬉しいようだ。

 「この技は私の持つこの双剣の真の力___お前でも引き出せなかったリミテッド・バーストの本当の能力だ!他にもこの領域にまで到達した奴が古都軍にいるが、そいつは『リミテッド・バースト・ツヴァイ』と名付けていたな。」

 ウルフェンはさらに攻撃を強める。ウルフェンの凶刃がジャッカルの背中を抉る。

 「どうだ、捉えられまい⁉この暗闇は影の力と私の魔力で作られた世界だ!視界を闇で塞ぎ、聴覚を影からの斬撃で潰す!そしてこの世界が私自身である為にいくら痕跡や気配を探しても無駄だ!いくらお前でも、違和感に気づいた時にはもう遅い!」

 ウルフェンはどんどん攻撃を当てていく。ジャッカルは多くの傷を負い、その場に片膝をつく。乱れる息を整えながら、武器を強く握る。

 ジャッカルは立ち上がって、棍を円舞のように回す。棍に巻き付けられた鎖鎌がウルフェンの体刻む。ジャッカルは確実に攻撃が当たった手ごたえを感じていた。

 ところが斬られたウルフェンの体はドロッとした液体に変化する。そして新たな場所からウルフェンが現れるとジャッカルの体を更に刻んだ。

 ジャッカルがさらに困惑していると。ウルフェンの声が再度聞こえてきた。

 「残念だったな、この世界にいる限り、私は影そのものだ。いくら攻撃を当てようとも、掠り傷一つ与えられん!」

 ウルフェンは怒涛の勢いで何度も斬りかかる。彼の攻撃を受けながら、ジャッカルは思わず口から感嘆の声が漏れた。

 「成程___やるじゃあ、ないか。」

 ジャッカルは激しく呼吸を乱しながら、その場で立ち尽くしている。ウルフェンはジャッカルの前方に現れると、彼に向かって斬りかかった。___目標はジャッカルの首。ウルフェンは仕上げに入っていた。

 「これで___終わりだッ!忌まわしい呪縛めッ!」

 ウルフェンは憎しみを込めて叫ぶ。彼の声は影の世界を反響する。

 ジャッカルは全方位から聞こえてくるウルフェンの声を聞き、小さく微笑んだ。何故かこの時、ジャッカルはウルフェンに対し嫌悪感ではなく、歓喜の感情が芽生えていた。

 『___強くなったんだな、ウルフェン。私が生きていた頃よりも、遥かに。・・・昔からお前は私に追いつこうと必死だった。負ける度に何時も悔しがっていたな・・・そう、あの日も。』

 ジャッカルは自分がこの世を去る数日前にウルフェンと戦った記憶が脳裏を過る。あの時、彼は自由に体を動かすことが出来なかったが、ウルフェンを倒してしまった。彼はその時のウルフェン___涙を流しながら、自分の力の無さに絶望していたことを思い出していた。

 だが感情という箱を殆ど埋め尽くしていた歓喜の隙間には___彼を哀れむ感情が挟まっていた。

 『だからこそ・・・私は悲しい。血反吐を吐くほどに努力して手に入れた力を、このような事に使うなど。・・・ウルフェン、お前がやってることはただのエゴだ。どんな大層な理由があろうとも、自分の感情に他人を勝手に巻き込むことは、お前が忌み嫌っていた奴らと同じなんだ。』

 ジャッカルはそう心の中で呟くと、目をカット見開いた。するとジャッカルの周囲を純白の魔術陣が取り囲む。ウルフェンはジャッカルの異変に気が付いて動揺するが、直ぐに揺れる心を鎮め、斬りかかる。

 ウルフェンの刃がジャッカルの首を捉え、刃先が首に触れた___

 ___その時、ジャッカルはぼそりと呟いた。

 「リミテッド・バースト・・・《廻郭絶界》」

 その言葉と共に、一瞬で影の世界が崩壊した。覆っていた影は硝子の破片のように砕け、彼の能力が封じられた。

 ジャッカルが何故時計を破壊された中でも使えたのか___それは彼の魂が長らく時計と同化していた影響で能力と魂が融合したからだった。

 ウルフェンの能力を封じた刹那、ジャッカルは姿勢を屈めてウルフェンの攻撃を避ける。そして体を回転させ、勢いをつけたまま棍でウルフェンの顎を打ち上げた。ウルフェンの顎が砕け、彼の体が宙に舞う。

 ウルフェンの意識が飛ぶ中、ジャッカルはそのまま棍を回転させて更に勢いをつけ、鎖鎌の刃でウルフェンの体を斬り刻んだ。刃はウルフェンの四肢を切断するだけでなく、喉をも斬り裂いた。ウルフェンの体が床に落ちる頃には彼の心臓は止まっており、何が起こったのか理解できていないようだった。

 ウルフェンの体が目の前に散らばる中、ジャッカルは能力を解く。ゆっくりと息を吐くと、元々の肉体であるフォルトの体に付けられた傷が少しずつ塞がっていった。

 ジャッカルは棍に巻き付けた鎖鎌を外しながら、少し離れた所で倒れているロメリアの元へ向かった。ロメリアの体は死人のように白くなっており、ピクリとも動いていなかった。

 ロメリアの傍にやって来たジャッカルは棍を彼女の傍に置く。ジャッカルはそのまま彼女の体に触れた。次の瞬間、純白の魔術陣がロメリアの体を包み込み、彼女の傷がみるみる塞がっていく。肌の色も健康的な色に戻ってきた。

 完全に傷を防ぐと、ジャッカルは術を解く。

 「さて・・・そろそろ返すよ、フォルト。___私達兄弟の揉め事に巻き込んでしまって、すまなかった。」

 ジャッカルはそう言うと、フォルトはロメリアの横に倒れた。

 しんと静まり返った謁見の間に倒れるフォルトの体から白いオーラが現れ、天井に描かれている大天使達の壁画に吸い込まれるように昇って行った。
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